【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命

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第16話 まさかの主人公に遭遇する

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「僕も遂に、闘技大会トーナメントに出られる……!」

 しみじみとした感動。
 ラメセスはまさにそれを感じていた。

 なんだか嬉しそうだったので、「勝手に俺を巻き込むなよ」なんてことは言えない雰囲気だ。

「なんかさ、他の連中も結構手強いって話だったけど、それはどうするのさ?」

 コンスタスは呑気に欠伸あくびをして余裕そうだ。
 彼も彼で、大会に参加することを楽しみにしている。

 この闘技場での戦いにおいて、弓矢使いアーチャーは比較的不利である。
 それなりにフィールドは広さがあるけど、剣使いが距離を縮めようと思えば、高速移動してすぐに矢を回避できる。

 離れた位置から狙おうと思っても、相手がその距離を詰めてくれば元も子もない。

 何か勝算があるのか、それとも普通に「試合に出ること」を楽しむタイプの人間なのか。
 ある程度コンスタスを知る者として、多分後者の方だと思った。

「レッドくん、もし私が今回の闘技大会トーナメントで準々決勝まで進んだら、結婚してください」

「いや随分と弱気みたいだけど。せめてそれは優勝だろ」

「レッドくんは私と結婚したくないんですか?」

 シャロットがうるうるした青い瞳で見つめてくる。
 
 あー面倒くさい。
 
「結婚したくない」

 なるべく冷たくならないように言い放った。
 
「悲しいです……シクシク……」

「嘘泣きだろ」

「もう、レッドくんったら。エッチですね」

 何がしたいのかわからない。
 それが、メインヒロインである彼女シャロットの言動。

「嘘泣きを指摘することのどこにエロさがあるのやら」

「全てですよ。レッドくんという存在自体がエロいので、何を言ってもレッドくんはエロいんです」

「はいはいそうすか」

「その適当に流した感じの言葉も、凄く色っぽくて素敵です」

 彼女の感性はどうかしてると、改めて思った。



 ***



 ダスケンデール闘技場はこの街ダスケンデールで最大の闘技場だ。
 
 東京ドーム何個分とかよく説明に使うけど、そもそも東京ドームがどれくらいの大きさなのか知らないので、表現のしようがない。

 とはいえ、多分そんじょそこらのドーム以上はあるだろう。
 客席には街中の人々が座り、テレビもなければゲームもない、娯楽の少ないこの世界での数少ないエンターテインメントを楽しむ準備をしている。

「エントリー申請は終わりましたか?」

 そっけない態度で、シャロットがラメセスに聞いた。

「勿論。このパーティーの全員分、申請しておいたよ」

 グーサインを出し、軽く頷くラメセス。
 活気が溢れている。
 ハンサムな顔立ちに欠かせない白い歯が、太陽の光を反射して輝いた。

『ラメセス様だ』

『見ろ。今年は剣聖も出るらしいぞ』

『俺達に勝ち目なんてないじゃねーかよ』

『おいおい、あのセブルス・ゴードンも来てるらしいぜ』

『やべぇな。おれはセブルスそっちに賭けるわ』

 エルフの剣聖を見るなり、周囲の一般市民がヒソヒソ話し出す。
 
 こういう光景はギルドの時とさほど変わらない。
 ただ、気になったのは──。

 ──セブルス・ゴードン。

 この名前には聞き覚えがある。

 しっかり『英雄物語ロード・オブ・ザ・ヒーロー』で登場する主要人物メインキャラクターだからだ。
 その役柄は悪役。

 というのも、彼は悪役レッド・モルドロスのワルなパーティーに所属する嫌な奴第2号だった。

 でも、ここでおかしな矛盾みたいなものが生じる。

 奴の所属するパーティーの責任者リーダー、レッド・モルドロスは俺だ。
 でもこの場合、悪役であるレッドは彼のリーダーではない。

 じゃあ、どんなパーティーに入ってるんだ?

 少し気になる。
 あとでこっそり確認してみよう。少しはいい奴になってるといいけど。

「トーナメント表によると、この中ではコンスタスが最初に出番があるみたいだ」

 ラメセスが口を開いた。

「よぅーし! やってやるぞ!」

 小さな拳を握り締め、気合を入れる小人コンスタス
 
 矢筒に入っている様々な種類の矢を最終確認した後、すぐに下の待合室みたいなところに向かった。
 
 もう別の戦士の戦いは始まっている。
 俺達が出場するのは、勿論武器を使った1対1のトーナメント戦だ。

 勝てば次の対戦相手と戦うことができる。

 そして負ければ、その時点で終了だ。

 俺はシードという、いいのか悪いのかよくわからないものに当たってしまった。
 多分それなりに実力はある方だと自負しているので、初戦敗退はないだろう。でも油断はできない。

 初戦がラメセスに敵うほどの実力者だったら、苦戦は間違いなしだ。

「レッドくん、結婚の約束、忘れないでくださいね」

 そう言って、シャロットが俺の腕に抱きついてきた。
 残念。
 もう慣れた。

 すっかり無の境地に達している。賢者になったような気分だ。

 今の俺なら、この闘技大会トーナメントで優勝できるかもしれない。

「レッドくん、もしあなたが優勝しても、私と結婚してくださいね」

 決めた。

 絶対に優勝しないように頑張ろう。

 目指すは準優勝。
 そしてできれば、ラメセスには優勝して欲しい。

『貴様がレッド・モルドロスか?』

 待合室のコンスタスを除いた俺達3人の席に、4人のパーティと思われる男女が近づいてきた。

 その中のひとりが、俺を死んだ魚のような暗い目で見つめ、そう聞いた。
 
 超不気味。
 そういうのはやめて欲しい。せめて笑顔で話し掛けてきて欲しかった。

「君はもしかして──」

 ラメセスが何か言いかける。

「貴様はエルフの剣聖。噂は聞いている。その姿だけ見れば、さほど強くもなさそうだ」

 その男は長身で、痩せ細っていた。
 長いローブを纏っていることから、魔術師だと思われる。種族は多分ヒューマン。正直アンデットだと言ってやりたいぐらいに醜い顔ではあるけど。

 細い糸目は紫色で、どこからどう見ても闇の魔法使いでーすって感じだ。

「セブルス、やめろ」

 エルフの剣聖に向かって偉そうにしているローブの男を、隣の男が止める。

 ボサボサの黒髪に、緑色エメラルドグリーンの瞳。
 背丈はヒューマンの男にしては小柄で、だいたい160と数センチくらいってところだろう。

 愛嬌のある顔立ちをしているけれど、外見だけ見ると、そこまでかっこいいとは思わない。

 でも、彼には魅力があった。
 どこまでも勇敢で、優しく、まっすぐという魅力が……あったはずだ……。

「俺様の連れが生意気で悪い」

 彼はそう言うと、セブルスと呼ばれた男の腹を力強く殴った。

「──ッ!」

 あまりの痛さに呻くセブルス。
 気づけば吐血しいていた。

 俺達3人は黙って見ていることしかできなかった。俺はショックが大きすぎて、何も言えない状態に陥っている。

 吐血を見たから、という理由ではない。
 
 殴った「俺様」の男の正体を知っているからだ。
 そして、俺の中でのそいつは、今目の前にいるような輝きを失った青年ではない。どんな苦境に立たされても、諦めずに走り続けるような青年だ。

 主人公ヒーローが、どうしてこんな姿に……。

 アーサーが連れている3人のことも知っていた。
 それはそう、物語ではレッド・モルドロスのパーティー仲間メンバーだったからだ。

 実力派黒魔術師のセブルス・ゴードン。

 ヒューマンひと殺しのダークエルフ、シャープ・アロケル。

 堕落の淫魔サキュバス、エロナ・スフィロン。

 この3人は極悪非道の人間だ。
 問題行動ばかり起こす、まさに黒の生物達。この中で見れば、物語でのレッドが凄くまともな悪役に見える。それくらいヤバいパーティだったのだ。

「おい、レッド・モルドロス。お前がもし順調に勝ち進めば、準決勝でこのセブルスと当たる。覚悟しとけよ」

 はぁ。

 表には出さないよう、変な問題を起こさないよう、心の中で溜め息を漏らす。
 大好きだったアーサー君は、グレてしまいました。

 どうすればいいのでしょうか?

 ゴミを見るような目で俺を睨んだ後、アーサー達は態度悪めでどこかに消えた。
 
 ポップコーンでも買いに行ったことを願おう。

「さっきの人とは知り合いですか?」

 シャロットが沈黙を破る。

「覚えてないのか? 学院で俺達と同級生だった、アーサー・バトウィックだ」

 俺は声が裏返りそうになるのをこらえながら、静かにそう答えた。





《次回17話 シンエルフの戦いを観戦する》
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