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第10話 魔王の条件
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『デストロイヤー』の五人は、スペイゴール最強と言われている『デイブレイク』に会うために、ユハ帝国から南に向かっていた。
「そのアジトはどこにあるんだ?」リーダーのポールが聞いた。
「たぶん、このまま南に行けば着くはず」
一行はエリスに従ってここまで歩き続けているが、空腹や疲労もあって移動速度はかなり遅い。
エリスは一度だけデイブレイクのシエナというメンバーに会ったことがある。そのときはだいたい一年くらい前だっただろうか。話せば長くなるが、その際にシエナと友情を築き、避難のためのアジトの場所を教えてもらっていた。
「ロジャー、頑張って」エリスが鼓舞する。
ロジャーは帝国の境界線での戦いで重症を負ってから、ずいぶんと弱ってきていた。ダークエルフにかまれた右腕の深い傷は、今では青く変色し、早く治療をしないと切断しなければならないかもしれない。
「あ、あれ! あれじゃない!?」チーム最年少で、十九歳のサナが叫んだ。
「きっとそうだわ!」エリスも確信している。
地平線の手前に、レンガで建てられた小さな建物が見えた。
「アキラはヒーローだった」
アジトでは、デイブレイクの五人がこの前の闘技場での一件について話していた。
「たった一人でドラゴンキラーに立ち向かって、倒すんだもの」シエナはずっとアキラの素晴らしさについて語っている。
クリスとランランとジャックはあのときの記憶がほとんどないようだった。ランランにいたっては、気絶していたので当然かもしれない。まだ頭を包帯で巻いている。
「あいつをどうやって倒したの?」ランランが聞く。まだ疑っているらしい。
「超接近戦に持ち込んだ」アキラが答えた。「それがドラゴンキラーの弱点だ。前から戦い方の噂も聞いていたし、すぐに見抜けたんだ」
「あれだけ戦った相手のサインが、ほんとに欲しいの?」シエナが面白そうに聞く。
「ファンなんだ」とアキラ。「今度こそ絶対いただくぞ」
ランランはアキラとシエナの距離が前よりも近づいたことを悟ったようだ。少し嬉しかった。
「とにかく、アキラには感謝しかないよ」クリスが言った。「肩もすぐによくなったし、かなりの大金も手に入った。一件落着だ」
ちょうどそのとき、ドアを激しくノックする音が聞こえた。
「客か?」アキラが立ち上がる。
「もしかして、あのデニスちゃんとか!?」ランランは期待に胸を膨らませた。
「あいつはごめんだ」ジャックがつぶやく。
デニスはランランが死ぬほど可愛がっていたゴブリンの少年だ。もし外にいるのがデニスだったら、一週間ぶりの再会となる。
「すみません!」ドアの外から女性の声がした。「デイブレイクのみなさんですか?」
「デニスじゃないみたいだな」ジャックは嬉しそうだ。
ランランは落ち込んだ。「えー、うそでしょー」
「あの! 『デストロイヤー』というチームです! 助けてください!」
シエナは女性の声に聞き覚えがある気がした。
もしかして、エリス?
「私が出る」
シエナはそう言って、玄関のドアを開けた。
ドアの前には、エリスとぐったりした男を抱えた男、ぐったりとした男、スリムな体型の女、頭のよさそうな細い男の五人が、今にも死にそうな顔でこっちを見ていた。
「シエナ!」エリスが嬉しそうにシエナをハグする。「久しぶり!」
「エリス、久しぶり」シエナはいきなりのハグに驚きながらも、優しく抱き返した。
「なんだ、知り合いか?」アキラが聞いた。
「うん、友達」シエナが答える。
「それなら、一安心だな」
エリスははっと我に戻って、ポールに抱えられているロジャーを見た。「重症なんです! 彼を治してくれませんか!?」
クリスはすぐに行動に移った。「彼をこっちに!」
ポールは力尽きるようにクリスにロジャーを預け、自分は玄関に倒れ込んだ。
「他のみんなも重症じゃない!」ランランはすぐにロジャーを抱える。「アキラ、他の三人もよろしく!」
アキラだけでなく、ジャックとシエナもすぐに残りの三人を保護した。
「水を!」アキラが叫ぶ。
そうして、ばたばたしながら五人を看病した。
「なんとか無事でよかった」クリスがほっとため息をつく。
五人には水と食料を与え、ベッドで寝てもらっていた。命は大丈夫そうだ。
しかし、ロジャーの傷はひどく、ずっと苦しんでいた。
「高熱だ」アキラがつぶやく。「傷口から毒が入ったのか?」
「ダークウルフにかまれたらしい」ジャックが厳しい表情で言った。「ダークウルフにかまれると、全身に闇のエネルギーが循環し、最悪の場合、死ぬ」
誰も何も言わなかった。
そうしている間にもロジャーはうなりながらもがき続けている。
ついに見ていられないまでになった。全身が痙攣し、発狂を繰り返す。
ある程度疲労から回復したデストロイヤーの四人も、ベッドから起きて様子を見にきた。
「ロジャー、安心して! ジャックに治してもらえるから」心配そうにエリスが声をかける。「もう少しの辛抱よ」
今の一言がジャックへのプレッシャーになったことは間違いなかったが、ジャックは黙ったままうなずいた。
「おい、治せるのか?」アキラが聞く。
「かまれてから相当な時間がたっている」ジャックは深刻な表情だった。「黒魔術に頼るしか道はなさそうだ」
「黒魔術は危険だ」クリスが言った。「ジャックの命も危ないかもしれない」
ジャックはすでに覚悟を決めていた。
魔王の力を借りてロジャーを救う。
「みんな、すまないが黙っていてくれ」
ジャックはロジャーが寝かされている部屋(いつもはアキラの部屋だ)から他のみんなを追い出した。
「瞑想に集中したい」
足を組み、地面に座り込む。両手で輪っかを作って、目をつぶれば準備完了だ。
呼吸を続けていると、徐々に体が地面から離れ、宙に浮き始めた。しかし、彼にとってはいつものことだ。落ち着いて瞑想を続けた。
ジャックが目を開けると、炎が燃え盛る灼熱の王国であり、死の国とも言われているアビス王国に移動していた。
黒魔術の魔法は、ほとんどがこのアビス王国の闇から力を得ている。
「ご要件は?」
気がつくと、目の前には骸骨の男が現れていた。
「魔王と話がしたい」ジャックが答える。
「残念ですが、本日は予約で埋まっております」骸骨が答えた。「大魔王様との面会がご希望なのでしたら、事前にご予約をいただかないと」
「緊急だ」ジャックが言った。「ダークウルフの闇循環を取り除きたい」
骸骨がゆっくりと首を横に振る。「ダークウルフの闇循環は代償が大きいですよ。自分の命が大事なのでしたら、今すぐにお帰りください」
「まずは魔王と会わせてくれ。知り合いだ」
「ほう。では、お名前を」
「ジャックだ。人間の男。魔王に伝えてくれればわかる」
「それは特別料金ですね。わたくしとしても――」
話しても無駄だと判断したのか、ジャックは杖で骸骨をばらばらにした。「悪いな」
魔王の王宮まではかなりの行列ができていて、並んでいたら一年くらいかかりそうだ。
「仕方ないか」
ジャックはため息をついて目を閉じ、瞬間移動をした。
「どうなってるんだ?」アキラは心配で気が狂いそうになっている。
八人はジャックに言われた通り、部屋の外でずっと待っていた。
「そろそろドアを開けても――」
「やめた方がいい」クリスが止める。「それですべてが台無しになったらどうする?」
八人は無力感に襲われていた。
ジャックが瞬間移動した先は魔王の王宮の洋間だった。
このアビス王国では、相当な魔力を持つ者だけに瞬間移動が許されている。もちろん、瞬間移動などこの王国内でしかできない。
「最初からこうすればよかった」ジャックは骸骨と時間を無駄にしたことを悔やんだ。
「おやおや、ジャックではないか」
洋間には、たまたま魔王がソファーに座っていた。
魔王は身長五メートル。皮膚は真っ赤で、目はすべてが真っ黒だ。まさしく王、とでも言いたくなるような赤のコートを羽織っている。
「久しぶりだ」ジャックは旧友に会うかのように手を上げて挨拶した。
「遊びにきてくれたのか?」魔王が聞く。
相当退屈しているらしい。
実は魔王とジャックは親友と言ってもいいほどの仲で、ユハ帝国の任務が忙しくなり始める前まではよく遊んでいた。
「そうしたいのは山々だが、ダークエルフの闇循環に襲われているやつのためにきた。今日助けを求めにきたやつだ」ジャックが答えた。
「ダークエルフの悪循環」魔王は渋い表情だ。「それは難しいかもしれん」
「なぜだ?」
「それを取り除くことは可能だが、代償が大きくなる」
「どんな代償だ?」
「命だ」魔王が静かに言った。「古い掟で、頼みにきた者の命が交換条件となる」
ジャックはしばらく無言だった。
「もしその頼みを聞けば、わしはお前を殺さなくてはならなくなる。友人の命を奪うことはしたくないものだ」
「だが……救える命を見過ごすわけにはいかない」ジャックの目からは覚悟が感じられる。
「仲間はいいのか?」魔王はためらっている。「お前を必要としているはずだ」
ジャックがうつむく。「こうするしかない」
「今日会ったばかりの者のために、ここまでするとは」魔王は感心しているのか、正義感の強さに呆れているのか。「本当にいいのだな?」
「ああ」ジャックがうなずく。「やってくれ」
魔王がささやくような声で呪文を唱え始めた。
だんだんジャックの体が動かなくなっていく。しかしそれと同時に、現実世界ではロジャーが回復していっていることがわかった。
ついにジャックの心臓も、何もかもが動かなくなり、少しずつ冷たくなっていった。
「ロジャーの叫び声もしなくなったぞ!」アキラが声を張り上げた。「もう流石に入ってもいいだろ」
クリスは慎重にうなずいた。「わかった。気をつけるんだぞ」
アキラが恐る恐るドアを開ける。
「ロジャーが戻ったわ!」すぐにエリスが叫んだ。「ジャックはやってくれたのね!」
八人がすごい勢いでアキラの部屋に入っていった。
「流石だな、ジャックは」クリスは感心している。
「ロジャー!」エリスとポールは、すぐにロジャーに抱きついた。「よかった!」
「おい!」アキラが狂ったように叫んだ。「ジャックが!」
ジャックは地面に倒れ込んでいた。ただ疲れ果てて寝ているものと思っていたが……。
クリスがとっさにジャックに触れる。「うそだ……」
ジャックは冷たくなっていた。
「死んでる……ジャックは……死んだ」
★ ★ ★
~作者のコメント~
最後はまさかの展開ですみません。ストレスが多いかもですね。
ですが、この内容は第11話でも続きますので、次にご期待ください。
次からはシーズン2に入り、メインストーリーである『建国』も徐々に始まっていきます。しかし、ゆったりとしたペースは変わらないのでどうかご安心を。
シーズン1をここまで読んでくださりありがとうございました。シーズン2も引き続きよろしくお願いいたします!!
「そのアジトはどこにあるんだ?」リーダーのポールが聞いた。
「たぶん、このまま南に行けば着くはず」
一行はエリスに従ってここまで歩き続けているが、空腹や疲労もあって移動速度はかなり遅い。
エリスは一度だけデイブレイクのシエナというメンバーに会ったことがある。そのときはだいたい一年くらい前だっただろうか。話せば長くなるが、その際にシエナと友情を築き、避難のためのアジトの場所を教えてもらっていた。
「ロジャー、頑張って」エリスが鼓舞する。
ロジャーは帝国の境界線での戦いで重症を負ってから、ずいぶんと弱ってきていた。ダークエルフにかまれた右腕の深い傷は、今では青く変色し、早く治療をしないと切断しなければならないかもしれない。
「あ、あれ! あれじゃない!?」チーム最年少で、十九歳のサナが叫んだ。
「きっとそうだわ!」エリスも確信している。
地平線の手前に、レンガで建てられた小さな建物が見えた。
「アキラはヒーローだった」
アジトでは、デイブレイクの五人がこの前の闘技場での一件について話していた。
「たった一人でドラゴンキラーに立ち向かって、倒すんだもの」シエナはずっとアキラの素晴らしさについて語っている。
クリスとランランとジャックはあのときの記憶がほとんどないようだった。ランランにいたっては、気絶していたので当然かもしれない。まだ頭を包帯で巻いている。
「あいつをどうやって倒したの?」ランランが聞く。まだ疑っているらしい。
「超接近戦に持ち込んだ」アキラが答えた。「それがドラゴンキラーの弱点だ。前から戦い方の噂も聞いていたし、すぐに見抜けたんだ」
「あれだけ戦った相手のサインが、ほんとに欲しいの?」シエナが面白そうに聞く。
「ファンなんだ」とアキラ。「今度こそ絶対いただくぞ」
ランランはアキラとシエナの距離が前よりも近づいたことを悟ったようだ。少し嬉しかった。
「とにかく、アキラには感謝しかないよ」クリスが言った。「肩もすぐによくなったし、かなりの大金も手に入った。一件落着だ」
ちょうどそのとき、ドアを激しくノックする音が聞こえた。
「客か?」アキラが立ち上がる。
「もしかして、あのデニスちゃんとか!?」ランランは期待に胸を膨らませた。
「あいつはごめんだ」ジャックがつぶやく。
デニスはランランが死ぬほど可愛がっていたゴブリンの少年だ。もし外にいるのがデニスだったら、一週間ぶりの再会となる。
「すみません!」ドアの外から女性の声がした。「デイブレイクのみなさんですか?」
「デニスじゃないみたいだな」ジャックは嬉しそうだ。
ランランは落ち込んだ。「えー、うそでしょー」
「あの! 『デストロイヤー』というチームです! 助けてください!」
シエナは女性の声に聞き覚えがある気がした。
もしかして、エリス?
「私が出る」
シエナはそう言って、玄関のドアを開けた。
ドアの前には、エリスとぐったりした男を抱えた男、ぐったりとした男、スリムな体型の女、頭のよさそうな細い男の五人が、今にも死にそうな顔でこっちを見ていた。
「シエナ!」エリスが嬉しそうにシエナをハグする。「久しぶり!」
「エリス、久しぶり」シエナはいきなりのハグに驚きながらも、優しく抱き返した。
「なんだ、知り合いか?」アキラが聞いた。
「うん、友達」シエナが答える。
「それなら、一安心だな」
エリスははっと我に戻って、ポールに抱えられているロジャーを見た。「重症なんです! 彼を治してくれませんか!?」
クリスはすぐに行動に移った。「彼をこっちに!」
ポールは力尽きるようにクリスにロジャーを預け、自分は玄関に倒れ込んだ。
「他のみんなも重症じゃない!」ランランはすぐにロジャーを抱える。「アキラ、他の三人もよろしく!」
アキラだけでなく、ジャックとシエナもすぐに残りの三人を保護した。
「水を!」アキラが叫ぶ。
そうして、ばたばたしながら五人を看病した。
「なんとか無事でよかった」クリスがほっとため息をつく。
五人には水と食料を与え、ベッドで寝てもらっていた。命は大丈夫そうだ。
しかし、ロジャーの傷はひどく、ずっと苦しんでいた。
「高熱だ」アキラがつぶやく。「傷口から毒が入ったのか?」
「ダークウルフにかまれたらしい」ジャックが厳しい表情で言った。「ダークウルフにかまれると、全身に闇のエネルギーが循環し、最悪の場合、死ぬ」
誰も何も言わなかった。
そうしている間にもロジャーはうなりながらもがき続けている。
ついに見ていられないまでになった。全身が痙攣し、発狂を繰り返す。
ある程度疲労から回復したデストロイヤーの四人も、ベッドから起きて様子を見にきた。
「ロジャー、安心して! ジャックに治してもらえるから」心配そうにエリスが声をかける。「もう少しの辛抱よ」
今の一言がジャックへのプレッシャーになったことは間違いなかったが、ジャックは黙ったままうなずいた。
「おい、治せるのか?」アキラが聞く。
「かまれてから相当な時間がたっている」ジャックは深刻な表情だった。「黒魔術に頼るしか道はなさそうだ」
「黒魔術は危険だ」クリスが言った。「ジャックの命も危ないかもしれない」
ジャックはすでに覚悟を決めていた。
魔王の力を借りてロジャーを救う。
「みんな、すまないが黙っていてくれ」
ジャックはロジャーが寝かされている部屋(いつもはアキラの部屋だ)から他のみんなを追い出した。
「瞑想に集中したい」
足を組み、地面に座り込む。両手で輪っかを作って、目をつぶれば準備完了だ。
呼吸を続けていると、徐々に体が地面から離れ、宙に浮き始めた。しかし、彼にとってはいつものことだ。落ち着いて瞑想を続けた。
ジャックが目を開けると、炎が燃え盛る灼熱の王国であり、死の国とも言われているアビス王国に移動していた。
黒魔術の魔法は、ほとんどがこのアビス王国の闇から力を得ている。
「ご要件は?」
気がつくと、目の前には骸骨の男が現れていた。
「魔王と話がしたい」ジャックが答える。
「残念ですが、本日は予約で埋まっております」骸骨が答えた。「大魔王様との面会がご希望なのでしたら、事前にご予約をいただかないと」
「緊急だ」ジャックが言った。「ダークウルフの闇循環を取り除きたい」
骸骨がゆっくりと首を横に振る。「ダークウルフの闇循環は代償が大きいですよ。自分の命が大事なのでしたら、今すぐにお帰りください」
「まずは魔王と会わせてくれ。知り合いだ」
「ほう。では、お名前を」
「ジャックだ。人間の男。魔王に伝えてくれればわかる」
「それは特別料金ですね。わたくしとしても――」
話しても無駄だと判断したのか、ジャックは杖で骸骨をばらばらにした。「悪いな」
魔王の王宮まではかなりの行列ができていて、並んでいたら一年くらいかかりそうだ。
「仕方ないか」
ジャックはため息をついて目を閉じ、瞬間移動をした。
「どうなってるんだ?」アキラは心配で気が狂いそうになっている。
八人はジャックに言われた通り、部屋の外でずっと待っていた。
「そろそろドアを開けても――」
「やめた方がいい」クリスが止める。「それですべてが台無しになったらどうする?」
八人は無力感に襲われていた。
ジャックが瞬間移動した先は魔王の王宮の洋間だった。
このアビス王国では、相当な魔力を持つ者だけに瞬間移動が許されている。もちろん、瞬間移動などこの王国内でしかできない。
「最初からこうすればよかった」ジャックは骸骨と時間を無駄にしたことを悔やんだ。
「おやおや、ジャックではないか」
洋間には、たまたま魔王がソファーに座っていた。
魔王は身長五メートル。皮膚は真っ赤で、目はすべてが真っ黒だ。まさしく王、とでも言いたくなるような赤のコートを羽織っている。
「久しぶりだ」ジャックは旧友に会うかのように手を上げて挨拶した。
「遊びにきてくれたのか?」魔王が聞く。
相当退屈しているらしい。
実は魔王とジャックは親友と言ってもいいほどの仲で、ユハ帝国の任務が忙しくなり始める前まではよく遊んでいた。
「そうしたいのは山々だが、ダークエルフの闇循環に襲われているやつのためにきた。今日助けを求めにきたやつだ」ジャックが答えた。
「ダークエルフの悪循環」魔王は渋い表情だ。「それは難しいかもしれん」
「なぜだ?」
「それを取り除くことは可能だが、代償が大きくなる」
「どんな代償だ?」
「命だ」魔王が静かに言った。「古い掟で、頼みにきた者の命が交換条件となる」
ジャックはしばらく無言だった。
「もしその頼みを聞けば、わしはお前を殺さなくてはならなくなる。友人の命を奪うことはしたくないものだ」
「だが……救える命を見過ごすわけにはいかない」ジャックの目からは覚悟が感じられる。
「仲間はいいのか?」魔王はためらっている。「お前を必要としているはずだ」
ジャックがうつむく。「こうするしかない」
「今日会ったばかりの者のために、ここまでするとは」魔王は感心しているのか、正義感の強さに呆れているのか。「本当にいいのだな?」
「ああ」ジャックがうなずく。「やってくれ」
魔王がささやくような声で呪文を唱え始めた。
だんだんジャックの体が動かなくなっていく。しかしそれと同時に、現実世界ではロジャーが回復していっていることがわかった。
ついにジャックの心臓も、何もかもが動かなくなり、少しずつ冷たくなっていった。
「ロジャーの叫び声もしなくなったぞ!」アキラが声を張り上げた。「もう流石に入ってもいいだろ」
クリスは慎重にうなずいた。「わかった。気をつけるんだぞ」
アキラが恐る恐るドアを開ける。
「ロジャーが戻ったわ!」すぐにエリスが叫んだ。「ジャックはやってくれたのね!」
八人がすごい勢いでアキラの部屋に入っていった。
「流石だな、ジャックは」クリスは感心している。
「ロジャー!」エリスとポールは、すぐにロジャーに抱きついた。「よかった!」
「おい!」アキラが狂ったように叫んだ。「ジャックが!」
ジャックは地面に倒れ込んでいた。ただ疲れ果てて寝ているものと思っていたが……。
クリスがとっさにジャックに触れる。「うそだ……」
ジャックは冷たくなっていた。
「死んでる……ジャックは……死んだ」
★ ★ ★
~作者のコメント~
最後はまさかの展開ですみません。ストレスが多いかもですね。
ですが、この内容は第11話でも続きますので、次にご期待ください。
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