異世界転生チートに反旗を翻せ!

三原 柚木

文字の大きさ
22 / 52
風の大陸編

宴の裏で蠢くもの

しおりを挟む
 町に戻った陽介一行は、沈みきっていた町人たちが楽しそうに宴の準備をしている様子に、風が吹くだけでこうも変わるものなのかと驚いた。
「姐さん! 待ってました!」
「飲みましょう姐さん、数年ぶりの清らかな風に乾杯だ!」
「兄ちゃんたちもこいよ!」
 戻るなり一行は男たちに囲まれて、宴の席に引っ張られていった。記憶が戻ったはずだが、相変わらずリベルタは姐さん呼ばわりをされている。

 酒と肉があるだけ振舞われ、一行はたらふくご馳走になった。シンボルを立てていたところは出し物が壊れてしまったので、即興で集まった楽器の演奏をしている。
 アリエッタは音楽を気に入ったのか、フラムを陽介に預けて踊り始めた。
「いやあいいねぇ、女の子が躍る姿なんて懐かしいよ」「いいぞねーちゃんもっとやれー!」
 男たちの視線は、アリエッタにくぎ付けになった。
「彼女は歌も踊りも得意だ。見るのは初めてだが、言葉では表しきれんな……」
「本当だ。めっちゃきれいで、めっちゃ可愛いなぁ……うっとりするって、こういうことなんだな」
「惚れたりするなよ」「わかってるって」
 雲が晴れ、やわらかく撫でる風と月の光を浴びて青い踊り子が舞う光景は、ため息が出るほど麗しかった。



 陽介が宴の後片付けをしていると、リベルタとアリエッタが仲良さそうにしていた。声は出なくとも、どう思っているのか伝わるらしい。
「お疲れ陽介チャン、フラムチャンもありがとね~」
「リベルタこそ。まさか主役だなんて思いもしなかったよ」
 樽の上に腰かけて、労いの乾杯をする。
「アタシね、アリエッタとおんなじで人間が大好きだったの」
 残った酒をぐいと飲み干して、リベルタは空を見上げる。

「だから人間に変化する魔法を使って、時折町に遊びに行ってたわ。それが楽しくて、ついつい長く遊んじゃって……塔から落ちるまで自分のこと本当に人間だと思ってたもの。バカよね」
 三年間閉じ込められていた二人とは違い、本当の自分と使命を忘れて人間として生きていた彼女は、罪悪感があるようだった。
「君を責めるつもりなど毛頭ない。全てはエルメスが起こしたことだ」
 フラムの言葉に、アリエッタもうんうんと頷く。
「それに、こうやって思い出せたんだから、結果オーライだ。行こうリベルタ、俺たちと一緒に」
「うっ、うっ、あ、あんたたちいいいいいい」
 涙と鼻水でぐちゃぐちゃになったリベルタに、陽介たちはまとめて抱きしめられるのだった。

「いいなぁ。みんな楽しそうで、おいしいもの食べてて……このまま帰ったら、スピカ絶対お兄ちゃんに悲しい思いをさせたって、怒られちゃう」
 宴の様子をのぞき見していたスピカは、帰るに帰れなくなって、森でおともだちと一緒に寂しく眠りにつくのだった。その眼には、うっすらと涙を浮かべて。

 その頃聖都では、スピカが失敗したことを察知したエルメスが、怒りに任せて奴隷に八つ当たりをしていた。
「どいつもこいつも使えない! この俺が万能スキルとチートで能力を上げてやったのに、スキルもステータスも最弱に設定した凡人くらい、さっさと殺してこいってんだよ! くそっ」
 血を吐き倒れる女奴隷に、追い打ちをかけるように腹部を蹴り飛ばす。

「エルメス様。そのように荒れていらしては、要らぬ反感を買いますよ」
 背後から、褐色の肌に布面積の小さい服を身に着けた女性が現れた。
「……カノープスか。ちょうどいい、次はお前が行け。スピカは殺しても構わない」
「かしこまりました。エルメス様の意志のままに」
 カノープスは、闇にふっと消えていった。

 そんな企てが起きているとは夢にも思わない陽介は、また靄のかかった夢の中にいた。前回よりシルエットが鮮明になっていた。てっきりアリエッタだと思っていたのだが、明らかに身長が違う。長い髪とドレスがゆらゆらと揺れている。
「君は誰……? どうして俺の夢に出てくるんだ?」
「お願い……助けて……」
「助けてって、誰を?」
「この世界を……そして、あの人を……急いで」
「あっ、待って……」
 あの人って誰なんだと尋ねる前に、陽介の意識は溶けていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーレムです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

処理中です...