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【番外】離宮へ(24)
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「んっ……っん、ん、ぅんっ……」
いつの間にか人の姿に変わったダンジァに抱き締められ——抱き上げられたまま、もつれ合うようにして秘密の部屋になだれ込むと、そのまま寝台にダイブする。
はっきりと記憶があるのは、城の外埒を過ぎたあたりまでだ。
離宮から城までの道すがら、嫌でも注目を浴びる騏驥の鞍上にいた時から、早く二人きりになりたくて堪らなかった。
人の多い街中、騏驥を全力で走らせるわけにはいかなかったけれど、気持ちははやって堪らなかった。
ダンジァもおそらくそうだっただろう。彼は賢いから、早足でありながらも絶対に街の人々を危険に晒すようなことはない絶妙な脚運びだったけれど、いつになく気が急くような様子だったのは、手綱を通してずっと伝わってきていた。
それに——。
「ん……っ……ダン……」
「シィンさま——シィンさま……」
口付けの合間に堪らず名を呼ぶと、切なげな声で呼び返される。
普段は落ち着いていて、慌てるところも焦るところもあまり見せることのない彼が、今はこんなに……と思うと、嬉しいような甘酸っぱいような気持ちで胸がむず痒くなる。
のしかかってきている逞しい身体をぎゅっと抱きしめ返すと、驚いたようにはっと息を呑んだ気配が伝わる。
深く重ねられていた唇が僅かに解かれ、間近から見つめられた。
吸い込まれるような黒い瞳。暗い色の瞳は珍しくはないが、彼のように本当に深い色味はある意味稀だ。
そして、今はそんな夜色の瞳の奥に、抑えられないような熱が潜んでいるのが感じられる。伝わってくる。
目が合っているだけで頭の芯まで痺れるようだ。全身が熱くなって、ぼうっとして、クラクラしてくる。
“これから”を期待して、喉が渇く。
シィンは見つめ合ったまま喘ぐように息をつくと、縋るようにダンジァの肌に軽く爪を立て、掠れた声で溢した。
「……ずっと……ずっと、もどかしくてたまらなかった……」
思っていた以上に拗ねるような口調になってしまったのが恥ずかしい。頬も熱くなっているだろう。それでもシィンは続けた。恥ずかしいけれど、それ以上に想いを告げたかったのだ。それに、この騏驥相手ならば、普段は恥ずかしいと思うことも恥ずかしくない。誰といる時よりも素直になれる。
もっとも……そのせいで普段よりも一層恥ずかしくなってしまうことも多々あるのだけれど。
「すぐ側にお前がいるのに……触れることもできなくて……」
切なくて堪らなかった。
視線でそう告げると、シィンを見つめてくるダンジァの双眸が柔らかく細められる。
シィンの好きな表情だ。「好きでたまらない」というように自分を見つめてくる彼の貌。ますます胸がドキドキする。
そんなシィンに、ダンジァは「自分もです」と囁いた。
「自分も、もどかしくて堪りませんでした」
「……本当か?」
「はい」
「本当に?」
「はい」
「……ずっと?」
「はい」
シィンが繰り返し尋ねても、ダンジァは面倒そうな気配は微塵も見せずに優しく頷く。
嬉しくてシィンが微笑むと、そっと口付けられる。触れるだけの、けれど愛のこもった口づけ。
ますます笑みを深めたシィンに、ダンジァは囁くように続けた。
「場所が場所でしたので態度に出すことは憚られましたが……。心の中ではずっとずっと、シィンさまに触れたくて堪りませんでした」
そして今度は、鼻先にちゅっと口付けてくる。
次いで額にかかっている髪を、大きな手で何度も梳き上げられ、その心地良さにシィンはうっとりと息を零した。
「離宮では……お前のおかげで、ルゥイを悲しませずに済んだ。母上は……どう思われたかはわからないが……」
「見送りに来てくださっていたのでは?」
その言葉に、離宮を出る前に一瞬だけ母の姿を見かけたことを思い出す。
だが……。
「あれは……たまたまではないだろうか。たまたまだと思う。散歩の最中に、たまたま……」
「いいえ」
しかしダンジァは、シィンの弱気な言葉に首を振る。
シィンが目を瞬かせると、包むように抱きしめられた。
「自分は馬の姿でしたので、人の姿の時よりも周りがよく見えます。妃殿下はシィンさまを見送るつもりであの場所にいらっしゃいました」
「…………」
潜められていてもはっきりとした声音は、シィンの弱気をするすると解いてくれる。
でも——本当に?
それでもまだ信じ難くてシィンが見つめると、彼の騏驥は「はい」というように頷く。
ややあって、シィンは安堵の息をついた。
ほっとした思いが全身に広がっていく。
二人きりになった途端ダンジァを求めたのは、きっと母のことで不安があったためもあったのだろう。
と同時に、ダンジァを巻き込んでしまったことに申し訳なさが込み上げる。
「お前にも、辛い思いをさせた」
「そんなことはありません。普段会うことのない騏驥と話すことも出来て、有意義でした」
「そ……うか……?」
「はい。それになにより、ルゥイさまにお目にかかれました。シィンさまの、大切な弟ぎみに。光栄なことです」
「ルゥイは……あの道を示してやってよかったのだろうか。口にしてしまった以上、いまさらなかったことにはできぬが……」
少し、不安になる。
今後、彼の生き方は大きく変わってしまうかも知れないから。
しかしそんな懸念を打ち消すように、柔らかく頬を撫でられた。
「恐れながら申し上げれば、賢明なご判断だったかと。ルゥイさまに関しては、離宮の騏驥も色々と感じるものがあった様子でしたので」
「そうなのか」
「はい。妃殿下の手前大っぴらにはできなかったようですが」
「お前もか? お前もなにか感じるものが……?」
「はい。上手く言葉では申し上げられませんが……やはり王家の方々は違うものだと……」
「そうか」
ふむ、とシィンは頷く。
ならば、悪くはない提案だったと言えるだろう。
まだどう転ぶかわからない以上不安は尽きないが……。
思わず眉を寄せて考え込みかけていたとき。
「シィンさま」
間近からダンジァの声がした。
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