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新城颯十2 ※残虐犯罪行為、グロ、流血表現あり

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※※注意 残虐犯罪行為が出てきます ※※





「声帯が潰れてますね」

 獣医はそう言うと、仔猫の口を閉じさせた。

「声帯が?」

「ええ。首を何かに挟んだとか、絞められたとか、圧迫で損傷を受けたように見えます」


 声帯の損傷以外は無事だったその猫に、颯十は『シャグリ(灰色の雄猫)』と名付けた。

 シャグリは利発で律儀な猫だった。颯十が出掛ける際はちゃんと見送りをし、帰宅時も出迎えてくれた。

(猫は勝手きままで、飼い主の言う事も訊かないと聞いたけど。忠誠心のある猫も居るんだな)

 動物を飼うのが初めての颯十だが、シャグリは躾に手を煩わせる事も一切無かった。


 シャグリと暮らし始め、颯十は猫の解剖を辞めた。猫一般への『情』が湧いたのではなく、『シャグリに嫌われる』のを避けたのだ。

(例え猫でも『猫』を切り刻んだら判別がつくだろう。そもそも、シャグリは他の猫より頭がいい)


 それでも、解剖欲は日に日に強まる。解剖を他の動物で代用するなら、何を使うか。
 最近は、猫以上に野良犬はかなり少ない。かと言って、毎回購入する金銭も大変だし、身元がバレてしまう危険もある。

(鳥やハムスターで欲求を満たす事は到底出来ないし、ウサギも調達が難しい。でも今更、猫に戻る事は出来ない)



 そんな颯十がある時見かけたのは、『不法滞在外国人』のニュースだ。

 滞在期限が切れたにも関わらず日本に滞在し続け、『グレー』な仕事をやり、母国に送金をする。
 『グレー』な現場では、そんな外国人労働者が常態化してるので、急に欠員が出ても誰も気に留めないという。

(人が1人消えてもバレない場所か。だけど、死体を処理する方法が難儀だ)

 外国のシリアルキラーには、人○食の人間もしばし居るが、颯十は不味そうなので興味も関心も無い。

(いかに自宅が広くても、人を埋める事は出来ないし…)


 たまたま大学の授業が早く終わり、帰宅した颯十は自宅の使用人が業者を案内する場面に出くわした。

「どうしたんですか?」

「ああ、お帰りなさい。下水処理のね、浄化槽の点検ですよ」

 業者は器具を使うと、自宅裏のマンホール蓋を開けて内部を窺っていた。

(そうか。いい事を思いついた)


 颯十は翌日、10泊以上向けの超大型キャリーケースと大判のゴミ袋を購入した。
 パソコンを開き、外国人女性がメインの派遣型風俗店のホームページへ。

 呼び出してやって来たのは、東南アジア系の小柄で痩せた若い女だった。

 初めての風俗利用、初めてのラブホテル、初めての絞殺。緊張は未だかつて無いほどに心臓を高鳴らせ、手足を震わせた。

(とうとうやってしまった。ここから、遺体をトランクに詰め自宅へ。バレるか、バレないか)


 『献体』である女は体重40キロも無かったと思うが、運んだキャリーケースは有り得ない程に重かった。

 帰宅した時の安堵感は、この上無かった。シャグリは颯十の姿を見て近寄ってきたが、キャリーケースの匂いを嗅ぐと、部屋の隅へ行ってしまった。

(猫って、犬ほどでは無いけど、鼻がいいんだな)

 感心しつつ、颯十は手早く『解剖』の準備をした。絶命し4時間以内とは言え、死臭や腐敗臭が出たら、いくら離れでもバレてしまう。

 離れのユニットバスで『解剖』に及んだ颯十は、ある意味『甘美な時間』を過ごした。
 長年の夢が成就し、心ゆくまで楽しめたのだ。初めて『解剖』した死体は、教科書通りの物体だった。
 それを確認しただけで、颯十の心は高揚した。

(わあ…、本当にこうなっているんだ。感激だ)


 一方で決して許されない背徳の行為に、颯十は別の意味で興奮した。

(患者の命を救う医者の息子は、残虐な殺人鬼。父も息子が殺人を犯し、その遺体が自宅敷地にある状態で、夕食を共にしているとは、考えもつかないだろう)


 夕食後、5時間かけて遺体を分解した颯十は、屋外にある浄化槽の蓋を開け中に放った。
 どうしても浄化槽に入らないパーツは、ペットシーツで包みビニール袋を二重にして、燃えるゴミに混ぜて集積所に出した。

(やれやれ。次はミキサーと、硬い骨を溶かす為に硫酸を準備しておかないと)


 颯十から漂う匂いに警戒をしていたシャグリだったが、念入りにシャワーを浴び、ユニットバスを綺麗に清掃すると、ようやく身体を寄せてきた。

「ごめんな、構ってなくて」

 颯十は愛しそうに抱きしめた。


 暫くの間は、テレビのニュースに気を付けたが、『性サービス業従事の外国人女性の失踪』は出て来なかった。

(この現代『情報が重要視されない』人間って、実在するんだな。俺が失敗しなければ、永久にバレないかもしれない)



 颯十が次の殺人をしたのは、それから8ヶ月後の事だった。
 1人目の時、向こう2年位はしなくていいくらいの達成感を得られていた筈だが、1年持たなかった。

 この時も入念に下調べをして、標的を選んだ。自殺サイトで一緒に死ぬ仲間を募集していた、外国籍の女性だった。

 心中希望として、レンタカーを借りて山奥で練炭自殺をするフリで呼び出し、女を絞殺した。
 事前に下見していた空き家で血抜きして、運びやすく切断し、大型クーラーボックスに入れて、自宅離れに運び入れた。


(うーん、時間経ってるし血も抜いたから、色合いが悪いな)

 そんな颯十の目に留まったのは、腹腔内の病巣。女は大病を自殺の理由にしていた。初めて見る癌の病巣に、颯十は歓喜した。



 その直後に、計算外の出来事が発生した。
 自宅の浄化槽が新型へ交換された。新型は、外部から汚物や雨水を簡単に入れられない形状になった。

(処理に困るな。空き地を何箇所かピックアップして棄てるかな)

 週末は大学の膨大なレポート課題の他に、空き地探しに出かける多忙の日々だった。


 更にその直後、『自殺サイト』絡みで事件があり、サイトの存在が明るみになった。

(注目されたら、ここもそのうち規制が入るだろう)


 次に目を付けたのが、『家出人とそれをサポートする人間(神)との交流サイト』だ。
 足がつかないよう、『献体』を外国籍の人間に絞っていたが、日本国籍でも充分使えるかもしれない。

 颯十はある17歳の少女に目星をつけると、やり取りを始めた。
 私生児として生まれ、実母も生後間もない少女を養護施設に預け、現在に至るまで没交渉。
 15歳で施設を退所後は、今日に至るまで『神』の元を転々としているらしい。

「身元がアレだし未成年だから、風俗も雇ってくれないんだよね~」

 自虐する少女を、ラブホテルに連れ込み殺害。ホテルの風呂場で血抜きして、運びやすい大きさに分割した。


 この頃になると、颯十は『解剖』よりも『合理的に献体を選び、周りに気づかれぬよう殺害&遺棄する』行為に達成感を覚えるようになった。


(立件などさせない。最低でも半年かけて慎重に吟味して、尻尾すらも掴ませない)

 犯行を重ねると、颯十も大胆になった。献体画像をデジタルカメラで撮影したり、献体の一部を薬品に漬けて、自室に置いた。

「教授から、不要になった標本を譲りたいと言われたんだけど、貰ってもいいかな? 勉学の一部として是非欲しくて」

 颯十は医大生だ。『これは資料だ』と説明し、それらしいラベルを貼っておけば『合法』と化す。



 そして、颯十の国家試験がいよいよ来年に迫った。

 本格的な試験勉強のため、今回をもって暫く『解剖』から遠ざかる予定の颯十に、1通のメールが届いた。

(何だよ、こっちは寝ずに解体作業をしているのに…)

 ビジネスホテルの浴室で、5体目の献体の血抜きと分割作業を徹夜でしている最中だった。


『急にメールをして申し訳ありません。リュウイチです。』

 大学関係者からのメールかと思った颯十は、訝しんだ。

(リュウイチ?確かに『解剖』したはず…)

 今回の献体は、性転換希望の家出人だった。そのメールは献体と同じ名前ハンドルネームを名乗り、同じアドレスから届いた。

『実は、○日から急性虫垂炎で入院していたのですが、入院中に妹が私になりすましてあなたとやり取りをしていたようです。』

 添付ファイルには、向こうのパソコンのメール履歴が、写真に収められた画像が添付されていた。

(まずい。写真にこっちのパソコンのIPがばっちり写っている)

 『リュウイチ』には、自分以外パスワードを知らないパソコンを使うよう指示したが、『偽リュウイチ』はパスワードを知っていたのか。


 メールには続きがあった。

『妹は私を真似する癖があり、その気がないのにFTMと偽り恰好だけのコスプレをしている人間です。私への自慢の為だけに薬を手に入れるつもりで、私になりすましそちらに向かったと考えられます。妹を追い返し、本物の私と被験者手続きをして下さい』

 冷静な状態でメールを読めば、おかしな話だと気づけるが、不測の事態が発生し睡眠不足の颯十は、冷静さを欠いていた。

(まさか、取り違えで『解剖』していたのか?俺に繋がりかねない証拠物件のいくつかは向こうにある。確認しなくては…)

『リュウイチさん、まずは落ち着いて下さい。こちらに妹さんは来ておりません。こちらで携帯電話のアドレスをお聞きした直後から、連絡が取れなくなっていた所です。妹さんと連絡は取れていますか?』

『取れていません。両親はこちらのパソコンでのやり取りは知らないので、両親も行き先を分からないようです』

 颯十は捨てる予定でまとめていた、献体の荷物を出すと、メールを送信した。

『確認のためお尋ねいたします。あなたの本名と住所、生年月日をお願いします』

『行田ちはや、平成○年11月3日生、住所は○○県×市▽区…です。妹は私の学生証と保険証を勝手に持ち出し居なくなったので、身分証は手元にありません』

 颯十の手元には、返信メールの通りに記載された個人情報と、献体と同じ顔の顔写真が貼られた学生証があった。

(写真の部分…、シールか。元の写真を剥がして、証明写真機で撮影した物を貼り直すのも、十分あり得る。想定外が起きた)

 颯十は寝不足の頭をフル回転させ、返信を送った。

『事情は分かりました。それでは極秘のまま、待ち合わせ場所へお越し下さい。つきましては、リュウイチ様の正しい携帯番号とアドレスをこちらへお送りいただき、自宅パソコンの履歴を消去して下さい』

 颯十は、本物のリュウイチも解剖しようと考えた。



 分の悪い事に、偽リュウイチの携帯電話は、分割前に本体データと外部メモリーカードを初期化して、電源を切っていた(電波の発信元を辿られないよう、毎回そうしていた)。
 献体が偽物だと確認する手筈は残っていない。


 颯十は本物のリュウイチを呼び出して拾う前に、ホテルへ延泊を要請し、急遽大型クーラーバッグをもう1つ購入した。

(解剖自粛前にひとヤマあるとは。ただこれを越えたら、達成感はかなり強化されるだろう)

 颯十はこの状況でも、先の事を考え微笑んでいた。



 本物のリュウイチは、少々ポチャッとしてた偽のリュウイチと違い、スレンダーで痩せていた。

「こんにちは。初めまして、リュウイチさん」

「…こんにちは」

 ぎこちなく挨拶をしたリュウイチは、10代半ばだろうか。偽リュウイチと姉妹なのに全然似ていない。
 リュウイチは、口を開いた。

「初めまして…。あの、妹とは会ってないんですか?」

「ええ。連絡が取れなくなったので、こちらから連絡を差し上げようと思っていた矢先だったんです。あ、こちら私の名刺です」

 颯十は車内で偽の名刺を握らせると、車を走らせた。リュウイチは、口を開くと身の上話を始めた。

「僕になりすました妹は、9歳の時に親の再婚で出来た血の繋がりのない妹なんです」

「ああ、そうなんですね」

(参ったな、睡眠薬を家から取って来るのを忘れた)

 ハンドルを握りつつ、颯十は上の空だった。リュウイチは続けた。

「最初の内は仲が良かったんですが、中学に上がって妹の成績が下がると、妹は僕に敵対するようになりました。
今回も多分そのせいで、なりすましたんだと思います。問診に関係ない話なので、妹の事は言ってなかったんですが…」

「事情はよく分かりました。こちらも、本人確認が不十分でした。こちらこそ、申し訳ありません」

 周回移動しつつ、周囲を窺うが、尾行らしい車などは居ない。そもそも日本の警察が、身内や未成年に潜入捜査をさせる事は無い。
 目の前のリュウイチは、どう見ても未成年だ。

「あ、検査に使う計器類が誤作動を起こしてしまいますので、携帯電話は今の内に電源をお切り下さい」

「あ、はい。分かりました」

 リュウイチは目の前で携帯電話の電源を切った。


 颯十は道順を覚えられないよう、雑談しつつ色んな道を走り、遠回りでビジネスホテルへ到着した。

「教授が学会から戻り次第、簡易検査をしますので、それまで用意したお部屋で待機下さい」

 颯十は準備したセリフを言い、昨日献体を招き入れた部屋へリュウイチを通した。
 リュウイチは恐々見回しつつ、入室した。颯十は白衣を着て微笑んで椅子を指さし、案内した。

「では、どうぞこちらに。お飲み物を準備します」

 リュウイチが素直に座るのを見届けた颯十は、死角からポケットに入れたビニール紐を取り出すと、リュウイチの背後から紐を首に回し、締め上げようとした。

「うっ、ぐうっ!!」

 颯十が予想したよりも一瞬早く、リュウイチが隙間に指をねじ込み、よけようと立ち上がる。

(こいつ、反応が早い…!!)

 ふと見た正面には、鏡があった。

(しまった。これで勘づいたか)

 颯十が早く失神させようと力を強めると、リュウイチは暴れる。

「チッ! 暴れるな…!」

「がああっ! やめぇっ!!」

 2人は狭い空間で色んな物をなぎ倒しぶつかり合い、暴れた。

 今まで献体を絞殺してきた颯十だが、今回の献体は比べ物にならない程、力が強い。
 脇腹に強い衝撃を受け、颯十の口から息が漏れる。
 一瞬の緩んだ隙をついて、リュウイチが逃げ出そうとしたので、颯十は傍らに落ちていたメスを掴み、肩に突き立てる。

「ぎゃああああっ!!」

(うるさい!人が来てしまう。喉を、喉を掻き切らなくては!!)

 颯十がメスを引き抜き、首へ突き立てようとすると、その勢いのまま腕が勝手に動き、右目に激痛が走った。

「ぐぐぅ!!」

 暴れるリュウイチが颯十の肘を蹴り上げ、握っていたメスが颯十の目にグサリと刺さったのだ。

(噓だろ!目に刺さっ…。痛い!痛い痛い!!)

「あああっ! 畜生!!」

 起き上がろうにも、メスは丁度痛みを強く感じる箇所に刺さったか、動けない程に痛い。
 リュウイチは咳き込みつつ立ち上がり、叫んだ。

「ちはやー! どこ?!」

 首の紐もそのままに廊下へ。

(逃がしてしまう!)

「誰か来て! 誰かー!!」

 颯十は、刺さったメスを引き抜き追った。だが、すんでのところでリュウイチは廊下へと飛び出した。

「…待て!!!」

 血だらけの手を伸ばした颯十だが、リュウイチに届く事は無かった。



 こうして新城颯十は、5件の殺人と1件の殺人未遂罪で現行犯逮捕される事となった。

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