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第三話「武器は前世のブラックな知識」
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アレクシスとの顔合わせをどうにか乗り切り、ルキウスは自室に戻るなり、ぐったりとベッドに倒れ込んだ。精神的な疲労が、ずしりと体にのしかかる。しかし、感傷に浸っている時間はない。処刑フラグ回避計画は、まだ始まったばかりなのだ。
(アレクシスに関わらない、というだけでは不十分だ)
ルキウスは思考を巡らせる。ゲームのシナリオでは、ルキウスは最終的に「反逆罪」で処刑される。それは、彼が治めることになるエアハルト辺境伯領が、王家への反乱に加担した、という濡れ衣を着せられた結果だった。つまり、自分の身を守るには、まず己の領地という足場を盤石にする必要がある。
「まずは情報収集だ」
ルキウスはベッドから起き上がると、部屋に備え付けられていた書斎スペースへと向かった。そこには、エアハルト辺境伯領に関する資料が、山のように積まれている。ゲームのルキウスは、これらに一切目を通すことなく、ただ王都での贅沢な暮らしに明け暮れていた。しかし、今のルキウスにとっては、これらこそが未来を切り開くための武器だった。
彼は手当たり次第に資料を手に取り、読みふけり始めた。羊皮紙に書かれた文字は馴染みのないものだったが、不思議とすらすらと内容を理解できる。どうやら、ルキウス本来の知識は、そのまま受け継がれているらしい。
資料を読み進めるうちに、ルキウスの顔はみるみるうちに険しくなっていった。
「これは……ひどいな」
エアハルト辺境伯領は、王国の北の端に位置し、隣国との国境を守る重要な土地だ。しかし、その内情は惨憺たるものだった。土地は痩せ、気候は厳しく、作物の収穫量は年々減少。重い税に苦しむ領民たちは貧困にあえぎ、中には土地を捨てて逃げ出す者も後を絶たないという。ゲームでは語られなかった、領地の過酷な現実がそこにはあった。
(これじゃあ、不満が溜まって反乱の一つや二つ、起きてもおかしくない。むしろ、それをダリウス大公あたりに利用されて、反乱の首謀者に仕立て上げられる、というのが真相か……)
ゲームの黒幕の一人、ダリウス大公の顔が脳裏に浮かぶ。領地が不安定であればあるほど、敵に付け入る隙を与えることになる。ならば、やるべきことは一つ。
「この領地を、豊かにするんだ」
その言葉は、自然と口からこぼれ落ちていた。それは、単に死を回避するためだけではない。前世で、過労死というあまりにも無価値な死に方をした悠にとって、二度目の人生で何かを成し遂げたい、誰かの役に立ちたいという、純粋な欲求が湧き上がってきていたのだ。
幸い、ルキウスには武器がある。前世、水上悠だった頃の知識だ。
(痩せた土地でも育つ作物は……そうだ、ジャガイモやソバはどうだ? この世界にあるかは分からないが、似たような作物があるかもしれない)
彼は、農業に関する本を探し、食い入るようにページをめくった。この世界にも、ジャガイモに似た「ポテ」と呼ばれる芋や、ソバに似た「黒麦」という穀物があることが分かった。これらは冷涼な気候や痩せた土地にも強く、栄養価も高い。なぜ、今までエアハルト領で栽培されてこなかったのか。おそらく、貴族たちの食べる高価な小麦の栽培が優先されてきたのだろう。
さらに、ルキウスは農業技術に関する記述にも注目した。
(水路の整備、輪作、堆肥作り……。基本的なことばかりだが、徹底されていないようだ)
前世で、農業関連のクライアントを担当した際に叩き込まれた知識が、今ここで役立とうとしていた。ブラック企業での経験も、無駄ではなかったのかもしれない。
それから数日間、ルキウスは食事の時間も忘れるほど、領地の資料と、この世界の農業、土木、経済に関する書物を読み漁った。寝室の床は、広げられた羊皮紙や本で足の踏み場もないほどだ。
彼は大きな紙を広げ、具体的な領地改革の計画を書き出し始めた。
第一段階:主要作物を小麦から、ポテと黒麦へ転換。領民の食糧を安定させる。
第二段階:灌漑用水路を整備し、水不足を解消する。
第三段階:家畜の糞を利用した堆肥作りを奨励し、土壌を改良する。
第四段階:特産品を開発し、他領との交易路を確保する。
書き連ねていくうちに、ルキ...きうすの胸は高鳴っていた。これは、ただ死を待つだけの悪役令息の計画ではない。自分の力で未来を切り開き、多くの人々を救うための、壮大なプロジェクトだ。
(俺はもう、無力じゃない)
前世では、会社の歯車としてすり潰されるだけだった。しかし、今は違う。自分には、領地と民の未来を左右する力と責任がある。
それは、途方もなく重い責任だったが、同時に、生きているという確かな実感を与えてくれた。
悪役令息ルキウスの、誰にも知られない、たった一人の戦いが始まった。それは、死の運命に抗うための、そして、二度目の人生で本当の価値を見出すための、最初の大きな一歩だった。
(アレクシスに関わらない、というだけでは不十分だ)
ルキウスは思考を巡らせる。ゲームのシナリオでは、ルキウスは最終的に「反逆罪」で処刑される。それは、彼が治めることになるエアハルト辺境伯領が、王家への反乱に加担した、という濡れ衣を着せられた結果だった。つまり、自分の身を守るには、まず己の領地という足場を盤石にする必要がある。
「まずは情報収集だ」
ルキウスはベッドから起き上がると、部屋に備え付けられていた書斎スペースへと向かった。そこには、エアハルト辺境伯領に関する資料が、山のように積まれている。ゲームのルキウスは、これらに一切目を通すことなく、ただ王都での贅沢な暮らしに明け暮れていた。しかし、今のルキウスにとっては、これらこそが未来を切り開くための武器だった。
彼は手当たり次第に資料を手に取り、読みふけり始めた。羊皮紙に書かれた文字は馴染みのないものだったが、不思議とすらすらと内容を理解できる。どうやら、ルキウス本来の知識は、そのまま受け継がれているらしい。
資料を読み進めるうちに、ルキウスの顔はみるみるうちに険しくなっていった。
「これは……ひどいな」
エアハルト辺境伯領は、王国の北の端に位置し、隣国との国境を守る重要な土地だ。しかし、その内情は惨憺たるものだった。土地は痩せ、気候は厳しく、作物の収穫量は年々減少。重い税に苦しむ領民たちは貧困にあえぎ、中には土地を捨てて逃げ出す者も後を絶たないという。ゲームでは語られなかった、領地の過酷な現実がそこにはあった。
(これじゃあ、不満が溜まって反乱の一つや二つ、起きてもおかしくない。むしろ、それをダリウス大公あたりに利用されて、反乱の首謀者に仕立て上げられる、というのが真相か……)
ゲームの黒幕の一人、ダリウス大公の顔が脳裏に浮かぶ。領地が不安定であればあるほど、敵に付け入る隙を与えることになる。ならば、やるべきことは一つ。
「この領地を、豊かにするんだ」
その言葉は、自然と口からこぼれ落ちていた。それは、単に死を回避するためだけではない。前世で、過労死というあまりにも無価値な死に方をした悠にとって、二度目の人生で何かを成し遂げたい、誰かの役に立ちたいという、純粋な欲求が湧き上がってきていたのだ。
幸い、ルキウスには武器がある。前世、水上悠だった頃の知識だ。
(痩せた土地でも育つ作物は……そうだ、ジャガイモやソバはどうだ? この世界にあるかは分からないが、似たような作物があるかもしれない)
彼は、農業に関する本を探し、食い入るようにページをめくった。この世界にも、ジャガイモに似た「ポテ」と呼ばれる芋や、ソバに似た「黒麦」という穀物があることが分かった。これらは冷涼な気候や痩せた土地にも強く、栄養価も高い。なぜ、今までエアハルト領で栽培されてこなかったのか。おそらく、貴族たちの食べる高価な小麦の栽培が優先されてきたのだろう。
さらに、ルキウスは農業技術に関する記述にも注目した。
(水路の整備、輪作、堆肥作り……。基本的なことばかりだが、徹底されていないようだ)
前世で、農業関連のクライアントを担当した際に叩き込まれた知識が、今ここで役立とうとしていた。ブラック企業での経験も、無駄ではなかったのかもしれない。
それから数日間、ルキウスは食事の時間も忘れるほど、領地の資料と、この世界の農業、土木、経済に関する書物を読み漁った。寝室の床は、広げられた羊皮紙や本で足の踏み場もないほどだ。
彼は大きな紙を広げ、具体的な領地改革の計画を書き出し始めた。
第一段階:主要作物を小麦から、ポテと黒麦へ転換。領民の食糧を安定させる。
第二段階:灌漑用水路を整備し、水不足を解消する。
第三段階:家畜の糞を利用した堆肥作りを奨励し、土壌を改良する。
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書き連ねていくうちに、ルキ...きうすの胸は高鳴っていた。これは、ただ死を待つだけの悪役令息の計画ではない。自分の力で未来を切り開き、多くの人々を救うための、壮大なプロジェクトだ。
(俺はもう、無力じゃない)
前世では、会社の歯車としてすり潰されるだけだった。しかし、今は違う。自分には、領地と民の未来を左右する力と責任がある。
それは、途方もなく重い責任だったが、同時に、生きているという確かな実感を与えてくれた。
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