探偵たちに明日はない

探偵とホットケーキ

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探偵たちに明日はない

探偵たちに明日はない 第4話

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それから二人でシャワーを浴びた。まだ理人が倒れてしまいそうな気配、懸念があったためと、水樹の件について、お互いの現時点での持っている情報や推理、推察の全部を共有しておく必要があると思ったためだ。
陽希は服を脱ぐと、無数に着けてあるピアスを外し、理人と共に、理人の部屋にある浴室に入った。この船の浴室に入るのは何度目かになるが、幼少期に貧困であった陽希は少しも慣れない。今日も、浴室の扉を開けて入ると、そこには煌びやかな光景が広がっていた。金で縁取られた鏡や彫刻などが並ぶ壁面には、薔薇を象ったランプが垂れ下がっている。湯船の中にも繊細な薔薇の花びらが浮き沈みしており、辺り一面を華やかな香りが包んでいる。中央には円形の椅子とテーブルがあり、その上にはシャンパングラスとフルーツが置かれている。
「理人ちゃんはこういうの、似合うよね」
湯船から花びらを一枚手で掬って冗談を投げると、真面目な顔で「そんなことありません」と返されてしまった。取り敢えずフルーツは陽希が食べた。
フルーツを食べ終える間に陽希は改めて気持ちを落ち着け、水樹の遺体を見た時のことを全て話した。
水樹が殺害された事件は明日中に解決しないとならないだろう、というのが、二人の共通の見解だ。船が停泊してしまえば、確実に犯人は逃げてしまうだろう。
陽希は理人の艶やかな黒髪を、丁寧に泡立てたシャンプーで洗った。薔薇の上品な香りがする。理人は、そうされながら、やっと平静に近づいたオーボエのような声で、切々と語った。
「最も考えられる方法としては、犯人は水樹を殺害後、ずっと水樹の部屋に隠れていた、ということです。鍵穴から覗いただけならば、隠れられる死角はいくらでもありますからね。その後、部屋の鍵と水樹の遺体を持って外に出て、海に放り投げてしまえば良い」
「ゴムボートがあれば、そのまま逃げられちゃうよなぁ」
「勿論、そうですが。その可能性にまで思いを巡らせれば、つまりはもう、二度と捕まえられないということになってしまいます。今は、考えるのをやめましょう。それに……」
鏡に映る理人の目が険しくなった。
「それに、私はもう一つの可能性に思い至っているのです。ですから、明日はもう一度、現場に行ってみましょう。私に任せてください」
「えー? 凄い。理人ちゃん、冴えてるじゃん」
 陽希が心の底から尊敬して声を弾ませると、理人は、お湯で血行が良くなったせいではなく、恥ずかしさで顔を赤くし、目を伏せた。
「いつも、陽希に頼ってばかりですからね、私は。たまにはお役に立たないと」
「あ、そういうの、やめない?」
陽希が苦虫を噛み潰したような顔をすると、声に出ていたのか、理人が振り返る。何か自分が怒らせてしまったのではないか、という目だ。時々理人は、今のように、捨てられた仔猫のような目をする。心配する必要はないのに。
「いや、頼るとかさ、頼られるとかさ、迷惑とか、そういうんじゃなくて。そんなこと言ったら俺なんて物凄く迷惑かけまくってるし。俺たち仲間じゃん。そんな、お互い気にしないで協力って言おうよ。頼るとか、役に立つとか、そういう見方は、そうできない人を苦しくさせるし、俺、苦手」
すると、理人がほっとしたように頬を緩めた。
「そうですね。そういう表現方法だと、重荷にならなくて良い。陽希は本当に、人の心を軽くするのが上手です」
「んー? そうでもないよ。ただ、前にも話した通り、家庭環境が割と複雑だったりとか、友達死んじゃってたりとかさ、色々あったから。今ある、この関係に、感謝して大事にしたいなって思ってるから。依存でも執着でもないから、手から零れ落ちちゃったものは諦めるけど、なるべくそうならないよう、兎に角大切にしたいって。それは勿論、水樹ちゃんのこともね」
理人は、その言葉に頷く。陽希は彼の黒髪にお湯を優しく当てて泡を流した。
「理人ちゃんも、精神的にどんどん良くなって、見方も前向きになって凄くいい感じ」
「周りの人に恵まれたお陰です」
「明日の捜査も頑張ろうね……水樹ちゃんのためにも」
今度は交代で、理人が、陽希の髪を洗いながら首を傾げた。
「時に、友香理さんが水樹の元恋人だったという話は、どういうことだったのです?」
「ああ、それね……」
陽希は鼻の頭を掻き、ついた泡を払ってから、改めて、あのバイキングでできなかった説明をした。
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