【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命

文字の大きさ
10 / 69
最強の中二病編

その10 いざ決闘

しおりを挟む
 決闘は明日の放課後ということになった。

 どちらかが降参するか、戦闘不能になるか。
 相手を殺さない程度であれば、どんな痛い攻撃も可能らしい。

「決闘をするとなれば、〈決闘許可証〉が必要になる。この決闘を持ちかけたのは僕だ。僕が責任を持って師匠マスターに申請しておくよ」

 グレイソンには感心だ。

 責任感はあるし、誠意もある。
 視野が狭くなり、自分の実力に溺れているところが改善されれば、普通にいい奴だということだ。

「その誠意に感謝しよう」

「そうやって感謝ができる人なのに、どうして謝ることができないんだろうね」

 多少嫌味にも聞こえるが、問題ない。

 ほとんどは俺が悪いからだ。

 自分が「かっこよさそう」なことをするためだけに、彼を利用している。先に相手を罵倒したのも、挑発したのも俺だ。

 ベンチから離れてグレイソンに近づく。ゆっくりと歩き、他の四人の視線を絡め取った。

「俺は自分が間違っていると認めるつもりはない」

 正面のイケメンと美少女姉妹に、己の信念を突きつける。
 中庭に差し込む一筋の光が、俺の黄金色の瞳を幻想的に輝かせた。

「明日の放課後、〈闘技場ネオ〉で会おう。俺はひとりで待っている」

 相手に何も言わせないまま、俺は無表情で中庭を去った。



 ***



「君は先に帰っていてくれ。俺の心配はいい」

「オスカー……」

 遂にこの時がやってきた。

 決闘の日。

 当然ながら昨日の放課後は学園図書館と闘技場に赴き、図書委員の如月きさらぎエリザベス、剣術教師である桐生きりゅうとの時間を過ごしたわけだが、どんな決闘にするのかを考えることが楽しすぎて、ずっとそわそわしてしまっていた。

 寮に帰ってからも想像イメージを膨らませた決闘の台本シナリオは、俺の実力をほどよく発揮できるものになっている。

 準備は完璧だ。

「逃げたりとかはしないのね」

「決闘許可証にはマスター・桐生のサインがある。正当に戦えるというのなら、問題ない」

「ていうか、本気で勝てると思ってるの? 冗談じゃなかったの?」

 パッとしない俺に素朴な疑問をぶるけるセレナに、俺は答える。

「まさか。俺の実力が一ノ瀬いちのせに及ぶわけがない」

「じゃあ、どうやって……」

「それでも戦うんだ。自分の信念を貫くために。これでも俺は、、だということだ」

 セレナの不安や心配はよく伝わってきた。

 実力差がはっきりしている戦いに挑むなど馬鹿のすることだ。
 俺はそれをやろうとしている。彼女の美しい瞳にはそうとしか映っていない。だが、実際は立場が逆なのだ。

 俺が圧倒的強者であり、グレイソンが圧倒的弱者である。

「わかった。私はオスカーを信じるから。何を言っても決闘するつもりでしょ」

「そうだな」

 何の根拠もないはずなのに信じてくれたセレナ。それが面白くて、つい笑ってしまう。

 だが、彼女はそれを嬉し笑いだと勘違いしてくれた。

「頑張って」

 俺を送り出す時の最後の言葉。

 ただの、頑張って。

 それなのにも関わらず、いつもの彼女とは違うものを感じた。温かく、優しい感情・・
 セレナは俺をどう見ているんだろう。今はなぜか、彼女と誰よりも心で繋がっている気がする。



 ***



 放課後の〈闘技場ネオ〉に響く三人の足音。

 背を向けて仁王立ちしている俺のもとに、ひとりの男子生徒と、その取り巻きである二人の女子生徒が現れた。

 ブルー姉妹が来てくれたことを把握して、小さくガッツポーズする。
 見世物ショーには観客が必要だ。たとえふたりだけでも、観客ゼロよりは遥かに盛り上がる。

 グレイソンは武装していた。

 銀の戦闘服アーマーはスタイルのいい体にしっかりと馴染んでいて、腰には魔力の通りがいいミスリル製の剣が装備してある。

 対して俺は、武装もせずに制服のまま。

 何色にも染まれるという理由で白色になっている上着ブレザーに、同じく白を基調としたスラックス。
 胸には大勇者アーサーの聖剣、エクスカリバーのモザイク画が縫いつけてある。

「そんな丸腰の状態で、完全武装の僕に勝つつもりなのかい?」

 半分挑発的にグレイソンが聞いてきた。

 俺はここぞとばかりに斜め上を見つめ、一度瞬きをして話し始める。

「世界は俺に試練を課した。過酷で、少しでも気を緩めれば一瞬で殺されてしまう……そんな中、俺は武装の境地に辿り着いた」

「……」

「強ければ、武装などする必要がない」

「──ッ!」

「常に軽く、素早く、そして正確に……俺は妥協できないんだ」

 三人の反応はそれぞれだ。

 グレイソンは押し黙り、ブルー姉妹の短髪ショートボブの方は小さい体でぴょんぴょん跳ねながらグレイソンを・・・・・・崇め、長髪ロングの方は何かを危惧するように不穏な表情を見せている。

 結局、俺の言葉など関係ないのだ。

「そこの二人は上の観客席に上がっていてくれ。異次元の実力を見せてやろう」

 俺のことなど眼中にないブルー姉妹に声をかける。

 反応はなかったものの、素直に従ってくれた。
 
 実力の解放をするとなれば、膨大な力を直接戦場フィールドで受けることになる。同じ土俵にいては普通に死んでしまうレベルだ。

「もし俺が負ければ、クラスメイト全員の前で君に土下座しよう」

「そうか。それなら仮にも僕が負ければ、僕が君に対して謝ることと同時に、今後は君のことを神のように崇拝するよ。まあ、そんなことは起こり得ないと思っているから言っているわけだけどね」

 グレイソンが気の毒だ。

 そこまで言っても良かったのか。
 この決闘が終わる頃には、本気で後悔していることだろう。

 俺は彼から見えないように小さく笑った。

 相手グレイソンは相当鈍いようだ。

 ──大した実力がないと思っている奴が余裕な表情で勝利を確信している。

 その状況から考えれば、こいつには何かある、という結論に至ってもいいはず。

 だが、彼にはその発想がない。

 自分の実力に酔いすぎて、対戦相手の奇行に気づけないでいる。これは普通の戦闘においても、かなり深刻な過失になりかねない。
 自信を持ちすぎるということは、同時に周囲への警戒を薄くしてしまう危険性がある。

 俺はグレイソンという男からそれを学んだ。

西園寺さいおんじオスカー君、キミにハンデをやるよ。先制攻撃はキミに譲る。好きな時にかかってくるといい」

「そうか」

 冷静に返し、剣を抜く。

 ここからが肝心だ。
 この決闘における可能性は無限に広がっている。結局は俺の動き次第だ。

 一撃で終わらせようと思えば簡単に決着はつくだろう。だが……それはあまりに呆気なさすぎて、彼の自尊心に大きな傷をつけることになってしまい、今後ずっと敵対し続ける、とかいう面倒くさい・・・・・ことになる可能性がある。

 それなら、自分の洗練された剣技を軽く見せて、ギリギリで勝ちました、とでもいうような雰囲気を出して勝つか。

 いや……それだと圧倒的な力の差を感じない。

 勝利というのは圧倒的でなくてはならない。
 かろうじて、ギリギリで……余裕のない状態で勝ったところで、それは俺の求める「かっこよさそう」な戦いバトルではないのだ。

 いろいろ戦い方を考えるも、どう頑張っても一ノ瀬いちのせグレイソンという人間の高い自尊心を痛めつけることに変わりはない。

 ならば……あの・・戦い方でいくか。

 俺は桐生きりゅう顔負けの美しい構えを取った。これには思わず観客席にいるブルー姉妹も感嘆の声を漏らす。

 これが本当の剣術。

 これが剣術のあるべき姿。

 ハンデとやらに感謝して、俺は軽めの・・・先制攻撃を叩き込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

処理中です...