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花開く場所
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私は高校生になっていた。
その昔バブルの頃、アミューズメント企業に建てられた学校があった。
『ホーンズパーク学園』と言うその学校は、校舎の3階から1階に繋がる巨大なヘンテコ滑り台が看板の幼小中高の一貫校で、当時は有名な施設だったらしい。
だが、時代の流れで生徒数は減り、学校は廃校。現在はそのまま『学校スタジオ』として管理され運営されている。
私はエキストラとして、その旧学園でのドラマ撮影に参加する事となった。
現実世界ではあり得ない薄い青紫のセーラー服に着替え、控室である元教室で携帯型ゲームをしてると、隣に座るエキストラ女子2人の会話が聞こえてくる。
「リアはこの業界、長いの?」
「んー、小3からだから、今年で8年かな。ルカは?」
「あたし、6年目。ハタチだけどリアの方が長いから先輩だね」
事務所に所属している彼女達は、似た境遇だから話が弾んでるようだ。
控室の外の廊下を、今回のドラマの主役がマネージャーやメイクスタッフを引き連れ移動するのを、リアとルカは無言で見つめた。ルカが口を開く。
「知ってる? ここがまだリアルの学校だった頃の売り文句は『夢はここから花開く』で、初仕事がここだった俳優は、将来売れるってジンクスあるの。
…主役のAさん、初仕事がココでのロケだったらしいよ」
「え、すごっ! マジじゃん」
「ね。いいなあ」
丸一日かけて、色んなシーンをカットごとに撮影した。基本的にエキストラは使いまわしなので、ボチボチ出番があって、それなりに忙しかった。
「はーい、本日これにて終了です! お疲れ様でしたー!!」
スタッフの一声で現場の空気は変わり、撤収作業が始まる。
(あーあ、今回も終わっちゃったなあ)
エキストラ業は何回もあるが、撤収作業の雰囲気は、文化祭の終了と似ていて何か寂しい気持ちになる。
「「お疲れ様でーす」」
私服に着替えたルカとリアが、昇降口脇に座る私に声を掛ける。私は笑顔で応えた。
「お疲れ様です」
「あれ? これから学校?」
リアは私が別の制服になっていたので、不思議に思ったようだ。私は説明した。
「ううん、早退して仕事に来たの」
「そうなんだ、高校? 中学?」
「高校。ダッサイでしょ? この制服」
「そんな事無いよ~、うちは私服だから制服の学校いいなあ」
「そうだよ、グレーのブレザー可愛いじゃん」
2人は制服を眺め、口々に言った。エキストラの送迎車がやって来たのに私が校内に戻ろうとしたので、ルカが声を掛けてきた。
「車、乗らないの?」
「うん、ちょっとね。今日はありがとう、お疲れ様でした」
2人は不思議そうに私を見ていたが、スタッフに促され、車に乗り込んだ。
校内に戻った私が廊下を行くと、モニター室で映像の確認をしている監督と助監督の会話が聞こえた。
「初仕事がここだと売れるってジンクス、ありますよね? だからAって売れっ子なんですかね」
「あー…、それちょっと違うんだわ」
監督は珈琲を啜りつつ答えた。
「ここには女生徒の幽霊が居てな。撮影の時にエキストラとして、勝手に映り込むんだ」
「幽霊がエキストラすか?」
「そう。ちゃんと毎回、衣装も変えてな。…で、知らずにそいつに話しかけた役者が売れるって話だ」
夕闇と共に、私の姿は漆黒の校内と同化する。
(私は、ホーンズパーク学園の生徒)
(若くして死んだ私は、夢を追う若者の、夢を叶える手伝いをする)
(ここは『夢が花開く場所』なのだから)
その昔バブルの頃、アミューズメント企業に建てられた学校があった。
『ホーンズパーク学園』と言うその学校は、校舎の3階から1階に繋がる巨大なヘンテコ滑り台が看板の幼小中高の一貫校で、当時は有名な施設だったらしい。
だが、時代の流れで生徒数は減り、学校は廃校。現在はそのまま『学校スタジオ』として管理され運営されている。
私はエキストラとして、その旧学園でのドラマ撮影に参加する事となった。
現実世界ではあり得ない薄い青紫のセーラー服に着替え、控室である元教室で携帯型ゲームをしてると、隣に座るエキストラ女子2人の会話が聞こえてくる。
「リアはこの業界、長いの?」
「んー、小3からだから、今年で8年かな。ルカは?」
「あたし、6年目。ハタチだけどリアの方が長いから先輩だね」
事務所に所属している彼女達は、似た境遇だから話が弾んでるようだ。
控室の外の廊下を、今回のドラマの主役がマネージャーやメイクスタッフを引き連れ移動するのを、リアとルカは無言で見つめた。ルカが口を開く。
「知ってる? ここがまだリアルの学校だった頃の売り文句は『夢はここから花開く』で、初仕事がここだった俳優は、将来売れるってジンクスあるの。
…主役のAさん、初仕事がココでのロケだったらしいよ」
「え、すごっ! マジじゃん」
「ね。いいなあ」
丸一日かけて、色んなシーンをカットごとに撮影した。基本的にエキストラは使いまわしなので、ボチボチ出番があって、それなりに忙しかった。
「はーい、本日これにて終了です! お疲れ様でしたー!!」
スタッフの一声で現場の空気は変わり、撤収作業が始まる。
(あーあ、今回も終わっちゃったなあ)
エキストラ業は何回もあるが、撤収作業の雰囲気は、文化祭の終了と似ていて何か寂しい気持ちになる。
「「お疲れ様でーす」」
私服に着替えたルカとリアが、昇降口脇に座る私に声を掛ける。私は笑顔で応えた。
「お疲れ様です」
「あれ? これから学校?」
リアは私が別の制服になっていたので、不思議に思ったようだ。私は説明した。
「ううん、早退して仕事に来たの」
「そうなんだ、高校? 中学?」
「高校。ダッサイでしょ? この制服」
「そんな事無いよ~、うちは私服だから制服の学校いいなあ」
「そうだよ、グレーのブレザー可愛いじゃん」
2人は制服を眺め、口々に言った。エキストラの送迎車がやって来たのに私が校内に戻ろうとしたので、ルカが声を掛けてきた。
「車、乗らないの?」
「うん、ちょっとね。今日はありがとう、お疲れ様でした」
2人は不思議そうに私を見ていたが、スタッフに促され、車に乗り込んだ。
校内に戻った私が廊下を行くと、モニター室で映像の確認をしている監督と助監督の会話が聞こえた。
「初仕事がここだと売れるってジンクス、ありますよね? だからAって売れっ子なんですかね」
「あー…、それちょっと違うんだわ」
監督は珈琲を啜りつつ答えた。
「ここには女生徒の幽霊が居てな。撮影の時にエキストラとして、勝手に映り込むんだ」
「幽霊がエキストラすか?」
「そう。ちゃんと毎回、衣装も変えてな。…で、知らずにそいつに話しかけた役者が売れるって話だ」
夕闇と共に、私の姿は漆黒の校内と同化する。
(私は、ホーンズパーク学園の生徒)
(若くして死んだ私は、夢を追う若者の、夢を叶える手伝いをする)
(ここは『夢が花開く場所』なのだから)
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