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第9話「決断の時、そして愛の告白」
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故郷が滅びかけている。民が苦しんでいる。その事実は重い石のようにリオの心に沈んだ。
王子は必死の形相で懇願を続けている。「君がいなければ国は終わるのだ」と。
もし俺が帰れば国は救われるのかもしれない。苦しんでいる人たちを助けることができるのかもしれない。それはかつて「無価値」だと蔑まれた俺にとって、初めて自分の存在価値を証明できる機会のようにも思えた。
心が引き裂かれそうになる。
けれど脳裏に浮かぶのは、絶望の雨の中で自分を拾い上げてくれたあの冷たくも美しい皇帝の姿だった。
何も持たない俺に「食事を作れ」と役割を与えてくれた。聖獣付きの料理番という身に余る居場所をくれた。卑劣な罠からその身を挺して守ってくれた。「君は無価値などではない」とその存在を肯定してくれた。
俺が本当に苦しくて寂しくて凍えていた時に、温かい手を差し伸べてくれたのは誰だっただろうか。
俺を無価値だと切り捨てた場所と、俺を必要だと抱きしめてくれた場所。
答えはもう出ていた。
リオはゆっくりと顔を上げると、土下座する王子に向かってはっきりと、そして静かに告げた。
「お断りします」
その場にいた誰もが息をのんだ。王子は信じられないといった顔でリオを見上げる。
「俺の居場所はここです。アレス様の側です」
きっぱりとした声だった。そこにはもう迷いはなかった。
「故郷のことは心配です。でも俺はもうあなたたちの元へは戻れません。俺は俺を必要としてくれる人のためにこの力を使いたいんです」
その答えを玉座の影で静かに聞いていたアレス様は、リオが奪われるかもしれないというここ数日感じていた焦燥と恐怖からようやく解放された。そしてそれと同時に、自分のために故郷を捨てるという大きな決断をしてくれたリオへの愛おしさが、堰を切ったように込み上げてくるのを抑えきれなかった。
***
謁見が終わるとアレスはリオの手を強く引き、自室へと連れて行った。
部屋に入るなりアレスはリオを背後から強く抱きしめた。驚いて身を固くするリオの耳元に熱のこもった声が囁かれる。
「……行かないでくれるか」
それは皇帝の命令ではなく一人の男としての、切実な願いだった。
「どこにも行かないで、ずっと俺の側にいてくれ」
「アレス様……」
「俺は君がいないと駄目だ。君の作る温かい食事がなければ、君の優しい笑顔がなければ、俺はきっとまた凍てついた心のまま孤独に生きていくだけになる」
アレスはリオの体をゆっくりと自分の方へと向かせると、その潤んだ瞳を真っ直ぐに見つめた。アメジストの瞳が今までに見たことがないほど、真剣な愛の炎で揺らめいている。
「リオ、俺の番(つがい)になってくれ」
「え……?」
あまりにも突然の言葉にリオは思考が停止する。つがい? それは生涯を共にする唯一無二のパートナーを意味する言葉だ。
「生涯君だけを愛し、守り抜くと誓う。俺のすべてを君に捧げる。だから君のこれからの人生を俺にくれないか」
それは皇帝が臣下にする求婚ではない。ただ一人の愛する人へ贈る魂からの愛の告白だった。
驚きで言葉を失いただアレスの顔を見つめるリオの頬を、一筋の涙が伝った。
嬉しかった。夢を見ているみたいだった。追放されたただの味見係の俺を。無価値だと思っていた俺を。この国の誰よりも尊い人が生涯の相手として望んでくれている。
「俺……で、いいんですか……?」
「君がいい。君じゃなきゃ駄目だ」
迷いのない力強い言葉。
リオはこらえきれずに溢れだす涙のまま、静かにしかし力強く頷いた。その答えだけでアレスには十分だった。彼は愛しい宝物を抱きしめるようにリオを優しく、しかし強くその胸に抱きしめた。
王子は必死の形相で懇願を続けている。「君がいなければ国は終わるのだ」と。
もし俺が帰れば国は救われるのかもしれない。苦しんでいる人たちを助けることができるのかもしれない。それはかつて「無価値」だと蔑まれた俺にとって、初めて自分の存在価値を証明できる機会のようにも思えた。
心が引き裂かれそうになる。
けれど脳裏に浮かぶのは、絶望の雨の中で自分を拾い上げてくれたあの冷たくも美しい皇帝の姿だった。
何も持たない俺に「食事を作れ」と役割を与えてくれた。聖獣付きの料理番という身に余る居場所をくれた。卑劣な罠からその身を挺して守ってくれた。「君は無価値などではない」とその存在を肯定してくれた。
俺が本当に苦しくて寂しくて凍えていた時に、温かい手を差し伸べてくれたのは誰だっただろうか。
俺を無価値だと切り捨てた場所と、俺を必要だと抱きしめてくれた場所。
答えはもう出ていた。
リオはゆっくりと顔を上げると、土下座する王子に向かってはっきりと、そして静かに告げた。
「お断りします」
その場にいた誰もが息をのんだ。王子は信じられないといった顔でリオを見上げる。
「俺の居場所はここです。アレス様の側です」
きっぱりとした声だった。そこにはもう迷いはなかった。
「故郷のことは心配です。でも俺はもうあなたたちの元へは戻れません。俺は俺を必要としてくれる人のためにこの力を使いたいんです」
その答えを玉座の影で静かに聞いていたアレス様は、リオが奪われるかもしれないというここ数日感じていた焦燥と恐怖からようやく解放された。そしてそれと同時に、自分のために故郷を捨てるという大きな決断をしてくれたリオへの愛おしさが、堰を切ったように込み上げてくるのを抑えきれなかった。
***
謁見が終わるとアレスはリオの手を強く引き、自室へと連れて行った。
部屋に入るなりアレスはリオを背後から強く抱きしめた。驚いて身を固くするリオの耳元に熱のこもった声が囁かれる。
「……行かないでくれるか」
それは皇帝の命令ではなく一人の男としての、切実な願いだった。
「どこにも行かないで、ずっと俺の側にいてくれ」
「アレス様……」
「俺は君がいないと駄目だ。君の作る温かい食事がなければ、君の優しい笑顔がなければ、俺はきっとまた凍てついた心のまま孤独に生きていくだけになる」
アレスはリオの体をゆっくりと自分の方へと向かせると、その潤んだ瞳を真っ直ぐに見つめた。アメジストの瞳が今までに見たことがないほど、真剣な愛の炎で揺らめいている。
「リオ、俺の番(つがい)になってくれ」
「え……?」
あまりにも突然の言葉にリオは思考が停止する。つがい? それは生涯を共にする唯一無二のパートナーを意味する言葉だ。
「生涯君だけを愛し、守り抜くと誓う。俺のすべてを君に捧げる。だから君のこれからの人生を俺にくれないか」
それは皇帝が臣下にする求婚ではない。ただ一人の愛する人へ贈る魂からの愛の告白だった。
驚きで言葉を失いただアレスの顔を見つめるリオの頬を、一筋の涙が伝った。
嬉しかった。夢を見ているみたいだった。追放されたただの味見係の俺を。無価値だと思っていた俺を。この国の誰よりも尊い人が生涯の相手として望んでくれている。
「俺……で、いいんですか……?」
「君がいい。君じゃなきゃ駄目だ」
迷いのない力強い言葉。
リオはこらえきれずに溢れだす涙のまま、静かにしかし力強く頷いた。その答えだけでアレスには十分だった。彼は愛しい宝物を抱きしめるようにリオを優しく、しかし強くその胸に抱きしめた。
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