安楽椅子から立ち上がれ

Marty

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第一章 良く知らない人にはついて行ってはいけない

良く知らない人にはついて行ってはいけない (3)

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「さてと、じゃあどうしますかね」
 気まずさを払うためか否か、パープルマンが手を叩いて話題を変える。
「もう全員出発してしまったんですわ。この子たちにも早く行ってもらわないとイカンでしょ」
「うーん。そうですね。ちなみに山田島、お前は誰のグループだったか」
「井口くんと黒木くんと、あと米澤くんです」
 昨日ホームルームで決めたグループのメンバーを答える。席が近かったため自然にできたチームだ。
「あいつらか。そのうちの一人でも携帯の番号を知っているのか?」
 かぶりを振る。担任教諭は腕を組んで考える。
「悪いがあいつらがどこにいるのか、こちらも厳密に分からんのだ。北横長あたりを周っているとは思うんだが。合流させてやりたいが正直難しいと思う」
「そうですか」
 残念そうに答えてみるが、特に問題ない。即席チームはドライな関係を築いている。
「適当な生徒と組ませますか。周回の先生方に連絡を取って」
 青と赤の間色ジャージ男の提案に櫻井教諭は低く唸る。
「いいんですけどね。生徒をあまり待たせるわけにもいかないでしょう。それだと学校近辺を周っている三年生と組ませることになってしまうんですよね。それだとこいつらも可哀想だし」
 確かに顔も知らない上級生とゴミ拾いするのは嫌だ。気疲れしそうである。
「それならいっそ。二人いることだし――」
 気のせいだろうか。櫻井教諭が妙に意地の悪い笑顔をしたような気がした。
「二人で行ってきたらどうだ」
 言うと、ずっと黙って横にいた女子生徒の方を向く。
  嫌な予感はしていた。だから俺も彼女のことには触れないでいた。当の女生徒も俺たちの会話が聞こえていないかのように、冷えきった大きな瞳であさっての方向を見続けていた。その時点である程度意思疎通ができていたのかもしれない。
 照りつける太陽の影響下にないのかと思うぐらい白い肌。対照的に長い黒い髪。大きな瞳には光が宿っておらず、心なしか瞼も重そうに見える。いかにも物静かそうで、真面目そうな顔立ちだ。彼女が遅刻したとは思えない。何か理由があってここにいるのだろう。
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