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最強の中二病編
その03 闘技場での訓練
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「マスター・桐生、本日も剣術の相手をお願いします」
学園の中で金がかかった施設ランキング上位の、〈闘技場ネオ〉。
広い戦場にたった二人。
俺と桐生レイヴンは向かい合っていた。
俺達ゼルトル勇者学園の生徒は、教師のことを師匠と呼び、敬語を使って話さなくてはならない。それは校則であり、破ればそれなりの懲罰を受けることになる。
こうして放課後の訓練に付き合ってくれる教師の名は桐生レイヴン。
白髪オールバックの、五十代半ばといった、いわゆる「イケオジ」だ。
長身で、整った顔立ち。筋肉質な肉体。
数多くの女子生徒のハートを射止めてきた、というのも頷ける。
彼は剣術の教師だ。
かつては剣聖と呼ばれていたほどの実力者だったらしい。
そして、俺がこの学園の中でその実力を認めている、数少ない人間のうちのひとりだ。
「君はいつも勤勉だな、オスカー」
桐生の前での俺は、「剣術のやる気に満ちた凡人生徒」である。
毎日こうして訓練を頼み込むこと二ヶ月。
彼もそろそろ気づいてきたはずだ。
この俺、西園寺オスカーが、真の実力を隠しているのではないか、と。
そして、それには何か、深い事情があるのではないか、と。
桐生はこれまでに何度か探りを入れてきた。
『本当は手加減しているんじゃないのか?』
『今の技、長年剣術を磨いてきた者でもここまでの精度は出せないはずだ』
『学園に入る前から剣術を習っていたのか?』
毎度対峙する俺の実力に対し、一種の疑問を持っている。
だが、俺に対して直接的に聞くことはない。
何か際どい質問があれば、俺はわざと虚空を見つめ、詮索はするな、という何とも言えない雰囲気を醸し出すからだ。
俺の剣と桐生の剣がぶつかり合い、金属音を響かせる。
彼の剣術は他の何よりも美しい。
フォームが洗練されていて、技のキレに磨きがかかっている。流石は剣聖。この学園の教師陣の中でも、トップレベルの実力であることは間違いない。
ちなみに俺は。
剣術の腕では桐生に敵わない。
長年積み重ねてきた経験と勘、圧倒的な技の集大成に、抗えるだけの技術を持っていないからだ。
もし俺の必殺技、あるいは裏技を使えば、もしかしたら純粋な戦闘で勝つことができるのかもわからない。
だが、そんなことはどうでもいい。どっちが強いか、なんて俺には関係ない。
剣術教師としての桐生を尊敬しているし、俺と彼が今後敵対することはあり得ないと言える。
それに、桐生は優れた人格者だ。
生徒の頼みには、喜んで応えてくれる。彼の剣術の授業は生徒達のオアシスと言っても過言ではない。
「まだまだマスター・桐生には及びませんか……」
およそ三十分の訓練が終わった。
桐生の剣によって多くの切り傷を作らされた俺は、拳を固く握り締め、悔しさを滲ませる。
当然ながら、本気で戦ったわけではない。バレない程度に、まだまだ発展途上な見習い生徒を演じたのだ。
悔しそうな様子の俺を見て、桐生はふんと笑った。
「それも本気で言っているんだか、わからなくなってきたよ」
この調子だ。
彼は確実に疑念を抱いている。俺の実力に関して。
「無論本気です、師匠。いつかは貴方を超えてみせます」
「もうとっくに超えられているのかもしれないな」
意味深に笑う桐生。
これは確定演出。
もう彼は俺の真の実力についてある程度確信している。それは長年剣士として生きてきたことで培われた目が、俺の隠された実力を見抜いたということなのか。
詳細はわからないが、俺は剣を鞘に収め、相手と反対側の観客席を見上げた。
休日及び授業ではよく人が出入りする〈闘技場ネオ〉だが、平日の放課後は基本俺と桐生だけ。
放課後にわざわざここまで来ようというやる気に満ちた生徒はいないようだ。ちなみに、剣術部は別の一回り小さな闘技場を使用しているらしい。
〈闘技場ネオ〉の観客席には誰もおらず、沈黙に包まれていた。
「──時が来たら──」
そして、俺は。
用意していた渾身の台詞を語り出す。
「──マスター・桐生、あなたも真実を知るだろう」
最後にもう一度だけ深く礼をして、出口に向かって歩く。
「この世界は──いや、神々は革命を恐れている」
「……オスカー、それはどういう意味だ?」
困惑して首を傾げる桐生が、慌てたようにして聞いてきた。
だが、俺の目に、もう彼の姿は映っていない。
これ以上何も言わないと決めた。これ以上詮索されるわけにはいかないのだ。
「……」
桐生はわざわざ追いかけようとはしない。
そうして彼が黙っている間に、俺は闘技場を後にする。
***
外に出るとすぐ。
俺は右斜め後ろを睨みつけた。
「何の用だ?」
声は低く、そして余裕を含みながら。
一歩も動かず、視線だけを送る。
その人物は俺に気づかれて明らかに動揺していた。しばらくすると、何が面白いのか急に口を手で覆い隠し、控えめに笑い始める。
「なぜ笑う? 不愉快だ」
表情を変えないまま、冷たく言い放つ。
その人物の正体を認識してもなお、俺の態度は変わらない。
「西園寺オスカーさん、ですね?」
聞こえてきたのは穏やかな女性の声。
光沢のある長い銀髪は後ろでひとつに結わえており、色素の薄い不思議な瞳は、あらゆる光を反射して輝いている。
ハッとするわけではないが、彼女もまた美少女だ。
派手さはなく、自然体で落ち着いた端正な顔立ち。
彼女のことは何度か集会で目にしているから知っている。
名は八乙女アリア。
ゼルトル勇者学園の生徒会長だ。
学園の中で金がかかった施設ランキング上位の、〈闘技場ネオ〉。
広い戦場にたった二人。
俺と桐生レイヴンは向かい合っていた。
俺達ゼルトル勇者学園の生徒は、教師のことを師匠と呼び、敬語を使って話さなくてはならない。それは校則であり、破ればそれなりの懲罰を受けることになる。
こうして放課後の訓練に付き合ってくれる教師の名は桐生レイヴン。
白髪オールバックの、五十代半ばといった、いわゆる「イケオジ」だ。
長身で、整った顔立ち。筋肉質な肉体。
数多くの女子生徒のハートを射止めてきた、というのも頷ける。
彼は剣術の教師だ。
かつては剣聖と呼ばれていたほどの実力者だったらしい。
そして、俺がこの学園の中でその実力を認めている、数少ない人間のうちのひとりだ。
「君はいつも勤勉だな、オスカー」
桐生の前での俺は、「剣術のやる気に満ちた凡人生徒」である。
毎日こうして訓練を頼み込むこと二ヶ月。
彼もそろそろ気づいてきたはずだ。
この俺、西園寺オスカーが、真の実力を隠しているのではないか、と。
そして、それには何か、深い事情があるのではないか、と。
桐生はこれまでに何度か探りを入れてきた。
『本当は手加減しているんじゃないのか?』
『今の技、長年剣術を磨いてきた者でもここまでの精度は出せないはずだ』
『学園に入る前から剣術を習っていたのか?』
毎度対峙する俺の実力に対し、一種の疑問を持っている。
だが、俺に対して直接的に聞くことはない。
何か際どい質問があれば、俺はわざと虚空を見つめ、詮索はするな、という何とも言えない雰囲気を醸し出すからだ。
俺の剣と桐生の剣がぶつかり合い、金属音を響かせる。
彼の剣術は他の何よりも美しい。
フォームが洗練されていて、技のキレに磨きがかかっている。流石は剣聖。この学園の教師陣の中でも、トップレベルの実力であることは間違いない。
ちなみに俺は。
剣術の腕では桐生に敵わない。
長年積み重ねてきた経験と勘、圧倒的な技の集大成に、抗えるだけの技術を持っていないからだ。
もし俺の必殺技、あるいは裏技を使えば、もしかしたら純粋な戦闘で勝つことができるのかもわからない。
だが、そんなことはどうでもいい。どっちが強いか、なんて俺には関係ない。
剣術教師としての桐生を尊敬しているし、俺と彼が今後敵対することはあり得ないと言える。
それに、桐生は優れた人格者だ。
生徒の頼みには、喜んで応えてくれる。彼の剣術の授業は生徒達のオアシスと言っても過言ではない。
「まだまだマスター・桐生には及びませんか……」
およそ三十分の訓練が終わった。
桐生の剣によって多くの切り傷を作らされた俺は、拳を固く握り締め、悔しさを滲ませる。
当然ながら、本気で戦ったわけではない。バレない程度に、まだまだ発展途上な見習い生徒を演じたのだ。
悔しそうな様子の俺を見て、桐生はふんと笑った。
「それも本気で言っているんだか、わからなくなってきたよ」
この調子だ。
彼は確実に疑念を抱いている。俺の実力に関して。
「無論本気です、師匠。いつかは貴方を超えてみせます」
「もうとっくに超えられているのかもしれないな」
意味深に笑う桐生。
これは確定演出。
もう彼は俺の真の実力についてある程度確信している。それは長年剣士として生きてきたことで培われた目が、俺の隠された実力を見抜いたということなのか。
詳細はわからないが、俺は剣を鞘に収め、相手と反対側の観客席を見上げた。
休日及び授業ではよく人が出入りする〈闘技場ネオ〉だが、平日の放課後は基本俺と桐生だけ。
放課後にわざわざここまで来ようというやる気に満ちた生徒はいないようだ。ちなみに、剣術部は別の一回り小さな闘技場を使用しているらしい。
〈闘技場ネオ〉の観客席には誰もおらず、沈黙に包まれていた。
「──時が来たら──」
そして、俺は。
用意していた渾身の台詞を語り出す。
「──マスター・桐生、あなたも真実を知るだろう」
最後にもう一度だけ深く礼をして、出口に向かって歩く。
「この世界は──いや、神々は革命を恐れている」
「……オスカー、それはどういう意味だ?」
困惑して首を傾げる桐生が、慌てたようにして聞いてきた。
だが、俺の目に、もう彼の姿は映っていない。
これ以上何も言わないと決めた。これ以上詮索されるわけにはいかないのだ。
「……」
桐生はわざわざ追いかけようとはしない。
そうして彼が黙っている間に、俺は闘技場を後にする。
***
外に出るとすぐ。
俺は右斜め後ろを睨みつけた。
「何の用だ?」
声は低く、そして余裕を含みながら。
一歩も動かず、視線だけを送る。
その人物は俺に気づかれて明らかに動揺していた。しばらくすると、何が面白いのか急に口を手で覆い隠し、控えめに笑い始める。
「なぜ笑う? 不愉快だ」
表情を変えないまま、冷たく言い放つ。
その人物の正体を認識してもなお、俺の態度は変わらない。
「西園寺オスカーさん、ですね?」
聞こえてきたのは穏やかな女性の声。
光沢のある長い銀髪は後ろでひとつに結わえており、色素の薄い不思議な瞳は、あらゆる光を反射して輝いている。
ハッとするわけではないが、彼女もまた美少女だ。
派手さはなく、自然体で落ち着いた端正な顔立ち。
彼女のことは何度か集会で目にしているから知っている。
名は八乙女アリア。
ゼルトル勇者学園の生徒会長だ。
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