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最強の中二病編
その08 剣聖からの警告
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〈剣術〉の授業の中で起こった、俺とグレイソンの小さな問題に関して、勿論優秀な教師である桐生レイヴンが気づいていないはずがない。
この授業は俺が放課後に愛用する〈闘技場ネオ〉で行っている。
それなりに広い戦場ではあるものの、三十人という少人数であれば容易に監視できるのだ。
俺はグレイソンの舌打ちを察知するのと同時に、桐生からの視線も感じた。
その視線が告げているのは、少しふたりで話がしたい――この一言。
二ヶ月間、伊達に剣の打ち合いだけをしているわけではない。
お互いの信頼関係が築けているからこそ、こういった視線での会話が成立する。
気づけば、もう桐生は姿を消していた。
だが、俺には彼の居場所がわかる。
〈闘技場ネオ〉で絶好の密会場所は、東門の奥にある踊り場。
声もこもるので話が漏れにくく、それでいて意外と使われない。よくこの闘技場を使用する、剣に熱心な者しかわからない秘境だ。
「まさか一ノ瀬グレイソンに喧嘩を売るとは思わなかったよ」
責めるわけでもなく、叱るわけでもなく、面白がるように桐生が言った。
「剣技の美しさを追い求める者として、誤った認識は正さねばと思っただけです。あの剣術に美しさは感じない。もし彼に憧れた者が真似をしようとすれば、今まで磨いてきた基礎も失われてしまうかもしれません」
「なるほど。てっきり人気者の彼に嫉妬したのかと思ったんだがね」
「まさか。私がそんな未熟な感情に支配されるとお思いですか?」
「いいや、冗談だ」
頬を緩め、イケオジの笑みを振りまく桐生。
オールバックの白髪と、ほんの少し残した純白の髭が、彼のイケオジとしての渋さを強調している。
「君は真面目で努力家な生徒だ。剣術に関してのこだわりも強い。確かに私も、彼の剣術に関しては基礎を疎かにした部分が目立っていると思ってる。しかし……彼は強い。優秀な生徒だ」
「ええ、たとえ美しくなくとも、彼はそれなりに強いでしょう」
俺だったら拳一撃で吹っ飛ばせるでしょうが、とは言わない。
「教師としては平等な立場であることが好ましいのかもしれないが、私はオスカーを贔屓している。だから警告しておくよ。もし一ノ瀬グレイソンに決闘を申し込まれたのなら、受けない方がいい。平民出身の君にはさほど関係ないかもしれないが、彼は一応、それなりに位の高い貴族家系だからね」
「そうですか……警告のお言葉、感謝します」
俺はそう言って、虚空を見つめた。
少しも動揺していない。
喧嘩を売った相手というのが貴族で、それなりに強いイケメンだったとしても、西園寺オスカーには関係ない。
「教師という立場上の問題で、一応警告はした」
少し動いて立ち位置を変え、俺に向き直る桐生。
「ここからは私の本心を言おう」
真剣な表情をしいていた桐生が、ニヤッと笑う。
白い歯が光を反射して輝いた。
桐生はたまに少年のような一面を見せる時がある。
「あの少年をギャフンと言わせてくれ。彼は確かに強いかもしれないが、自尊心が高く、そのせいで努力次第で伸びるはずの技術も伸びていない。今の彼には、自分よりも強い存在が必要だ」
「自分より強い存在となれば、師匠が彼と戦えば良いのでは?」
「教師と生徒では駄目だ。同じ生徒という立場で、そして欲を言うのなら、同じ学年、同じクラスの生徒であってもらいたい。その方が刺激は強く、彼を焚きつけられると考えている」
俺は軽く頷いた。
桐生の答えに関しては、予想通りである。
グレイソンはおそらく、自分がクラスで一番強いと思っているのだろう。あのまんざらでもなさそうな様子と気取った戦い方を見れば、自分に溺れていることがよくわかる。
ならば、同じクラスの生徒が彼を上回り、彼の闘争心を掻き立てる、ということが効果的だ。
だが──。
「私の剣術の腕前はまだまだです。美しさに関しては師匠のおかげで自信がありますが、実践的な決闘でグレイソンに勝てるほどの実力は持っておりません」
「君は面白い生徒だ、オスカー」
桐生が声を上げて笑う。
そこには全てが込められていた。
もう彼はほぼ確信していると言っていいだろう。西園寺オスカーがただの生徒ではなく、その圧倒的実力を隠している、ということを。
そして──。
「君にも何か事情があるのかもしれないが、もし気が向いたら、教師としての私を助けてくれ」
実力を隠す理由の存在に触れながら、桐生は一足先に授業に戻っていった。
俺は暗い踊り場でひとり、地面に視線を落とす。
「遂にこの時が来たか……この力は封印すると決めていたのだが……」
笑みがこぼれそうになるのを我慢しながら、一度は言ってみたかった、それっぽい台詞を呟いた。
この授業は俺が放課後に愛用する〈闘技場ネオ〉で行っている。
それなりに広い戦場ではあるものの、三十人という少人数であれば容易に監視できるのだ。
俺はグレイソンの舌打ちを察知するのと同時に、桐生からの視線も感じた。
その視線が告げているのは、少しふたりで話がしたい――この一言。
二ヶ月間、伊達に剣の打ち合いだけをしているわけではない。
お互いの信頼関係が築けているからこそ、こういった視線での会話が成立する。
気づけば、もう桐生は姿を消していた。
だが、俺には彼の居場所がわかる。
〈闘技場ネオ〉で絶好の密会場所は、東門の奥にある踊り場。
声もこもるので話が漏れにくく、それでいて意外と使われない。よくこの闘技場を使用する、剣に熱心な者しかわからない秘境だ。
「まさか一ノ瀬グレイソンに喧嘩を売るとは思わなかったよ」
責めるわけでもなく、叱るわけでもなく、面白がるように桐生が言った。
「剣技の美しさを追い求める者として、誤った認識は正さねばと思っただけです。あの剣術に美しさは感じない。もし彼に憧れた者が真似をしようとすれば、今まで磨いてきた基礎も失われてしまうかもしれません」
「なるほど。てっきり人気者の彼に嫉妬したのかと思ったんだがね」
「まさか。私がそんな未熟な感情に支配されるとお思いですか?」
「いいや、冗談だ」
頬を緩め、イケオジの笑みを振りまく桐生。
オールバックの白髪と、ほんの少し残した純白の髭が、彼のイケオジとしての渋さを強調している。
「君は真面目で努力家な生徒だ。剣術に関してのこだわりも強い。確かに私も、彼の剣術に関しては基礎を疎かにした部分が目立っていると思ってる。しかし……彼は強い。優秀な生徒だ」
「ええ、たとえ美しくなくとも、彼はそれなりに強いでしょう」
俺だったら拳一撃で吹っ飛ばせるでしょうが、とは言わない。
「教師としては平等な立場であることが好ましいのかもしれないが、私はオスカーを贔屓している。だから警告しておくよ。もし一ノ瀬グレイソンに決闘を申し込まれたのなら、受けない方がいい。平民出身の君にはさほど関係ないかもしれないが、彼は一応、それなりに位の高い貴族家系だからね」
「そうですか……警告のお言葉、感謝します」
俺はそう言って、虚空を見つめた。
少しも動揺していない。
喧嘩を売った相手というのが貴族で、それなりに強いイケメンだったとしても、西園寺オスカーには関係ない。
「教師という立場上の問題で、一応警告はした」
少し動いて立ち位置を変え、俺に向き直る桐生。
「ここからは私の本心を言おう」
真剣な表情をしいていた桐生が、ニヤッと笑う。
白い歯が光を反射して輝いた。
桐生はたまに少年のような一面を見せる時がある。
「あの少年をギャフンと言わせてくれ。彼は確かに強いかもしれないが、自尊心が高く、そのせいで努力次第で伸びるはずの技術も伸びていない。今の彼には、自分よりも強い存在が必要だ」
「自分より強い存在となれば、師匠が彼と戦えば良いのでは?」
「教師と生徒では駄目だ。同じ生徒という立場で、そして欲を言うのなら、同じ学年、同じクラスの生徒であってもらいたい。その方が刺激は強く、彼を焚きつけられると考えている」
俺は軽く頷いた。
桐生の答えに関しては、予想通りである。
グレイソンはおそらく、自分がクラスで一番強いと思っているのだろう。あのまんざらでもなさそうな様子と気取った戦い方を見れば、自分に溺れていることがよくわかる。
ならば、同じクラスの生徒が彼を上回り、彼の闘争心を掻き立てる、ということが効果的だ。
だが──。
「私の剣術の腕前はまだまだです。美しさに関しては師匠のおかげで自信がありますが、実践的な決闘でグレイソンに勝てるほどの実力は持っておりません」
「君は面白い生徒だ、オスカー」
桐生が声を上げて笑う。
そこには全てが込められていた。
もう彼はほぼ確信していると言っていいだろう。西園寺オスカーがただの生徒ではなく、その圧倒的実力を隠している、ということを。
そして──。
「君にも何か事情があるのかもしれないが、もし気が向いたら、教師としての私を助けてくれ」
実力を隠す理由の存在に触れながら、桐生は一足先に授業に戻っていった。
俺は暗い踊り場でひとり、地面に視線を落とす。
「遂にこの時が来たか……この力は封印すると決めていたのだが……」
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