58 / 105
オスカーの帰郷編
その58 嵐の静まり
しおりを挟む
五十嵐アイザックは退学になった。
そう言いたいところだが、そう思い通りにはいかないのが貴族という厄介なものだ。
グレイソンのおかげで、五十嵐の暴走はこれ以降起こらないだろう。一ノ瀬家には五十嵐家を潰すだけの力がある。とりあえずそれは理解できた。
「それで、五十嵐はどうなったのです?」
クルリンがベンチに腰掛け、足をぶらぶらさせながら聞いてくる。
読書パーティーの翌日にも、俺とグレイソンは剣術の訓練をしていた。その帰りで、偶然にも双子姉妹に遭遇したわけだ。
「奴は俺からの一撃で内臓が破裂していた」
「ふぇ?」「え?」
平然と事実を述べる。
あの程度の一撃で破裂する内臓。哀れだ。もう一度はっきりと言おう。俺は〈魂の拳〉を使ったわけではない。哀れだ。
クルリンが目を丸くし、ミクリンが拍子抜けする。
「オスカーがすぐに治してなかったら、あそこで死人が出てたよ」
苦笑いしながら、グレイソンが一言。
神は殺したことがあるが、人間は殺したことがない。無論、俺に五十嵐を殺すつもりはなかった。
あの後、俺はすぐに五十嵐を〈超回復〉で治療した。
自身の魔力を犠牲にすることと、最低四時間の睡眠を必要するという苦労から、滅多に使うことのない神能だ。
「安心しろ。俺は人殺しになるつもりなどない」
「むぅ。なんであたちにはおしえてくれなかったのです? あたちも力になれたかもしれないのにぃ」
クルリンはぷくっと頬を膨らませた。
彼女もミクリンも平民出身だ。貴族の問題は貴族で解決することが好ましい。五十嵐の場合、一ノ瀬グレイソンに頼ることが最善策だった。
今こうして二人に話しているのは、もうすでに事件が解決してしまったから。
それと、ただの話題作りといったところか。
「まだだ」
「ほにゃ?」
「クルリンにしかできないことがあるように、今回はグレイソンにしかできないことがあった。いずれ君の力も借りることになるかもしれないが、その時は俺に協力してくれるか?」
「もっ、もちろんなのです!」
子供のようにはしゃぐ少女。
それに対してミクリンは、少し呆れたような表情を見せた。
「オスカー君に迷惑をかけないといいんですけど……」
自分の双子の妹が俺に迷惑をかけてしまうことを心配しているらしい。彼女はこの中の誰よりも礼儀正しく、常識がある。
毎回思うが、この双子は正反対だ。
「なに、気にするな。迷惑なわけがない」
不安げな表情のミクリンを見つめ、優しく彼女の顎に手を添える。
お互いの視線が結びつき、唯一無二の繋がりを生み出した。ほんのりとミクリンの顔が赤く色づく。
「少し……顔が近いです」
「不満か?」
すると首を激しく横に振る。
「そんなことはないんですけど……少し緊張して……」
「むぅ」
クルリンがベンチから立ち上がり、俺とミクリンの間に入る。
「抜け駆けは駄目なのです」
どうやら、二人で西園寺オスカーの取り合いをしているようだ。
学年でも可愛い、もしくは美人な女子生徒として男子生徒から注目を浴びているらしい若槻姉妹。
その二人に熱を上げられている、最近座学での頭角を現し始めた西園寺オスカー。
なかなか悪くない。
それでいて、学年一の美少女であるセレナは、完全に俺に落ちていた。
西園寺オスカーには、何か特別な魅力があるのではないか。女性を惹きつけてやまない魅力があるのではないか。
グレイソンのような女子を射止める容姿の持ち主でもなければ、白竜のような面白さやコミュニケーション能力の持ち主でもない。
曖昧で未知な感じ。
最高に「かっこよさそう」だ。
ミクリンの小振りな顎から手を離し、小さな吐息を漏らす。
「世界はまだ、俺を解放してくれないか」
気持ち暗めで、険しい表情を加える。すると絶妙に奥深い台詞の誕生だ。
世界に対する嘆き。
普通の学生は世界と対峙することなどしない。自分の身の回りのことで精一杯だ。だが、俺は違う。
「オスカー様、どうしたのです?」
クルリンが小さな可愛らしい手で、俺の手首をきゅっと握った。その行動に込められた意味は誰にもわからない。
そして思った。
場の雰囲気を理解できないクルリンの行動は、俺にとって最大の脅威となる。
「いつか君達が、こんな俺を救ってくれ」
「オスカー……キミは一体……」
頭上を黒いカラスが鳴き声を上げながら飛び去っていく。
クルリンに雰囲気を台無しにされかけるも、グレイソンの熱演が俺を救った瞬間だった。
そう言いたいところだが、そう思い通りにはいかないのが貴族という厄介なものだ。
グレイソンのおかげで、五十嵐の暴走はこれ以降起こらないだろう。一ノ瀬家には五十嵐家を潰すだけの力がある。とりあえずそれは理解できた。
「それで、五十嵐はどうなったのです?」
クルリンがベンチに腰掛け、足をぶらぶらさせながら聞いてくる。
読書パーティーの翌日にも、俺とグレイソンは剣術の訓練をしていた。その帰りで、偶然にも双子姉妹に遭遇したわけだ。
「奴は俺からの一撃で内臓が破裂していた」
「ふぇ?」「え?」
平然と事実を述べる。
あの程度の一撃で破裂する内臓。哀れだ。もう一度はっきりと言おう。俺は〈魂の拳〉を使ったわけではない。哀れだ。
クルリンが目を丸くし、ミクリンが拍子抜けする。
「オスカーがすぐに治してなかったら、あそこで死人が出てたよ」
苦笑いしながら、グレイソンが一言。
神は殺したことがあるが、人間は殺したことがない。無論、俺に五十嵐を殺すつもりはなかった。
あの後、俺はすぐに五十嵐を〈超回復〉で治療した。
自身の魔力を犠牲にすることと、最低四時間の睡眠を必要するという苦労から、滅多に使うことのない神能だ。
「安心しろ。俺は人殺しになるつもりなどない」
「むぅ。なんであたちにはおしえてくれなかったのです? あたちも力になれたかもしれないのにぃ」
クルリンはぷくっと頬を膨らませた。
彼女もミクリンも平民出身だ。貴族の問題は貴族で解決することが好ましい。五十嵐の場合、一ノ瀬グレイソンに頼ることが最善策だった。
今こうして二人に話しているのは、もうすでに事件が解決してしまったから。
それと、ただの話題作りといったところか。
「まだだ」
「ほにゃ?」
「クルリンにしかできないことがあるように、今回はグレイソンにしかできないことがあった。いずれ君の力も借りることになるかもしれないが、その時は俺に協力してくれるか?」
「もっ、もちろんなのです!」
子供のようにはしゃぐ少女。
それに対してミクリンは、少し呆れたような表情を見せた。
「オスカー君に迷惑をかけないといいんですけど……」
自分の双子の妹が俺に迷惑をかけてしまうことを心配しているらしい。彼女はこの中の誰よりも礼儀正しく、常識がある。
毎回思うが、この双子は正反対だ。
「なに、気にするな。迷惑なわけがない」
不安げな表情のミクリンを見つめ、優しく彼女の顎に手を添える。
お互いの視線が結びつき、唯一無二の繋がりを生み出した。ほんのりとミクリンの顔が赤く色づく。
「少し……顔が近いです」
「不満か?」
すると首を激しく横に振る。
「そんなことはないんですけど……少し緊張して……」
「むぅ」
クルリンがベンチから立ち上がり、俺とミクリンの間に入る。
「抜け駆けは駄目なのです」
どうやら、二人で西園寺オスカーの取り合いをしているようだ。
学年でも可愛い、もしくは美人な女子生徒として男子生徒から注目を浴びているらしい若槻姉妹。
その二人に熱を上げられている、最近座学での頭角を現し始めた西園寺オスカー。
なかなか悪くない。
それでいて、学年一の美少女であるセレナは、完全に俺に落ちていた。
西園寺オスカーには、何か特別な魅力があるのではないか。女性を惹きつけてやまない魅力があるのではないか。
グレイソンのような女子を射止める容姿の持ち主でもなければ、白竜のような面白さやコミュニケーション能力の持ち主でもない。
曖昧で未知な感じ。
最高に「かっこよさそう」だ。
ミクリンの小振りな顎から手を離し、小さな吐息を漏らす。
「世界はまだ、俺を解放してくれないか」
気持ち暗めで、険しい表情を加える。すると絶妙に奥深い台詞の誕生だ。
世界に対する嘆き。
普通の学生は世界と対峙することなどしない。自分の身の回りのことで精一杯だ。だが、俺は違う。
「オスカー様、どうしたのです?」
クルリンが小さな可愛らしい手で、俺の手首をきゅっと握った。その行動に込められた意味は誰にもわからない。
そして思った。
場の雰囲気を理解できないクルリンの行動は、俺にとって最大の脅威となる。
「いつか君達が、こんな俺を救ってくれ」
「オスカー……キミは一体……」
頭上を黒いカラスが鳴き声を上げながら飛び去っていく。
クルリンに雰囲気を台無しにされかけるも、グレイソンの熱演が俺を救った瞬間だった。
41
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~
エース皇命
ファンタジー
学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。
そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。
「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」
なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。
これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。
※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
【完結】オレの勇者パーティは全員アホだが強すぎる。
エース皇命
ファンタジー
異世界に来て3年がたった。
オレの所属する勇者パーティ、イレギュラーズは相変わらず王都最強のパーティとして君臨している。
エルフのクリス、魔術師のジャック、猫耳少女ランラン、絶世の美女シエナ。
全員チート級の強さを誇るけど、どこか抜けていて、アホ全開である。
クリスは髪のセットに命をかけて戦いに遅刻するし、ジャックは賢いもののとことん空気を読まない。ランランは3歩あるくだけで迷子になるし、シエナはマイペースで追い詰めた敵を見逃す。
そんなオレたちの周囲の連中もアホばかりだ。
この世界にはアホしかいないのか。そう呆れるオレだったけど、そんな連中に囲まれている時点で、自分も相当なアホであることに気づくのは、結構すぐのことだった。
最強のアホチーム、イレギュラーズは今日も、王都を救う!
※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる