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山の母 ※ホラー表現あり
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テレビを点けると、変なドラマが映し出された。
主人公は平凡な少女:イチカ。イチカは双子の妹と、母親、祖父母の5人で、養鶏と農業を営みながら暮らしていた。
自宅は『衛星写真を元にお宅訪問』的番組がやって来そうなくらい、辺鄙な山奥にある。
毎朝、祖父の運転するライトバンで山から降り、ふもとにある全校生徒6人の分校に通っていた。
豊かな自然に囲まれ、悠々自適な子供時代を過ごした。
テレビは3局しか映らず、ラジオの電波も辛うじて入る自宅で、イチカは教師を志した。
摘んだ草花で余り布を染めたり、祖父が自作したブランコで遊んだり、妹と木の実や野苺を取っておやつにしたり。
足らないを数えたらキリは無いが、創意工夫を凝らし生活していた。
高校に進学したイチカと妹は、寮生活となった。街に程近い高校生活は、仲の良い友人もいっぱい出来て、目新しい事が盛り沢山だった。
いつしか、山奥の実家は『帰るところ』では無く、『いつか居た場所』の認識へ変化した。
長期休みの時だけ帰る家は、いつでも変わらず、時が止まっているかの様に、どっしりと物言わず存在していた。
大学進学の年に祖父、その翌年に祖母を相次いで亡くした。
祖母の葬儀の時、イチカと妹は母に街での同居を申し出た。
「お母さんはとても元気だけど、もし何かあった時、私達はすぐに駆け付けられないから、すごく心配なの」
「ふもとに住んで、ここには農作業や鶏の世話の為に通う様にしよう? ふもとなら車で30分もかからないし」
だが、母は頑として首を縦に振らなかった。
「ここは、ご先祖様が拓いて代々守ってきた土地なのよ。私の代で終わりに出来ないわ」
実家に帰る度に説得をするも、母は聞き入れてくれなかった。
数年後。教員採用試験に合格したイチカが教師となり、学生時代の彼氏と結婚した妹が、第一子を身ごもって数か月が経った頃だ。
従弟が連絡をしてきた。
「伯母さんと連絡がつかない。家に繋がる道が塞がっている。何か知らないか?」
(そう言えば、母さんが最後に連絡してきたのはいつだっけ?)
実家に電話を掛けても不通となっていて、イチカは青ざめた。
翌日。仕事を休んだイチカは、実家のふもとで従弟と待ち合わせた。従弟は言った。
「『連絡が取れない』って役場から、うちに連絡が来たんだ。電話が通じなくて、昨日俺が車で家に行こうとしたら、道が無くなっていた」
「そんな…。がけ崩れする様な天気も無かったのに」
急いで向かうと、そこにあった道は荒れ果て、雑草が生い茂っていた。ゴロゴロした巨石や、倒木も見られる。
(違う。小さい頃から見て来たから分かる。これは崖崩れなんかじゃない。まるで…)
(何十年も前から使われて無いみたいじゃないか)
車は入れないので徒歩で行ったが、軽装の2人は50メートル程進んで断念した。
従弟とイチカは地元の消防団に応援を頼み、装備を整え出直す事になった。
迎えた明くる日。イチカ達は道なき道を進み、慣れ親しんだ筈の自宅への道を辿った。
子供の頃、毎日祖父の車が通った為に出来ていた筈の畦道は消失し、樹木も伸び獣道と化していた。
(母さん…!一体いつから動けなくなってしまったの?)
一同は5時間をかけ、自宅のある場所へ踏み込んだ。そこには想像を絶する光景が広がっていた。
明治の終わりに建てられた実家は跡形も無くなり、雑草と低木に覆われた土地が広がっていた。
「本当に、ここで合ってるのか?」
「間違えようもないぞ、一本道なんだから」
「…GPSは、確かにここの家の真上になってるぞ」
首を傾げ揉め始める消防団員をそのままに、イチカはフラフラと雑草をかき分け進んだ。
(母さん、どこ⁈)
祖母が干柿を作るため収穫していた柿の木は、折れて朽ちていた。
(母さん…!)
(母さん!!)
イチカの脳裏に、在りし日の情景が浮かぶ。
イチカが教員採用試験合格後に、実家に行った時のことだ。
『もし…、お母さんが天寿を全うして居なくなったら、この家と土地はどうしたい?私が管理する?』
何となく見ていたテレビで『終活』がやっていたので、流れで聞いた。
『その必要は無いよ。私は、この家と一緒に居なくなるから』
『何言ってんの。この家の他に、鶏小屋も農機具小屋もあるじゃん。解体だって、瞬時には出来ないよ』
『だから、大丈夫だよ。私は、この家と共に居なくなるんだから』
母は、この家だったのか。だから出る事を嫌がったのか。
イチカは呆然と雑草に囲まれ立ち尽くす。
(わあ、怖い。ていうか、お母さんて実在の人間だったの?何だったの?)
私は膝を抱えテレビを見つめた。
主人公は平凡な少女:イチカ。イチカは双子の妹と、母親、祖父母の5人で、養鶏と農業を営みながら暮らしていた。
自宅は『衛星写真を元にお宅訪問』的番組がやって来そうなくらい、辺鄙な山奥にある。
毎朝、祖父の運転するライトバンで山から降り、ふもとにある全校生徒6人の分校に通っていた。
豊かな自然に囲まれ、悠々自適な子供時代を過ごした。
テレビは3局しか映らず、ラジオの電波も辛うじて入る自宅で、イチカは教師を志した。
摘んだ草花で余り布を染めたり、祖父が自作したブランコで遊んだり、妹と木の実や野苺を取っておやつにしたり。
足らないを数えたらキリは無いが、創意工夫を凝らし生活していた。
高校に進学したイチカと妹は、寮生活となった。街に程近い高校生活は、仲の良い友人もいっぱい出来て、目新しい事が盛り沢山だった。
いつしか、山奥の実家は『帰るところ』では無く、『いつか居た場所』の認識へ変化した。
長期休みの時だけ帰る家は、いつでも変わらず、時が止まっているかの様に、どっしりと物言わず存在していた。
大学進学の年に祖父、その翌年に祖母を相次いで亡くした。
祖母の葬儀の時、イチカと妹は母に街での同居を申し出た。
「お母さんはとても元気だけど、もし何かあった時、私達はすぐに駆け付けられないから、すごく心配なの」
「ふもとに住んで、ここには農作業や鶏の世話の為に通う様にしよう? ふもとなら車で30分もかからないし」
だが、母は頑として首を縦に振らなかった。
「ここは、ご先祖様が拓いて代々守ってきた土地なのよ。私の代で終わりに出来ないわ」
実家に帰る度に説得をするも、母は聞き入れてくれなかった。
数年後。教員採用試験に合格したイチカが教師となり、学生時代の彼氏と結婚した妹が、第一子を身ごもって数か月が経った頃だ。
従弟が連絡をしてきた。
「伯母さんと連絡がつかない。家に繋がる道が塞がっている。何か知らないか?」
(そう言えば、母さんが最後に連絡してきたのはいつだっけ?)
実家に電話を掛けても不通となっていて、イチカは青ざめた。
翌日。仕事を休んだイチカは、実家のふもとで従弟と待ち合わせた。従弟は言った。
「『連絡が取れない』って役場から、うちに連絡が来たんだ。電話が通じなくて、昨日俺が車で家に行こうとしたら、道が無くなっていた」
「そんな…。がけ崩れする様な天気も無かったのに」
急いで向かうと、そこにあった道は荒れ果て、雑草が生い茂っていた。ゴロゴロした巨石や、倒木も見られる。
(違う。小さい頃から見て来たから分かる。これは崖崩れなんかじゃない。まるで…)
(何十年も前から使われて無いみたいじゃないか)
車は入れないので徒歩で行ったが、軽装の2人は50メートル程進んで断念した。
従弟とイチカは地元の消防団に応援を頼み、装備を整え出直す事になった。
迎えた明くる日。イチカ達は道なき道を進み、慣れ親しんだ筈の自宅への道を辿った。
子供の頃、毎日祖父の車が通った為に出来ていた筈の畦道は消失し、樹木も伸び獣道と化していた。
(母さん…!一体いつから動けなくなってしまったの?)
一同は5時間をかけ、自宅のある場所へ踏み込んだ。そこには想像を絶する光景が広がっていた。
明治の終わりに建てられた実家は跡形も無くなり、雑草と低木に覆われた土地が広がっていた。
「本当に、ここで合ってるのか?」
「間違えようもないぞ、一本道なんだから」
「…GPSは、確かにここの家の真上になってるぞ」
首を傾げ揉め始める消防団員をそのままに、イチカはフラフラと雑草をかき分け進んだ。
(母さん、どこ⁈)
祖母が干柿を作るため収穫していた柿の木は、折れて朽ちていた。
(母さん…!)
(母さん!!)
イチカの脳裏に、在りし日の情景が浮かぶ。
イチカが教員採用試験合格後に、実家に行った時のことだ。
『もし…、お母さんが天寿を全うして居なくなったら、この家と土地はどうしたい?私が管理する?』
何となく見ていたテレビで『終活』がやっていたので、流れで聞いた。
『その必要は無いよ。私は、この家と一緒に居なくなるから』
『何言ってんの。この家の他に、鶏小屋も農機具小屋もあるじゃん。解体だって、瞬時には出来ないよ』
『だから、大丈夫だよ。私は、この家と共に居なくなるんだから』
母は、この家だったのか。だから出る事を嫌がったのか。
イチカは呆然と雑草に囲まれ立ち尽くす。
(わあ、怖い。ていうか、お母さんて実在の人間だったの?何だったの?)
私は膝を抱えテレビを見つめた。
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