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第26話 受付嬢の殺意に肝を冷やす
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ラメセスに連れられ、闘技場の外に出た。
ダスケンデールで1番大きな闘技場。
円形で、古代ローマのコロッセオみたいな感じだ。
前世でイタリアになんて行ったことがなかったから、こうして生で見る円形闘技場には感動したのを覚えている。それは幼い頃、母に連れられてここに来た時だ。
そんな歴史を感じる堂々とした佇まいに感動していたとしても、その中では残酷な戦いが繰り広げられている。
確かに誰かと誰かが戦うのを見るのは、前世でいうスポーツの試合を見るようで面白く、数少ない娯楽のひとつとも言えるのかもしれない。
でも、この戦いでスポーツと違うところ。
それは死人が出ることだ。
極力死人は出さないような規制が設けられているけど、あまりにレベルが違いすぎると加減できずに殺してしまう、なんていう惨事が起こりかねない。
対戦相手の命を奪ってしまった戦士にはそれ相応の罰則が与えられる。
罰金だったり、ランクの格下げだったり。
でも、失われてしまった命は元には戻らない。
「あの人だよ」
ラメセスが指さす先には、道のど真ん中で正座しながら瞑想している男がいた。
周囲から白い目で見られていることなんて気にもしていない。
そのうち呪文でも呟き出すんじゃないかってくらいに集中している。
彼からはまさに無のオーラを感じ取った。
「だろうな」
また出た溜め息。
あんな変人に声を掛ける俺達まで、変人扱いされてしまうことは確実だ。
「やあ、君の希望する人物を連れてきたよ」
友達に話し掛けるかのように、ラメセスが口を開く。
異国から来た男はゆっくりと目を開け、俺を凝視した。
「汝、名を述べよ」
「はいはい、レッドです」
渋く、古風な口調。
日本人を彷彿とさせる長い黒髪は後ろで束ねてあり、まさに忍者というイメージに沿った黒ずくめの衣装。
オリジナリティーを出すためなのか、忍者と武士が合わさったような彼の姿は、なかなか様になっていた。
キリッとした切れ長の目も、彼の格好よさというものを表すのにちょうどいい。
「拙者の名は文影。東の国よりダスケンデールに参上した。学徒を出てからの汝の活躍を耳にした者である。手合わせ願いたく──」
「そういう面倒くさい言葉遣いはやめてくれ」
あー頭が痛くなる。
自己紹介なんてしてくれなくていい。
それはこっちの都合かもしれないけど、彼の人となりについては把握している。悪い奴じゃない。
ラメセスやコンスタスと同様、旅の仲間という類だ。
本当はもっと後で登場するはずなんだけど。
俺の存在が全てを狂わした、ということか。やっぱり、罪な男だぜ。
「よいのか?」
「普通に喋ってくれ」
「オッケー。じゃっ、戦おうぜ」
いや急に人が変わりすぎだろ!
普通に喋れと言った瞬間こうだ。
物語ではあの口調のまま最後まで戦っていたぞ。
もしや、彼は猫を被っていたということだろうか。古風で真面目だと思われていた人物なのに、登場して30秒でキャラ崩壊してもいいのか!?
これにはラメセスもポカンとしている。
ていうか、お前もキャラ崩壊してるからな! この金好き&負けエルフ野郎!
「ラメセスは街のど真ん中で戦ったのか?」
戦うとはいっても、街で戦えばダスケンデール市民を巻き込んでしまう危険がある。
「いや、ギルドの裏に決闘場があるだろう? そこを使わせてもらったんだ」
「そんなとこあったんだ」
「滅多に使われないところだからね。知らなくてもおかしくはないかな」
「そこのイケメン達、さっさと行こうぜ。てか、ラメセス、だっけ? おめぇほんと最高だな! 生きてきた中で最高の戦いだったぜ、さっきのは」
知らない。
こんなキャラ知らない。
真面目で義理堅いあの性格はどこに行った!?
「もういっそのこと闘技場入ろーぜ」
俺とラメセスの動揺など知らないキャラ崩壊男が、今も熱い戦いが繰り広げられているであろう闘技場を指す。
「君が来るのがもう少し早ければ、この闘技大会に参加できたかもしれないね」
ラメセスが苦笑した。
「とりあえず場所を変えるぞ」
俺は呆れてそれしか言えなかった。
***
結局はギルド。
何かあったらギルド。
ギルドを挟めば確実。
ギルドに全幅の信頼を寄せる俺達は、そう、とりあえずギルドに向かった。
「闘技大会はどうされたのですか?」
受付嬢のアリシアが聞く。
素朴な質問だ。
俺だってこんな面倒事に巻き込まれたくはなかった。でも、これは新しいシナリオとやらが生み出した強制イベント。
無視するわけにはいかない。
俺がここで文影と一戦交えることは定まっている。
「いやー、拙者がわりぃ。この赤い奴と戦いたくてな」
一人称は拙者のままなんだ。どうでもいいけど。
「こちらの方はどなたですか?」
チャラさも漂う異国の男に、軽蔑の目を向けるアリシア。
気がつけば、文影とかいう馬鹿はアリシアの肩に手を乗せていた。
「おめぇ、めっちゃ可愛いな。この国にはこんな可愛い奴が東西南北いるのか?」
彼は死を覚悟した方がいい。
寒気がした。
アリシアがブチ切れるのも時間の問題かもしれない。
「……」
自然な流れで置かれた男の手に気づくアリシア。
殺伐とした視線。
瞳の奥の怒り、そして繰り出される凍える吹雪。
「……殺しますよ?」
受付嬢の口から出ていいものとは思えなかった。
それは脅しだ。
彼女の放つ迫力には、本気で対抗できるだけの力を有しているかのようだった。
その殺意に俺だけじゃなく、剣聖までも言葉を失う。
「強気なとこ、結構好きだぜ。てか、おめぇ、拙者のタイプなのかもしんねーな」
「キモいです。離れてください」
「言うねー」
向けられる殺意、そして軽蔑にも動じず、文影は笑った。
それを目撃する俺は思う。
文影は大物だ、と。
ラメセスと顔を見合わせた。
もう俺の感覚もおかしくなってきているのかもしれない。
俺とラメセスの視線が絡み合い、たったひとつの結論を出した。
イカれた者が集う俺達のパーティに、彼もまた必要だ、と。
《次回断章4 初戦敗退》
ダスケンデールで1番大きな闘技場。
円形で、古代ローマのコロッセオみたいな感じだ。
前世でイタリアになんて行ったことがなかったから、こうして生で見る円形闘技場には感動したのを覚えている。それは幼い頃、母に連れられてここに来た時だ。
そんな歴史を感じる堂々とした佇まいに感動していたとしても、その中では残酷な戦いが繰り広げられている。
確かに誰かと誰かが戦うのを見るのは、前世でいうスポーツの試合を見るようで面白く、数少ない娯楽のひとつとも言えるのかもしれない。
でも、この戦いでスポーツと違うところ。
それは死人が出ることだ。
極力死人は出さないような規制が設けられているけど、あまりにレベルが違いすぎると加減できずに殺してしまう、なんていう惨事が起こりかねない。
対戦相手の命を奪ってしまった戦士にはそれ相応の罰則が与えられる。
罰金だったり、ランクの格下げだったり。
でも、失われてしまった命は元には戻らない。
「あの人だよ」
ラメセスが指さす先には、道のど真ん中で正座しながら瞑想している男がいた。
周囲から白い目で見られていることなんて気にもしていない。
そのうち呪文でも呟き出すんじゃないかってくらいに集中している。
彼からはまさに無のオーラを感じ取った。
「だろうな」
また出た溜め息。
あんな変人に声を掛ける俺達まで、変人扱いされてしまうことは確実だ。
「やあ、君の希望する人物を連れてきたよ」
友達に話し掛けるかのように、ラメセスが口を開く。
異国から来た男はゆっくりと目を開け、俺を凝視した。
「汝、名を述べよ」
「はいはい、レッドです」
渋く、古風な口調。
日本人を彷彿とさせる長い黒髪は後ろで束ねてあり、まさに忍者というイメージに沿った黒ずくめの衣装。
オリジナリティーを出すためなのか、忍者と武士が合わさったような彼の姿は、なかなか様になっていた。
キリッとした切れ長の目も、彼の格好よさというものを表すのにちょうどいい。
「拙者の名は文影。東の国よりダスケンデールに参上した。学徒を出てからの汝の活躍を耳にした者である。手合わせ願いたく──」
「そういう面倒くさい言葉遣いはやめてくれ」
あー頭が痛くなる。
自己紹介なんてしてくれなくていい。
それはこっちの都合かもしれないけど、彼の人となりについては把握している。悪い奴じゃない。
ラメセスやコンスタスと同様、旅の仲間という類だ。
本当はもっと後で登場するはずなんだけど。
俺の存在が全てを狂わした、ということか。やっぱり、罪な男だぜ。
「よいのか?」
「普通に喋ってくれ」
「オッケー。じゃっ、戦おうぜ」
いや急に人が変わりすぎだろ!
普通に喋れと言った瞬間こうだ。
物語ではあの口調のまま最後まで戦っていたぞ。
もしや、彼は猫を被っていたということだろうか。古風で真面目だと思われていた人物なのに、登場して30秒でキャラ崩壊してもいいのか!?
これにはラメセスもポカンとしている。
ていうか、お前もキャラ崩壊してるからな! この金好き&負けエルフ野郎!
「ラメセスは街のど真ん中で戦ったのか?」
戦うとはいっても、街で戦えばダスケンデール市民を巻き込んでしまう危険がある。
「いや、ギルドの裏に決闘場があるだろう? そこを使わせてもらったんだ」
「そんなとこあったんだ」
「滅多に使われないところだからね。知らなくてもおかしくはないかな」
「そこのイケメン達、さっさと行こうぜ。てか、ラメセス、だっけ? おめぇほんと最高だな! 生きてきた中で最高の戦いだったぜ、さっきのは」
知らない。
こんなキャラ知らない。
真面目で義理堅いあの性格はどこに行った!?
「もういっそのこと闘技場入ろーぜ」
俺とラメセスの動揺など知らないキャラ崩壊男が、今も熱い戦いが繰り広げられているであろう闘技場を指す。
「君が来るのがもう少し早ければ、この闘技大会に参加できたかもしれないね」
ラメセスが苦笑した。
「とりあえず場所を変えるぞ」
俺は呆れてそれしか言えなかった。
***
結局はギルド。
何かあったらギルド。
ギルドを挟めば確実。
ギルドに全幅の信頼を寄せる俺達は、そう、とりあえずギルドに向かった。
「闘技大会はどうされたのですか?」
受付嬢のアリシアが聞く。
素朴な質問だ。
俺だってこんな面倒事に巻き込まれたくはなかった。でも、これは新しいシナリオとやらが生み出した強制イベント。
無視するわけにはいかない。
俺がここで文影と一戦交えることは定まっている。
「いやー、拙者がわりぃ。この赤い奴と戦いたくてな」
一人称は拙者のままなんだ。どうでもいいけど。
「こちらの方はどなたですか?」
チャラさも漂う異国の男に、軽蔑の目を向けるアリシア。
気がつけば、文影とかいう馬鹿はアリシアの肩に手を乗せていた。
「おめぇ、めっちゃ可愛いな。この国にはこんな可愛い奴が東西南北いるのか?」
彼は死を覚悟した方がいい。
寒気がした。
アリシアがブチ切れるのも時間の問題かもしれない。
「……」
自然な流れで置かれた男の手に気づくアリシア。
殺伐とした視線。
瞳の奥の怒り、そして繰り出される凍える吹雪。
「……殺しますよ?」
受付嬢の口から出ていいものとは思えなかった。
それは脅しだ。
彼女の放つ迫力には、本気で対抗できるだけの力を有しているかのようだった。
その殺意に俺だけじゃなく、剣聖までも言葉を失う。
「強気なとこ、結構好きだぜ。てか、おめぇ、拙者のタイプなのかもしんねーな」
「キモいです。離れてください」
「言うねー」
向けられる殺意、そして軽蔑にも動じず、文影は笑った。
それを目撃する俺は思う。
文影は大物だ、と。
ラメセスと顔を見合わせた。
もう俺の感覚もおかしくなってきているのかもしれない。
俺とラメセスの視線が絡み合い、たったひとつの結論を出した。
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