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ホテルマン

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 私は、外国のホテルに勤めるホテルマンになっていた。

 学生時代は英語で赤点スレスレの点数を取っていた常連だったが、何の因果か今の私は外国暮らしだ。


(英語って楽だな。ひとたび覚えれば、どこの国でも使えるんだもん)

 今日は夜勤。客も多くなく、天気も良くないので今夜は暇だろう。私は詰め所でスマホを弄りつつ、勤務をこなした。

 フロントの電話が鳴り響く。出ようと思ったら誰かが取った。
(…ソフィア?と、言う事は…)

 私はスマホを仕舞うと、電話に表示されている部屋番号の元へ向かった。6階のある部屋の前に、白いジャケット姿の女:ソフィアが居た。

「お客様、何て?」

「喘息の発作が出ていて、薬を飲んだけど症状が収まらないらしいの」

「分かった」

 ノックをして開けて貰うと、オロオロしている年配の男性が出た。

「妻の喘息が酷くなる一方で…」

 男性の妻は、ゼイゼイヒューヒューと嫌な感じの呼吸音。私は男性に提案した。

「救急車を手配します。ご準備を」

 部屋を後にする私と入れ違いに、ソフィアが入室する。

「すぐに来ますので、落ち着いて下さい。お身体、横向きにしましょう?」

 私は、ソフィアが対応している間に、救急車を呼んだ。



「お疲れさま。あのお客さん、アレルギーで呼吸困難だったんだって。救急搬送して正解だったよ」

 日勤が出勤してからの休憩中、私は労いの意を込めてソフィアにチーズバーガーを差し出した。ソフィアは笑って受け取った。

「ありがとう。良かった、あの奥様助かったんだね」

「うん、1人だけだと完全にテンパってたよ。あたしも助かった~」

 ぐったりした表情の私に、ソフィアは『気にしないで』と言いたげに微笑んだ。そんな時、休憩室にやって来たのは、支配人であるデイビッド。
 デイビッドはテーブルの上のチーズバーガーを見ると、慌てて立ち上がった私に口を開いた。

「…また、ホワイトレディのお手柄か。名前、何て言ったっけ」

「『ソフィア』です」

「ソフィアに言ってくれ。『白服のお嬢さんのおかげで、落ち着いて病院へ行けました』って、お客さんから電話来た」

「はい、承知致しました」

 私は深く礼をした。


 ソフィアは私達の同僚だが、私にしか見えなかった。
 このホテルが出来る前のホテルで働いてた古い時代の従業員で、救急搬送の必要な急病人が出た時だけ出て来る、ゴースト従業員だった。

 思いやりのある接客態度と緊急時の立ち回りは、旅先での窮地で心細い客らの支えとなっていた。

 彼女はチーズバーガーが大好きだった。それを知るのはやはり私だけなので、私は彼女にバーガーを奢るのが決まりとなっていた。


(支配人もなあ、礼を言うだけじゃなくソフィアに給料払えばいいのに)

 お下がりのバーガーを食べつつ、私はソフィアの居た席を見つめた。

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