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最強の中二病編
その07 敵意の視線
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一学期の定期試験が終わったばかりということもあり、今日の授業の雰囲気は全体的に緩かった。
緊張の糸が解け、多くの生徒の中に余裕が見える。
確かに試験前は課題を消化することに全力投球していた生徒も多いだろうから、今、課題のないこの時期は楽園ということなのかもしれない。
だが、その僅かな気の緩みが、彼らを弱くする悪の根源だ。
圧倒的な強さを誇る者は、どんな状況でも一定の基準のまま、努力を続けられる者。
その点で言えば、俺の数少ない知り合いのセレナは優秀だ。
周囲のたるんだ空気に流されることなく、いつも通り授業に集中している。彼女のそういうところは素晴らしい。
「オスカー、あれ」
四校時目である、〈剣術〉の授業を受けている時だった。
俺の練習相手になってくれる親切な剣術教師、桐生レイヴンの授業だ。
彼の授業を嫌う生徒はおそらくいないだろう。
基本は自由に好きな相手と剣の打ち合いをし、桐生の美しい剣術を参考に、剣技の数々をデモンストレーションする。
当然ながら俺は同じクラスで唯一の知り合いである二階堂セレナと組むわけだが、模擬戦に集中していたはずの彼女が、いきなり反対側にいる生徒を指差した。
何だと思って振り返ると、そこには他の生徒の注目を浴びる、イケメン生徒の姿が。
彫りの深いハンサムな顔立ちに、灰色の瞳。
明るい滑らかな金髪を、貴公子のように耳にかかるまで長く伸ばしている。背は凄く高いというほどではないが、脚が長くてスタイルがいい。
「そうか。君もああいう男が好きなのか」
無表情で頷きながら呟く。
「そんなんじゃないって! 私はただ、剣が上手いなぁ、って思っただけで、別に好きとかじゃ──」
「恥ずかしがる必要はない。ところで、彼の名前は?」
真剣に彼の名を尋ねると、セレナは信じられないとでも言うように目を丸くした。
「もう二ヶ月も同じクラスなのに、知らないの!? 一ノ瀬グレイソンっていう名前ぐらいは聞いたことあるでしょ」
「悪いが、俺がこのクラスで知っている生徒は、セレナだけだ」
彼女の緑色の瞳を見つめながら、囁くような声で言う。
するとセレナの顔が真っ赤に染まった。
「別に、そう言われて嬉しいなんて思ってないから!」
「俺はまだ何も言ってないが」
「……」
「何か言ったらどうだ?」
「馬鹿」
急に顔を紅潮させたかと思えば、怒鳴り出し、そして黙り込み、最後は罵倒する。
情緒不安定とはこのことだ。
彼女は今、精神的に辛い状況に直面しているのかもしれない。
だとすれば、俺はそっと優しく、近くで見守っておくべきだろう。
『グレイソン君! こっち向いて!』
『きゃーーーー!』
『かっこいいぃぃぃぃいいい!』
イケメン生徒に対し、剣をまともに握っていない女子生徒が熱を上げる。
授業中にそういうことをされると迷惑でしかない。
軽率な行動は控えていただきたいものだ。その僅かな綻びが、いつか彼女達の破滅を招くことになる。
「あの剣は俺の好みではない。そこに美など存在しない、子供の遊びだ」
俺は本心を言った。
イケメン生徒──確か名前はグレイソン──の剣はまず、正確性に欠ける。
基礎基本ができないうちから自己流を貫いてきたのか、土台の薄さが如実に現れる型となっている。
動き自体は悪くない。
軽やかで、キレがある。決して彼のセンスを否定しているわけではないのだ。
だが、それと剣技の美しさをイコールで結び付けることはできない。それは剣術への冒涜だ。基礎が不十分な型について、美しいとは絶対に言えない。
「ちょっと、オスカー……」
真っ赤な顔を一気に青くするセレナ。
小声で、焦りと動揺を見せながら、俺に注意する。あのイケメンの悪口を言うな、と。
ちらっと。
イケメンが俺の方に視線を向けた。
気のせいだろうか。
きつく睨まれたような。
一瞬でよくわからなかったが、明らかな敵意を感じ取ってしまった。俺は視線だけでなく、敵意や殺意に対しても敏感だ。
ついさっき感じたあの敵意は間違いない。本物だ。
「どうした? 何か言いたそうだが」
「あの言い方は良くないって。私も正直あの人はあんまり好きじゃないんだけど、敵に回すような相手じゃないと思う」
「敵に回す、か」
つい昨日聞いたばかりの言葉を、この場でも聞くことになるとは。
そして、また使うことになるとは。
そういう定めだったのかもしれない。
「変なこと言ってないで、今からでも謝ってきたら? 絶対さっきの言葉聞こえてたから」
俺のことを考えてくれているのだろう。
セレナは俺がグレイソンに謝罪することを勧めた。
「断る。俺は思ったことを口にしただけだ。それに、もし仮にも彼が真の実力者なのであれば、話したこともないクラスメイトからの批判など、気にするはずがないだろう」
わざと大きめの声で答える。
この言葉は周囲にいたグレイソンのファンも、そしてグレイソン自身も確実に耳にすることになった。
俺は彼のファン達から、ゴミでも見るような目で見られた。
だが、俺はその程度で食い下がるような男ではない。本人を堂々と見つめ、胸を張る。
口の端で笑い、身を翻した。
もう彼の顔を見る必要はない、そう言うかのように。
そしてセレナと向かい合い、自分の本気の一万分の一ほどの力で、全力の彼女よりほんの少し弱いぐらいの剣術を披露した。
そんな自由な俺の姿を見て、グレイソンが小さく舌打ちしたことにも、俺は気づいた。
イケメンで爽やかな彼を崇拝するファン達には聞こえない、塵のような舌打ちだった。
その様子から俺は確信する。
彼はこの授業が終わった後の休み時間──つまり昼休み。彼は必ず仕掛けてくる、と。
《キャラクター紹介》
・名前:一ノ瀬グレイソン
・年齢:17歳
・学年:ゼルトル勇者学園1年生
・誕生日:4月15日
・性別:♂
・容姿:耳にかかる金髪、灰色の瞳
・身長:173cm
・信仰神:戦いの神ミノス
緊張の糸が解け、多くの生徒の中に余裕が見える。
確かに試験前は課題を消化することに全力投球していた生徒も多いだろうから、今、課題のないこの時期は楽園ということなのかもしれない。
だが、その僅かな気の緩みが、彼らを弱くする悪の根源だ。
圧倒的な強さを誇る者は、どんな状況でも一定の基準のまま、努力を続けられる者。
その点で言えば、俺の数少ない知り合いのセレナは優秀だ。
周囲のたるんだ空気に流されることなく、いつも通り授業に集中している。彼女のそういうところは素晴らしい。
「オスカー、あれ」
四校時目である、〈剣術〉の授業を受けている時だった。
俺の練習相手になってくれる親切な剣術教師、桐生レイヴンの授業だ。
彼の授業を嫌う生徒はおそらくいないだろう。
基本は自由に好きな相手と剣の打ち合いをし、桐生の美しい剣術を参考に、剣技の数々をデモンストレーションする。
当然ながら俺は同じクラスで唯一の知り合いである二階堂セレナと組むわけだが、模擬戦に集中していたはずの彼女が、いきなり反対側にいる生徒を指差した。
何だと思って振り返ると、そこには他の生徒の注目を浴びる、イケメン生徒の姿が。
彫りの深いハンサムな顔立ちに、灰色の瞳。
明るい滑らかな金髪を、貴公子のように耳にかかるまで長く伸ばしている。背は凄く高いというほどではないが、脚が長くてスタイルがいい。
「そうか。君もああいう男が好きなのか」
無表情で頷きながら呟く。
「そんなんじゃないって! 私はただ、剣が上手いなぁ、って思っただけで、別に好きとかじゃ──」
「恥ずかしがる必要はない。ところで、彼の名前は?」
真剣に彼の名を尋ねると、セレナは信じられないとでも言うように目を丸くした。
「もう二ヶ月も同じクラスなのに、知らないの!? 一ノ瀬グレイソンっていう名前ぐらいは聞いたことあるでしょ」
「悪いが、俺がこのクラスで知っている生徒は、セレナだけだ」
彼女の緑色の瞳を見つめながら、囁くような声で言う。
するとセレナの顔が真っ赤に染まった。
「別に、そう言われて嬉しいなんて思ってないから!」
「俺はまだ何も言ってないが」
「……」
「何か言ったらどうだ?」
「馬鹿」
急に顔を紅潮させたかと思えば、怒鳴り出し、そして黙り込み、最後は罵倒する。
情緒不安定とはこのことだ。
彼女は今、精神的に辛い状況に直面しているのかもしれない。
だとすれば、俺はそっと優しく、近くで見守っておくべきだろう。
『グレイソン君! こっち向いて!』
『きゃーーーー!』
『かっこいいぃぃぃぃいいい!』
イケメン生徒に対し、剣をまともに握っていない女子生徒が熱を上げる。
授業中にそういうことをされると迷惑でしかない。
軽率な行動は控えていただきたいものだ。その僅かな綻びが、いつか彼女達の破滅を招くことになる。
「あの剣は俺の好みではない。そこに美など存在しない、子供の遊びだ」
俺は本心を言った。
イケメン生徒──確か名前はグレイソン──の剣はまず、正確性に欠ける。
基礎基本ができないうちから自己流を貫いてきたのか、土台の薄さが如実に現れる型となっている。
動き自体は悪くない。
軽やかで、キレがある。決して彼のセンスを否定しているわけではないのだ。
だが、それと剣技の美しさをイコールで結び付けることはできない。それは剣術への冒涜だ。基礎が不十分な型について、美しいとは絶対に言えない。
「ちょっと、オスカー……」
真っ赤な顔を一気に青くするセレナ。
小声で、焦りと動揺を見せながら、俺に注意する。あのイケメンの悪口を言うな、と。
ちらっと。
イケメンが俺の方に視線を向けた。
気のせいだろうか。
きつく睨まれたような。
一瞬でよくわからなかったが、明らかな敵意を感じ取ってしまった。俺は視線だけでなく、敵意や殺意に対しても敏感だ。
ついさっき感じたあの敵意は間違いない。本物だ。
「どうした? 何か言いたそうだが」
「あの言い方は良くないって。私も正直あの人はあんまり好きじゃないんだけど、敵に回すような相手じゃないと思う」
「敵に回す、か」
つい昨日聞いたばかりの言葉を、この場でも聞くことになるとは。
そして、また使うことになるとは。
そういう定めだったのかもしれない。
「変なこと言ってないで、今からでも謝ってきたら? 絶対さっきの言葉聞こえてたから」
俺のことを考えてくれているのだろう。
セレナは俺がグレイソンに謝罪することを勧めた。
「断る。俺は思ったことを口にしただけだ。それに、もし仮にも彼が真の実力者なのであれば、話したこともないクラスメイトからの批判など、気にするはずがないだろう」
わざと大きめの声で答える。
この言葉は周囲にいたグレイソンのファンも、そしてグレイソン自身も確実に耳にすることになった。
俺は彼のファン達から、ゴミでも見るような目で見られた。
だが、俺はその程度で食い下がるような男ではない。本人を堂々と見つめ、胸を張る。
口の端で笑い、身を翻した。
もう彼の顔を見る必要はない、そう言うかのように。
そしてセレナと向かい合い、自分の本気の一万分の一ほどの力で、全力の彼女よりほんの少し弱いぐらいの剣術を披露した。
そんな自由な俺の姿を見て、グレイソンが小さく舌打ちしたことにも、俺は気づいた。
イケメンで爽やかな彼を崇拝するファン達には聞こえない、塵のような舌打ちだった。
その様子から俺は確信する。
彼はこの授業が終わった後の休み時間──つまり昼休み。彼は必ず仕掛けてくる、と。
《キャラクター紹介》
・名前:一ノ瀬グレイソン
・年齢:17歳
・学年:ゼルトル勇者学園1年生
・誕生日:4月15日
・性別:♂
・容姿:耳にかかる金髪、灰色の瞳
・身長:173cm
・信仰神:戦いの神ミノス
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