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宇宙の王子様
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貴族の令嬢リアーナ=サレンジャーは、貴族の令息エイガー=レーコフィラを前に、はっきりした口調で言った。
「私は、あなたを心より愛しております。姉との婚約を破棄して、どうか私と結婚してください」
リアーナの侍女である私は感心した。
(本当に本人に言っちゃったよ…。この人の行動力には驚かされっぱなしだな)
時代背景も良く分からない、とある星の一国には、謎の身分制度が存在していた。
『貴族』の人間は、同様に『貴族』と婚姻する原則があり、私はある貴族の次女にあたる令嬢に仕えていた。
リアーナ嬢の姉:クラウディア嬢は、10歳にして18歳のエイガー爵と婚約し、5年に渡る『花嫁教育』の後、結婚をする事になっていた。
エイガー爵の一族は『宇宙ホテル』経営で財を成した異例の『成り上がり貴族』で、社交界では異端の存在だった。
クラウディアは衰退しかけたサレンジャー家を救うため、政略結婚をする事となったのだ。
リアーナの一世一代を賭けた告白に、エイガーは怪訝な表情を浮かべた。
「…クラウディア嬢と婚約したのは、彼女が10歳の時の事だった。でも私は『子供』が好きだから婚約した訳ではない」
「存じております。私は年齢こそ13歳ではありますが、子供の自覚はございません」
貴族階級は15歳頃から婚姻が可能。リアーナはまだ至ってないが、適齢期に差し掛かっているのは確かだ。エイガーは更に渋い顔をした。
「私達、貴族階級の婚姻は、個人の意思では無く、一族同志で決定するものです。リアーナ嬢の個人的な一存で、決定事項を反故にするおつもりですか?
反故にした後の事は、ちゃんとお考えなのですか?」
エイガーには、子供が大人の事情に首を突っ込み、かき回そうとしているように映るのだろう。リアーナに語り掛ける口調は、決して優しくない。
リアーナは毅然として答えた。
「姉は、あなたに相応しくございません。とかく婚約破棄をお申し付けください。そして、代わりにお慕いしておりました私と、新たに婚約して頂きたく存じます」
リアーナは強い口調でそう言うと、エイガーの元を後にした。
「…噂通りのお方でしたね」
私が言うと、リアーナは事もなげに返す。
「『聡明なビジネスマン』だもの。これも計算の内ですわ」
クラウディアには、恋心を抱く相手が他に居た。リアーナはそれを知っていて、エイガーに婚約破棄を持ち掛けたのだ。
「問題は父上と母上よ。お姉様には嫁いだ後にエイガー爵を毒殺し、遺産を手に実家へ戻るよう『花嫁教育』しているのよ。傾いた我がサレンジャー家を建て直す為にね。
…思い人の居るお姉さまはどうするかしら? 『次は思い人と結ばれるかもしれない』と期待して、汚す必要の無い手を罪で染めてしまうわ」
気が強く、令嬢にしては破天荒な思考を持つリアーナだが、その反面心優しく姉思いでもあった。
「リアーナ嬢は、サレンジャー家による『エイガー爵暗殺並びに資産乗っ取り』に勘づいているようです」
私の報告に、エイガーは鼻で笑う。
「…婚礼の場で一堂に会した時に、暴露して反故にするつもりだったが」
リアーナ嬢の侍女である私は、エイガーが潜入させた隠密部隊でもあった。勿論、企みは筒抜けだったのだ。
「妹のリアーナ嬢に興味が沸いてきた。子供のくせに、大人顔負けに頭が切れるし、度胸がある」
エイガーはニヤリと笑う。
2日後の深夜、私はエイガーの命令で、サレンジャー家からリアーナをこっそり連れ出した。
「ねえ、一体何があったの?」
「…ある方に頼まれ、あなた様にお仕えしていました。わたくしの本当の主をお目にかけましょう」
船着き場には、立派な宇宙船が停泊していた。エイガーの物だ。エントランスホールには、エイガーが居た。
「サレンジャー家の企みは、リアーナ嬢の侍女に扮していた隠密から逐次聞き、証拠も手元にある。両親が強要する犯罪から姉を守りたいという、そなたの心意気、大いに賛同する」
エイガーは婚約関係に無いリアーナを夜間に連れ出す(一夜を共にする)事で、クラウディアとの婚約破棄に踏み切るらしい。
私も口を添えた。
「殺人教唆が明るみになれば、サレンジャー家は貴族の位を剥奪されます。すればあなた様もクラウディア様も、ただの子女です。自由に恋愛し、個人間の同意の元で婚姻可能となります」
窓の外は、闇夜にさんざめく様な大小の星たち。2人の女性のこれからを祝福しているかの様だ。
「私は、あなたを心より愛しております。姉との婚約を破棄して、どうか私と結婚してください」
リアーナの侍女である私は感心した。
(本当に本人に言っちゃったよ…。この人の行動力には驚かされっぱなしだな)
時代背景も良く分からない、とある星の一国には、謎の身分制度が存在していた。
『貴族』の人間は、同様に『貴族』と婚姻する原則があり、私はある貴族の次女にあたる令嬢に仕えていた。
リアーナ嬢の姉:クラウディア嬢は、10歳にして18歳のエイガー爵と婚約し、5年に渡る『花嫁教育』の後、結婚をする事になっていた。
エイガー爵の一族は『宇宙ホテル』経営で財を成した異例の『成り上がり貴族』で、社交界では異端の存在だった。
クラウディアは衰退しかけたサレンジャー家を救うため、政略結婚をする事となったのだ。
リアーナの一世一代を賭けた告白に、エイガーは怪訝な表情を浮かべた。
「…クラウディア嬢と婚約したのは、彼女が10歳の時の事だった。でも私は『子供』が好きだから婚約した訳ではない」
「存じております。私は年齢こそ13歳ではありますが、子供の自覚はございません」
貴族階級は15歳頃から婚姻が可能。リアーナはまだ至ってないが、適齢期に差し掛かっているのは確かだ。エイガーは更に渋い顔をした。
「私達、貴族階級の婚姻は、個人の意思では無く、一族同志で決定するものです。リアーナ嬢の個人的な一存で、決定事項を反故にするおつもりですか?
反故にした後の事は、ちゃんとお考えなのですか?」
エイガーには、子供が大人の事情に首を突っ込み、かき回そうとしているように映るのだろう。リアーナに語り掛ける口調は、決して優しくない。
リアーナは毅然として答えた。
「姉は、あなたに相応しくございません。とかく婚約破棄をお申し付けください。そして、代わりにお慕いしておりました私と、新たに婚約して頂きたく存じます」
リアーナは強い口調でそう言うと、エイガーの元を後にした。
「…噂通りのお方でしたね」
私が言うと、リアーナは事もなげに返す。
「『聡明なビジネスマン』だもの。これも計算の内ですわ」
クラウディアには、恋心を抱く相手が他に居た。リアーナはそれを知っていて、エイガーに婚約破棄を持ち掛けたのだ。
「問題は父上と母上よ。お姉様には嫁いだ後にエイガー爵を毒殺し、遺産を手に実家へ戻るよう『花嫁教育』しているのよ。傾いた我がサレンジャー家を建て直す為にね。
…思い人の居るお姉さまはどうするかしら? 『次は思い人と結ばれるかもしれない』と期待して、汚す必要の無い手を罪で染めてしまうわ」
気が強く、令嬢にしては破天荒な思考を持つリアーナだが、その反面心優しく姉思いでもあった。
「リアーナ嬢は、サレンジャー家による『エイガー爵暗殺並びに資産乗っ取り』に勘づいているようです」
私の報告に、エイガーは鼻で笑う。
「…婚礼の場で一堂に会した時に、暴露して反故にするつもりだったが」
リアーナ嬢の侍女である私は、エイガーが潜入させた隠密部隊でもあった。勿論、企みは筒抜けだったのだ。
「妹のリアーナ嬢に興味が沸いてきた。子供のくせに、大人顔負けに頭が切れるし、度胸がある」
エイガーはニヤリと笑う。
2日後の深夜、私はエイガーの命令で、サレンジャー家からリアーナをこっそり連れ出した。
「ねえ、一体何があったの?」
「…ある方に頼まれ、あなた様にお仕えしていました。わたくしの本当の主をお目にかけましょう」
船着き場には、立派な宇宙船が停泊していた。エイガーの物だ。エントランスホールには、エイガーが居た。
「サレンジャー家の企みは、リアーナ嬢の侍女に扮していた隠密から逐次聞き、証拠も手元にある。両親が強要する犯罪から姉を守りたいという、そなたの心意気、大いに賛同する」
エイガーは婚約関係に無いリアーナを夜間に連れ出す(一夜を共にする)事で、クラウディアとの婚約破棄に踏み切るらしい。
私も口を添えた。
「殺人教唆が明るみになれば、サレンジャー家は貴族の位を剥奪されます。すればあなた様もクラウディア様も、ただの子女です。自由に恋愛し、個人間の同意の元で婚姻可能となります」
窓の外は、闇夜にさんざめく様な大小の星たち。2人の女性のこれからを祝福しているかの様だ。
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