ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命

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フロストハウル編

第112話 ロマンチックな夜景に飛び込む美女とのダイブ

 ダンジョン・シティである東京を、月の光が照らしている。

 俺とゼロナがいるのは西園寺さいおんじリバーサイドの屋上。
 300メートル以上の高さから見下ろす東京の夜景は、これまでに見てきたどんな東京の景色よりも幻想的だ。

 Sランク冒険者である俺たちでさえも、この高さから落ちれば即死だろう。

「ロマンチックな夜だ。もしきみが成人していれば、カクテルをたしなむのも悪くなかったかもしれないね」

 ゼロナが同性愛者であると知っていても、誘惑されているように感じる色気。

 楓香ふうかは俺が美女と一緒に行動することを明らかに嫌がっていたが、ゼロナが同性愛者であることを理由に、意外とすんなり許可してくれた。

 とはいえ、西園寺の命令だからゼロナとタッグを組まないわけにはいかない。
 恋人同士の最低限のマナーを守ったという感じだな。

 ゼロナが楓香に一目惚れしたことには驚いたが……。

「ミズ・白桃しらももとは……いつ頃から?」

「つい最近のことだ」

「つい最近……もしぼくが先に出会っていれば……」

 小さな声でぼそぼそ呟くゼロナ。

 普通に聞こえていたが、なんだか気まずいのでスルーしておく。
 今になって気付いたことだが、ゼロナの美容室の美容師が全員可愛い系の女性だったのは、彼女の好みだったからなのかもしれない。

 恋愛経験はあるんだろうか。
 というか、いつから自分が同性愛者であることに気付いたんだろう?

「ゼロナは……誰かと付き合ったりしたことはあるのか?」

「それは秘密だよ、才斗さいと

 唇に人差し指を当て、色っぽく微笑むゼロナ。

 こんなエロティックな仕草を、これまで関わってきた多くの女性・・にもしてきたに違いない。

 男性からも女性からもモテるタイプの人間だ。
 それでいて実は超強い。

 その後はあまり会話という会話はなかった。
 俺はまだ、この夜の街でどんなことをするのか教えてもらっていない。てっきりダンジョンに潜るものだと思っていたが、違った。

 屋上から東京全体を眺め、何かを監視かんししているようにも思える。

 最初に何をするのかゼロナに聞いてみたが、ネタバレはしない主義なんだ、と軽くかわされた。
 本当につかみどころのない人だ。

 沈黙が30分ほど続く。

 お互い口を開かず、美しい夜景を眺めている。

 椅子を持ってきたわけじゃないので、ずっと立ちっぱなしだ。軽く屈伸をすれば問題ない。

 ゼロナは本来の銀髪に戻していた。
 長い銀髪が夜風に吹かれ、月光を反射する。夜の東京を見つめる横顔。紺碧の瞳は僅かに欠けた月の姿を反射している。

 夜景ではなく、ぼんやりとゼロナの横顔を見つめていたその時、キリッと、急にゼロナの眼光が鋭くなった。

 無言のまま、手すりを乗り越え真下に消える。

「え――ちょっと!」

 どうかしてる。この高さから落ちたら死ぬぞ!

 だが、俺もまた、どうかしていた。
 特に何も考えず、ゼロナに続くようにしてビルから飛び降りた。



 ***



 深く考えずに飛び降りたのが馬鹿だった。

 この状況では、自分を責める時間すらない。

「ゼロナ!」

「ビルを蹴るんだ!」

「え!?」

「ビルを蹴るんだ!」

 俺よりも下にいるゼロナ。
 自分から飛び降りただけあって、終始冷静である。

 あと少しで地面にぶつかる、というところで西園寺リバーサイドを片足で蹴り、地面と平行に跳び出した。
 俺も見事な手本に続く。

 そのまま前方に回転し、両足でどっしりと着地した。

 ゼロナは一切の音を立てず、軽やかに着地していた。

「無茶苦茶だ……」

 久しぶりに心臓が止まるかと思った。飛び降りるなら飛び降りると前もって言っておいてもらいたい。

「初めてとは思えないほど、上手だったよ」

「それは……どうも」

 またあの微笑みだ。
 文句を言えなくなる。

「それで、どうして急に飛び降りたりしたんだ?」

「あれだよ」

 さっと前に右腕を伸ばし、繁華街の方を指さすゼロナ。

 そこには……。

「――爆発!?」

「ここまで大事おおごとになるとはね。急ごうか」

「これはどういう――」

「説明は後で」

 逃げ惑う人々。
 人々の悲鳴。

 月光が輝く幻想的な夜の雰囲気を、一瞬で壊してしまうそれ。

 繁華街に1人の凶悪犯が現れた。

「クソッ、結局俺は、何もできずに死んでいくんだ!」

 凶悪犯の男は悪態をきながら次々と通行人を襲っていく。
 その力は人間離れしていて、軽く殴られた男性がビルの壁まで吹っ飛ばされ、即死するほどだ。

 男の顔には大きな傷があった。
 左目にかかる長い切り傷。モンスターの爪でひっかかれたような感じだ。

 片腕は失っているし、首には激しい火傷の後がある。

「ああいう人間は危険だ。自暴自棄になって、全てを破壊しようとするんだよ」

「あの男は……元冒険者?」

例の泉・・・に入っていなければ、あれほどの力は出せない」

 ちょっとした推測だが、冒険者だった男は、ダンジョンでモンスターに襲われ瀕死の重傷を負った。もうダンジョンにも潜れず生きる意味を失ってしまった彼は、冒険者として得た力で何もかもを破壊しようとしている。

 冒険者の力はモンスターに向かって使われるべきもの。

 それが今は、何の罪もない一般人に行使されている。

「才斗、ぼくたちの脅威はモンスターだけではないんだよ。冒険者の敵は冒険者。冒険者同士の戦いは経験済みだろう?」

 ゼロナの言葉で、ヴァイオレットと名乗っていた頃の姉さんとの戦いや、【ダークエイジ】の連中との戦いを思い出した。

「もし力ある者が、力なき一般人を簡単に支配できることに気付いてしまったら?」

「……」

「『夜』の世界は、ダンジョン以上に過酷な世界なんだ」
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