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山月記
山月記②
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俺、白峰風虎は「神童」である。自称ではない。自他ともに認める、正真正銘の「神童」である。高い身体能力と学力に恵まれ、自分で言うのも何だが容姿にも恵まれた。「かっこいい」と言われることは日常茶飯事だら。そして何より、俺の家は金持ちだった。手に入らないものなどこの世にないのだと思っていた。彼女に出会うまでは。
小学校では当然のように、そんな俺に逆らうやつなんて一人もいなかった。だから当然彼女も、俺のものになると思いこんでいた。紛うことなき一目惚れだった。腰まで伸びた艶やかな純黒の髪。猫のように鋭いその瞳は黒曜石がはめ込まれたような美しさだった。その容姿の美しさは校内では有名で、休み時間になると、わざわざ他クラスや他学年から男どもが見に来るほどだった。何よりその仕草、所作の一つ一つが洗練されていて、自然と目を奪われた。本を読む時の姿勢もそうだが、邪魔な髪を耳にかける仕草は見ているだけで胸が高鳴った。
「お前、俺の女にしてやってもいいぜ」
「これ」を自分のものにしたい。俺の全部で独占したい。まだガキだった俺は、後先考えもせずにその情動に身を任せた。思っていることをそのままぶつけて、彼女に告白をした。今思い返せば酷く横暴なものだったなと反省できるが、当時の俺にとってはあれが精一杯だった。早く自分のものにしなければという焦りもあったと思う。
「嫌です」
キッパリとそう告げられてピシッと時が止まった。思い返してみると、きっとこれが俺と彼女の初めての会話だった。彼女は俺のことを知らないからと語ったが、俺を知らないなんてありえないと思ったし、少なくともこの学校の人間は全て俺のことを知っていて然るべきだと思っていた。俺を置いて去っていく、その後ろ姿さえも美しかった。優雅に靡くその純黒を指に絡めとって、そのままこちらへ引き戻すことが出来たら…なんて、バカみたいなことを考えていた。
教室で公開告白なんてバカをしでかしたせいで、俺が振られたという噂は学校中に広まった。俺のプライドはボロボロだった。こんな女一人ごとき手に入れられないような、そんな自分が許せなかった。周りの連中は俺を振ったあの女が悪いと皆次々に口にした。俺もそう思い込んでいた。なんなら今も思っている。全部あの彼女が悪い。俺のものにならなかった彼女が悪いんだ。そんなことを思いながら送った残りの学校生活は、何事も上手くいっていなかったような気がする。
俺は溜まりに溜まった鬱憤と、挫折から味わった屈辱を全て彼女へぶつけた。俺がどんな手を使っても、彼女が俺のものになることは無かった。むしろ俺は、俺を恨めしそうに睨みあげるその瞳が好きだった。俺の行いに苦言を呈する、怒気を含んだ声が愛おしかった。全部欲しかった。彼女の全部が。たまらなく好きだった。でもその二文字を素直に口にすることは、俺の無駄に高いプライドが許さなかった。それに、また彼女に面と向かって振られてしまえば、俺は二度と立ち直れない気さえした。
中学に上がってからは、彼女の後を追いかけ回してはその反応を楽しんだ。俺と話している時の彼女は、まるで猛獣でも相手にしているかのような反応をする。怯えているくせに引け目を感じさせず、立ち向かうような感じ。そんな姿もたまらなく好きだった。成長していくにつれて彼女の美しさはより磨かれていったように見える。本の世界に閉じこもって孤立している様もまた美しかった。
高校も彼女と同じところに進学した。彼女は気付いていないみたいだった。俺はずっと彼女を目で追いかけていた。高校三年生になって一ヶ月程経った頃、自分の席で読書に耽る彼女の姿を、パタリと見かけなくなった。その代わり、国語科準備室であのいけ好かない現国教師と楽しそうに話しているのを見かけるようになった。
嫉妬というのか分からないが、俺はまた彼女にプライドを傷つけられた。俺よりあんなジジィの方がいいのかと思ってしまった。卒業式まで話しかけるつもりはなかったが、珍しく購買へ足を運ぶ彼女を見て声をかけずにはいられなかった。彼女に近づけば、一段と美しくなったその姿に目が眩みそうになる。それを必死にこらえて彼女の手を掴んだ。
「久しぶりだな」
小学校では当然のように、そんな俺に逆らうやつなんて一人もいなかった。だから当然彼女も、俺のものになると思いこんでいた。紛うことなき一目惚れだった。腰まで伸びた艶やかな純黒の髪。猫のように鋭いその瞳は黒曜石がはめ込まれたような美しさだった。その容姿の美しさは校内では有名で、休み時間になると、わざわざ他クラスや他学年から男どもが見に来るほどだった。何よりその仕草、所作の一つ一つが洗練されていて、自然と目を奪われた。本を読む時の姿勢もそうだが、邪魔な髪を耳にかける仕草は見ているだけで胸が高鳴った。
「お前、俺の女にしてやってもいいぜ」
「これ」を自分のものにしたい。俺の全部で独占したい。まだガキだった俺は、後先考えもせずにその情動に身を任せた。思っていることをそのままぶつけて、彼女に告白をした。今思い返せば酷く横暴なものだったなと反省できるが、当時の俺にとってはあれが精一杯だった。早く自分のものにしなければという焦りもあったと思う。
「嫌です」
キッパリとそう告げられてピシッと時が止まった。思い返してみると、きっとこれが俺と彼女の初めての会話だった。彼女は俺のことを知らないからと語ったが、俺を知らないなんてありえないと思ったし、少なくともこの学校の人間は全て俺のことを知っていて然るべきだと思っていた。俺を置いて去っていく、その後ろ姿さえも美しかった。優雅に靡くその純黒を指に絡めとって、そのままこちらへ引き戻すことが出来たら…なんて、バカみたいなことを考えていた。
教室で公開告白なんてバカをしでかしたせいで、俺が振られたという噂は学校中に広まった。俺のプライドはボロボロだった。こんな女一人ごとき手に入れられないような、そんな自分が許せなかった。周りの連中は俺を振ったあの女が悪いと皆次々に口にした。俺もそう思い込んでいた。なんなら今も思っている。全部あの彼女が悪い。俺のものにならなかった彼女が悪いんだ。そんなことを思いながら送った残りの学校生活は、何事も上手くいっていなかったような気がする。
俺は溜まりに溜まった鬱憤と、挫折から味わった屈辱を全て彼女へぶつけた。俺がどんな手を使っても、彼女が俺のものになることは無かった。むしろ俺は、俺を恨めしそうに睨みあげるその瞳が好きだった。俺の行いに苦言を呈する、怒気を含んだ声が愛おしかった。全部欲しかった。彼女の全部が。たまらなく好きだった。でもその二文字を素直に口にすることは、俺の無駄に高いプライドが許さなかった。それに、また彼女に面と向かって振られてしまえば、俺は二度と立ち直れない気さえした。
中学に上がってからは、彼女の後を追いかけ回してはその反応を楽しんだ。俺と話している時の彼女は、まるで猛獣でも相手にしているかのような反応をする。怯えているくせに引け目を感じさせず、立ち向かうような感じ。そんな姿もたまらなく好きだった。成長していくにつれて彼女の美しさはより磨かれていったように見える。本の世界に閉じこもって孤立している様もまた美しかった。
高校も彼女と同じところに進学した。彼女は気付いていないみたいだった。俺はずっと彼女を目で追いかけていた。高校三年生になって一ヶ月程経った頃、自分の席で読書に耽る彼女の姿を、パタリと見かけなくなった。その代わり、国語科準備室であのいけ好かない現国教師と楽しそうに話しているのを見かけるようになった。
嫉妬というのか分からないが、俺はまた彼女にプライドを傷つけられた。俺よりあんなジジィの方がいいのかと思ってしまった。卒業式まで話しかけるつもりはなかったが、珍しく購買へ足を運ぶ彼女を見て声をかけずにはいられなかった。彼女に近づけば、一段と美しくなったその姿に目が眩みそうになる。それを必死にこらえて彼女の手を掴んだ。
「久しぶりだな」
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