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地下の子 ※子供の虐待?死亡表現あり

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 私は、野良猫になっていた。

 物心ついた時には親兄弟の姿はなく、1人きりで生きていた。初めての冬、日増しに寒くなるため引っ越しを決断した私は、とある家の床下を次のねぐらにした。

 そこは『オンボロ屋敷』で、住宅の基礎部分もひび割れが激しかった。

(地震来たら倒壊しそう…。でも他の猫居ないし、上にコタツあるのかあったかい区画あるしな。猫にとってはいい物件だ)
 私はそこに定住を決めた。


 定住して数週間後。上に住む人間が、激しい音と声を上げて何かをしていた。しばらくすると、床板を外しているのか、真っ暗い床下に光が差し込んだ。

「お前はここから出てくんな!」

 その声と共に、ドサッと何かが落下した。再び暗い世界となった床下で、目を凝らした私はギョッとした。暗闇に置き去りにされたのは、人間の子供だった。

(え、どうすればいいんだ…)
 戸惑う私をよそに、7,8歳くらいの少年は手を伸ばしてきた。

「…猫ちゃん、おいで。寒いでしょ?」

 爪を立てる事も忘れた私は、少年に抱かれ初めて温もりを知った。


 少年は私に色々な話をした。新しいお父さんのこと、1回しか行ってない小学校のこと、生まれたばかりの弟のこと。少年は決して泣き言は言わなかった。

「ユイトがもっと大きくなったら、きっとママも優しくなると思うんだ。だから僕はジッと待つよ」


 ある時。家の中から大勢の人間の足音が聞こえてきた。いつぞやの様に、床板が外され光が差し込む。

「供述によればここにある筈だ。…うっ」

 懐中電灯を片手に逆さに覗き込んだ男が、私達の居る場所を見て口元を覆う。それを合図にした様に、複数の人間が床下へ手や頭をやるのが見え、私は身構える。

『起きて!誰か来たよ!』

 少年は、私の呼びかけにピクリともしない。忍び寄る者達に私は逃げ出し、振り返って呼びかける。

『やめて!彼に触らないで!!』

 私の叫びに手を止める者は、誰もない。たまらず床下から外に這い出した私に、覚えのある声が聞こえた。

「猫ちゃん」

 そこに居たのは、あの少年だった。少年は笑った。

「ありがとう。僕、猫ちゃんが居たから、ちっとも寂しくなかったんだよ」

 だんだんと姿が滲んでいく少年は、私の頭を撫でてくれたが、私は温もりを感じる事が出来なくなっていた。

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