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第3殿 未来への道程
第57洞 クリスタルルーム
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「あー…… さっぱりした」
水が出る。お湯が沸く。
ならばこの環境を利用しない手はない。
ということでまさかの湯浴みタイムとなった。
もちろん原因を作ったのは俺なんだが、言いたいこと言いまくった俺たちにはもう怖いものはない。
……いや、多分俺が一番恐怖してる。
「入った時よりもリフレッシュした気がするね」
「左様でござる」
「じゃ、出発するで!」
「……みんな元気だよなぁ」
なんだかんだ一番堪能したのはラスキーさんだと思う。
そのおかげもあってか、ここから先の道中は非常にスムーズに進めることができた。
考えてみればそもそもこの迷宮には主がいない。寄り付くモンスターも生成される素材もほとんどいないのだ。
純粋に時々ある試練の間と、それに付随する謎解きなどに大きく時間を取られることが最大の難点といえば難点か。
「……あ、また様相が変わってる」
しばらく進むと、先程まで歩いていた石畳が今度は生成された金属のような光沢を帯び始めた。素材型迷宮にも見られる形状だが、鈍い銀色の床は足音が響くためあまり好きではない。
そんな床面をがっしゃがっしゃ足音を立てるものが通路を横切った。
「ねえ、あのモンスターってなんだったっけ」
ベルが指差す先にいるのは、全身を輝く金色に染め上げた巨大なゴブリンのようなモンスターだ。
「……オーガの上位種、かな? 鉱石偏食する種族もいるからそっちかも」
「金ピカやで? なんか食べてるもん違うんちゃうか?」
「ジュエルオーガの亜種かのう。宝石を主食にする大型モンスターが金を食べてるとたまにああなることがあるわ」
「なら、そうかも。どっちにしろああいうのは物理が通りにくいから無視が一番だよ」
「えぇー!? ジュエルモンスターからは希少なプリズムマナクリスタルが手に入るのに」
「それ、持ってる確率自体低いやつだろ? 諦めろ」
それでも狩ると聞かないベルをなんとかなだめ、ようやく最後の試練の間に到着した。
「たどり着いてみると一瞬――」
「けれど、ここを越えた先が本番でござるよ」
前の試練の間で十分な休息を取った彼女達はやる気十分な姿勢を見せる。
疲労困憊なのは俺だけだが、とはいえ、もしも戦闘になったとしても俺は後方支援がほとんどだから、俺の体力あるなしはさほど問題ではない。
「いける、ディグ?」
「ああ、それなりには動けそう」
「んなら、行っとこか!」
「――うん」
「いざ参る!」
「気をつけなさいな」
扉を開き、部屋に入る。相変わらず真っ暗な通路を歩き、微かな光のもとへと向かう。
「みんな、いるか?」
つい心細くなって声をかけてみたが、声が返ってこない。
「あれ、ベルー? マイナさーん? ラスキーさーん?? ミサオさ――」
突如ぐわっ、と体重が体幹から消え去る。
身体の重さという概念がスポッと消えた感覚に陥り、浮き上がるとも落ちるとも違う感覚が全身を包む。
「おううおおあああ???」
浮き上がったのか落ちたのかが分からないまま縦方向だけを意識していると、唐突に足の裏が何かに接触した。徐々に体重が戻り、気がつくと俺はどことも知れない場所に着地したようだ。
「あっっっっっぶね、っと。クリストリスは無事か。 ――あ!」
娘の無事を確認すると足元がぼんやりと光った。目を凝らすと光は徐々に部屋の明かりだと分かり、はるか下に他のパーティメンバーが並んで立っていた。どうやら天井に位置する場所に俺は立っているようだった。
「おーい、ベル! マイナさん! ミサオさん、イレーナさん!! ラスキーさーん!!!」
どうも向こうからはこちらが見えず、こちらの声は届かないようだ。
試しに床を殴ってみたが、何も起こらない。ただ投影してるだけなのか、あるいは透明で頑丈な壁があるのか、俺程度では理解することすら難しい。
「ってことは、最初の試練に近い形、か?」
俺は何とか声だけでも聞こえないか、と耳をそばだててみた。ぴーんと張り詰める空気を意識的によそに置き、微かな振動を拾うように集中すると、ようやく声が聞こえてきた。
『……どういうことかしら?』
『わあ―― ディグちゃんがいっぱい』
俺がいっぱい?
意味がわからずこれを拾うのを諦めて目を細める。向こう側の光も徐々に明るくなるにつれて向こうの状況が少しずつ明らかになっていった。
「わ?? なんだあれ!」
光の加減で見えなかったが、その部屋には彼女らの他に、『俺が五人』立っていた。
『「見極め、偽物を殺せ」だって』
『俺が本物だって!』
『どれかが本物ってわけかいな?』
『俺、俺が本物!』
『にしては、五人はちと多いんではござらんか?』
『俺以外は偽物なんだから!』
『どれも同じに見える――』
『マイナさんならわかるでしょ!?』
『ふむ……』
『ラスキーさん、俺を選んで!』
向こうの声も徐々によく聞こえるようになると、その状況もおぼろげながら把握することができた。
「ていうか、全部偽物じゃねーか」
五人の俺は、それぞれ絶妙な距離を保ちつつみんなへ声をかけている。さまざまな言葉やジェスチャーで自身が本物であることをアピールしているが、なかなかそれが彼女たちに伝わらないようだ。
『そんなこと言ったって、見た目はほぼ一緒だしあたしには分かんないかな』
『ベル! 今までずっと一緒だったろ!?』
「客観的に自分を見るのってこんな気持ちなんだろうか…… すっげぇ気持ち悪い」
聞こえてくる会話…… というか俺の偽物が口にする自己弁護は、そのどれもが聞いていて気分が悪くなるものばかり。
何よりその弁護をベルたちが聞いて顔色を変えないのもまた気持ち悪い。つまり、あの偽物の行動は俺の普段の行動と遜色ないと言うことだ。
「マジかよ…… 俺って、あんななのか?」
そうこうしていると全員が一か所に集まって何やら話をし始めた。
「くそ、ここからじゃあ何をしゃべってるのか分かんねぇぞ」
声は小さいが、どうやらベルが何かをやりたいらしい。それを残りの全員が拒否したり改善案を出したりしているようだ。
『みんな…… 何を言ってるんだろう』
さっきまでは本音で色々語り合った。体も心も通じ合った。
だからなんだろうか。今こうして見えているのに何も通じてない気がするのは。
『ねえ、大丈夫なんか?』
『うん。信用して』
ベルはそう言うと、一番奥の俺に向かって右手を差し出した。
すると、その俺はにこにこしながらその手を取った。
さらにベルはその隣の俺にも手を出す。同じ様に、俺は手を取った。
それを全員にする。やはり同じ対応だ。
「まあ、ベルが手を出せば俺も取るからなあ……」
『じゃあ、はい』
今度はベルの声に合わせて、全員が手を出した。
すると、それぞれの正面にいる俺が、それぞれの手を取った。
『……ほんまや』
『これは、わかったでござるな』
「え、え、え?」
『――理解した』
『確かに分かりやすい』
あれで何が分かったんだ??
理解できないでいると全員がいったん俺たちから離れる。一呼吸おいて、ベルが切り出した。
『ごめんね、ディグ。――「分解」!』
『永劫の氷に沈め――!』
『お命、頂戴!』
『ふんぬ!』
『土に還りなさい』
「……えぇ」
五人の俺は、それぞれの得意とする技でそれぞれを死に至らしめた。
ベルは錬金術の基礎である「物質の分解」を細胞レベルまで細分化して放つ。もちろん俺は、その構成物質結合が解かれるので赤い『なにか』変わっていく。
マイナさんは俺の中にある水分を一瞬で全て氷に変えた。成功率はもともと低い魔法なのだが俺が全く動かないこともあって全身が一気に氷の塊に変わる。さらに低確率にはなるが、解凍方法によっては蘇生するらしい。多分しないだろうけど。
ミサオさんは人体でも断ち切るのが難しいとされる首の切断を迷うことなくひと太刀で結ぶ。不思議なことに身体から噴き出した血は最初の方だけで、ふき飛んだ首もろとも虚空へと消えた。
イレーナさんは見た目からもひどい。力任せに俺の首を掴むと、くるりと真下に半回転させた。ここからは聞こえなかったが、きっとすごく嫌な音が鳴ったに違いない。
それに比べるとラスキーさんは見た目が一番マトモかと思う。なんせ俺の体がグズグズと崩れ、ただの土に変わってしまった。
そういえば母さんから『四属性魔法すべてを使いこなす魔法使いがパーティに居る』と聞いたことがある。何をどうすれば人体が即座に土へ変わるのか怖いが、使い手は彼女で間違いないだろう。
『さ、「偽物」はぜーんぶ始末したで』
『――本物はどこ?』
『気配すら感じさせないとはのう』
『あ、扉開いたわ』
『外かも知れぬぞ。一旦出てみるでござるよ』
……あれ? 俺はどうすればいいんだ?
そもそも全員躊躇なかったな。もし本物がいたらどうするんだろ。それだけ偽物は明らかに分かるほど俺と違ってたとか?
などと悩んでいると、突然床が消えて自然落下が始まった。
「おぉうあああぁぁぁ???」
どしん! と尻もちをついた。思わず抱っこひもの中をのぞき込んだ。
「クリストリス! ……は大丈夫か」
「キャ、ぐふふ~」
「……呑気なのか、大物なのか」
まるで抱っこされてる今を堪能しているのか、こんな大変な目に遭っても泣き声ほとんどあげることがない。
「っと、急いで追いかけないと!」
足元に散らばる俺の死体を横目に、急いで試練の間を抜ける。
「あっ、いた! ディーやん!」
「どこにいたのだ! みな心配したぞ」
「その割に、偽物への攻撃に躊躇がなかったように見えますが」
「バカね。あんたじゃないから安心して攻撃できるんじゃないの」
といいつつ、みんなが俺の顔を見た瞬間の安堵した表情は、今まで見たことがないほどの笑顔だった。
「……なあ、なんであれが全部偽物だってわかったんだ?」
すると、ベルが申し訳なさそうに答えた。
「あんたならするだろうと思った事を、あいつらはしなかった。それだけ」
「それって何? どんなこと?」
その俺の質問が予想外だったのか、みんなは顔を見合わせてニコっと笑う。
「あれ、ディーやん自分でわからへんの?」
「むしろあれを自分だと思いたくないっていうか」
「同族嫌悪、の自分バージョンといったところかのう。分からぬでもないが」
「あ、それは思いました。気持ち悪いなぁって」
「――それなら、わからないのは無理もないかも」
「だから、教えてくださいよ」
「やーだ。それがむしろ『ディグらしい』からね」
くそ、ここに入る前の素直さはどこに行ったんだ。
◇
「ここよ。準備はいい?」
目の前の扉は今まで通ったどの扉よりも大きく、頑丈そうで、かつ異様な雰囲気を醸し出している。
材質はもはや全く想像がつかず、ほのかにマナを放っているが、純粋なマナではなさそうだ。触れる時間が長いといい影響は無さそうにも見える。
「結構かかったわね、ここまで来るのに」
「五日ほどかな? 父さんの記録にはやっぱり勝てなかったな」
「冗談を申すな。ダブルクラスにすら到達していないそなたらが全員無事でいることがそもそも奇跡よ」
現状のトップランカーにお褒めの言葉をもらえて悪い気はしない。だが、俺たちの目的は到着だけじゃない。
「では、開けるぞ」
ラスキーさんが扉にそっと手をかける。
扉は音もなく左右に開き、中の様子が明らかになった。
「うわ…… 綺麗」
部屋全体が溢れんばかりのクリスタルで埋め尽くされた部屋は、どこからか取り入れられた光を反射させてキラキラと輝いていた。
「――このクリスタル、ただのマナクリスタルだけじゃない」
「え、どういうことでござる?」
「プリズムクリスタルと…… もしかして、ここの元になった迷宮の核もある?」
「流石はベル。俺もそう思う」
マナを持つクリスタルの中に紛れて、同調する波動をもったクリスタル…… 迷宮の核も並んでいる。保護のためかあるいは人質か。理由は不明だが、見た目だけで言えばそれらもあわせてこの部屋を彩る装飾として輝いている。
さながら、クリスタルルームと言ったところか。
「あれが…… お前たちの目的のものだ」
ラスキーさんが指差す床には赤い絨毯が敷かれ、その先には件の玉座がある。しかし、今は空ではない。
『……ラスキー。久しぶりね』
「バドナ。元気だったか」
ラスキーさんが一歩前に歩み出る。さらに一歩進もうとした瞬間、足元にクリスタルが降り注ぎ進行を阻んだ。
「下がれラスキー。お前と言えどこれ以上は進ません」
「……ハリル。わかっておるわ。友の顔くらいゆっくりと見せや」
降り注いだクリスタルの影から男性が一人現れ、ラスキーさんの前に立ちはだかった。筋肉質な体に質素な鎧をまとい、恵まれた体格から繰り出す巨大な剣を片手でいとも簡単に操っている。
二人はしばらく見つめ合った後、クリスタルはマナに還元され、男性…… ハリルさんは玉座の横へと戻った。
ようやく視界が整ったので、俺はそっとラスキーさんの横に立って自己紹介を始めた。
「……始めまして。ディグラッド・ホーリーエールと申します」
俺は玉座に座る人物に声を掛ける。
「ラスキー。まずは状況を説明してもらおうか」
んんー、俺たちのことは無視ですか?
水が出る。お湯が沸く。
ならばこの環境を利用しない手はない。
ということでまさかの湯浴みタイムとなった。
もちろん原因を作ったのは俺なんだが、言いたいこと言いまくった俺たちにはもう怖いものはない。
……いや、多分俺が一番恐怖してる。
「入った時よりもリフレッシュした気がするね」
「左様でござる」
「じゃ、出発するで!」
「……みんな元気だよなぁ」
なんだかんだ一番堪能したのはラスキーさんだと思う。
そのおかげもあってか、ここから先の道中は非常にスムーズに進めることができた。
考えてみればそもそもこの迷宮には主がいない。寄り付くモンスターも生成される素材もほとんどいないのだ。
純粋に時々ある試練の間と、それに付随する謎解きなどに大きく時間を取られることが最大の難点といえば難点か。
「……あ、また様相が変わってる」
しばらく進むと、先程まで歩いていた石畳が今度は生成された金属のような光沢を帯び始めた。素材型迷宮にも見られる形状だが、鈍い銀色の床は足音が響くためあまり好きではない。
そんな床面をがっしゃがっしゃ足音を立てるものが通路を横切った。
「ねえ、あのモンスターってなんだったっけ」
ベルが指差す先にいるのは、全身を輝く金色に染め上げた巨大なゴブリンのようなモンスターだ。
「……オーガの上位種、かな? 鉱石偏食する種族もいるからそっちかも」
「金ピカやで? なんか食べてるもん違うんちゃうか?」
「ジュエルオーガの亜種かのう。宝石を主食にする大型モンスターが金を食べてるとたまにああなることがあるわ」
「なら、そうかも。どっちにしろああいうのは物理が通りにくいから無視が一番だよ」
「えぇー!? ジュエルモンスターからは希少なプリズムマナクリスタルが手に入るのに」
「それ、持ってる確率自体低いやつだろ? 諦めろ」
それでも狩ると聞かないベルをなんとかなだめ、ようやく最後の試練の間に到着した。
「たどり着いてみると一瞬――」
「けれど、ここを越えた先が本番でござるよ」
前の試練の間で十分な休息を取った彼女達はやる気十分な姿勢を見せる。
疲労困憊なのは俺だけだが、とはいえ、もしも戦闘になったとしても俺は後方支援がほとんどだから、俺の体力あるなしはさほど問題ではない。
「いける、ディグ?」
「ああ、それなりには動けそう」
「んなら、行っとこか!」
「――うん」
「いざ参る!」
「気をつけなさいな」
扉を開き、部屋に入る。相変わらず真っ暗な通路を歩き、微かな光のもとへと向かう。
「みんな、いるか?」
つい心細くなって声をかけてみたが、声が返ってこない。
「あれ、ベルー? マイナさーん? ラスキーさーん?? ミサオさ――」
突如ぐわっ、と体重が体幹から消え去る。
身体の重さという概念がスポッと消えた感覚に陥り、浮き上がるとも落ちるとも違う感覚が全身を包む。
「おううおおあああ???」
浮き上がったのか落ちたのかが分からないまま縦方向だけを意識していると、唐突に足の裏が何かに接触した。徐々に体重が戻り、気がつくと俺はどことも知れない場所に着地したようだ。
「あっっっっっぶね、っと。クリストリスは無事か。 ――あ!」
娘の無事を確認すると足元がぼんやりと光った。目を凝らすと光は徐々に部屋の明かりだと分かり、はるか下に他のパーティメンバーが並んで立っていた。どうやら天井に位置する場所に俺は立っているようだった。
「おーい、ベル! マイナさん! ミサオさん、イレーナさん!! ラスキーさーん!!!」
どうも向こうからはこちらが見えず、こちらの声は届かないようだ。
試しに床を殴ってみたが、何も起こらない。ただ投影してるだけなのか、あるいは透明で頑丈な壁があるのか、俺程度では理解することすら難しい。
「ってことは、最初の試練に近い形、か?」
俺は何とか声だけでも聞こえないか、と耳をそばだててみた。ぴーんと張り詰める空気を意識的によそに置き、微かな振動を拾うように集中すると、ようやく声が聞こえてきた。
『……どういうことかしら?』
『わあ―― ディグちゃんがいっぱい』
俺がいっぱい?
意味がわからずこれを拾うのを諦めて目を細める。向こう側の光も徐々に明るくなるにつれて向こうの状況が少しずつ明らかになっていった。
「わ?? なんだあれ!」
光の加減で見えなかったが、その部屋には彼女らの他に、『俺が五人』立っていた。
『「見極め、偽物を殺せ」だって』
『俺が本物だって!』
『どれかが本物ってわけかいな?』
『俺、俺が本物!』
『にしては、五人はちと多いんではござらんか?』
『俺以外は偽物なんだから!』
『どれも同じに見える――』
『マイナさんならわかるでしょ!?』
『ふむ……』
『ラスキーさん、俺を選んで!』
向こうの声も徐々によく聞こえるようになると、その状況もおぼろげながら把握することができた。
「ていうか、全部偽物じゃねーか」
五人の俺は、それぞれ絶妙な距離を保ちつつみんなへ声をかけている。さまざまな言葉やジェスチャーで自身が本物であることをアピールしているが、なかなかそれが彼女たちに伝わらないようだ。
『そんなこと言ったって、見た目はほぼ一緒だしあたしには分かんないかな』
『ベル! 今までずっと一緒だったろ!?』
「客観的に自分を見るのってこんな気持ちなんだろうか…… すっげぇ気持ち悪い」
聞こえてくる会話…… というか俺の偽物が口にする自己弁護は、そのどれもが聞いていて気分が悪くなるものばかり。
何よりその弁護をベルたちが聞いて顔色を変えないのもまた気持ち悪い。つまり、あの偽物の行動は俺の普段の行動と遜色ないと言うことだ。
「マジかよ…… 俺って、あんななのか?」
そうこうしていると全員が一か所に集まって何やら話をし始めた。
「くそ、ここからじゃあ何をしゃべってるのか分かんねぇぞ」
声は小さいが、どうやらベルが何かをやりたいらしい。それを残りの全員が拒否したり改善案を出したりしているようだ。
『みんな…… 何を言ってるんだろう』
さっきまでは本音で色々語り合った。体も心も通じ合った。
だからなんだろうか。今こうして見えているのに何も通じてない気がするのは。
『ねえ、大丈夫なんか?』
『うん。信用して』
ベルはそう言うと、一番奥の俺に向かって右手を差し出した。
すると、その俺はにこにこしながらその手を取った。
さらにベルはその隣の俺にも手を出す。同じ様に、俺は手を取った。
それを全員にする。やはり同じ対応だ。
「まあ、ベルが手を出せば俺も取るからなあ……」
『じゃあ、はい』
今度はベルの声に合わせて、全員が手を出した。
すると、それぞれの正面にいる俺が、それぞれの手を取った。
『……ほんまや』
『これは、わかったでござるな』
「え、え、え?」
『――理解した』
『確かに分かりやすい』
あれで何が分かったんだ??
理解できないでいると全員がいったん俺たちから離れる。一呼吸おいて、ベルが切り出した。
『ごめんね、ディグ。――「分解」!』
『永劫の氷に沈め――!』
『お命、頂戴!』
『ふんぬ!』
『土に還りなさい』
「……えぇ」
五人の俺は、それぞれの得意とする技でそれぞれを死に至らしめた。
ベルは錬金術の基礎である「物質の分解」を細胞レベルまで細分化して放つ。もちろん俺は、その構成物質結合が解かれるので赤い『なにか』変わっていく。
マイナさんは俺の中にある水分を一瞬で全て氷に変えた。成功率はもともと低い魔法なのだが俺が全く動かないこともあって全身が一気に氷の塊に変わる。さらに低確率にはなるが、解凍方法によっては蘇生するらしい。多分しないだろうけど。
ミサオさんは人体でも断ち切るのが難しいとされる首の切断を迷うことなくひと太刀で結ぶ。不思議なことに身体から噴き出した血は最初の方だけで、ふき飛んだ首もろとも虚空へと消えた。
イレーナさんは見た目からもひどい。力任せに俺の首を掴むと、くるりと真下に半回転させた。ここからは聞こえなかったが、きっとすごく嫌な音が鳴ったに違いない。
それに比べるとラスキーさんは見た目が一番マトモかと思う。なんせ俺の体がグズグズと崩れ、ただの土に変わってしまった。
そういえば母さんから『四属性魔法すべてを使いこなす魔法使いがパーティに居る』と聞いたことがある。何をどうすれば人体が即座に土へ変わるのか怖いが、使い手は彼女で間違いないだろう。
『さ、「偽物」はぜーんぶ始末したで』
『――本物はどこ?』
『気配すら感じさせないとはのう』
『あ、扉開いたわ』
『外かも知れぬぞ。一旦出てみるでござるよ』
……あれ? 俺はどうすればいいんだ?
そもそも全員躊躇なかったな。もし本物がいたらどうするんだろ。それだけ偽物は明らかに分かるほど俺と違ってたとか?
などと悩んでいると、突然床が消えて自然落下が始まった。
「おぉうあああぁぁぁ???」
どしん! と尻もちをついた。思わず抱っこひもの中をのぞき込んだ。
「クリストリス! ……は大丈夫か」
「キャ、ぐふふ~」
「……呑気なのか、大物なのか」
まるで抱っこされてる今を堪能しているのか、こんな大変な目に遭っても泣き声ほとんどあげることがない。
「っと、急いで追いかけないと!」
足元に散らばる俺の死体を横目に、急いで試練の間を抜ける。
「あっ、いた! ディーやん!」
「どこにいたのだ! みな心配したぞ」
「その割に、偽物への攻撃に躊躇がなかったように見えますが」
「バカね。あんたじゃないから安心して攻撃できるんじゃないの」
といいつつ、みんなが俺の顔を見た瞬間の安堵した表情は、今まで見たことがないほどの笑顔だった。
「……なあ、なんであれが全部偽物だってわかったんだ?」
すると、ベルが申し訳なさそうに答えた。
「あんたならするだろうと思った事を、あいつらはしなかった。それだけ」
「それって何? どんなこと?」
その俺の質問が予想外だったのか、みんなは顔を見合わせてニコっと笑う。
「あれ、ディーやん自分でわからへんの?」
「むしろあれを自分だと思いたくないっていうか」
「同族嫌悪、の自分バージョンといったところかのう。分からぬでもないが」
「あ、それは思いました。気持ち悪いなぁって」
「――それなら、わからないのは無理もないかも」
「だから、教えてくださいよ」
「やーだ。それがむしろ『ディグらしい』からね」
くそ、ここに入る前の素直さはどこに行ったんだ。
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「結構かかったわね、ここまで来るのに」
「五日ほどかな? 父さんの記録にはやっぱり勝てなかったな」
「冗談を申すな。ダブルクラスにすら到達していないそなたらが全員無事でいることがそもそも奇跡よ」
現状のトップランカーにお褒めの言葉をもらえて悪い気はしない。だが、俺たちの目的は到着だけじゃない。
「では、開けるぞ」
ラスキーさんが扉にそっと手をかける。
扉は音もなく左右に開き、中の様子が明らかになった。
「うわ…… 綺麗」
部屋全体が溢れんばかりのクリスタルで埋め尽くされた部屋は、どこからか取り入れられた光を反射させてキラキラと輝いていた。
「――このクリスタル、ただのマナクリスタルだけじゃない」
「え、どういうことでござる?」
「プリズムクリスタルと…… もしかして、ここの元になった迷宮の核もある?」
「流石はベル。俺もそう思う」
マナを持つクリスタルの中に紛れて、同調する波動をもったクリスタル…… 迷宮の核も並んでいる。保護のためかあるいは人質か。理由は不明だが、見た目だけで言えばそれらもあわせてこの部屋を彩る装飾として輝いている。
さながら、クリスタルルームと言ったところか。
「あれが…… お前たちの目的のものだ」
ラスキーさんが指差す床には赤い絨毯が敷かれ、その先には件の玉座がある。しかし、今は空ではない。
『……ラスキー。久しぶりね』
「バドナ。元気だったか」
ラスキーさんが一歩前に歩み出る。さらに一歩進もうとした瞬間、足元にクリスタルが降り注ぎ進行を阻んだ。
「下がれラスキー。お前と言えどこれ以上は進ません」
「……ハリル。わかっておるわ。友の顔くらいゆっくりと見せや」
降り注いだクリスタルの影から男性が一人現れ、ラスキーさんの前に立ちはだかった。筋肉質な体に質素な鎧をまとい、恵まれた体格から繰り出す巨大な剣を片手でいとも簡単に操っている。
二人はしばらく見つめ合った後、クリスタルはマナに還元され、男性…… ハリルさんは玉座の横へと戻った。
ようやく視界が整ったので、俺はそっとラスキーさんの横に立って自己紹介を始めた。
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真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
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ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
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「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
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人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
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※小説家になろう様にも掲載しています。
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