まるで生まれる前から決まっていたかのように【本編完結・12/21番外完結】

桜以和果

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【番外】わたしはあなたのものであなたはわたしのもの(後)*性的な描写があります*

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 乱れた息も、それまでの彼とは全く違う荒々しさだ。貪るような口付けに翻弄されるしかないシィンの視界に、ダンジァの手が枕元に備えられている香油瓶に伸びるのが見える。それを取ると、彼は手荒く自身の性器にぶちまけた。普段の丁寧な、丁重な振る舞いの彼とは別人のようだ。
 蜜のような甘い香りが広がる中、ダンジァは溢れた香油で確かめるようにシィンの後孔を探る。そしてシィンの脚を大きく開かさせるように抱えると、次の瞬間、一気に挿し入ってきた。

「ぁあぁあァん……っ……!」
  
 その強烈な快感に、堪えていた欲望が一気に噴き上がる。
 ダンジァと一緒に達したかったのに、入れられただけで吐精してしまった。堪えられなかった自身の身体の淫蕩さに、シィンは耳まで真っ赤になる。
 だがダンジァは、そんなシィンの狼狽さえ愛おしむように、熱い耳朶に、頬に、繰り返し口付けてくる。

「シィン様……あぁ……シィン様はあんなことをどこで覚えられたのですか……? あんなに淫らな——可愛らしい——蠱惑的な様を——」

 そして途切れ途切れに聞こえるのは、興奮極まったような熱っぽい彼の声だ。
 と同時に繰り返し抜き挿しされ、揺さぶられ、抉られては突き上げられ、シィンはダンジァの腕の中で溢れんばかりの快感をただただ注がれ続ける。

「優しく抱いて差し上げなくてはと思っていても、あんな姿を見せられては……」

「ぁ……あ、あ、ァ……ダン……ダンジァ……ぁ……」

「あれは自分だけに見せたものだと仰ってください。これまでもこれからも、自分だけが見られるシィン様の特別なお姿なのだと——」

 でなければ嫉妬でおかしくなります——。

 と、ますます情熱的に腰をすすめてくるダンジァに、シィンの胸は甘酸っぱく軋む。わかりきっている答えを望む彼が可愛らしい。わかりきっている言葉を欲しがる彼が愛しい。

「ダ……ん、ぁ……そ、んな、の、決まって……っ……んっ……」

 だからすぐさま応じようとしたシィンの声は、ダンジァの唇に奪われる。
 繋がっていてもまだ足りないとばかりに深く舌を挿し入れられ、同時に激しく腰を打ち付けられると、目が眩むほどの強烈な快楽に、喘ぐことすら満足にできなくなる。
 一度達したはずの性器も既にまた硬く形を変え、再びの吐精を望んで震えている。

「ダン……ぁ……ダ、メ……ぁ……ああっ……ぁ……いぃ……っ」

 何を発しているのか、自分がどんな格好をしているのかもよくわからない。
 久しぶりの逢瀬。久しぶりの二人だけの時間。久しぶりの彼との抱擁、口付け。そして繋がり——。その悦びの全てを受け止め堪能し尽くしながら、シィンは甘く切なく鳴き声を上げ続ける。

「シィン様……中が、こんなに熱く……」

「あぁ……っ……ぁひ、ぁ……」

「溶けそうです……うねって……締め付けてきて……」

「ぁ……ダンジァ、ぁ……ぁ、そこ、ぁ……」

「ここですか?」

「あぁっ……! ァ、ぁ、んっ、そこ……そこ、が……ぃ……きもち、ぃ……っ」

 内壁を突かれるたびに髪を乱してガクガク頷くシィンの口の端から、淫らな声と共に飲み下せなかった涎が滴り落ちる。繰り返される口付けの合間、それをぺろぺろと舐めとるダンジァの姿は、どこか甘える馬の仕草のようでもある。
 けれど彼は——ただの大人しい馬じゃない。
 思慮深く穏やかなだけの騏驥じゃない。
 二人きりでいる時だけに見せる、別の姿。別の横顔。

 自分が、こうして彼と二人きりでいる時は、王子でなくただのシィンになるように。

 誰も知らない自分の姿。
 自分しか知らない彼の姿。

 それを見せ合え、愛し合える相手の、なんと素晴らしく得難いことか。

「ダンジァ……ダン……ダン……」

「シィン様……シィン様——愛しています……」

「ダンジァ……好きだ……わたしの——わたしのダンジァ——」

「シィン……様……っ」

 次第に激しさを増す抽送に、互いの息も上がり、声も上擦り掠れていく。
 しっとりと湿った肌が吸い付き合い、香りとともに混じり合うようだ。
 ダンジァの額にも汗が浮いている。彼が動くたび、繋がっている部分が快感を伝える淫猥な水音を立て、シィンを官能の沼へ沈めていく。

 酔ったようにクラクラする。
 気持ちがいい——もっと——気持ちがいい——。そんなことしか考えられくなる。
 達したい。けれどずっとこのままでいたい。ずっとこのままがいい。ずっとずっと——彼の腕の中で彼の香りに包まれて彼と繋がり一つになっていたい——。

「ダンジァ……ぁ……抱き、しめて……っ……きつく……っ」

「シィン様——」

「ダンジァ……ダンジァ……あぁ……」

 感極まって溢れた涙を、温かな唇が静かに掬っていく。こめかみに、額に口付けられる。髪を撫で上げられる。
 黒く美しい瞳が見つめてくる。
 激しさも優しさも同じ彼で、全部全部わたしのもの——。

「ダ……ぁ……も、ぅ……っ……」

 くり返される律動と絶え間のない愛撫に堪らず、シィンはとうとう懇願の声をあげる。
 達したい——今度こそ一緒に——。
 縋るように見つめると、情熱を宿していた夜の色の瞳が微笑むように細められる。抱きつくと、いっそう強く抱き返される。絶対に離さないとでも言うように。あなたはわたしのものなのだと、伝えてくるかのように。

 そう——。
 それでいい。

 ここにいるのはただの恋人同士の二人。
 だからわたしはあなたのものであなたはわたしのもの。
 
「ぁ……あ、ぁ、ああっ——ァ——」

 再開される律動にされるまま、シィンは声を上げ身をくねらせる。より深く咥え込もうとするかのように自ら腰を揺すり、抱きしめる身体に爪をたて、気持ちがよくて堪らないのだと伝えると、熟れた肉筒を満たすダンジァの屹立がいっそう大きさと硬さを増す。

「シィン様——」

「ダンジァ……ダン……っぁ……すご……すご、ぃ……っ」

「ッ——」

「な、か……熱、ぃ……大き……凄ぃ……ぃ……っ」

 忘我の快感の中、羞恥も忘れた淫らな声を上げ、ぎゅうっとしがみついたその瞬間。

「ァ……ぁ、ひァ……ああぁっ——!」

 背が軋むほど抱きしめられ、奥の奥に熱が叩き込まれる。
 同時に、昂りきったシィンの性器から熱い飛沫が噴き零れる。
 目が眩むような、絶頂。

「ふぁ……ぁ……っん……ぁ……」

 吐精の余韻に、シィンの身体がヒクヒクと震える。
 その身体をきつくきつく抱きしめられ、ダンジァの呻くような低い声が届いた直後——。身体の奥で性器が脈打ち、どくりと温かなものが注がれる。
 体奥に染み渡っていくダンジァの欲。その感触にうっとりと背を震わせるシィンの唇に、愛の囁きとともに、吐息混じりのダンジァの唇が触れた。

 

⭐︎
 


「……そういえば、新しい調教はどうだ。何か変わりそうか?」

 久しぶりの逢瀬のためか互いを求め合う気持ちは一度ではおさまらず、二度三度と立て続けに交わり、ようやく一息ついた寝台の上。
 もうぐちゃぐちゃになった夜具をなんとか横になっても身体が痛くなさそうな状態にし(もちろんダンジァがやった)、枕はダンジァの腕をその代わりにして、彼の胸の中に抱き寄せられた格好でシィンが尋ねると、王子の最愛の騏驥は疲れなど一切伺わせない落ち着いた面持ちで、

「そうですね……」

 と穏やかに応えた。
 シィンを嫌というほど悦ばせ、何度となく絶頂へ導きながら全く疲労していないように見えるその体力に、シィンは熱い息を零す。

「……お前は昼も夜も逞しいな……」

 話の途中であっても思わずそう伝えずにいられない。
 息するたびに僅かに上下する鍛えられた胸元に指を這わせながらシィンが言うと、ダンジァは照れたように——もしくは困ったように苦笑した。

「お褒めいただき光栄です」

 そしてシィンの手を取ると、その指先にちゅっと口付けてくる。
 

 ……そんなことをされると、またしたくなる。


 とはいえ体力的に難しいのはシィンの方なので、シィンはチロリと自身の唇を舐めただけでそれ以上のことはせず、休憩代わりに話を続けようとする。
 その意を込めて見つめると、賢い騏驥は話を続ける。

「ユェン先生と話し合って、今はまだ色々と試しているところですので……すぐに何か変化があるかといえば何とも言えません。ですが、先生が来てからというもの、王の騏驥たちの意識も少し変わってきているようですし、いずれは良い方向に向かうのではないかと。……自分もそのためには協力を惜しまないつもりです」

「ん……。だが……」

「——はい。承知いたしております。決して無理は致しません。それに……シィン様との時間は何をおいても確保いたしますのでご安心ください」

「っ……さ、最初のことはともかく、後のことはわたしは何も言ってはいないぞ!?」

 何があっても自分と会うための時間だけは最優先にしろ——なんて、そんなあまりにも正直すぎる本音は流石に口にしてはいない……はずだ。
 だが、ダンジァは「左様でしたか?」とことさら不思議そうに——笑いを堪えたような顔で、わざとらしく首を傾げて見せる。
 シィンは耳が熱くなるのを感じながら、ぷぅ、と唇を尖らせた。

 我儘を見透かされ、さらには先回りされたことに恥ずかしさを覚えていると、その唇にそっと口付けが触れた。 

「そんな顔をなさらないでください。拗ねても可愛らしいなんて、シィン様は本当に罪作りなお方です……」

 そして宥めるように何度も頬に軽く口付けられる。やがて、シィンはその唇にちゅっと口づけ返すと、間近からダンジァを見つめた。

「別に……拗ねてなどおらぬ」

「…………」

「お前がそうしたいなら、そうすれば良い。お前がどうしてもわたしとの時間を確保したいというなら……」

「もちろんです」

「ん。ならそうするがいい」

「はい」

 シィンが言うと、ダンジァは神妙な顔で返事をする。それがおかしくて、二人ともに笑いが溢れた。
 ひとしきり笑いあうと、シィンはふうっと息をつく。心地いい。彼の側は、なんの不安も気負いもなくいられて……。
 情事の後の心地よい疲れの中、シィンは取り止めのない話を続ける。

「医館の改修も順調に進んでいるし、今後は色々と楽しみが多い……。そういえば、お前の身体は大丈夫か。ニコロ医師に登城を命じているが、彼は来ているか?」

「週に二度は体調を診ていただいています。厩舎にいた頃よりもむしろ頻度が増した気がするのですが……先生にはご迷惑ではないのでしょうか?」
  
「気にすることはない」

 ダンジァは、城にも騏驥の医師がいるにもかかわらず、厩舎地区の医師であるニコロがわざわざやってくることを気にしているのだろう。しかも診るのはダンジァだけなのだ。
 いくらか不安そうに言ったダンジァに、シィンはさらりと言った。
 その口調があまりにあっさりしていたからか、ダンジァは目を丸くする。シィンは、ふふ……と笑って続けた。

「あの医師は、お前のことを気にしている。以前に診た患者の一人として気にしているという面もあるのだろうが、『薬や魔術力の影響によって後天的に毛色が変化した騏驥』への興味という点でも気にしているのだ。医師らしいというか……とにかく騏驥に興味があるのだろうな……」


 ダンジァに説明しながら、シィンは、城の医師たちから聞かされた話を思い出していた。

 彼らは、自分たちだけでは解毒薬を作成し完成させることは無理だと察したとき、迷った挙句、最後の手段として騏驥の医師であるニコロに協力を仰いだらしい。
 騏驥の薬が毒として用いられているなら、騏驥に詳しい医師の手を借りるべきだろうと判断したのだ。それも、城の獣医よりも多く騏驥たちを診ているに違いない、厩舎地区の獣医がいい、と考えて。

 しかし当初、彼は城の揉め事に巻き込まれることを嫌がり、頑なに首を縦には振らなかったようだ。
 だが、事態に騏驥が大きく関わっていると教えられると、態度を一変させたらしい。
 医師は言った。

『おそらく……おそらくですが、あの騏驥の医師は、殿下をお救いするというよりも騏驥を助けたかったのではないかと思われます……。王家に弓引く者は極刑——とはいえ、殿下の治癒が叶えばもしかしたら恩赦も、と思ったのでしょう……』

 結果は、あんなことになってしまったようですが。

 ニコロが助けたいと思った、実行犯の王の騏驥。
 彼が、同じ王の騏驥の手によって既に殺されていたことは、医師たちも知っていることだ。
 そして、シュウインも結局は「処分」を免れなかった……。

 つまり何一つニコロの願った通りにはならなかったのだが、彼もおそらく、それは薄々分かっていただろう。故意であろうがなかろうが、騏驥が騎士に叛する——それも王子を害するなどあってはならないことなのだから。

 ただそれでも、彼は「もしかしたら」に賭けて医師たちに協力してくれたのだ。
 さらには、用いられた毒の特性から、回復には時間制限があり、このまま解毒薬を用いても間に合わないと判断するや否や、効果を高め、深めるための魔術まで駆使して薬を完成させたのだという。
 そしてその結果が——。

 

「——それに、あの医館を半壊させたのはニコロ医師だ。確かにわたしの命の恩人である……とはいえ、王城の建物にあれほどの損害を与えた者に対して、なんの咎めも無しというわけにはいかぬだろう。……と言うわけで、お前の体調の管理を任せることにした。彼も同意しているのだし、お前が気にすることはない」

 シィンの言葉に、ダンジァはますます目を丸くし、絶句する。
 シィンは小さく笑った。

 そう。医館はニコロが魔術によって半壊させたのだ。
 シィンの薬を完成させるための魔術発動の、その余波で。
 あの日、シィンが医館の方からなんとなく魔術の気配を感じていたのは、気のせいではなかったということだ。

(それだけ解毒の難しい薬を作ったのだな……。ツォ……)

 シィンは、以前は確かに友人だったと思える男に想いを馳せ、心の中で呟く。
 面影も、今はまだはっきりと思い出せる。声も、仕草も。

 けれどやがて思い出せなくなるだろう。
 調教師として間違いなく優れた才能を持ちながら、騏驥や魔術、それらへの切望と絶望に翻弄され、道を誤った男…………。
 向けられた憎しみ。まだ生乾きの傷。しくり、とシィンが胸の痛みを覚えた時。

 傍のダンジァが身じろいだかと思うと、静かに肩を抱き寄せられる。
 見れば、ダンジァは気遣うようにこちらを見つめていた。さっきまではニコロの仕業に驚いたような顔をしていたのに……。

(まったく……お前は……)

 シィンは聡い恋人に感嘆しつつ、そっと身を擦り寄せる。
 温かい……。
 シィンが微笑むと、ダンジァも笑みを見せながら言った。

「……そういうことであれば、ありがたく診ていただくことにいたします。自分はシィン様のためにも元気でいなければなりませんから」

「うん……。うん——そうだ。お前にはわたしの騏驥としてずっと元気でいてもらわなければならないのだからな」

「はい」

「ずっと側にいてもらわなければな」

「はい」

「ずっと……ずっとだ……。お前はずっと、わたしの側にいるのだ」

 命令。願い。約束。
 そしてなにより——愛情。

 それら全てを込めてシィンが言うと、ダンジァは目を細めて「はい」と頷く。
 今までよりも深く、しっかりと。
 シィンもこくりと頷いた。

 これからもずっと——彼と共にいる。そう思えば、たとえどんな困難が待っていようが立ち向かえると思うのだ。どんなわたしも愛してくれる彼が、側にいると思えば。
 
 シィンはダンジァの額に触れる。髪を撫で、梳き上げる。
 ダンジァの手がシィンの頬に触れる。撫でて、なぞって。愛おしげに。いつまでも。

 微笑み合い見つめ合う二人の貌が、どちらからともなく——ゆっくりと近づいていく。
 肌の香り。互いの吐息が混じり合う。
 夜は長い。
 二人の情欲の火が再び煽られる。

 唇が触れる。
 ああ——また溶ける。

 自らすすんで溶け合うように、シィンはダンジァに身を委ね、その首筋に腕を絡めた。



END
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