悪役令息に転生したので断罪回避します!のはずが、氷の王太子からの溺愛が止まりません

水凪しおん

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第十六話「束の間のティータイム」

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 ダリウス大公の失脚により、王宮には久しぶりに穏やかな時間が流れていた。ルキウスとアレクシスは、王宮の庭園にあるガゼボで、二人きりのティータイムを楽しんでいた。テーブルの上には、淹れたての紅茶と、焼きたてのスコーンが並んでいる。
「まさか、こうして殿下…いや、アレクシスと、のんびりお茶をする日が来るなんてな」
 ルキウスは、カップを片手に、感慨深げに呟いた。数ヶ月前の自分に、この光景を見せても、きっと信じないだろう。
「私もだ。執務以外の時間に、誰かとこうして過ごしたいと思ったのは、お前が初めてだ」
 アレクシスは、そう言って、穏やかに微笑んだ。その表情は、以前の「氷の王太子」の面影など、どこにもなかった。ルキウスといる時の彼は、ただの恋する一人の青年だった。
 ルキウスは、アレクシスから聞かされた真実に、まだ少し戸惑っていた。最初に冷たくされたのが、自分を王家の争いから守るためだったなんて。
「どうして、教えてくれなかったんだ? 俺は、ずっとあなたに嫌われているんだと思っていた」
 少しだけ、拗ねたように言うルキウスに、アレクシスは申し訳なさそうな顔をした。
「すまない。だが、あの時の私には、それが最善の方法だと思えたんだ。お前を深く知れば知るほど、この醜い争いに巻き込みたくないという気持ちが強くなった。……まあ、結果的に、お前は自分自身の力で、争いの中心に飛び込んできてしまったわけだが」
 アレクシスは、そう言って、楽しそうに笑った。
「君の領地改革の手腕、聖女を救った洞察力、そして、大公の陰謀を暴いた民からの信頼。そのどれもが、私の想像を遥かに超えていた。君は、私が守らなければならないような、か弱い存在ではなかったな」
「……買い被りすぎだ。俺はただ、生き残りたくて必死だっただけで……」
「その必死さが、国を救ったんだ。もっと胸を張れ、私の英雄」
 アレクシスは、そう言うと、テーブル越しに身を乗り出し、ルキウスの唇に、軽くキスを落とした。
 突然のことに、ルキウスの顔が、カッと赤く染まる。
「こ、こここ、ここで、何を……!」
「何を、とは? 婚約者同士の、当然の愛情表現だと思うが」
 アレクシスは、悪びれる様子もなく、けろりと言ってのける。最近の彼は、ルキウスをからかうのが楽しいらしい。昔の彼を知る者が見れば、腰を抜かすに違いないだろう。
 そんな二人の穏やかな時間を、遠くから見つめる影があった。聖女セリアだ。彼女は、幸せそうな二人を見て、にこりと微笑むと、静かにその場を立ち去った。彼女にとっても、自分を救ってくれた優しいルキウスと、尊敬するアレクシスが結ばれることは、心からの喜びだった。
 しかし、すべての者が、二人の幸せを祝福しているわけではなかった。
 ダリウス大公は失脚した。だが、彼が長年かけて築き上げてきた、巨大な権力と富、そして闇の繋がりは、まだ完全には消えていなかったのだ。主を失った大公の残党たちが、水面下で、新たな陰謀を企てていることを、まだ二人は知らない。
 束の間の平和。それは、次なる嵐の前の、静けさに過ぎないのかもしれない。
 それでも、今はただ、この幸せな時間を噛みしめたい。ルキウスは、隣で微笑む愛しい人の顔を見上げながら、そう願わずにはいられなかった。この穏やかな日常こそが、彼が二度目の人生で、何よりも守りたかった宝物なのだから。
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