Sync.〜会社の同期に愛されすぎています〜

桐嶋いろは

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Side 2ーaffairー

2(金城心春)

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半ば強引についって行った私は、1Kの必要な家具だけが置かれたシンプルな部屋に足を踏み入れた。

彼女と同棲するには少し狭すぎるし、身の回りに置かれているものを見ると彼女と同棲している様子はなかった。

彼は、冷蔵庫からビールを取り出して渡した。

「着替えてもいい?もうスーツでいるの疲れちゃって」
そう言いながら、ネクタイをほどきYシャツを脱ぐ姿に私はムラっとしたのだと思う。

彼の厚い胸板の中に飛び込んでキスをする。

「おっと・・・そっちからしてきたってことは俺やめないからね・・・いいんだね」

先程までの紳士的な対応が嘘みたいに、私の体を抱き寄せて深いキスをした。

子供みたいと思っていたはずなのに、やっぱり男だ。私の読み通りキスには慣れていて次に進むまでは鮮やかなくらいにスムーズだ。

服の脱がせ方、触れ方も何もかも。

きっとあれは数々の女の子と付き合う中で駆け引きを覚えてきたタイプだ。

初めてあってすぐにエッチをしないとか、付き合う前にエッチをしないっていうスタンスを見せておいて相手に安心させる作戦だったのだ。しかし、私から誘ってきたことは想定外だったのだろう。

(むかつく…)

声を抑える余裕すら与えられぬまま、お互いに落ちる汗を拭う間もないほどにとめどなく体を重ねた。

目が覚めた頃にはもう朝で、狭いベッドの上でお互いの体がベッドから落ちないようにくっつきあって眠っていた。その温もりが心地よい。

(これ・・・好きになるやつだ。)

このままダラダラとしてしまうと、また抱かれたくなってしまう。

一度も、「好きだよ」とか「愛してる」とかそんな言葉を交わし合うこともなく彼の名前も聞いてないし、自分の名前も言っていないし、完全なる勢い任せ。

きっと彼は私のことをただのビッチだと思っていると思うからそう思わせておいたほうが程よい距離感で居られるのかもしれない。

ここで「好き」と伝えた時に、振られたらもう立ち直れない気がする。

少し、名残惜しさを残しながら去ってしまえばきっとまた私のことを考えてくれるかもしれない。

そう思った私は、起きるなり颯爽と服を着て彼の家を出た。

彼は、寝ぼけながらも、私の驚きの行動に動揺していたので笑ってしまった。

傷つけられる前に、傷つけたいと思ってしまうのは私の性格の悪さでしょうか・・・


その日、予想通り私の正体を知った彼は驚いている様子で、私の姿を見つけるなりすぐに謝罪した。


「いや、その昨日は勢いでごめん。こういう中途半端な関係は俺あまり良くないからさ・・・・その・・・」
こういう風に言ってきてくれるのはある程度予想はできていた。きっと体だけの関係や、付き合う前にセックスするというのは納得できない性格なのだろう。

「やっぱり真面目~~~~責任とって付き合うみたいな?」
 可愛くうなづきながらも、少し鼻の下が伸びている。

(絶対、昨日のセックス思い出して興奮してるよこいつ。)
と思いつつも、私も昨夜のことを思い出して、体が熱くなる。今すぐに触れたい。
抱きしめて欲しい・・・
男に対してこんな風に思ったのは初めてかもしれない。いかに今まで感情のないセックスをしてきたのだろう。
しかし、昨日の彼の中に垣間見えた男の本能が少し嫌だった。ムカつくからもっと振り回したい。

「別に付き合ってなくても良くない?したいときにすれば」

そう言い放って私は喫煙室へと向った。
彼の家には、灰皿もなければタバコの匂いも一切しなかったのでタバコを吸う人ではないのだろう。
喫煙所についてこなかったし、私を追いかけることもなかった。

(幻滅したかな・・・)

我ながら、やりすぎてしまった感に反省しながらも、くるくる変わる彼の表情が可愛くて面白くて仕方がない。

話しかけてくる男の社員の話を半分聞き流しながらも、また彼のことを目で追ってしまう。

(私だってもう一度抱かれたい。本当はそう思っているからね)

あのセックスからあんな風にそっけない態度をとって、忘れた頃に部屋に押しかけた私を彼はめちゃくちゃに抱いた。

もう、待ちきれなくて抑えきれない気持ちをぶつけるかのように。

それがたまらなく可愛くてまた好きになってしまう。

(好き・・・・大好き・・・私からは絶対に言いたくないけど)

そんな気まぐれな関係が気がつけば半年も続いてしまった。歴代彼氏およびセフレの中では最長だった。
お互いのことを呼び捨てて呼び合って、いつでも泊まれるように服やスキンケアアイテムなど一式置いてある。
まるでずっと一緒に暮らしているかのような気持ちになることもある。


そしてその気まぐれな関係だからこそ周りの女子社員たちはここぞとばかりに蓮を狙っていた。
自分が彼女になることを頑なに拒むくせに、蓮が人のものになろうとした時に不安になる。 
蓮のことを誘おうとしていた女子社員に向かって、
「ごめん・・・今日、私と予定あるんだよね」と嫉妬むき出しの言葉を思わずかけてしまった。

我ながら意味がわからない。
蓮は、キョトンとした顔で恥ずかしくて逃げ去った私を追いかけてくる。


「おいおい、どういうことだよ」
「え?私たち付き合ってるんじゃなかったの?」
自分からセフれでいいって言ったくせに、何を言っているのだろう。

「だって、お前彼氏いるだろう?キスマークあったし」
いつの話を持ってきているのだろう。
出会った頃のことじゃない。
蓮と出会って以来、蓮以外の男とセック巣したことないんだから。

「は?いないけど・・・そのキスマークつけたの元彼だし、超前の話なんだけど・・・・」
「なんだそれ・・・やりたい時にやればいいっていってたじゃん。」

「だって、あの女と話してるの嫌だったから、あ、私蓮のことが好きなんだな~~と思って」

この天邪鬼な対応を蓮はお腹を抱えて笑った。
「変な女」

そうその通り。私にはその言葉がよくお似合い。
それぐらいに、こんな風に真剣に純粋に男の人を好きになったことがないんだからどうしていいかが分からない。
一緒に過ごせば過ごすほど、一緒に仕事をすればするほど好きになってしまう。

こんな毎日がずっと続けばいいと思っていたのに・・・
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