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炎の大陸編
海を渡り
しおりを挟むどこまでも晴天が続く道を歩き、陽介とフラムは船着き場までやってきた。道中は呆れかえるほど平和で、そよ風を気持ちよく浴びていた。
「さてと、仕事仕事。金払いが良さそうなやつがいいな」
漁船の引き上げ手伝い、船の修理・塗装、灯台の清掃などの募集が張り出されていた。
「おっ、見ろ陽介。これなら良いと思うぞ」
フラムが前足でぺしぺし叩いていたのは、貨物船の荷下ろし作業の募集だった。報酬は他に比べて少ないが、水の大陸まで運行することが書いてあった。
「へぇー、いい感じじゃん。行ってくるよ」
「では、私はマントの中にでも入っていよう。姿を見せれば乗せてくれるだろうが、それでは稼ぎにならないからな」
フラムは鳴き声を上げると二回りほど小さくなって、もそもそと入ってきた。
「……ちょっとくすぐったいな」
「なに、そのうち慣れるさ」
陽介は貨物船の主に会い、仕事に取り組んだ。荒れていた天候が嘘のように晴れ、数年ぶりに船を出せるからと商人たちがどんどん荷物を運んできて、船はあっという間に重くなった。いざ乗り込んで出発というときになって、海面が不自然にゴボゴボと音を立てていることに気づいた。
「なんだあれ、何かが上がってくる?」
もっとよく見ようと顔を船から出そうとすると、マントの中のフラムが引っ張って戻した。
(なんだよフラムさん、見えないじゃないか)
(待て、生き物の気配がする。これは……)
ひそひそと小声で話をしていると、海面から貨物船の倍はあろうかという巨大なイカが航路をふさぐように現れた。
「ま、魔族だ! 勇者が倒したはずなのに、また出てきやがった!」
(あれが魔族? でかいイカにしか見えないけど)
(説明すると長くなるが、人でない生き物は大体魔族と思ってくれていい)
巨大なイカは触手を水面に叩きつけ大波を起こした。船は激しく揺れ、陽介は投げ出されそうになった荷物を必死に戻していた。
「うおおおおおお無くしてたまるか給料の素!!」
(そんなことをしている場合か! 船が沈めば全て水の泡だぞ)
商人や旅人たちは慌てふためき、我先にと逃げていく。一定の距離まで離れると、それ以上触手は追跡してこなかった。海に近いほど触手の妨害を受けている。
(このままだと人にまで被害が出る! フラムさんの炎で、どうにかならないのかよ)
(私は水棲の魔族とは相性が悪い。高火力で焼き払うしかないが、ああ動かれてはとても仕留められない)
言い合っているうちにも振り回された触手が襲いかかり、船から降りざるを得なかった。あのイカを倒さなければならないが、自分はあまりにも無力で、フラムの攻撃も動きを封じなければ通じない。
でもまだ手はあるはずだ。陽介は諦めずに考えを巡らせ、ふと漁に使う網に目が止まった。辺りの商人たちは逃げ出してしまったが、漁師らしき海の男たちは、逃げずに船を守ろうと戦っていたのだ。
(フラムさん、ここらの漁師にも顔が利くか?)
(もちろんだ、何か思いついたようだな)
どこの馬の骨ともわからぬ者より話が早いからと、陽介は漁師たちのところまで走って行ってマントの中からフラムを出し、説得してもらった。作戦を伝えると、貨物船のマストに登って、他に狙いが向かないように注目を集めるように大声を出したり、手を振った。
「おーい! おーい! こっちだぞー!」
煽られた巨大なイカは、体の向きを変え、じりじりと近づいてきた。船ごと叩き潰そうと全ての触手を振り上げた時、陽介は「今だ!」と叫んだ。
漁師たちが一斉に網を放ち、イカを捕らえた。振り下ろせず動けなくなったイカは脱出しようともがくが、鍛えた男たちの腕力には敵わず、そのまま陸の方へ引きずられていく。
マストから降りてきた陽介の袖口から、体温を高めて放たれたフラムの炎弾を浴び、巨大なイカは焼かれ、香ばしい匂いを放ちながら塵になって溶けていった。網ごと焼けてしまったが、それならまた作るから構わない、船を失くすよりよほどましだと漁師たちは笑って許してくれた。
波が落ち着いた頃にようやっと船は出発し、主から倒してくれた礼として銀貨を渡されたが、自分一人の力では出来なかったことだからと陽介は返した。その態度が気に入られたのか、どこの大陸にでも乗せていってやると背中を叩かれた。
(やったなフラムさん、流石炎の精霊だな……うえっ)
(君こそよく考え……ん? どうした?)
「き、気持ち悪い……」
自身もすっかり忘れていたのだが、陽介は乗り物酔いをする性質だった。揺れる船の上で動いたせいで余計に酔いが回り、背中を叩かれたことで限界が来てしまった。
波の上を進む船の後ろ側で、胃の中身を空になるまで海に流すことになり、フラムは本当にこの男でよかったのだろうかと心配になるのだった。
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