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勇者祭編
その97 混戦の予感
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一次予選を突破した生徒は全員で五十五名。
ここから決勝トーナメントの人数である十六名まで数を減らすと考えると、二次予選はさらにレベルを上げた、高い壁であることがうかがえる。
俺やグレイソンを含む一年生は十二名。
二年生が思いの外少なくて十三名。これが最後の勇者祭になる三年生が三十名という比率だ。
一年生の十二名の中で、〈1-A〉クラス出身は俺とグレイソン、獅子王にセレナ、ミクリン、神道、東雲、それにテオの八名。
今年の〈1-A〉は豊作だ。そう言われるのも頷ける。
「はっは! オレが思っていたより、周囲の連中は強かったらしいな!」
「学園全体がそう思っているだろうね。まさか僕達の学級から八人も二次予選に進むなんて」
一次予選の合格者は、〈待機室デルタ〉よりほんの少し広くて豪華な、〈待機室アルファ〉に集められていた。
そこで改めて同じクラスの七人と顔を合わせる。
獅子王は相変わらず、内側から溢れる自信を隠せていなかった。
「オスカーくん、絶対、決勝トーナメントに進もう」
「テオか」
俺に話しかけてきたのは、一次予選で百八十二点を獲得し、無事に突破を決めた天王寺テオ。
そのちょうど反対側には、彼の兄であるエイダンもいる。
元〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉の実力者であるエイダンが、一次予選落ちなどあり得ない。彼も彼で、あらゆる生徒に対しての敵意をむき出しにしていた。
「エイダンと戦う覚悟はできたか?」
「うん。おれは……今では……もっと高いものを、見てるから」
「そうか。眼差しがすっかり、変わったな」
テオの真っ直ぐな瞳を見て、頬の筋肉を緩める。
教え子の成長を喜び、遠くに送り出すかのように、大人びた表情を作った。
「お前の苦しみはお前自身で乗り越えるしかない。だが、その手助けは、俺がいつだってしてやろう」
「オスカーくん……」
テオが飛びついてきた。
ここは一応公共の面前だが、気にしている様子はない。
ただ「かっこよさそう」な台詞を放っただけだが、それがどうも彼の心に響いてしまったようだ。
俺は困惑を消し、落ち着きを纏う。
「俺達がこの勇者祭でできることは、全力で戦うことだけだ。もしテオと戦えと言われれば、俺は容赦なく君を対戦相手とみなす」
「おれだって……容赦は、しないよ……」
まだ鼻水をすすっている。
こういう時に発する言葉ではなかったような気もするが、とりあえずテオの闘志に火をつけたことに変わりはない。
俺にしかできないこともあるということだ。
「なんだ西園寺! やっぱ面白い奴だぜ! お前に目をつけたオレは間違いじゃあなかった!」
獅子王が牙のように尖った歯を見せ、ぼんぼんと俺の背中を叩いてくる。
彼もまた、行動の意図がわからない男だ。
クルリン二号と呼ぶことにしよう。
『私語はここまでにしてもらおうか、二次予選の資格を得た、選ばれし生徒諸君』
待機室に広がる桐生の声。
今回の説明は彼がしてくれるらしい。鬼塚でなくてほっとしたのは事実だ。
『ここにいる全員が、二次試験の内容を知らない。当然去年とはまったく異なるし、むしろ去年の何倍も難しい課題になるだろう』
その言葉で、この場にいる全員が気を引き締める。
『二次試験は、教師 VS 生徒だ』
***
『ここにいる五十五人には、それぞれくじを引いてもらう。引いたくじは私に見せて欲しい。私が回収し、記録する』
木箱の中に手を突っ込み、平然とした表情のままくじを引く。
ここで一切緊張を出さないのが、西園寺オスカーだ。
確かに対戦相手次第では、厳しいことになる。魔王セトを討ったとはいえ、剣術の技もまだまだ桐生に劣っているのだ。
俺に教師と対等にやり合えるだけの力があるのかは、神のみぞ知る。
『くじには君達が戦うべき教師の名前が書いてある。戦うと言えど、彼らの腰に巻いてある帯を奪うだけだ。それに――』
俺が引き当てたくじには、「草薙アーサー」の文字。
いいのか悪いのか、新人教師。
教師としては新人だが、戦いの経験は俺よりも多いはずだ。それに、彼には他の教師が失おうとしている、若さが残っている。
ある意味、アレクと同程度に未知数な男だ。
『――君達生徒は、基本的に三人でひとりの教師を相手にすることになっている。しかし、協力できる、とは思わない方がいいのかもしれないな』
一次予選で二位のアレクは俺と同じように動揺を見せず、淡々とくじを引き、桐生に渡した。
調子のいいアリアは、いつも以上に引き締まった様子だ。
まるで、感情などそこに入る隙がないかのように。
『ひとりの教師につき、ひとつのベルト。つまり、同じ教師の名がかかれたくじを引いてしまうということは、その瞬間、その生徒がライバルになるということだ』
お互いの顔を見合う生徒達。
ここに来てしまった時点で、その覚悟は必要だ。
友達は友達でも、勝負は勝負。誠意を見せるというのなら、お互い本気で戦うということだけだろう。
もし、グレイソンやセレナ、ミクリン、テオが俺と同じ草薙を引いたのなら、俺は彼らを蹴落とさなくてはならない。
――そんなことが、今の俺にできるのだろうか。
「マスター・桐生、ひとりの教師に三人の生徒、って言いましたよね? でも、当然ながら数が合わないので、ひとりの教師に四人の生徒、もしくは二人の生徒なんていうことになりませんか?」
ここで、呑気なアレクが手を上げた。
なんだろう。どこか他人事のように聞こえる。
彼はもう構えているということだ。俺よりも勇者祭の経験は二回も多い。
「いい質問だ、アレクサンダー。それは――運だ。実力があれば、どんな状況も乗り越えられる。たとえ不運に見舞われたとしても。そもそも、勇者にはどんな逆境にも立ち向かえるだけの器が必要――それが、この二次予選が求めていることでもあるのかもしれない」
「なるほど。でも、残念だなぁ。ボクが決勝トーナメントで戦いたいと思っていた相手と、ここで戦うことになるかもしれない」
アレクがちらっと俺を見る。
その後、グレイソンや獅子王に視線を向けた。
もしアレクが草薙を引いたのであれば、かなり厄介かもしれない。
今回の戦い、教師に対する警戒だけでなく、生徒に対する警戒も怠れない。
決勝トーナメントはどんな年でもタイマンで戦い、勝ち上がっていくシステムのようだ。だとすれば、そっちの方がむしろ楽。この二次予選が、大きな分かれ道となる。
「私からの説明は以上だ。二次予選は今から十五分後に始まる。その間、くじでどの教師を引いたのか、という会話も許可する。とはいえ、言いたくないのなら言う必要はない。それも戦略のひとつだからね」
桐生はくじの木箱を持って、静かに待機室を出ていった。
俺は違うが、剣聖である桐生と戦うことになった生徒もいる。
もし俺が桐生のくじを引いていたら、少なくとも戦い方はわかっていた。何度も模擬戦をした仲でもある。
だが草薙は……〈ゼルトル語〉しか教えてもらったことがない。戦闘時の彼について、無知にも等しい。
「オスカー、キミが嫌じゃないなら、対戦相手が誰か聞いてもいいかい?」
考え込む俺に声をかけたのは、グレイソンだった。
その隣にはセレナとミクリンがいる。
できることなら、この三人と、テオ、決勝トーナメントで決着をつけたい相手のアレク、エイダン、アリアとはここで争いたくない。
そう思っていたら、面倒なことにアレクと……アリア、それにルーナ、ついでにガブリエルまでやってきた。
「やあやあオスカー君、きみは誰を引いたのかな?」
「特に隠す必要もないか。俺の対戦相手は草薙だ」
「――ッ! なっ、なんだって!? 奇遇だね、ボクもマスター・草薙君だよ」
わざとらしい。
「嘘をついてるな?」
「おーよくわかったね。流石はオスカー君、ちょっとからかっただけさ」
俺が草薙を引いたと知り、大きな反応を見せたのはアレクだけだ。
他のみんなは、ほっとしたように胸を撫で下ろしたり、関心なさそうにそっぽを向いていたり。
誰ともかぶってないのか……?
「いやぁ、ボクの対戦相手知りたい?」
「俺は誰が誰と戦おうと――」
グレイソンやセレナの視線を感じる。
ここは黙ってアレクの対戦相手を聞いた方が良さそうだ。
「――いや、聞かせてくれ」
「よくぞ聞いてくれた、オスカー君。ズバリ、ボクの対戦相手はマスター・鬼塚君さっ」
「……」
何とも言えない。
鬼塚と戦うのが俺でなくて良かったと心から思う。
俺やグレイソンが微妙な表情でアレクを見る中、ひとり、表情に締まりを取り戻した生徒がいた。
「オスカー……私……マスター・鬼塚と……」
セレナだった。
ここから決勝トーナメントの人数である十六名まで数を減らすと考えると、二次予選はさらにレベルを上げた、高い壁であることがうかがえる。
俺やグレイソンを含む一年生は十二名。
二年生が思いの外少なくて十三名。これが最後の勇者祭になる三年生が三十名という比率だ。
一年生の十二名の中で、〈1-A〉クラス出身は俺とグレイソン、獅子王にセレナ、ミクリン、神道、東雲、それにテオの八名。
今年の〈1-A〉は豊作だ。そう言われるのも頷ける。
「はっは! オレが思っていたより、周囲の連中は強かったらしいな!」
「学園全体がそう思っているだろうね。まさか僕達の学級から八人も二次予選に進むなんて」
一次予選の合格者は、〈待機室デルタ〉よりほんの少し広くて豪華な、〈待機室アルファ〉に集められていた。
そこで改めて同じクラスの七人と顔を合わせる。
獅子王は相変わらず、内側から溢れる自信を隠せていなかった。
「オスカーくん、絶対、決勝トーナメントに進もう」
「テオか」
俺に話しかけてきたのは、一次予選で百八十二点を獲得し、無事に突破を決めた天王寺テオ。
そのちょうど反対側には、彼の兄であるエイダンもいる。
元〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉の実力者であるエイダンが、一次予選落ちなどあり得ない。彼も彼で、あらゆる生徒に対しての敵意をむき出しにしていた。
「エイダンと戦う覚悟はできたか?」
「うん。おれは……今では……もっと高いものを、見てるから」
「そうか。眼差しがすっかり、変わったな」
テオの真っ直ぐな瞳を見て、頬の筋肉を緩める。
教え子の成長を喜び、遠くに送り出すかのように、大人びた表情を作った。
「お前の苦しみはお前自身で乗り越えるしかない。だが、その手助けは、俺がいつだってしてやろう」
「オスカーくん……」
テオが飛びついてきた。
ここは一応公共の面前だが、気にしている様子はない。
ただ「かっこよさそう」な台詞を放っただけだが、それがどうも彼の心に響いてしまったようだ。
俺は困惑を消し、落ち着きを纏う。
「俺達がこの勇者祭でできることは、全力で戦うことだけだ。もしテオと戦えと言われれば、俺は容赦なく君を対戦相手とみなす」
「おれだって……容赦は、しないよ……」
まだ鼻水をすすっている。
こういう時に発する言葉ではなかったような気もするが、とりあえずテオの闘志に火をつけたことに変わりはない。
俺にしかできないこともあるということだ。
「なんだ西園寺! やっぱ面白い奴だぜ! お前に目をつけたオレは間違いじゃあなかった!」
獅子王が牙のように尖った歯を見せ、ぼんぼんと俺の背中を叩いてくる。
彼もまた、行動の意図がわからない男だ。
クルリン二号と呼ぶことにしよう。
『私語はここまでにしてもらおうか、二次予選の資格を得た、選ばれし生徒諸君』
待機室に広がる桐生の声。
今回の説明は彼がしてくれるらしい。鬼塚でなくてほっとしたのは事実だ。
『ここにいる全員が、二次試験の内容を知らない。当然去年とはまったく異なるし、むしろ去年の何倍も難しい課題になるだろう』
その言葉で、この場にいる全員が気を引き締める。
『二次試験は、教師 VS 生徒だ』
***
『ここにいる五十五人には、それぞれくじを引いてもらう。引いたくじは私に見せて欲しい。私が回収し、記録する』
木箱の中に手を突っ込み、平然とした表情のままくじを引く。
ここで一切緊張を出さないのが、西園寺オスカーだ。
確かに対戦相手次第では、厳しいことになる。魔王セトを討ったとはいえ、剣術の技もまだまだ桐生に劣っているのだ。
俺に教師と対等にやり合えるだけの力があるのかは、神のみぞ知る。
『くじには君達が戦うべき教師の名前が書いてある。戦うと言えど、彼らの腰に巻いてある帯を奪うだけだ。それに――』
俺が引き当てたくじには、「草薙アーサー」の文字。
いいのか悪いのか、新人教師。
教師としては新人だが、戦いの経験は俺よりも多いはずだ。それに、彼には他の教師が失おうとしている、若さが残っている。
ある意味、アレクと同程度に未知数な男だ。
『――君達生徒は、基本的に三人でひとりの教師を相手にすることになっている。しかし、協力できる、とは思わない方がいいのかもしれないな』
一次予選で二位のアレクは俺と同じように動揺を見せず、淡々とくじを引き、桐生に渡した。
調子のいいアリアは、いつも以上に引き締まった様子だ。
まるで、感情などそこに入る隙がないかのように。
『ひとりの教師につき、ひとつのベルト。つまり、同じ教師の名がかかれたくじを引いてしまうということは、その瞬間、その生徒がライバルになるということだ』
お互いの顔を見合う生徒達。
ここに来てしまった時点で、その覚悟は必要だ。
友達は友達でも、勝負は勝負。誠意を見せるというのなら、お互い本気で戦うということだけだろう。
もし、グレイソンやセレナ、ミクリン、テオが俺と同じ草薙を引いたのなら、俺は彼らを蹴落とさなくてはならない。
――そんなことが、今の俺にできるのだろうか。
「マスター・桐生、ひとりの教師に三人の生徒、って言いましたよね? でも、当然ながら数が合わないので、ひとりの教師に四人の生徒、もしくは二人の生徒なんていうことになりませんか?」
ここで、呑気なアレクが手を上げた。
なんだろう。どこか他人事のように聞こえる。
彼はもう構えているということだ。俺よりも勇者祭の経験は二回も多い。
「いい質問だ、アレクサンダー。それは――運だ。実力があれば、どんな状況も乗り越えられる。たとえ不運に見舞われたとしても。そもそも、勇者にはどんな逆境にも立ち向かえるだけの器が必要――それが、この二次予選が求めていることでもあるのかもしれない」
「なるほど。でも、残念だなぁ。ボクが決勝トーナメントで戦いたいと思っていた相手と、ここで戦うことになるかもしれない」
アレクがちらっと俺を見る。
その後、グレイソンや獅子王に視線を向けた。
もしアレクが草薙を引いたのであれば、かなり厄介かもしれない。
今回の戦い、教師に対する警戒だけでなく、生徒に対する警戒も怠れない。
決勝トーナメントはどんな年でもタイマンで戦い、勝ち上がっていくシステムのようだ。だとすれば、そっちの方がむしろ楽。この二次予選が、大きな分かれ道となる。
「私からの説明は以上だ。二次予選は今から十五分後に始まる。その間、くじでどの教師を引いたのか、という会話も許可する。とはいえ、言いたくないのなら言う必要はない。それも戦略のひとつだからね」
桐生はくじの木箱を持って、静かに待機室を出ていった。
俺は違うが、剣聖である桐生と戦うことになった生徒もいる。
もし俺が桐生のくじを引いていたら、少なくとも戦い方はわかっていた。何度も模擬戦をした仲でもある。
だが草薙は……〈ゼルトル語〉しか教えてもらったことがない。戦闘時の彼について、無知にも等しい。
「オスカー、キミが嫌じゃないなら、対戦相手が誰か聞いてもいいかい?」
考え込む俺に声をかけたのは、グレイソンだった。
その隣にはセレナとミクリンがいる。
できることなら、この三人と、テオ、決勝トーナメントで決着をつけたい相手のアレク、エイダン、アリアとはここで争いたくない。
そう思っていたら、面倒なことにアレクと……アリア、それにルーナ、ついでにガブリエルまでやってきた。
「やあやあオスカー君、きみは誰を引いたのかな?」
「特に隠す必要もないか。俺の対戦相手は草薙だ」
「――ッ! なっ、なんだって!? 奇遇だね、ボクもマスター・草薙君だよ」
わざとらしい。
「嘘をついてるな?」
「おーよくわかったね。流石はオスカー君、ちょっとからかっただけさ」
俺が草薙を引いたと知り、大きな反応を見せたのはアレクだけだ。
他のみんなは、ほっとしたように胸を撫で下ろしたり、関心なさそうにそっぽを向いていたり。
誰ともかぶってないのか……?
「いやぁ、ボクの対戦相手知りたい?」
「俺は誰が誰と戦おうと――」
グレイソンやセレナの視線を感じる。
ここは黙ってアレクの対戦相手を聞いた方が良さそうだ。
「――いや、聞かせてくれ」
「よくぞ聞いてくれた、オスカー君。ズバリ、ボクの対戦相手はマスター・鬼塚君さっ」
「……」
何とも言えない。
鬼塚と戦うのが俺でなくて良かったと心から思う。
俺やグレイソンが微妙な表情でアレクを見る中、ひとり、表情に締まりを取り戻した生徒がいた。
「オスカー……私……マスター・鬼塚と……」
セレナだった。
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