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プロローグ -転生帝王の終焉-
しおりを挟む「救世帝!!」
「お気を確かに、まだあなたの力が必要です!」
「うう…陛下…」
「アラタ様、お願いです…目をお開けください!」
「我が主…」
煌びやかだが静寂に包まれた帝王の寝室。その中心には、荘厳な黄金の寝台に横たわる一人の男、小佐々新(こざさ・あらた)がいた。かつて日本からこの世界に転生し、英雄となり、王を越えて帝王へと登り詰めた男。今はその命の灯火が、まさに尽きようとしていた。
高い天蓋からは柔らかな陽光がこぼれ、淡く染まる空気に、すすり泣く声が静かに響く。周囲には彼を慕い、共に戦い、生き抜いてきた仲間たちが集まり、ひざまずき、涙をこぼしていた。かつての戦友、忠臣、養子、そして種族を越えた友たちが、帝の枕元に膝をついている。
アラタは目を閉じたまま、かすかに唇を動かす。
(……そうか。いよいよ、二度目の人生も終わるのか……)
思考は静かに、しかし確かに巡る。日本での平凡な日々。突然の転生。そしてこの苛烈な世界。ゲームやマンガから得た知識をもとに、スキルやレベルの概念を理解し、異世界での生存に活かしてきた。
だが、最初に魔物と対峙したあの夜、全身が震えた恐怖は、今でも脳裏に焼きついている。――チートだけでは、どうにもならない現実がそこにあった。
民を守り、魔族を赦し、腐敗した王を打倒して築いた帝国。アラタの人生は、血と汗と涙にまみれながらも、確かに未来を切り開いてきたのだ。
「アラタ、我が主よ……」
リーズが静かに声をかける。彼女は美しい人型をしているが、その内に凄まじい魔力と誇り高き龍の血を秘めている。ドラゴンの王であり、長きに渡り帝の側で国を守り続けた忠臣だ。
「我ら龍族は、今後もお前が創ったこの帝国を、命をかけて守り抜こう。」
アラタの片目がうっすらと開いた。その視線は、どこか懐かしげにリーズを見つめていた。
「師匠…!」
ヨセフが声を震わせて進み出る。帝が引き取った孤児であり、剣と知恵を授けた養子。今や次代の帝王としての誓いを、涙で顔を濡らしながら宣言する。
「私は…必ず、全ての民を導いてみせます。どうか、もう少しだけ生きてください…!」
「陛下!」
咆哮のような声とともに、獣人の王レオルがその豪壮な身体を震わせて言う。獅子の頭を持つ男は、かつて人から“獣”と呼ばれた種族の解放をアラタから授かった者。
「俺達が“人”として生きられるようになったのは陛下のおかげだ! 恩はまだ返せていない…!」
「お願いです、古代魔法を…」
エルフ族と妖精族を統べるメラルドは、悲痛な面持ちでひざまずき、涙を堪えながら訴える。
「癒しの術では届かない。けれど…古代魔法ならば…! 陛下を救えるかもしれないのです!」
「死なないでください!!」
泣き叫ぶように声を上げたのは、かつて倒した魔王の娘、ベルゼ。今はアラタによって新たな魔王となり、人との共存を果たした。彼女の頬を、涙が次々と伝う。
「私達はあなたによって生き方を教えられたのです。魔の民は、血ではなく瘴気で生きられるようになりました。あなたが開発してくださった瘴気生成魔法は…生きる希望そのものでした…!」
嗚咽、懇願、誓い――全てが帝の名のもとに発せられた声だった。
やがて、アラタは静かに目を開けた。細く、けれど確かに光を湛えたその瞳で、周囲の皆を優しく見渡す。
「皆の者……しかと、聞こえておるぞ」
声は枯れて弱く、けれど優しさに満ちていた。
「何度か話したが、わしは“転生者”じゃ。前世と合わせ、もう100年以上…よう頑張ったわ。今のこの世界は、もう、わしがいなくとも幸せにやっていけると信じておる……」
一人、また一人と涙を流しながら、アラタの言葉にうなずく。
「だから、皆にはすまんが……わしはやっと天に行ける。悲しまず、笑顔で送ってくれ。いつかまた、天で共に冒険しようではないか……」
帝王の言葉は、静かな命の終わりを感じさせるものだった。
しかしその瞳は、死への恐怖ではなく、達成と安らぎに満ちていた。
沈黙の中、誰からともなく言葉が漏れる。
「いつか、また…」
「いつか、また……」
「いつか、必ず……!」
その声はやがて重なり、ひとつの祈りのように響いた。
アラタは満足そうに微笑み、まぶたを閉じる。
魂は穏やかにその肉体を離れ、空へと昇っていった。
まるで新たな冒険の始まりに向かうように。
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