異世界転生チートに反旗を翻せ!

三原 柚木

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水の大陸編

擦り切れた歌声

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 ぶよぶよした魔族は動きが遅く、こちらの姿を捉えてから水を吹きかけるまでに時間がかかる。これなら倒すのは容易だろうと、陽介は一気に距離を詰め、胴体に斬撃を入れると魔族は崩れ、動かなくなった。
「よっし、倒した!」
「いや、まだだ! 気を緩めるな!」

 噴水から溢れ出た水を浴びると、魔族は黒い輝きを放ちながら体を再構築した。今度は動きが速くなり、吹き出す水の勢いも増して近づこうとすれば押し戻されてしまう。盾で防ぐのがやっとだ。
「くそっ! 急に強くなった」
「弱点を狙うんだ、胴体に打撃を与えられないなら、違う部位だ」

 魔族にあるのはゼリーのような胴体と、水を吐く口と大きな目玉。
「となると、狙うべきは……。フラムさん、あいつが水を吐いた時に炎をぶつけてくれ!」
「わかった。だが、相殺にしかならないぞ」
「それでいいんだ! 頼むぜ」

 陽介は走り出し、魔族は近づけさせまいと水を吐き出した。フラムの吹き出した炎とぶつかり合って湯気が広がり、その中を潜って胴体を二、三度切りつけた。再度体は崩れ、大きな目玉が残った。
「これで、終わりだ」
 目玉に短剣を突き刺さすと、サラサラと塵になって雨に流れる。溢れていた噴水は静かになり、水位が下がっていった。水だと思っていたのは、魔族の身体だったのだ。

「初戦にしては上出来だ。これで経験値が……」
 と言いかけて、陽介にはEXP0のスキルがつけられていたことを思い出した。
「本当は、魔族を倒したら経験値ってのがもらえるのか?」
「うむ。一定値が貯まるとレベルが上がり、ステータスが強化される。だが君は……」
 フラムは話題にしてしまったことを反省して、うつむいた。

「大丈夫、経験は絶対値だから、どんなことがあっても糧になる。この世界はゲームっぽくなってるけど、紛れもなく現実だ。ステータスだけじゃ測れないことって、たくさんあると思うんだ」
 まっすぐな瞳で言う陽介に、フラムはある種の感動を覚えていた。
「君というやつは……!」
「それよりさ、ここに魔族がいたってことは、調べられたらマズいことがあるんじゃないか?」
「そ、そうだな! 調べてみよう」

 袖をまくり手を突っ込んで触っていると、動かせる石があった。それを押したり引いたりしていると、ガコンと沈み隠し階段が現れた。
 陽介とフラムが階段を降りていくと、水が螺旋を描きながら逆巻いていた。耳障りな音はどんどん近くなり、たどり着いた先は水の柱が連なる神殿のような場所だった。

「……アリエッタ、なのか?」
 神殿の中央にフラムと近い背丈の、挿絵で見た人魚が同じような水晶玉に閉じ込められ、体を横たえながらも歌っていた。
 何度も血を吐いたであろう台座は黒ずみ、それでも歌うことを止められない。もはや声とは呼べない、金属を擦り合わせたような悲鳴を響かせて。
「陽介、頼む。彼女を解放してやってくれ」

 震える声のフラムを心配そうに見やり、陽介は短剣で突く。水晶玉はシャボン玉のように弾けて消え、ようやく歌うことを止められた人魚は、そのままぐったりと台座に伏せた。黒い水たまりがじわじわと広がっていく。
「アリエッタ! しっかりしろ、アリエッタ!」
「早く医者に診せないと! フラムさん立って!」
 取り乱すフラムと倒れた人魚を両脇に抱え、歌が終わったことで水の支えを失い崩れる神殿から脱出した。



 治癒師の数日間にわたる治療により体は治ったが、長年無理矢理歌わされていたことと、自分が降らせた雨によって人々が苦しめられていたことを知ってしまった精神的なショックが大きく、アリエッタは声を出せなくなってしまった。

「でも、体が治ってよかったな」
 陽介は笑顔で話しかけたが、Heart0の効果なのかよそよそしいというか、困ったような反応をされた。
「そろそろ次の大陸を目指そう。君はゆっくり養生してくれ」

 そう言って名残惜しそうに治癒魔法の水球から離れようとするフラムのしっぽを、アリエッタがギュッと掴んだ。
「いたたたたたた!!! ど、どうしたんだアリエッタ」
 アリエッタは水球から飛び出し、指先から放つ魔法の泡でリボンを作って結ぶと、人魚から長い青髪の人間に姿を変えた。一緒に行きたいって言いたいんじゃないのか? という陽介の言葉に頷く。
「し、しかしな、もっと休んでからの方が……いたたた! わ、わかったから離してくれ」
 アリエッタの意思は固く、フラムは根負けした。旅の仲間が、また一人増えたのだった。
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