異世界転生チートに反旗を翻せ!

三原 柚木

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風の大陸編

思い出せない名前

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「そうね、これじゃ祝祭は始められそうにないわね……」
 深呼吸をして冷静さを取り戻したリベルタは、悲しそうに片付ける。静まった町には人々が戻ってきて、撤去作業を手伝い始めた。

 人にこそ被害は出なかったものの、陽介は町の大事なものを守りきれなかった無力感に押され、心臓のあたりがキュッと締め付けられる思いだった。
「ごめん。一晩の宿までもらったのに、守りきれなくて」
 ようやく絞り出した言葉は、そのまま地面に落ちてしまいそうなほど弱々しかった。

「そんなに落ち込まないの。アンタはよく戦ってくれた、むしろケガ人が出なかったお礼を言いたいくらいよ、陽介チャン」
 リベルタにわしわしと頭を掴まれ、逆に励まされた。

「さあみんな! 落ち込んでてもしょうがないわ! 今年がダメならまた次の年。吹かない風は無いのよ!」
 リベルタは町中の人を激励しながらガンガン木材を運んでいく。一番辛いのは自分だろうにと陽介は思った。

 後はやっておくから屋敷に戻るよう言われ、一行は会場から離れた。来客用の部屋はゆったり広く、久しぶりのふかふかベッドだというのに、ちっとも眠れないままだった。
 そのうち意識が遠のいて、気づけば昼頃まで眠っていた。


「起きたか、もう昼だぞ。祝祭が中止になって、皆暇そうにしているようだ」
 チラリと陽介の方を向き、窓から外を眺めてフラムは言った。

「なぁ、風の精霊ってどんなやつなんだ? 絶対この祝祭に関係してると思うんだけど」
 ベッドから起き上がって聞くと、ソファに座っているアリエッタは手のひらに水の玉を作り、むにむにとこねて大きな鳥の形にした。

「へー、鳥の姿をしているのか」
「聞いた話だがな。彼は勇敢な空の戦士で、自由に風を操り天候さえも思うがままに変える。確か名前は……」
 いつものように説明していたフラムは、急に言葉に詰まった。

「お、思い出せない……!」
「なんだって!?」
「そ、そんなはずは……私が彼の名前を忘れているわけが……」
 あまりのことにフラムは動揺し、アリエッタも難しそうな顔で考え込んだが、思い出せなかった。

「まるで、記憶に鍵をかけられているようだ。エルメスめ! 我々をどれだけ愚弄すれば気が済むというのか……!!!」
「落ち着けってフラムさん、ここで暴れたって埃まみれになるだけだぞ」
 床に転がってジタバタするフラムを拾い上げ、ソファに投げる。

「ま、ここにいても仕方ない。情報を探しに行こうぜ、噂話でも聞けたらいいくらいでさ」
 一行は情報を求めて外へ出た。がらんと寂しい広さになった町の、祝祭のシンボルが立っていた場所に、リベルタが丸くなって座っていた。
 明らかに疲労している様子に、話しかけるの戸惑っていると、彼女の方から声をかけてきた。

「アラ、お寝坊さんね。どうしたの?」
「そっちこそ、大丈夫? な、わけないよな。俺もこんな沈んだ雰囲気嫌でさ、なんとか解決できたらなって、町の人に話を聞きに行こうとしてたとこ」
「……優しいのね、陽介チャンは。惚れちゃうわ」

 その言葉に若干寒気がしたが、陽介は会話を続けてみることにした。
「ここ三年くらいで変わったこととかない?」
「そうねぇ、風が止んで流れないから、悪い空気が留まって皆病気がちになったことくらいかしら。あと、アレが付けられたのもそれくらいね」
 リベルタは、民家の壁に付けられた供給機を指差した。緑色のメーターが表示されている。空気を配給しているのだろう。

「うーん……。後はなんかないかな? 伝説とか噂くらいでもいいからさ」
「昔話ならあるわよ。すっごい昔、風の民が高い塔を建てたの。ここからでも見えるでしょ」
 遠くに、空を突き刺すように伸びる鉄の塔の頭が見えた。星降り山からも見えていたものだ。

「でも、何の為に作ったかさっぱりなのよね。歴史書にも載ってないわ」
「それだ! ありがとうリベルタ! なんかわかったかもしれない!」
 歴史書に載っていないと聞いて、エルメスの改変を確信した陽介は、礼を言って行こうとしたが、引き留められた。

「アンタ、あの塔に行くつもり? 魔族がいたらどうするのよ。そこのお嬢ちゃんもそうだけど、そんなしみったれた装備品じゃ身を守れないわ。こっち来なさい」
「あ、ちょっと! 何すんだよ!」
 リベルタにひょいと脇に抱えられて、陽介は強引に連れて行かれるのだった。
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