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あの子の中身 ※流血&グロ表現あり
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私は、10歳になっていた。
山間の小さな集落にある私の家では、黒い大きな犬を飼っていた。
猟師をしている祖父が、山中で仔犬を拾った。全身真っ黒だが、首元に白い毛が生えているので『クマ』と名付け、家族皆で可愛がっていた。
クマは身体こそ大きいが、利発で穏やかで忠誠心の強い犬だった。叱られた時、クマの背中に顔を埋め声を殺して泣くと、クマは私が泣き止むまで、ジッと待ってくれたものだ。
「都子、回覧板を持っていってくれ」
祖父は私に回覧板を託すと、猟の支度を始めた。
「あれ? 今日これから?」
「そこにも書いてある通り、峠の向こうで熊が出たから、招集かかった。頼んだぞ」
回覧板の1枚目には、『山菜採り中に熊に襲われる事案が増えております』との注意喚起があった。
(ふーん、今年は多いのね)
特に気にも留めず、私は道に沿って歩き、ちょっと離れたお隣へ。
(それよりも、東京で起こった例の事件。パタッと止んだのが気になるな)
思春期入口の私は、テレビで報じられた、遠い都会で起こった猟奇的殺人事件の続報が気になっていた。
(1週間で連続3件。犯人未だ捕まらず、発生から半年か)
隣家へ到着した私が、郵便受けに投函しようとした時、あるものを見つけた。その隣にある物干し場に、トイレ用の水色のスリッパが、片方落ちていたのだ。
(何で片方だけ?)
近づいた私は、ギョッとするものを見てしまった。
子供くらいの大きさしかない、全裸で痩せた頭髪の無い誰かが、こちらに背を向け縁側に座っている。
(誰?お隣にあんな人居ないのに)
人物は何かを一心不乱に食べている。目を凝らした私は固まった。人物がトウモロコシの様に持っているのは、血塗れの人の脚だった。
落ちているスリッパにも、血痕が付いていた。
私は、回覧板を抱えたまま逃げた。
(何あれ!何なのあれ!!)
家に戻った私はクマの小屋へ向かった。
「クマ! クマ! ねえ!! 起きて!」
小屋の中で眠るクマに半狂乱で呼びかけるも、ピクリともしない。
「ねえ! お隣さんがおかしいの!!」
腕を小屋に突っ込み、クマの身体を揺らすと、奇妙な感覚が伝わった。軽くて、ふにゃっとしている。
「クマ?」
愛犬の外側だけが、そこにあった。
『クマが脱走したよ!』
朝起きたらクマが居なくなっていたのは、約3カ月前だ。3日後に、クマは自力で戻り、小屋の前に鎮座していた。
『良かったぁ、戻って来てくれて』
背中に顔を埋めた私は、クマの匂いが少し変わっている気がした。
(山菜採りの人は、熊に襲われたんじゃない。アレが、食べたんだ)
陽の傾きかけた自宅。犬小屋の前で、私は呆然と立ち尽くした。
山間の小さな集落にある私の家では、黒い大きな犬を飼っていた。
猟師をしている祖父が、山中で仔犬を拾った。全身真っ黒だが、首元に白い毛が生えているので『クマ』と名付け、家族皆で可愛がっていた。
クマは身体こそ大きいが、利発で穏やかで忠誠心の強い犬だった。叱られた時、クマの背中に顔を埋め声を殺して泣くと、クマは私が泣き止むまで、ジッと待ってくれたものだ。
「都子、回覧板を持っていってくれ」
祖父は私に回覧板を託すと、猟の支度を始めた。
「あれ? 今日これから?」
「そこにも書いてある通り、峠の向こうで熊が出たから、招集かかった。頼んだぞ」
回覧板の1枚目には、『山菜採り中に熊に襲われる事案が増えております』との注意喚起があった。
(ふーん、今年は多いのね)
特に気にも留めず、私は道に沿って歩き、ちょっと離れたお隣へ。
(それよりも、東京で起こった例の事件。パタッと止んだのが気になるな)
思春期入口の私は、テレビで報じられた、遠い都会で起こった猟奇的殺人事件の続報が気になっていた。
(1週間で連続3件。犯人未だ捕まらず、発生から半年か)
隣家へ到着した私が、郵便受けに投函しようとした時、あるものを見つけた。その隣にある物干し場に、トイレ用の水色のスリッパが、片方落ちていたのだ。
(何で片方だけ?)
近づいた私は、ギョッとするものを見てしまった。
子供くらいの大きさしかない、全裸で痩せた頭髪の無い誰かが、こちらに背を向け縁側に座っている。
(誰?お隣にあんな人居ないのに)
人物は何かを一心不乱に食べている。目を凝らした私は固まった。人物がトウモロコシの様に持っているのは、血塗れの人の脚だった。
落ちているスリッパにも、血痕が付いていた。
私は、回覧板を抱えたまま逃げた。
(何あれ!何なのあれ!!)
家に戻った私はクマの小屋へ向かった。
「クマ! クマ! ねえ!! 起きて!」
小屋の中で眠るクマに半狂乱で呼びかけるも、ピクリともしない。
「ねえ! お隣さんがおかしいの!!」
腕を小屋に突っ込み、クマの身体を揺らすと、奇妙な感覚が伝わった。軽くて、ふにゃっとしている。
「クマ?」
愛犬の外側だけが、そこにあった。
『クマが脱走したよ!』
朝起きたらクマが居なくなっていたのは、約3カ月前だ。3日後に、クマは自力で戻り、小屋の前に鎮座していた。
『良かったぁ、戻って来てくれて』
背中に顔を埋めた私は、クマの匂いが少し変わっている気がした。
(山菜採りの人は、熊に襲われたんじゃない。アレが、食べたんだ)
陽の傾きかけた自宅。犬小屋の前で、私は呆然と立ち尽くした。
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