ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命

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白熱の最強冒険者決定戦編

第92話 幹部会議の修羅場で爆発するドラゴンウルフ

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 決勝トーナメントまでには1週間ほどの猶予がある。

 予選で酷使した体をしっかりと休め、本戦に向けて準備を整えるための時間だ。

 【ウルフパック】のSランク冒険者は全員が決勝トーナメント進出を決めたため、西園寺さいおんじが一度会議を開くと言い出した。

 場所は西園寺リバーサイドの会議室。
 毎回幹部での会議があっているところだ。

 学校で冒戦のことについてしつこく聞かれてからの放課後、冒険者のスーツに変身してビルに向かう。

「冒戦決勝の件について、私から少し確認しておきたいことがある」

 西園寺が口を開けば、全体が静まり返った。

 今日は雷電らいでんさえも3分前にやってきていたし、全員の気合いは十分だ。

「この中で、私に勝てる自信がある者はいるか?」

「「「……」」」

 静かな前置きの後で、挑戦的な視線をぶつけてくる西園寺。

 ――西園寺に勝つ……。

 少なくとも今の俺には、無理な話だ。
 身の程をわきまえることは大切である。

 自分の実力に自信があればあるほど、西園寺との実力差に衝撃を受ける。根拠のある自信を得るということは、同時に実力とは何かを知るということ。

 自分の実力を知り、自信を持つ。
 それと同時に、相手の実力を知り、畏敬の念を持つ。

 ――さすがに、この状況で手を挙げる奴は……。

「面白い」

 西園寺が呟いた。

 その視線の先には、堂々と手を挙げる一ノ瀬いちのせの姿が。

「俺は貴様の格下になったつもりなどない。貴様に勝つ? 上等だ。俺は必ず貴様を潰す」

「大した自信だね、一ノ瀬君は」

 西園寺に対して強烈な対抗心を見せる一ノ瀬に対し、剣騎けんきが笑いながら声をかける。

「貴様には自信がないのか?」

「ないね。今の実力のままでは、背伸びをしても西園寺さんには敵わないよ」

「勝ちたいとは思わないのか? その弱気な姿勢が貴様を負け犬にしている要因だとは思わないか?」

「そうとも言えるね」

 一ノ瀬の顔にははっきりとした嫌悪が見えた。

 目の奥には野心があり、周囲への軽蔑がある。

「俺はここにいる全員に失望した。冒険者は強さが全てだ。そんな弱肉強食の世界に、群れのトップを食らおうとするだけの野心がなくてどうする?」

「群れのトップ、ねぇ」

「文句でもあるのか?」

 何かが起こりそうな雰囲気。

 一ノ瀬は完全に腹を立てている。挙手しなかった俺たち全員に向かって。

 この状況に1番怯えていたのは、真一しんいちだった。
 西園寺と一ノ瀬に特にビビっている彼からすれば、今の会議の状況は地獄だろう。

 この話題を振った西園寺本人は、まだ一言も話さないスタンスを維持している。

「山口以外の雑魚どもも同じだ。何も言わずに時間が過ぎ去るのを待つつもりか?」

 そう言って、一ノ瀬は俺を見る。

 普通にやめてほしいんだが。
 Sランク新人の俺じゃない方が良かっただろ……。

「今の実力で社長に勝つことはできません。とはいえ、今後は――」

「今後、だと? 俺はその言葉が嫌いだ。その『今後』は一体いつになる? その言葉、貴様が言い訳に使っているだけに過ぎない。そんな奴に西園寺を超えることなどできるわけがない」

「俺はただ――」

黒瀬くろせ、貴様だけだ。この中で貴様だけが恋愛などということにうつつを抜かし、自分の才能を無駄にしている」

 剣騎の顔が曇る。

 雰囲気がさらに険悪なものになっていく。

 だが、西園寺は口を開かない。

楓香ふうかは俺にとって大切な存在です。だから――」

「昔のお前・・の方が貪欲だった」

「――ッ」

「俺はそんな貴様の様子を気に入っていた。毎日ダンジョンに潜り、実力を磨いていた。違うか?」

「今だって――」

「冒険者は守るべきものができると弱くなる。今の貴様がその最もわかりやすい例だ。強くなりたいのなら捨てろ。恋人など――」

「まあまあ、恋愛に関してはよくわからないけど、それは才斗さいとの自由だ。一ノ瀬君が言うことでもないさ」

 咄嗟に俺をかばってくれる剣騎。

 だが俺は――。

 一ノ瀬の言うことが、半分正解だとも思っていた。

 思ってしまった……。

「私が質問をしたのは――」

 ここで、ずっと沈黙を貫いていた西園寺が動く。

「――ここにいる全員の自己評価を確認するためだ。幹部で会議がある度に、同じことを質問したいと思っている」

 全員の自己評価。
 つまり、俺が手を挙げなかったのは間違いではなかった。

「思わぬ方向に話が進んでしまったことに関しては、謝罪したい。特に黒瀬ブラックには不快な思いをさせてしまった……」

「俺は間違ったことを言っていない。恋愛まよいなど捨てれば、黒瀬はさらに――」

「一ノ瀬」

 静かな西園寺の声。
 だがそこには、確かに怒りがこもっている。

「……」

「黒瀬を庇うつもりか? 俺の言っていることは正し――」

「うわぁぁぁあああ! もうやめてくれぇぇええ! オレの大切なさい君を傷付けないでくれよぉぉおお!」

 ついにこの場においても、ふにゃふにゃ西園寺が姿を現した。
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