9 / 52
水の大陸編
忘れられた精霊
しおりを挟む
「知らないんじゃなくて、忘れられてるって?」
店主から借りた傘を広げながら、陽介は言った。
「精霊には信仰もある。名前は知らなくとも、生まれ育ったのなら存在を知らぬはずがない」
「あの二人、嘘ついてるって雰囲気じゃなかったけどなぁ」
窓ガラス越しに店内を覗くと、二人組の青年はまだ飲みたりないのか、追加で注文をしていた。
「エルメスが人々の記憶を改ざんしている、と考えるのが普通だな」
「精霊の存在を本当に消した可能性もあるんじゃないのか?」
悪いなとは思いつつ、疑問を口にする。
「それはないな。もしそうなら、私もとっくに消されているはずだ」
この雨雲も恐らくはと前置きをしてから、フラムが空に向かって炎を噴いた。町の噴水を中心に広がり続ける雨雲は、少し形を変えただけで散らなかった。
「上手く言えないが、この雨には違和感というか、嫌悪感がある」
フラムは虫にまとわりつかれているのを払うかのように身体を振った。
「町の人のことも考えずに雨を降らせて、精霊のことまで忘れさせるなんて、嫌な奴だ。行こうフラムさん。記憶は消されても、いたって証拠はあるはずだ」
「……君は前向きな性格だな。よし、行こう」
道具屋、宿、飲食店などで売り歩きながら聞き込みをしていると、図書館があった。手がかりがあるかもしれないと入っていくと、広い館内には書物が整然と収められていた。
信仰や文化について書いてありそうな本を司書に訪ね、この町の歴史や文化について書かれた本を出してもらった。
テーブルについてめくっていくと、水の精霊について書いてあったはずのページは白紙になっていた。挿絵だけが残されていて、三股槍を携えた美しい人魚が水を巻き上げ、人々に感謝されている様子が描かれていた。
(へー、水の精霊って、人魚なんだ。美人だな)
(彼女の名はアリエッタ。歌うのが好きな心優しい者だ)
(結構知ってんじゃん!)
(姿を見たのは初めてだ。声を泡に乗せてやりとりをしていた。他の精霊たちともそうだ。声しか知らない)
司書の意味ありげな咳払いによって会話は中断され、本を返して外に出た。強くもならず弱くもならない規則正しく降る雨に、陽介も薄気味悪さを覚えた。
酒場に戻りドール屋の店主に売上金と残りの在庫を返すと、報酬の銅貨八枚を受け取り礼を言って別れた。四枚もあれば宿は取れると言われ、陽介は町の宿に一晩泊まることにした。
湿ってぺったり潰れたベッドに横になり、うつらうつらとしていると、窓辺に立っていたフラムが腹に乗っかってきた。
「ごめん、眠いからあとに……」
「起きろ陽介、妙な音が聞こえる」
前足で頬をベシベシ叩かれて起こされ、眠い目を擦りながら窓に耳を当てると、雨に混じって、黒板を爪で引っ掻いたような嫌な音がして眠気が飛んでしまった。窓からは暗いが噴水が見えている。
「行ってみるか」
脱いで放り出したマントを着て、陽介は噴水へ向かった。
排水が機能していないのか、噴水は壊れたように水が溢れていた。嫌な高音は大きくなり、何かありそうな様子だった。覗き込んでみると、大きな目玉がギョロりとこちらを見ていた。
「うわ、なんかいる!!」
飛び退くと、大きな目玉が水から上がってきた。ぶよぶよした軟体の体をズルズルと持ち上げ、敵意を示すように水を吹きかけてきた。
「戦うしかなさそうだな」
「こいつも水棲の魔族だ、雨も降っている今、私の炎は効果が薄い」
「貰った武器の出番だな! ちょっと燃えてきたぜ!」
陽介は短剣を抜いて構えた。
店主から借りた傘を広げながら、陽介は言った。
「精霊には信仰もある。名前は知らなくとも、生まれ育ったのなら存在を知らぬはずがない」
「あの二人、嘘ついてるって雰囲気じゃなかったけどなぁ」
窓ガラス越しに店内を覗くと、二人組の青年はまだ飲みたりないのか、追加で注文をしていた。
「エルメスが人々の記憶を改ざんしている、と考えるのが普通だな」
「精霊の存在を本当に消した可能性もあるんじゃないのか?」
悪いなとは思いつつ、疑問を口にする。
「それはないな。もしそうなら、私もとっくに消されているはずだ」
この雨雲も恐らくはと前置きをしてから、フラムが空に向かって炎を噴いた。町の噴水を中心に広がり続ける雨雲は、少し形を変えただけで散らなかった。
「上手く言えないが、この雨には違和感というか、嫌悪感がある」
フラムは虫にまとわりつかれているのを払うかのように身体を振った。
「町の人のことも考えずに雨を降らせて、精霊のことまで忘れさせるなんて、嫌な奴だ。行こうフラムさん。記憶は消されても、いたって証拠はあるはずだ」
「……君は前向きな性格だな。よし、行こう」
道具屋、宿、飲食店などで売り歩きながら聞き込みをしていると、図書館があった。手がかりがあるかもしれないと入っていくと、広い館内には書物が整然と収められていた。
信仰や文化について書いてありそうな本を司書に訪ね、この町の歴史や文化について書かれた本を出してもらった。
テーブルについてめくっていくと、水の精霊について書いてあったはずのページは白紙になっていた。挿絵だけが残されていて、三股槍を携えた美しい人魚が水を巻き上げ、人々に感謝されている様子が描かれていた。
(へー、水の精霊って、人魚なんだ。美人だな)
(彼女の名はアリエッタ。歌うのが好きな心優しい者だ)
(結構知ってんじゃん!)
(姿を見たのは初めてだ。声を泡に乗せてやりとりをしていた。他の精霊たちともそうだ。声しか知らない)
司書の意味ありげな咳払いによって会話は中断され、本を返して外に出た。強くもならず弱くもならない規則正しく降る雨に、陽介も薄気味悪さを覚えた。
酒場に戻りドール屋の店主に売上金と残りの在庫を返すと、報酬の銅貨八枚を受け取り礼を言って別れた。四枚もあれば宿は取れると言われ、陽介は町の宿に一晩泊まることにした。
湿ってぺったり潰れたベッドに横になり、うつらうつらとしていると、窓辺に立っていたフラムが腹に乗っかってきた。
「ごめん、眠いからあとに……」
「起きろ陽介、妙な音が聞こえる」
前足で頬をベシベシ叩かれて起こされ、眠い目を擦りながら窓に耳を当てると、雨に混じって、黒板を爪で引っ掻いたような嫌な音がして眠気が飛んでしまった。窓からは暗いが噴水が見えている。
「行ってみるか」
脱いで放り出したマントを着て、陽介は噴水へ向かった。
排水が機能していないのか、噴水は壊れたように水が溢れていた。嫌な高音は大きくなり、何かありそうな様子だった。覗き込んでみると、大きな目玉がギョロりとこちらを見ていた。
「うわ、なんかいる!!」
飛び退くと、大きな目玉が水から上がってきた。ぶよぶよした軟体の体をズルズルと持ち上げ、敵意を示すように水を吹きかけてきた。
「戦うしかなさそうだな」
「こいつも水棲の魔族だ、雨も降っている今、私の炎は効果が薄い」
「貰った武器の出番だな! ちょっと燃えてきたぜ!」
陽介は短剣を抜いて構えた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーレムです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる