【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命

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読書パーティー編

その50 オススメの小説

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「あ、後輩君」

 夏休みでも毎日通うことにした学園図書館。
 つい最近、俺に新たな知り合いができた。

涼風すずかぜ

 早い段階からお互いに言葉を交わしていた如月きさらぎエリザベスと違い、涼風クレアとは一件あり、それ以来話をするようになったのだ。

 涼風はエリザベスと同じ図書カウンター当番で、週に二回ほど図書館に来ている。実は前から何度も顔を合わせていたわけだが、お互いにそこまで興味はなかった。

 深紅色クリムゾン短髪ベリーショートが似合う、中性的な整った顔立ち。グレイソンともどこか系統が近い、いわゆる爽やか系だ。
 ちなみに、彼女は俺と同様に平民出身らしい。

 一学期終業式の時に初めて話して以来である。

「オスカーくん、涼風さんと知り合いだったの?」

 親しげな雰囲気を匂わせたことに、エリザベスが反応した。
 口調は優しいが、顔は引きつっていて少し怖い。

「――後輩君とは、この前少し話しただけ。ほら、如月がいない時あったでしょ?」

 俺が答える前に、慌てた様子で涼風が説明した。
 彼女の説明は間違っているわけではない。

「ほんとに?」

「ほんとだって。なんで疑うのさ?」

 俺にはこの二人の関係性がよく掴めていなかった。

 涼風から聞いたところによると、同学年だが図書カウンター当番の時に少し話すだけで、それ以外で関わることはほとんどない、とのことだ。
 とはいえ、寛容で仕事熱心なエリザベスのことを、涼風は人として尊敬しているらしい。よくある話だ。

「そういえば……エリザベス、俺は今、間違いなく面白いと思える小説を探している」

 微妙な空気が張り詰めていたので、話題を変える。

 だが、涼風は顔をしかめていた。もっと大事なこと聞けよ、という風に責められているような気もするが、無視だ。

「小説選びで失敗するわけにはいかない。世界の命運が、君の一言にかかっている」

「そんな大げさな」

 発言に水を差す涼風。
 少し黙っていてもらいたい。

 エリザベスは小説の話題に変わったことが嬉しかったのか、飾りのない自然な笑顔になった。きっと世界を揺るがす最強の小説に出会わせてくれることだろう。

「やっぱり『勇者との決別』かな。女性主人公のお話なんだけど、強くて、自分の意志をしっかり持ってて……オスカーくんも気に入ってくれると思うよ」

 エリザベスは俺についてくるように言った。
 図書カウンターに涼風を残し、本棚へと向かう。ゼルトル王国の有名な小説家や詩人が書いた物語の本棚に、その小説はあった。



 『勇者との決別』



 さほど厚くはなく、二日もすれば読めそうだ。俺も題名タイトルだけは聞いたことがあった。主流メジャーというわけではないが、コアな読者ファンを多く獲得している印象がある。

 ジャンルは冒険もの。
 十七歳の主人公イライザが、ある勇者と共に冒険をする物語らしい。

 だが、題名タイトルからもわかる通り、ある勇者と別れるところが話の主軸メイン。その勇者とやらが相当なクズだから、とのことだ。

 面白いのは間違いないだろう。流石はエリザベスだ。

「あたしは今ちょうどイライザと同じ年齢としだから、自分がイライザだと思って読むんだけど、あたしには自信も強い意志もないし、凄く弱くて……」

 気づけばエリザベスは自分を責めていた。
 暗い表情で自分を卑下し、うつむき始める。

「面白い小説の紹介をしてくれるはずだが」

「――ご、ごめんっ。あたし、すぐ物事を悪い方向に考える癖があって……」

「それは必ずしも悪いことではない。最悪の状況を想定することも、時には必要だ」

 今のエリザベスはなんだか疲れ切っていた。
 この疲れの原因が涼風の言っていた通りなら、彼女を救うことができるのは俺だけだろう。だが、まだ例の件・・・についてはあえて触れない。

 そっとエリザベスの二の腕に手を置き、彼女の気持ちを落ち着かせる。

「俺のそばにいる限り、最悪の状況は起こり得ない。信じてくれ。どんなことがあろうとも、俺は君を守る。だから、俺にはずっと、その美しい笑顔を見せていて欲しい」

「オスカーくん……」

 エリザベスが俺の胸の中に飛び込んできた。

 人は自分で抱え込めない悩みがあると、救いを求めることしかできなくなってしまう。自分よりも強い存在が、優しく包み込んでやる必要があるのだ。

 幸い周囲に人の気配はない。
 俺に抱きつくエリザベスの体は思っていた以上に華奢で、少し力を込めれば簡単に折れてしまいそうだった。

「安心しろ、エリザベス」

 優しく耳元で囁く。

 彼女が抱えている問題については、涼風のおかげでなんとなく知っていた。
 俺の方から切り出すこともできる。だが、俺は待っていた。彼女の方から、俺に助けを求めてくることを。

 西園寺さいおんじオスカーは優しい男ではない。
 孤高の存在であり、お人好しではないのだ。

 だが、助けを求められれば、いつでも駆けつけ、助けてやろう。それが力を持つ者の定めであり、宿命なのだから。
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