負けヒロインがダンジョンに落ちてたので連れ帰ってみることにした

睡眠が足りない人

文字の大きさ
13 / 17
逃亡姫は負けヒロイン

十三話

しおりを挟む

 ルヴァン宅 朝 ルヴァン視点

 「あの、料理に挑戦してみたいのですが宜しいですか?」

 姫様が家に来て三日目、朝食を食べ終えたタイミングで部屋から料理本を持っておどおどとしても良いかと尋ねてきた。
  ただ匿ってもらうだけの迷惑な存在になりたくなくて、家事をしようとしたが洗濯は失敗。であらばお次は、料理をして役に立ちたいという感じだろう。

 「別に構わないが、一応何を作るか聞いても良いか?」
 
  彼女のその気持ちは嬉しいので、止めると言う選択肢はないが、あまり難しいものを作るとなると別のメニューにした方がいいだろう。
 
 「オムレツと野菜のスープを作ろうと思ってます」

 オムレツの書かれたページを見せ、「どうでしょうか」と不安そうに首を傾げる。

 「…難しそうなものは多分ないよな?あぁ、いいぞ。ただし、初めてだろうから隣で危ないところがないか見させてもらうけど」

「ありがとうございます。一生懸命頑張りますね」

 パアッと顔を輝かせ、頑張るぞいと気合を入れる姫様。その姿に俺は何とも言えない不安を覚えた。


 冒険者ギルド 昼 ルヴァン視点

 「あのさ、ユナさん。料理で一番簡単に作れるものって何?」

 クエストをこなしギルドに依頼された素材を納品する際、不安に駆られた俺は料理上手なユナさんに何が簡単か質問した。

「どうしたんですか急に!?もしかして私の料理が口に合いませんでしたか?」

「いや、そういうわけじゃない。めっちゃ美味しい、毎日食べたいと思うくらいに」

「……毎日食べたい。これはつまり結婚の申し出。どうしましょう、私まだもうちょっと蓄えが欲しいので、待ってもらう?いや、籍を入れるだけなら…」

「おーい、ユナさん。どっか行かないでくれ」

 急にどこか別の世界へ飛び立ってしまったユナさんの前で手を振る。
 ユナさんが、こんなになるの珍しいな。

「ハッ!すいません。簡単な料理でしたっけ。やっぱりスープじゃないですかね。具を切って入れて水で茹でて、味を調味料で整えるだけなので簡単ですよ」

 すぐ戻ってきてくれたユナさんは、顔をほんのり赤らめさせスープが簡単だと答えてくれた。
 それは、姫様が作りたいと言っていた料理二種の内の一つで、俺はホッと胸を撫で下ろす。
 
 「そっか、答えてくれてありがとなユナさん。これで安心して見られそうだ。じゃあ、また後で」
 
「はい、また後で。…って、何で聞いたのかまだ聞いてません。待ってくださいルヴァンさん」

  後ろでユナさんが何か言っていたが、ギルド内の喧騒に掻き消され出口付近にいた俺には聞こえなかった。




 ルヴァン宅 昼 アリエス視点

 「お野菜を切って、お肉と一緒に鍋入れて、水を入れ火をつける。ある程度したらお塩をひとつまみと、ララの葉を一枚入れて、じっくり煮込む。よし、大丈夫完璧です。徹夜して何度も読み返したのですから、きっと」

 私はルヴァンさんが帰ってくる頃だと思い、料理本を開き手順をおさらいし直していました。
 「本を見ながら作れば良い」とルヴァンさんに言われており、その通りにすれば良いと頭で分かっています。
 ですが、昨日のように迷惑をかけてしまうという不安から、ついつい何度も本に目を通してしまうのです。
 二回目、三回目、四回目と読み返したところで、ルヴァンさんが帰ってきたようで家の鍵が空いた音が聞こえてきました。

 「お、おかえりなさい。ルヴァンさん」

 私は料理本を持って駆け足で部屋を出ると、ルヴァンさんお出迎えします。

「ただいま。言われた通りの食材と調味料を買ってきたぞ」

 そう言って、ルヴァンさんは両手で持っている大きな紙袋を軽く持ち上げてくれました。

 「ありがとうございます。あの、後は私が運びますよ。それ結構重いですよね?」

「いや、別にこれくらい大丈夫だ。俺が運ぶ。それより姫様は調理器具の準備を「もう、してます!」お、おう。じゃあ、調理台に食材を置いていくな」

 食い気味に返事をする私に、ルヴァンさんは少し戸惑いながらも買ってきた食材を調理台に並べていきます。
 私は、その一つ一つを確認し、間違いがないか、本で見た知識を使って鮮度を確認。
 何一つ問題がないことが分かったので、私は大きく深呼吸をしこれからする調理の為に気持ちを落ち着けます。

 「いきます!」

「おう、頑張れ」

 私は料理本を調理台から離れた位置に置くと、そう宣言しお野菜に手を伸ばしました。
 先ずは、水洗い。お野菜には土がついているのでそれを水魔法を使って丁寧に洗い流します。
 そして、洗ったお野菜をまな板に乗せ包丁で切ります。
  勿論この時、包丁を持ってない押さえている手は猫さんの手。ニャンニャンです。そう、私の左手は今猫さんなのです。

 ストン。……………ストン。………………………ストン。ぎこちないですが、しかし確実に野菜を切っていきます。

 「おぉ、ちゃんと出来てる」

 昨日の不器用な私を知っているルヴァンさんは、食材をきちんと切れていることに驚きの声を上げました。
 私も正直驚いています。
 不器用な私が出来るなんて。
 でも、これはたぶん剣を振っていた経験があるからなのでしょう。同じ刃物で危険性やどうやったら切れるかを知っているから出来ているのです。
 全ての野菜を切り終えると、私はそれらをお肉と水と一緒に鍋へ入れ魔道コンロの上に置き熱します。
 これでしばらくこちらは目を離して良いのでその間に、オムレツの準備。
 卵を割り、ボールの中に入れていきます。こちらは、案の定と言いますか殻が入ってしまいましたが、何とかスプーンを使って全部取り除けました。
 それをスプーンで塩と牛乳を入れ混ざます。しっかりと混ぜることが出来たので、一旦放置。私が鍋から長時間目を離したら危ないので、ここで作業を中断して鍋に集中します。
 そして、レシピ通り煮だってきたら塩とララの葉を入れて混ぜ味見してみました。

「…美味しい」

 美味しく食べられるものが出来てる。
 レシピ通りにしているとはいえとても不安だったので私は、ホッと胸を撫で下ろします。

「本当か?一応確認させてもらっても良いか?」

「はい、良いですよ」

 私はスープを少し掬い底の深い皿に入れルヴァンさんに渡します。

 「……本当だ、美味い。上手に出来てるぞ!姫様」

「ありがとうございます!」

 ルヴァンさんに褒められ私は嬉しくなってお礼を言います。
 誰かに料理を作って喜んでもらえて嬉しい。ようやく彼にお礼が出来る。

 「おい、姫様大丈夫か!?」

 そう思ったら、張り詰めていた緊張の糸が切れ私は意識を手放しました。



 


 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

処理中です...