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第3殿 未来への道程
第52洞 突入、空の迷宮
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「これ、渡しとく」
「え? これって父さんが使ってるナイフじゃん」
「ぼんやり光るから明かり取りに使えるぞ」
出発前、荷物の整理をしているところで父さんから普段使いしてるナイフを受け取った。小さい時によく見せてもらってたが、鞘から出すとなぜか刀身が光るのだ。
「帰ってきたら返せ」
「……ありがとう」
腰のポーチの裏側に結びつけると、皆が待つ庭に出た。
「おっそいリーダー!」
「――ん。今日もかっこいい」
「気合いれてこな!」
「で、では参ろう」
四者四様の出迎えに背中をムズムズさせていると、母さんとラスキーさんがやってきた。母さんはちょっと探索者現役当時の服装で、ラスキーさんは普段に増してスケスケの服装だ。
「迷いは晴れたか?」
「……正直いまひとつですけど、やらなきゃならない、ってことはしっかりと刻みました」
「うむ。よろしく頼むぞ、リーダー」
ううう、自分より上のランカーからリーダー呼びされるのはちょっと気が引けるなぁ。
「いい機会だ。空の迷宮内部を勉強するつもりで行ってきなさい」
「はい教授。ラスキーさんもいますし、そのつもりです」
とはいえ、今回はクリストリスも一緒だ。そもそも無茶もできない。
「準備はいい? それじゃあ、時空扉を開けるわよ」
母さんが、あらかじめ準備していた魔法円にマナを流す。これは迷宮に設置される魔法円と違い、錬金術のそれに近い機能を持つタイプだ。大陸に存在するマナの流れを少々歪ませ、望む場所に導く魔法らしい。壮大な効果が見込めるだけあって何をしているのかはさっぱりわからない。
「おお、――さすが師匠」
「マイナさんも作ってたじゃないですか」
「――この規模は無理」
だろうなぁ。肌に感じるマナ反応の激しさは戦闘の際に感じるそれよりも遥かに強い。
「……よし。いったん空間へ固定できたわ。それじゃあ打ち合わせ通り、私は一週間後より三日に一度、この時空扉を開けるわ。そこから十回開けて戻らない場合はこちらから迎えに行く。できれば三回目までの開放で戻れるよう道中は調整してね」
「はい!」
「あー!」
全員が腹から返事をする。遠方での長時間探索なんて俺も初めてなので緊張するが、遅れて掛け声を上げるクリストリスに、そんな心配を吹き飛ばされた。
「行きますわ…… じゃない、リーダー!」
「あっ、はい! 行くぞ!」
俺を先頭に全員が扉をくぐる。
恐る恐る足を踏み出すと、じわっとぬるめのお湯に突っ込んだような違和感が足を覆った。構わず地面を踏みしめ体重をかけると、ふくらはぎのあたりがぎゅっとしめつけられるような感覚が少し遅れてやってきた。
上半身もくぐらせると、顔に張り付くような暑さを感じ、そこには元の地方にない気候があるのだと気づいた。
「うぉ、ちょっと暑い…… のか?」
転送円で一気に放り出されるのとはまた別の新鮮な体験に感動しつつ、他の仲間がくぐるためのスペース確保のために扉から離れる。
「わ、じとっとしてる。湿気が強いのかしら」
一人、また一人くぐるたびに鼓膜がぐわんと揺れるが、どうやら誰かがくぐるたびに大気が連動して振動しているらしい。全員が通り終えて扉が閉まると、その揺れも収まった。
全員が揃ったのを確認すると、俺は背後の入り口に向かって立った。
「……来たな、空の迷宮」
目の前には石造りの門。
伝説というおとぎ話の中だけの世界が、今まさに現実となって目の前に広がっている。
およそ探索者となる気もなく学園を卒業した自分が、こんな形で最難関の迷宮に挑むことになるとは思いもしなかった。
「わー、きゃっ!」
「ああ。すごいな。なんだかマナが湧いてるようにも見える」
クリストリスがその巨大な建造物を見上げて笑う。俺は別の意味で笑いが飛び出そうだ。
「さあ、それじゃあお邪魔するか」
俺は一歩歩み出ると、早速扉が施錠されていることに気が付いた。
「お、早速俺の見せ場かな?」
そう思って意気揚々と扉に張り付く。作りは一枚岩を削り出して作ったと思われる頑丈なもので、およそ普通の探索者やモンスターでは破壊は難しいだろう。
「ディグラッドよ、待て」
「まあまあラスキーさん、見ててくださいよ」
「落ち着け」
「どうしたんですか? もしかしてもう始まってるんですか?」
「違う。ほれ」
ラスキーさんはぽい、と金属の棒を俺に投げてよこした。
「……鍵?」
「ギルドが管理してる迷宮だぞ? 施錠は常識だろう」
「は、早く言ってくださいよ!!!」
他の連中はクスクスと俺を笑う。……ちくしょう、良い所見せたくて空回りしてしまった。
「まあ、リーダーらしいところを見せたいという思いはくんでやるさ」
俺は下唇を嚙みながら、鍵が簡単に開いてしまった扉を開放した。
◇
流石はかつての魔王城。
扉の先は、外と全く違う緊張感であふれていた。
「確か、モンスターがまだいるんですよね?」
「ええそうよ。一部の魔王城としての機能はまだ生きてるから、守護者としてのモンスターは生成されることがあるわね」
天井が見えないほど高い廊下に、規則的に並んだ鎧兜の石像。
ゆったりとした坂道を登ったり下りたり、何度左右に曲がったかわからない道筋。
ラスキーさんという道案内がいたからこそ迷いはないが、それでもただ歩くだけの探索はかなりきつい。
今回は、先頭をラスキーさんとイレーナさん。次いでクリストリスを抱いた俺。更に後ろにはラクナーシャ姉妹と並び、最後がミサオさんだ。
「む、モンスターの気配がしよんな」
「そのようね、二体ほどいそうだわ」
ミナナギという種族がもつ特有の勘とラスキーさんの未来視が合わさって、俺より精度の高い索敵が安全な探索を実現できている。ここまで安定すると俺は荷物持ち程度にしか働けてないのが少し悔しい。
「モンスター自体が少ないのはありがたいでござるが、これがかの魔王城だった迷宮だと思うと、少々拍子抜けでござるな」
「いいじゃない。無駄に戦って道具や体力を消耗するよりは」
「――早く突破するためにも、戦闘が発生しないのはいいこと」
ある程度進むと、当時はモンスターの巣があった場所と思われる広間に出た。
どこからか水が流れて天然の隔離所としても機能しており、周りが良く見えることを生かして休憩所になっているようだ。前に来た探索者が使っていたと思われる焚火の跡があちこちにある。
「よし、妾たちもここで休憩をとるぞ」
ラスキーさん指示のもと休憩スペースを作る。とは言え何か特別なことをするわけじゃない。俺がクリストリスのご飯を作る間他のメンバーが食事兼仮眠ベッドを作るくらいだ。
「……」
「どうしたのミサオさん」
「あ!! な、なんでもござらん!」
……もしかして、やっぱり痛いのかな。イレーナさんも引きずってたし。こういう時、男はズルいなっていつも思う。
「痛いのならベルに治療魔法かけてもらったらいいのに」
「……ディグ」
「えっ、えっ??」
「安易に治療魔法をかけると―― 膜も戻る。また痛いだけ」
「マジで? ……って、なんでそんなこと知ってるの?」
「割と常識やで」
「うぐ、気をつけます」
そんな常識も知らなかったとは、めちゃくちゃ恥ずかしい。
ていうか、多分男にとっては常識じゃないだろ。一生にそう何人も相手するわけじゃないんだから。
「見張りは妾がしておく。一日目の目標ポイントまでは一気に行くから今のうちに休みを取りやれ」
「はい」
俺もすっかり離乳食になったクリストリスの食事を取らせ終えると、背中をイレーナさんに預けて少し眠る。
「……グ、ディグ!」
「ん、ぁあっ!?」
「ぐっすり寝てた―― 時間だよ」
「ぉあ、ごめん! んじゃ行くか」
昨日の疲れもあって熟睡したのを実感した俺は、再び最深部に向けて進み始めた。
休憩スペースを抜けきると環境がガラリと変わり、少し狭いが天然の洞窟型迷宮に迷い込んだ。
とはいえ、地図を照らし合わせると決して全く違う場所というわけではなさそうだ。色んな迷宮が重なり合って生まれたからこそ起こる現象なのかも知れない。
しかし、熟睡したというのに疲れが取れない。原因は何となく分かるものの、それを疲れと思いたくない自分がいる。
「やはり昨日のアレが激しすぎたのでは……」
「え? 最近はお姉ちゃんと一緒なの多いし、あたしは普通かな」
「スタミナはある方ではないか? 男は果てるのが早いと聞くぞ」
……物騒な会話してるなぁ。
俺は渡された地図の資料を見ながら歩いていると、もらった時には気が付かなかった違和感を覚えた。
「ラスキーさん」
「どうした? 道は合ってるはずだが」
俺は少し早歩きで先頭を走るラスキーさんを呼びとめた。
俺の勘は間違ってるかもしれない。確認するにはなれた人に聞くのが一番だ。
「この迷宮、入ってみて分かったんですけど、最深部に向かうだけならそんなに難しい迷宮じゃないですよね?」
ぴたり、とラスキーさんの足が止まる。
「……ラスキーはん?」
「そうだな、単純な移動時間を考えると早くて二日。長く見積もっても五日あれば最深部には到達することは可能だ」
彼女の目には「やれやれ」という呆れの感情が籠っている。敵意というより「この説明はしたくないな」という気持ちなのだろう。
「そもそも三日で踏破可能であるという事実をお前の父親が示しておる。こちらもその実績をなくしたいわけではないが、大人数で挑戦するとどうしても遅くなるのだ」
「人数で、難易度が変わるってことですか?」
「安全を考慮すると、どうしてもそうなる」
彼女は振り返って地図上にある迷宮の一部を指さす。そこはわりかし広い空間があるが、どうも曖昧な書き方をしており、地図としては正確性を感じられない。
「ここのように不確かな書き方がされている場所が何か所があるであろう? そこは『試練の間』と呼ばれておって、毎回訪れるごとに異なるトラップが仕掛けられておるのだ」
「え、でもこの迷宮の核ってもういないですよね?」
ベルが思わず突っ込む。核たる魔王はいない。なら未だにトラップが作動することはないはずなのだ。
「もう忘れたのか? この迷宮自体はまだ『生きて』いる。核は失われても訪れた侵入者のマナが起動条件となるトラップは今も健在で、回避は困難なのでな」
なるほど!
来訪者の所有マナを条件に起動するタイプは少ない。俺も見るのは始めてた。魔王城であるならそういったものもあってしかるべきだ。勉強になるな。
「しかもこのトラップは、侵入者のレベルに合わせてギリギリ達成できない難易度のトラップだったりする。迷宮としても死なれては困るからか、致死性のものは今までなかったが、時間がかかるものが多いのだ。だからそれらを考慮するとどうしても到達に時間を取られてしまうのでな」
「流石、迷宮の王が作る迷宮ってことね。なるべく道中は急いだほうが良さそうだわ」
先頭を行く二人のおかげでモンスターとの遭遇もほぼなく、俺たちは大した消耗もなく最初の「試練の間」までたどり着いた。
時間としては予定より少し早いくらいだ。ゆっくりトラップの考察も練れるだろう。
「よし、ちょっと小休止してから入るか」
若干の水分補給と体調チェックを済ませると、俺たちは一つ目の試練の間に入った。
「んむ、一直線の通路? 狭いな」
すれ違えない程度に狭い通路が少し続いた後、突然手元の明かりが消えた。
「お、おい! 明かりが消えたぞ!?」
「ごめん、あれ? おかしいな」
「落ち着け! トラップが始まったぞ!」
「えぇ!??! このタイミングで??!」
そうか、これが始まりなのか!?
くそ、マナの起動も読めなかったぞ! 肝心なところで役に立ててない!
「おっ、明かりが点いた…… あれ?」
見ると、通路には俺とラスキーさんだけが立っていた。
背中に流れる汗。途方もない喪失感。さっきまで抱いていたクリストリスもいない。
「あれ、ディグ!? どこ!!」
「ああっ、ベル!! 無事か!!」
「――私も。他の皆もいる」
「あれ? ラスキーはんがおらへんで!」
「妾はディグラッドと一緒じゃ。安心せい」
「それはそれで安心できないんですが……」
そんな会話をしていると、さらに周りが明るくなる。
「扉……?」
「この扉の向こうにいるのか?」
俺は迷わず扉を開けた。
「バカ、待てっ!」
ラスキーさんの静止も聞かず中に入ると、彼女も吸い込まれるように中へ入ってきた。
そして、唐突に扉が閉まった。
「……しまった、やられた」
「え!? これがトラップなんですか?」
『あっ、ディグ!』
「お、ベル! て、なんでそんなところ??」
幼馴染の声は透明な壁の向こうから聞こえてきた。どうやら分断されたようだ。
壁の向こうには全員がいる。クリストリスも、何故かマイナさんが抱えているが全員無事のようだ。あ、皆ってそういうことか。
「よかった。とりあえず皆いるな」
「……バカ者、してやられたわ」
ラスキーさんは反対側にある扉を指さす。
「あれは?」
「この部屋で行う試練の内容が刻まれておる。見てみろ」
俺は言われた通りに扉を観察する。
「……はぁ!?」
どうもこの迷宮の主は相当な曲者のようだ。まさか、こんな試練をパーティに課すとは……
〝双方の繋がりによる絶頂を持って、この扉は開くであろう〟
「え? これって父さんが使ってるナイフじゃん」
「ぼんやり光るから明かり取りに使えるぞ」
出発前、荷物の整理をしているところで父さんから普段使いしてるナイフを受け取った。小さい時によく見せてもらってたが、鞘から出すとなぜか刀身が光るのだ。
「帰ってきたら返せ」
「……ありがとう」
腰のポーチの裏側に結びつけると、皆が待つ庭に出た。
「おっそいリーダー!」
「――ん。今日もかっこいい」
「気合いれてこな!」
「で、では参ろう」
四者四様の出迎えに背中をムズムズさせていると、母さんとラスキーさんがやってきた。母さんはちょっと探索者現役当時の服装で、ラスキーさんは普段に増してスケスケの服装だ。
「迷いは晴れたか?」
「……正直いまひとつですけど、やらなきゃならない、ってことはしっかりと刻みました」
「うむ。よろしく頼むぞ、リーダー」
ううう、自分より上のランカーからリーダー呼びされるのはちょっと気が引けるなぁ。
「いい機会だ。空の迷宮内部を勉強するつもりで行ってきなさい」
「はい教授。ラスキーさんもいますし、そのつもりです」
とはいえ、今回はクリストリスも一緒だ。そもそも無茶もできない。
「準備はいい? それじゃあ、時空扉を開けるわよ」
母さんが、あらかじめ準備していた魔法円にマナを流す。これは迷宮に設置される魔法円と違い、錬金術のそれに近い機能を持つタイプだ。大陸に存在するマナの流れを少々歪ませ、望む場所に導く魔法らしい。壮大な効果が見込めるだけあって何をしているのかはさっぱりわからない。
「おお、――さすが師匠」
「マイナさんも作ってたじゃないですか」
「――この規模は無理」
だろうなぁ。肌に感じるマナ反応の激しさは戦闘の際に感じるそれよりも遥かに強い。
「……よし。いったん空間へ固定できたわ。それじゃあ打ち合わせ通り、私は一週間後より三日に一度、この時空扉を開けるわ。そこから十回開けて戻らない場合はこちらから迎えに行く。できれば三回目までの開放で戻れるよう道中は調整してね」
「はい!」
「あー!」
全員が腹から返事をする。遠方での長時間探索なんて俺も初めてなので緊張するが、遅れて掛け声を上げるクリストリスに、そんな心配を吹き飛ばされた。
「行きますわ…… じゃない、リーダー!」
「あっ、はい! 行くぞ!」
俺を先頭に全員が扉をくぐる。
恐る恐る足を踏み出すと、じわっとぬるめのお湯に突っ込んだような違和感が足を覆った。構わず地面を踏みしめ体重をかけると、ふくらはぎのあたりがぎゅっとしめつけられるような感覚が少し遅れてやってきた。
上半身もくぐらせると、顔に張り付くような暑さを感じ、そこには元の地方にない気候があるのだと気づいた。
「うぉ、ちょっと暑い…… のか?」
転送円で一気に放り出されるのとはまた別の新鮮な体験に感動しつつ、他の仲間がくぐるためのスペース確保のために扉から離れる。
「わ、じとっとしてる。湿気が強いのかしら」
一人、また一人くぐるたびに鼓膜がぐわんと揺れるが、どうやら誰かがくぐるたびに大気が連動して振動しているらしい。全員が通り終えて扉が閉まると、その揺れも収まった。
全員が揃ったのを確認すると、俺は背後の入り口に向かって立った。
「……来たな、空の迷宮」
目の前には石造りの門。
伝説というおとぎ話の中だけの世界が、今まさに現実となって目の前に広がっている。
およそ探索者となる気もなく学園を卒業した自分が、こんな形で最難関の迷宮に挑むことになるとは思いもしなかった。
「わー、きゃっ!」
「ああ。すごいな。なんだかマナが湧いてるようにも見える」
クリストリスがその巨大な建造物を見上げて笑う。俺は別の意味で笑いが飛び出そうだ。
「さあ、それじゃあお邪魔するか」
俺は一歩歩み出ると、早速扉が施錠されていることに気が付いた。
「お、早速俺の見せ場かな?」
そう思って意気揚々と扉に張り付く。作りは一枚岩を削り出して作ったと思われる頑丈なもので、およそ普通の探索者やモンスターでは破壊は難しいだろう。
「ディグラッドよ、待て」
「まあまあラスキーさん、見ててくださいよ」
「落ち着け」
「どうしたんですか? もしかしてもう始まってるんですか?」
「違う。ほれ」
ラスキーさんはぽい、と金属の棒を俺に投げてよこした。
「……鍵?」
「ギルドが管理してる迷宮だぞ? 施錠は常識だろう」
「は、早く言ってくださいよ!!!」
他の連中はクスクスと俺を笑う。……ちくしょう、良い所見せたくて空回りしてしまった。
「まあ、リーダーらしいところを見せたいという思いはくんでやるさ」
俺は下唇を嚙みながら、鍵が簡単に開いてしまった扉を開放した。
◇
流石はかつての魔王城。
扉の先は、外と全く違う緊張感であふれていた。
「確か、モンスターがまだいるんですよね?」
「ええそうよ。一部の魔王城としての機能はまだ生きてるから、守護者としてのモンスターは生成されることがあるわね」
天井が見えないほど高い廊下に、規則的に並んだ鎧兜の石像。
ゆったりとした坂道を登ったり下りたり、何度左右に曲がったかわからない道筋。
ラスキーさんという道案内がいたからこそ迷いはないが、それでもただ歩くだけの探索はかなりきつい。
今回は、先頭をラスキーさんとイレーナさん。次いでクリストリスを抱いた俺。更に後ろにはラクナーシャ姉妹と並び、最後がミサオさんだ。
「む、モンスターの気配がしよんな」
「そのようね、二体ほどいそうだわ」
ミナナギという種族がもつ特有の勘とラスキーさんの未来視が合わさって、俺より精度の高い索敵が安全な探索を実現できている。ここまで安定すると俺は荷物持ち程度にしか働けてないのが少し悔しい。
「モンスター自体が少ないのはありがたいでござるが、これがかの魔王城だった迷宮だと思うと、少々拍子抜けでござるな」
「いいじゃない。無駄に戦って道具や体力を消耗するよりは」
「――早く突破するためにも、戦闘が発生しないのはいいこと」
ある程度進むと、当時はモンスターの巣があった場所と思われる広間に出た。
どこからか水が流れて天然の隔離所としても機能しており、周りが良く見えることを生かして休憩所になっているようだ。前に来た探索者が使っていたと思われる焚火の跡があちこちにある。
「よし、妾たちもここで休憩をとるぞ」
ラスキーさん指示のもと休憩スペースを作る。とは言え何か特別なことをするわけじゃない。俺がクリストリスのご飯を作る間他のメンバーが食事兼仮眠ベッドを作るくらいだ。
「……」
「どうしたのミサオさん」
「あ!! な、なんでもござらん!」
……もしかして、やっぱり痛いのかな。イレーナさんも引きずってたし。こういう時、男はズルいなっていつも思う。
「痛いのならベルに治療魔法かけてもらったらいいのに」
「……ディグ」
「えっ、えっ??」
「安易に治療魔法をかけると―― 膜も戻る。また痛いだけ」
「マジで? ……って、なんでそんなこと知ってるの?」
「割と常識やで」
「うぐ、気をつけます」
そんな常識も知らなかったとは、めちゃくちゃ恥ずかしい。
ていうか、多分男にとっては常識じゃないだろ。一生にそう何人も相手するわけじゃないんだから。
「見張りは妾がしておく。一日目の目標ポイントまでは一気に行くから今のうちに休みを取りやれ」
「はい」
俺もすっかり離乳食になったクリストリスの食事を取らせ終えると、背中をイレーナさんに預けて少し眠る。
「……グ、ディグ!」
「ん、ぁあっ!?」
「ぐっすり寝てた―― 時間だよ」
「ぉあ、ごめん! んじゃ行くか」
昨日の疲れもあって熟睡したのを実感した俺は、再び最深部に向けて進み始めた。
休憩スペースを抜けきると環境がガラリと変わり、少し狭いが天然の洞窟型迷宮に迷い込んだ。
とはいえ、地図を照らし合わせると決して全く違う場所というわけではなさそうだ。色んな迷宮が重なり合って生まれたからこそ起こる現象なのかも知れない。
しかし、熟睡したというのに疲れが取れない。原因は何となく分かるものの、それを疲れと思いたくない自分がいる。
「やはり昨日のアレが激しすぎたのでは……」
「え? 最近はお姉ちゃんと一緒なの多いし、あたしは普通かな」
「スタミナはある方ではないか? 男は果てるのが早いと聞くぞ」
……物騒な会話してるなぁ。
俺は渡された地図の資料を見ながら歩いていると、もらった時には気が付かなかった違和感を覚えた。
「ラスキーさん」
「どうした? 道は合ってるはずだが」
俺は少し早歩きで先頭を走るラスキーさんを呼びとめた。
俺の勘は間違ってるかもしれない。確認するにはなれた人に聞くのが一番だ。
「この迷宮、入ってみて分かったんですけど、最深部に向かうだけならそんなに難しい迷宮じゃないですよね?」
ぴたり、とラスキーさんの足が止まる。
「……ラスキーはん?」
「そうだな、単純な移動時間を考えると早くて二日。長く見積もっても五日あれば最深部には到達することは可能だ」
彼女の目には「やれやれ」という呆れの感情が籠っている。敵意というより「この説明はしたくないな」という気持ちなのだろう。
「そもそも三日で踏破可能であるという事実をお前の父親が示しておる。こちらもその実績をなくしたいわけではないが、大人数で挑戦するとどうしても遅くなるのだ」
「人数で、難易度が変わるってことですか?」
「安全を考慮すると、どうしてもそうなる」
彼女は振り返って地図上にある迷宮の一部を指さす。そこはわりかし広い空間があるが、どうも曖昧な書き方をしており、地図としては正確性を感じられない。
「ここのように不確かな書き方がされている場所が何か所があるであろう? そこは『試練の間』と呼ばれておって、毎回訪れるごとに異なるトラップが仕掛けられておるのだ」
「え、でもこの迷宮の核ってもういないですよね?」
ベルが思わず突っ込む。核たる魔王はいない。なら未だにトラップが作動することはないはずなのだ。
「もう忘れたのか? この迷宮自体はまだ『生きて』いる。核は失われても訪れた侵入者のマナが起動条件となるトラップは今も健在で、回避は困難なのでな」
なるほど!
来訪者の所有マナを条件に起動するタイプは少ない。俺も見るのは始めてた。魔王城であるならそういったものもあってしかるべきだ。勉強になるな。
「しかもこのトラップは、侵入者のレベルに合わせてギリギリ達成できない難易度のトラップだったりする。迷宮としても死なれては困るからか、致死性のものは今までなかったが、時間がかかるものが多いのだ。だからそれらを考慮するとどうしても到達に時間を取られてしまうのでな」
「流石、迷宮の王が作る迷宮ってことね。なるべく道中は急いだほうが良さそうだわ」
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「よし、ちょっと小休止してから入るか」
若干の水分補給と体調チェックを済ませると、俺たちは一つ目の試練の間に入った。
「んむ、一直線の通路? 狭いな」
すれ違えない程度に狭い通路が少し続いた後、突然手元の明かりが消えた。
「お、おい! 明かりが消えたぞ!?」
「ごめん、あれ? おかしいな」
「落ち着け! トラップが始まったぞ!」
「えぇ!??! このタイミングで??!」
そうか、これが始まりなのか!?
くそ、マナの起動も読めなかったぞ! 肝心なところで役に立ててない!
「おっ、明かりが点いた…… あれ?」
見ると、通路には俺とラスキーさんだけが立っていた。
背中に流れる汗。途方もない喪失感。さっきまで抱いていたクリストリスもいない。
「あれ、ディグ!? どこ!!」
「ああっ、ベル!! 無事か!!」
「――私も。他の皆もいる」
「あれ? ラスキーはんがおらへんで!」
「妾はディグラッドと一緒じゃ。安心せい」
「それはそれで安心できないんですが……」
そんな会話をしていると、さらに周りが明るくなる。
「扉……?」
「この扉の向こうにいるのか?」
俺は迷わず扉を開けた。
「バカ、待てっ!」
ラスキーさんの静止も聞かず中に入ると、彼女も吸い込まれるように中へ入ってきた。
そして、唐突に扉が閉まった。
「……しまった、やられた」
「え!? これがトラップなんですか?」
『あっ、ディグ!』
「お、ベル! て、なんでそんなところ??」
幼馴染の声は透明な壁の向こうから聞こえてきた。どうやら分断されたようだ。
壁の向こうには全員がいる。クリストリスも、何故かマイナさんが抱えているが全員無事のようだ。あ、皆ってそういうことか。
「よかった。とりあえず皆いるな」
「……バカ者、してやられたわ」
ラスキーさんは反対側にある扉を指さす。
「あれは?」
「この部屋で行う試練の内容が刻まれておる。見てみろ」
俺は言われた通りに扉を観察する。
「……はぁ!?」
どうもこの迷宮の主は相当な曲者のようだ。まさか、こんな試練をパーティに課すとは……
〝双方の繋がりによる絶頂を持って、この扉は開くであろう〟
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"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
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【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
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