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5話

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数日後。


警官と共に自宅の扉を叩く。


ガルシア達に奪われた自宅を取り返しに来たのだ。


私の正当性は、すぐに認められた。
夫の不倫と暴力による結婚生活の破綻。


そして働いているのが私だけと言う事実。


自宅が私のものであると証明するのは簡単だった。
無職で働かない元旦那様では買えるわけがない、と。


それにもともとの信用力も違うのだ。
当然と言えば、当然だった。


「なんだよ、朝っぱらから」


ガルシアが扉を開く。
眠そうな顔で。


あくびをしながら。


まだ自分たちがどうなるのか分かっていないようだ。


私と警官の顔を見る。
突然の事に驚いた顔をした。


「てめぇ!どのうらさげて来やがった!」


そして怒った顔になる。
私につかみかかろうとしてきた。


でもその手は私に届かない。
警官さんが間に入ってくれる。


元旦那様も、警官には敵わない。
手をピタリととめた。


歯を食いしばりながら、こちらをにらみつけてくる。


自分よりつい奴がいるといつもこうだ。
相手が弱いときだけ威張る人。


本当に醜い人だ。


「家、返してもらえる?」


私は冷静に告げる。
顔に笑顔を貼り付けながら。


「はあ?何馬鹿なこと言ってんだ?」


「これ。判決。ここは私の家なの。あなたのものじゃない」


「はあ!?」


ガルシアに紙を見せつける。
目の前の家が、彼らが平然と住む所が、私のものであると証明する紙だ。


「期限は今から3日後まで。ちゃんと伝えたからね」


紙をガルシアに押しつける。
そしてもう用はないときびすを返す。


目の前で説明したのだ。
警官にも見てもらっている前で。


もう、知らなかったなどというウソはつけない。
郵送だと、難癖つけられそうだったから。


わざわざ直接言いに来てやったのだ。


偉いと思いません?


こんな男に、ここまで時間をかけてやるなんて。


「ふざけんなよ!」


ガルシアの怒声が聞こえた。
けれど私は振り向かない。


もう、これ以上時間を掛けるだけ無駄だ。
お金はまた稼げる。


家も、頑張ればまた手に入る。


けれど時間は手に入らないのだ。


あのクズにたくさん時間を使ったと思うと癪に障る。
死んだ時、使った時間の集計が見えたらきっと後悔するだろう。


だから相手にしてやらない。


家は戻ってきたらすぐに売りに出す。


慰謝料と、売却代を合わせればそこそこになる。
実家への仕送りも減らすのだ。


私の懐は、暖かい。


やりたいことはたくさんあるのだ。
自由になった時間の分、思いっきり遊ぼうと思う。


親友にもいろいろとお礼をしなければいけない。


何をしようとも、あのクズといるより有意義だ。


大切な時間なのだ。
有意義に使うとしよう。


「慰謝料はねえのかよ!」


と決意していたのだけれど。
旦那のとんちんかんな叫びが聞こえた。


思わず振り返る。
そして、思いっきりいってやる。


「あるわけないでしょ?あなたの浮気が原因なのに」


旦那の驚愕する顔。
ざまあみろ、と思った。


これは有意義な使い方だ。
だって、とても素敵なものが見えたのだから。
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