65 / 83
第4殿 迷宮の向こう側へ
第61洞 ささやかな風の吹く先に
しおりを挟む
クリストリスは立ち上がり、軽く一礼するとよく通る声で話し始めた。
「今日は、私の我儘を叶えるために集まっていただいて、ありがとうございます」
ぺこり、とその場で頭を下げる。
「すでにお父様から簡単に聞かれてると思いますが、あらためて説明します。私は、今からおよそ二十年後くらいの未来からこの時代に来ました。あの悲惨な未来を止めるために」
彼女は巻き戻るジェスチャーをして、現在ここに来たという仕草をして見せる。
「私がいた時代には、既に魔王と名乗る巨大迷宮の主が大陸のほとんどの迷宮を掌握していて、人々が築きあげた文明の多くは、ほぼ奪い取られてしまいました。それらは迷宮の資源に留まらず、自然環境にすら浸食していきました。青空は山の噴火によって舞い上がる灰で覆われ、川の水は澱んで腐り、植物はまともに育たなくなり、人々は住むところすら制限される事態に陥っているんです」
だが、ここにいるほとんどの人たちには現実味のない話でもある。
たった二十年そこらで今ある文明が奪われるなどと、誰が予想できようか。直接相対した俺ですら、そこまでの脅威を感じることは難しい。
それでも彼女は時を越えて警告にきた。その事実は、動かしようのない『先の話』として考えないといけない。
彼女の話す内容はまさに『明日のわが身』なのだから。
「今回はお父様たちのおかげで危機を脱しましたが、近い内に何らかの方法でこちらに介入しに来るはずです。それまでどうか、力を貸してください」
「えーと、クリストリスさん?」
「はい、なんでしょう!」
学園長が手をあげて質問を始めた。
「君が見た魔王…… 名前はなんていうんですか」
もっともな意見だ。
しかし彼女は早速言葉を詰まらせる。
「それが…… 私が物心つくころには『魔王』としか呼ばれず、それ以外の名前を知ることはできませんでした」
「そうですか」
俺たちが知りえた情報から察するに、一番可能性があるのは「ランビルド」だろうが、名前が分からない以上、こちらが打てる手は少ない。
「しかし今までの話を統合すれば、最も可能性が高いのはやはりランビルドしかおらぬだろう」
ラスキーさんの言葉に上層部たちが頷く。俺もその意見に賛成だが、今ひとつ納得がいかない。
「でも、仮にランビルドが魔王になったんだとして、なんで今あいつは行動しないんだろう」
「ディグラッド君、何か思い当たることでも?」
「教授は知ってますよね、あいつのこと」
相槌を入れた教授に、俺は質問を返す。
「もちろんだ。短い時間とは言え、奴の性格を把握するのは十分な期間一緒に過ごしたつもりだ」
「彼はかつて、魔王になるための力を欲しました。けどうまくいかなかった。これは何故だと思いますか?」
ランビルドは『迷宮の主』たろうとした。それを願い、拒否された。……と思ってる。
「人の身には迷宮を統べる力はふさわしくない。ということではないのか」
「それも要因としてはあると思うんですが、『空の迷宮』最奥部を見て別の要因も必要じゃないかと思ったんです」
俺はクリストリスに視線を移す。
「お父様は未来人ですか? 私が言いたいことの半分くらい言っちゃいました」
「なんとなく、だよ。心当たりもあるしね」
「――あの部屋で、ディグちゃんが魔王になりかけたこと?」
マイナさんの発言に、その場の空気が凍りついた。
「……その話、わたくしも興味ありますわ」
「つまり先日の一件が、そもそも魔王誕生に一役買っていたという話かねディグラッド君?」
「ち、違いますよ! あの場にいたから何となく! そうかなって思っただけで!」
ケミーさんと教授の目が変わった。それぞれ怒りと興味で違う色だが。
「まあまあ、いいじゃないか。クリストリスさんの話をかいつまめば、歴史は変わりつつあるということなんだね?」
ビーダム学園長が話の軌道修正をしつつクリストリスに話を振る。
「……はい。詳しく皆さんに伝えることはバターファックエレファントになるらしく、タイミングが過ぎたことしか言えません」
「バタフライエフェクトちゃうんか」
俺の娘、おっちょこちょいだな。
「そ、それです! 私がこの時代に来た事によって、既に色々ズレて来てるみたいです!」
「なるほど、そういうこと。だからこの時代に無理やり来るときもディーくんの娘っていう立場そのものごと、歴史を変えずにやってきた、ってことかしら?」
「はい! 流石はお祖母様!」
まあ、神殿でのやり取りを見てると確かに俺を狙い撃ちした感じはある。
「ってことは、やっぱりあの瞬間に俺は魔王になる感じだったんだな」
全員がクリストリスを見る。
「歴史のターニングポイントを変えることなく、俺が魔王になる瞬間だけを変えるために、あえて早く『空の迷宮』へ足を運ばせて事態を収束させるつもりだった……」
彼女の顔がどんどん青くなる。
無理もない。先ほどまでクリストリスが守ろうとしているバタフライエフェクトをぶっ壊してるんだからな。
「ディグ! なんでそんなこと言うのよ!」
「いや、むしろディグラッド君の言わんとすることは分かる」
教授がベルを制止しつつクリストリスにウインクする。
「クリストリス君が失望の未来を回避するためには、歴史の流れを変えてはいけない。改変ポイントが見えなくなる恐れがあるからだ。だからなるべく小さな変化も起こさせない、かつ早く『空の迷宮』へディグラッド君を向かわせる必要があった」
クリストリスは大きく頷く。
「そして、その瞬間以外にもディグラッド君が魔王になる瞬間がある、ということなんだろう。それを危惧して多くを語れない、と吾氏は読み取った」
「すごい、です……」
「ではこれから我らは何をすればいいのかな?」
リブラード議長はなるべく優しい声でクリストリスに提案する。
「はい…… 『空の迷宮』では、あの場にいた迷宮の核たちには、お父様を魔王にする決定権みたいなのがあったんです」
「迷宮の核? 玉座を除いて、あの部屋にそんなものあったかしら?」
「師匠―― あの部屋の壁一面に生えていたクリスタル…… あれ、それぞれ吸収された迷宮の核、だったんです」
「何ですって? それじゃあ、あの時ランビルドがとった態度はそれを知っていた可能性が?」
彼が事前にどこまで知っていたかはもう分からないが、あの玉座を利用するつもりだったことは間違いないだろう。
「ですが、迷宮そのものが崩れたことによって迷宮の核は散り散りとなり、再び魔王となる人間を選ぶ時間的余裕を作ることに成功しました」
「民主主義の政のようでござるな」
確かに。変にそこは人間くさい。
だけど、自分たちが仕えるべき王を選定するとなると、理にかなった方式であると思う。人間と違い、体全てを委ねるわけだからな。
「迷宮たちは迷っています。魔王を決めてこの生活を変えるべきか、今までのように人々と共生するのか。それをなるべく多くの迷宮に働きかけ、また魔王となる人間を選ぶでしょう」
「……魔王の存在がどう生まれるかのメカニズムが今ひとつピンとこなかったのは、そういうことか」
教授は相変わらずブツブツ口を挟むが、その内容は俺も気になるところだ。
「ちなみに魔王がそのタイミングで生まれるなら、本来我らの時代に生まれるべき勇者はまだ生まれていないのか?」
「えっ」
「へっ!?」
「ん?」
「――あ」
「お!?」
「ぬ!」
ビーダム学園長が口にした疑問は、女性陣の視線を俺に向けさせる。
「タイミングで言うなら、もう私がお母様のお腹に宿っていてもおかしくはないですが…… 勇者の力も、性行為で受け渡されると言われてましたし」
「えっ!? それは聞いてない!」
そこで女性陣がそれぞれお腹をさする。五人ともだ。やめて。他の人の視線が痛い。全部俺が悪いんだけど。
「……おいらの息子、とんだ女たらしじゃねーか」
「ディーくん? ベルちゃんやマイナちゃんはまだ分かるわ。けど、旧友のラスキーがどうしてお腹を擦ってるのかしら?」
「それに加えて残りの女性たちも覚えがあるってことは、この数日で?」
「いやいや、むしろまだ俺の中に勇者の力があるかも知れないじゃん! それがあるから魔王にならなかった可能性があるじゃん!」
苦し紛れの言い分だが、これを崩すのは難しいんじゃないか?
「えっと、むしろ私がお腹に宿ってたなら力は受け渡されてるはずなので…… 微妙なところです!」
「つまりディーくんには思い当たることがあるわけね」
「違うんです、おばさま! 試練の間で仕方なく!」
そうじゃないんだベル。少なくともラスキーさんはそうだとしても、イレーナさんたちがお腹を擦る理由にならないんだ……
「勇者はそうかも知れないわ。けど、それと関係なく行為をした覚えがある、という点において、ディーくんはきちんと説明をするべきじゃあないかしら」
あっ、確かに……
根本的に皆と関係を持ったという事実から…… 説明を回避できないっ!
「よいではないか、リフィール。少なくとも妾は自ら望んで抱かれた。多少の強制はあったかも知れぬがな」
「むしろその事実が怖いわ、ラスキー…… 貴女、年下が好みだったわけ?」
「まーまーまー! 話が脱線しかかっている」
リブラード議長がいったん話を切ってくれた。……今日は早く寝よう。
「こちらで脱線する話題を振ってしまったな。議長済まない。彼の活躍は学園内でも噂になるほど知れ渡っているし、学園長としても世話になったことがあるしな。彼の呼びかけがあれば認識を改めてくれる生徒は少なくないだろう」
「うむ。ギルドとしても、今後迷宮たちとよりよい関係をしていけるように、各パーティやマイスターたちに働きかけたほうがいいな」
その後もクリストリスが明かせる未来の話と、これからの展望について話し合った。
いったん、俺の女性関係のひどさは横に置いて。
◇
「ごめんね、ディグ。ちゃんと助けてあげられなくて」
「いいよ。甘えてた事実もあるし、俺だって一人に絞れない優柔不断なところが悪いんだから」
「ディグ殿は悪くないでござる。某らが一方的にディグ殿を慕っておるだけでござるゆえ」
「せやで。ゆうて、それも全部受け入れてまうディーやんも人が良すぎるわ」
「んっ、それも、わかる、なっ! それに、男なら、こんな環境も、悪く、なかろう!?」
「俺は…… っ、構わないですよ。許されるなら、このままでも」
全身の力が抜ける。
みんなが帰った後、節操なく彼女らと関係を続けることに罪悪感を感じながらも、またこうして一緒に居ることが幸せでたまらない。
「ディグちゃん、三人目なのに―― すごいね」
「こんなディグ、クリスちゃんに見せられないわ」
ベルの思い付きに、つい苦笑いを返す。
俺としては一度見られているから特に感情はない。……こともないか。
あの時はクリストリスも幼い姿だったし。
「もしもクリストリス殿に迫られたら、ディグ殿はどうするつもりでござる?」
「いやいや待ってよミサオさん。向こうが嫌がるでしょう。だって、一応父親ですよ?」
「――厳密に言うなら、あの身体なら血縁者ではない、から、大丈夫っ」
待ってマイナさん。そうやって俺の倫理観をひっぺがすのはやめて。
「ディグラッドは、誰にクリストリスを産んでほしい?」
「え? だってクリストリスはもう」
「今のクリスちゃんはまだ生まれてないでしょ? なら、勇者の力を込で考えると誰かが彼女を産まなきゃ」
「そ、それはそうだけど」
優柔不断というか、俺は正直誰がクリストリスを産んでも構わないと思ってる。
「俺は、誰が産んでくれても嬉しいし、なんならみんなに産んでほしい」
「玉虫色の解答でござるな」
「ぐっ!」
「ディグちゃんらしい―― けど、私たちだってディグちゃんの子供は欲しいよ」
「まあ、わっちの子でないのは間違いないやろな。ミナナギやなかったし」
「でもあの髪の色は、私たちでもないのよね」
そうだ。神殿で見たクリストリスの髪も、いま俺たちと同じくらいまで成長した彼女も同じくエメラルドグリーンの髪色をしている。俺たちとも、ミナナギとも違う。
「んー、なら産んでみんとわからんってことやな。ディーやん、いっちょ仕込んでみよか」
「待って、もう一周シたんだからちょっと休みません?」
「えー、まだ一回しかシてないじゃん」
「俺はもう五回頑張ってるの!」
「チャンスは平等にあるべきだと思うのだが、そうは思わんか? ディグラッド」
求められれば答えずにはいられないのが、まさかこんな形で裏目に出るとは……
「――よし、回復魔法をかけたからまだ大丈夫」
「うぐぐ、こうなったら全員覚悟しろよ!」
「キャー、旦那様がご乱心よー」
この先の事はいったん後で考えよう。
目の前にいる大切な人たちが悲しまないためにも。
「今日は、私の我儘を叶えるために集まっていただいて、ありがとうございます」
ぺこり、とその場で頭を下げる。
「すでにお父様から簡単に聞かれてると思いますが、あらためて説明します。私は、今からおよそ二十年後くらいの未来からこの時代に来ました。あの悲惨な未来を止めるために」
彼女は巻き戻るジェスチャーをして、現在ここに来たという仕草をして見せる。
「私がいた時代には、既に魔王と名乗る巨大迷宮の主が大陸のほとんどの迷宮を掌握していて、人々が築きあげた文明の多くは、ほぼ奪い取られてしまいました。それらは迷宮の資源に留まらず、自然環境にすら浸食していきました。青空は山の噴火によって舞い上がる灰で覆われ、川の水は澱んで腐り、植物はまともに育たなくなり、人々は住むところすら制限される事態に陥っているんです」
だが、ここにいるほとんどの人たちには現実味のない話でもある。
たった二十年そこらで今ある文明が奪われるなどと、誰が予想できようか。直接相対した俺ですら、そこまでの脅威を感じることは難しい。
それでも彼女は時を越えて警告にきた。その事実は、動かしようのない『先の話』として考えないといけない。
彼女の話す内容はまさに『明日のわが身』なのだから。
「今回はお父様たちのおかげで危機を脱しましたが、近い内に何らかの方法でこちらに介入しに来るはずです。それまでどうか、力を貸してください」
「えーと、クリストリスさん?」
「はい、なんでしょう!」
学園長が手をあげて質問を始めた。
「君が見た魔王…… 名前はなんていうんですか」
もっともな意見だ。
しかし彼女は早速言葉を詰まらせる。
「それが…… 私が物心つくころには『魔王』としか呼ばれず、それ以外の名前を知ることはできませんでした」
「そうですか」
俺たちが知りえた情報から察するに、一番可能性があるのは「ランビルド」だろうが、名前が分からない以上、こちらが打てる手は少ない。
「しかし今までの話を統合すれば、最も可能性が高いのはやはりランビルドしかおらぬだろう」
ラスキーさんの言葉に上層部たちが頷く。俺もその意見に賛成だが、今ひとつ納得がいかない。
「でも、仮にランビルドが魔王になったんだとして、なんで今あいつは行動しないんだろう」
「ディグラッド君、何か思い当たることでも?」
「教授は知ってますよね、あいつのこと」
相槌を入れた教授に、俺は質問を返す。
「もちろんだ。短い時間とは言え、奴の性格を把握するのは十分な期間一緒に過ごしたつもりだ」
「彼はかつて、魔王になるための力を欲しました。けどうまくいかなかった。これは何故だと思いますか?」
ランビルドは『迷宮の主』たろうとした。それを願い、拒否された。……と思ってる。
「人の身には迷宮を統べる力はふさわしくない。ということではないのか」
「それも要因としてはあると思うんですが、『空の迷宮』最奥部を見て別の要因も必要じゃないかと思ったんです」
俺はクリストリスに視線を移す。
「お父様は未来人ですか? 私が言いたいことの半分くらい言っちゃいました」
「なんとなく、だよ。心当たりもあるしね」
「――あの部屋で、ディグちゃんが魔王になりかけたこと?」
マイナさんの発言に、その場の空気が凍りついた。
「……その話、わたくしも興味ありますわ」
「つまり先日の一件が、そもそも魔王誕生に一役買っていたという話かねディグラッド君?」
「ち、違いますよ! あの場にいたから何となく! そうかなって思っただけで!」
ケミーさんと教授の目が変わった。それぞれ怒りと興味で違う色だが。
「まあまあ、いいじゃないか。クリストリスさんの話をかいつまめば、歴史は変わりつつあるということなんだね?」
ビーダム学園長が話の軌道修正をしつつクリストリスに話を振る。
「……はい。詳しく皆さんに伝えることはバターファックエレファントになるらしく、タイミングが過ぎたことしか言えません」
「バタフライエフェクトちゃうんか」
俺の娘、おっちょこちょいだな。
「そ、それです! 私がこの時代に来た事によって、既に色々ズレて来てるみたいです!」
「なるほど、そういうこと。だからこの時代に無理やり来るときもディーくんの娘っていう立場そのものごと、歴史を変えずにやってきた、ってことかしら?」
「はい! 流石はお祖母様!」
まあ、神殿でのやり取りを見てると確かに俺を狙い撃ちした感じはある。
「ってことは、やっぱりあの瞬間に俺は魔王になる感じだったんだな」
全員がクリストリスを見る。
「歴史のターニングポイントを変えることなく、俺が魔王になる瞬間だけを変えるために、あえて早く『空の迷宮』へ足を運ばせて事態を収束させるつもりだった……」
彼女の顔がどんどん青くなる。
無理もない。先ほどまでクリストリスが守ろうとしているバタフライエフェクトをぶっ壊してるんだからな。
「ディグ! なんでそんなこと言うのよ!」
「いや、むしろディグラッド君の言わんとすることは分かる」
教授がベルを制止しつつクリストリスにウインクする。
「クリストリス君が失望の未来を回避するためには、歴史の流れを変えてはいけない。改変ポイントが見えなくなる恐れがあるからだ。だからなるべく小さな変化も起こさせない、かつ早く『空の迷宮』へディグラッド君を向かわせる必要があった」
クリストリスは大きく頷く。
「そして、その瞬間以外にもディグラッド君が魔王になる瞬間がある、ということなんだろう。それを危惧して多くを語れない、と吾氏は読み取った」
「すごい、です……」
「ではこれから我らは何をすればいいのかな?」
リブラード議長はなるべく優しい声でクリストリスに提案する。
「はい…… 『空の迷宮』では、あの場にいた迷宮の核たちには、お父様を魔王にする決定権みたいなのがあったんです」
「迷宮の核? 玉座を除いて、あの部屋にそんなものあったかしら?」
「師匠―― あの部屋の壁一面に生えていたクリスタル…… あれ、それぞれ吸収された迷宮の核、だったんです」
「何ですって? それじゃあ、あの時ランビルドがとった態度はそれを知っていた可能性が?」
彼が事前にどこまで知っていたかはもう分からないが、あの玉座を利用するつもりだったことは間違いないだろう。
「ですが、迷宮そのものが崩れたことによって迷宮の核は散り散りとなり、再び魔王となる人間を選ぶ時間的余裕を作ることに成功しました」
「民主主義の政のようでござるな」
確かに。変にそこは人間くさい。
だけど、自分たちが仕えるべき王を選定するとなると、理にかなった方式であると思う。人間と違い、体全てを委ねるわけだからな。
「迷宮たちは迷っています。魔王を決めてこの生活を変えるべきか、今までのように人々と共生するのか。それをなるべく多くの迷宮に働きかけ、また魔王となる人間を選ぶでしょう」
「……魔王の存在がどう生まれるかのメカニズムが今ひとつピンとこなかったのは、そういうことか」
教授は相変わらずブツブツ口を挟むが、その内容は俺も気になるところだ。
「ちなみに魔王がそのタイミングで生まれるなら、本来我らの時代に生まれるべき勇者はまだ生まれていないのか?」
「えっ」
「へっ!?」
「ん?」
「――あ」
「お!?」
「ぬ!」
ビーダム学園長が口にした疑問は、女性陣の視線を俺に向けさせる。
「タイミングで言うなら、もう私がお母様のお腹に宿っていてもおかしくはないですが…… 勇者の力も、性行為で受け渡されると言われてましたし」
「えっ!? それは聞いてない!」
そこで女性陣がそれぞれお腹をさする。五人ともだ。やめて。他の人の視線が痛い。全部俺が悪いんだけど。
「……おいらの息子、とんだ女たらしじゃねーか」
「ディーくん? ベルちゃんやマイナちゃんはまだ分かるわ。けど、旧友のラスキーがどうしてお腹を擦ってるのかしら?」
「それに加えて残りの女性たちも覚えがあるってことは、この数日で?」
「いやいや、むしろまだ俺の中に勇者の力があるかも知れないじゃん! それがあるから魔王にならなかった可能性があるじゃん!」
苦し紛れの言い分だが、これを崩すのは難しいんじゃないか?
「えっと、むしろ私がお腹に宿ってたなら力は受け渡されてるはずなので…… 微妙なところです!」
「つまりディーくんには思い当たることがあるわけね」
「違うんです、おばさま! 試練の間で仕方なく!」
そうじゃないんだベル。少なくともラスキーさんはそうだとしても、イレーナさんたちがお腹を擦る理由にならないんだ……
「勇者はそうかも知れないわ。けど、それと関係なく行為をした覚えがある、という点において、ディーくんはきちんと説明をするべきじゃあないかしら」
あっ、確かに……
根本的に皆と関係を持ったという事実から…… 説明を回避できないっ!
「よいではないか、リフィール。少なくとも妾は自ら望んで抱かれた。多少の強制はあったかも知れぬがな」
「むしろその事実が怖いわ、ラスキー…… 貴女、年下が好みだったわけ?」
「まーまーまー! 話が脱線しかかっている」
リブラード議長がいったん話を切ってくれた。……今日は早く寝よう。
「こちらで脱線する話題を振ってしまったな。議長済まない。彼の活躍は学園内でも噂になるほど知れ渡っているし、学園長としても世話になったことがあるしな。彼の呼びかけがあれば認識を改めてくれる生徒は少なくないだろう」
「うむ。ギルドとしても、今後迷宮たちとよりよい関係をしていけるように、各パーティやマイスターたちに働きかけたほうがいいな」
その後もクリストリスが明かせる未来の話と、これからの展望について話し合った。
いったん、俺の女性関係のひどさは横に置いて。
◇
「ごめんね、ディグ。ちゃんと助けてあげられなくて」
「いいよ。甘えてた事実もあるし、俺だって一人に絞れない優柔不断なところが悪いんだから」
「ディグ殿は悪くないでござる。某らが一方的にディグ殿を慕っておるだけでござるゆえ」
「せやで。ゆうて、それも全部受け入れてまうディーやんも人が良すぎるわ」
「んっ、それも、わかる、なっ! それに、男なら、こんな環境も、悪く、なかろう!?」
「俺は…… っ、構わないですよ。許されるなら、このままでも」
全身の力が抜ける。
みんなが帰った後、節操なく彼女らと関係を続けることに罪悪感を感じながらも、またこうして一緒に居ることが幸せでたまらない。
「ディグちゃん、三人目なのに―― すごいね」
「こんなディグ、クリスちゃんに見せられないわ」
ベルの思い付きに、つい苦笑いを返す。
俺としては一度見られているから特に感情はない。……こともないか。
あの時はクリストリスも幼い姿だったし。
「もしもクリストリス殿に迫られたら、ディグ殿はどうするつもりでござる?」
「いやいや待ってよミサオさん。向こうが嫌がるでしょう。だって、一応父親ですよ?」
「――厳密に言うなら、あの身体なら血縁者ではない、から、大丈夫っ」
待ってマイナさん。そうやって俺の倫理観をひっぺがすのはやめて。
「ディグラッドは、誰にクリストリスを産んでほしい?」
「え? だってクリストリスはもう」
「今のクリスちゃんはまだ生まれてないでしょ? なら、勇者の力を込で考えると誰かが彼女を産まなきゃ」
「そ、それはそうだけど」
優柔不断というか、俺は正直誰がクリストリスを産んでも構わないと思ってる。
「俺は、誰が産んでくれても嬉しいし、なんならみんなに産んでほしい」
「玉虫色の解答でござるな」
「ぐっ!」
「ディグちゃんらしい―― けど、私たちだってディグちゃんの子供は欲しいよ」
「まあ、わっちの子でないのは間違いないやろな。ミナナギやなかったし」
「でもあの髪の色は、私たちでもないのよね」
そうだ。神殿で見たクリストリスの髪も、いま俺たちと同じくらいまで成長した彼女も同じくエメラルドグリーンの髪色をしている。俺たちとも、ミナナギとも違う。
「んー、なら産んでみんとわからんってことやな。ディーやん、いっちょ仕込んでみよか」
「待って、もう一周シたんだからちょっと休みません?」
「えー、まだ一回しかシてないじゃん」
「俺はもう五回頑張ってるの!」
「チャンスは平等にあるべきだと思うのだが、そうは思わんか? ディグラッド」
求められれば答えずにはいられないのが、まさかこんな形で裏目に出るとは……
「――よし、回復魔法をかけたからまだ大丈夫」
「うぐぐ、こうなったら全員覚悟しろよ!」
「キャー、旦那様がご乱心よー」
この先の事はいったん後で考えよう。
目の前にいる大切な人たちが悲しまないためにも。
1
あなたにおすすめの小説
転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜
まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、
専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活
現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。
しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。
彼は大陸一の富を誇る名門貴族――
ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。
カイルに与えられたのは
・世界一とも言える圧倒的な財力
・財力に比例して増大する規格外の魔力
そして何より彼を驚かせたのは――
彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。
献身的なエルフのメイド長リリア。
護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。
さらに個性豊かな巨乳メイドたち。
カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。
すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――
「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」
領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、
時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、
最強の御曹司カイルは
世界一幸せなハーレムを築いていく。
最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
タイム連打ってなんだよ(困惑)
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
「リオ、お前をパーティから追放する。お前のようなハズレスキルのザコは足手まといなんだよ」
王都の冒険者ギルドにて、若手冒険者のリオは、リーダーの身勝手な都合によってパーティから追い出されてしまい、同時に後宮では、聖女の降臨や第一王子の婚約破棄などが話題になっていた。
パーティを追放されたリオは、ある日商隊の護衛依頼を受けた際、野盗に襲われる可憐な少女を助けることになるのだが、彼女は第一王子から婚約破棄された上に濡れ衣を着せられて迫害された元公爵令嬢こと、アイリスだった。
アイリスとの出会いから始まる冒険の旅、行く先々で様々な思惑によって爪弾きにされてしまった者達を受け入れていく内に、彼はある決意をする。
「作ろう。誰もが幸せに過ごせる、そんな居場所を」
目指すべき理想、突き動かされる世界、そしてハズレスキル【タイム連打】に隠されたリオの本当の力とは?
※安心安全安定安泰の四安揃った、ハピエン確定のハズレスキル無双です。
『エ○ーマンが倒せない』は関係ありません。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります
はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。
「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」
そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。
これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕!
毎日二話更新できるよう頑張ります!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる