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第8話「後悔する王国と、王子の来訪」
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一方、リオを追放した元の王国では、前代未聞の災厄が次々と起こっていた。
王国の繁栄は代々、王家に仕える聖獣の強大な加護によって支えられていた。しかしその聖獣が原因不明の衰弱に陥ってしまったのだ。それもリオが王宮から追い出された、まさにあの直後から。
聖獣の加護を失った土地では作物が次々と枯れ、井戸の水は濁り始めた。原因不明の疫病が瞬く間に広がり、民の顔からは笑顔が消え国全体が暗い絶望の空気に包まれていく。
王も大臣たちもあらゆる手を尽くした。神殿に祈りを捧げ、高名な治癒術師を呼び寄せた。しかし聖獣の体調は一向に上向かず、衰弱していく一方だった。
そんな八方ふさがりの状況の中、隣国であるアレスの帝国から信じがたい噂が風に乗って届いてきた。
「帝国の聖獣グリフォンが奇跡的な回復を遂げたらしい」
「なんでも一人の料理人が作ったスープを飲んだのがきっかけだとか」
そしてその噂はさらに驚くべき事実を王国にもたらした。
「その料理番とやらは我が国から追放された、あの“味見係”のリオだそうだ!」
その事実を知った時、王国の者たちは自分たちが犯した過ちの大きさにようやく気づいた。特にリオを「無駄飯食い」と嘲笑い、追放の引き金を引いた宰相と王子は顔面蒼白になった。
リオが味見係として口にしていた食事は、王族、ひいては聖獣のための食事の残り物だった。彼は知らず知らずのうちにその不思議な力で聖獣の健康を支えていたのだ。その彼を追い出したことで聖獣の加護が失われた。すべての災厄は自分たちが招いたことだったのだ。
後悔してももう遅い。国は日に日に滅びへと向かっている。
残された道は一つしかなかった。
「リオを連れ戻すのだ!」
国を救うため、彼らはプライドを捨て追放したリオを帝国から取り戻すことを決意した。
そのための使者として白羽の矢が立ったのは、皮肉にもかつてリオを最も蔑んでいた張本人、第一王子その人だった。
数日後、帝国の城に王国の使節団を乗せた馬車が到着した。謁見の間に通された王子は、玉座に座る皇帝アレスとその傍らに立つリオの姿を見て息をのんだ。
みすぼらしい味見係だった頃の面影はない。上質な衣服を身にまとい皇帝の隣で穏やかに微笑むリオは、まるで別人のように輝いて見えた。そして何よりも王子を驚かせたのは、アレスがリオに向ける慈愛に満ちた優しい眼差しだった。二人の間に流れる空気がただの主従関係でないことは、誰の目にも明らかだった。
「して、本日は何の用件かな」
アレスの冷たい声に王子ははっと我に返った。彼はリオの前に進み出ると深々と頭を下げた。
「リオ殿! かつての私の無礼と、我が国の愚かな判断をどうか許してほしい!」
突然の謝罪にリオは驚いて目を見開く。
「国は今、聖獣様の加護を失い滅びかけている。すべては君という宝を追い出してしまった我々の過ちだ。どうかこの通りだ。国に帰ってきて、我々を救ってはくれないだろうか」
必死の形相で土下座する王子の姿。そして伝えられた故郷の窮状に、リオの心は複雑に揺れ動いた。
自分を捨てた国だ。憎んでも憎みきれないはず。なのに民が苦しんでいると聞いて胸が痛んだ。孤児院の先生や友達はどうしているだろうか。
俯き唇を噛むリオの肩を、アレスの大きな手がそっと抱いた。まるで「君の好きにしていい」と、その温もりが語りかけているようだった。
王国の繁栄は代々、王家に仕える聖獣の強大な加護によって支えられていた。しかしその聖獣が原因不明の衰弱に陥ってしまったのだ。それもリオが王宮から追い出された、まさにあの直後から。
聖獣の加護を失った土地では作物が次々と枯れ、井戸の水は濁り始めた。原因不明の疫病が瞬く間に広がり、民の顔からは笑顔が消え国全体が暗い絶望の空気に包まれていく。
王も大臣たちもあらゆる手を尽くした。神殿に祈りを捧げ、高名な治癒術師を呼び寄せた。しかし聖獣の体調は一向に上向かず、衰弱していく一方だった。
そんな八方ふさがりの状況の中、隣国であるアレスの帝国から信じがたい噂が風に乗って届いてきた。
「帝国の聖獣グリフォンが奇跡的な回復を遂げたらしい」
「なんでも一人の料理人が作ったスープを飲んだのがきっかけだとか」
そしてその噂はさらに驚くべき事実を王国にもたらした。
「その料理番とやらは我が国から追放された、あの“味見係”のリオだそうだ!」
その事実を知った時、王国の者たちは自分たちが犯した過ちの大きさにようやく気づいた。特にリオを「無駄飯食い」と嘲笑い、追放の引き金を引いた宰相と王子は顔面蒼白になった。
リオが味見係として口にしていた食事は、王族、ひいては聖獣のための食事の残り物だった。彼は知らず知らずのうちにその不思議な力で聖獣の健康を支えていたのだ。その彼を追い出したことで聖獣の加護が失われた。すべての災厄は自分たちが招いたことだったのだ。
後悔してももう遅い。国は日に日に滅びへと向かっている。
残された道は一つしかなかった。
「リオを連れ戻すのだ!」
国を救うため、彼らはプライドを捨て追放したリオを帝国から取り戻すことを決意した。
そのための使者として白羽の矢が立ったのは、皮肉にもかつてリオを最も蔑んでいた張本人、第一王子その人だった。
数日後、帝国の城に王国の使節団を乗せた馬車が到着した。謁見の間に通された王子は、玉座に座る皇帝アレスとその傍らに立つリオの姿を見て息をのんだ。
みすぼらしい味見係だった頃の面影はない。上質な衣服を身にまとい皇帝の隣で穏やかに微笑むリオは、まるで別人のように輝いて見えた。そして何よりも王子を驚かせたのは、アレスがリオに向ける慈愛に満ちた優しい眼差しだった。二人の間に流れる空気がただの主従関係でないことは、誰の目にも明らかだった。
「して、本日は何の用件かな」
アレスの冷たい声に王子ははっと我に返った。彼はリオの前に進み出ると深々と頭を下げた。
「リオ殿! かつての私の無礼と、我が国の愚かな判断をどうか許してほしい!」
突然の謝罪にリオは驚いて目を見開く。
「国は今、聖獣様の加護を失い滅びかけている。すべては君という宝を追い出してしまった我々の過ちだ。どうかこの通りだ。国に帰ってきて、我々を救ってはくれないだろうか」
必死の形相で土下座する王子の姿。そして伝えられた故郷の窮状に、リオの心は複雑に揺れ動いた。
自分を捨てた国だ。憎んでも憎みきれないはず。なのに民が苦しんでいると聞いて胸が痛んだ。孤児院の先生や友達はどうしているだろうか。
俯き唇を噛むリオの肩を、アレスの大きな手がそっと抱いた。まるで「君の好きにしていい」と、その温もりが語りかけているようだった。
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