魔力ゼロの『外れ聖女(男)』、 追放先で知識を武器に国を改革したら、孤高の獅子王に「お前は俺の宝だ」と唯一無二の番として激しく求められる

水凪しおん

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第2話「冷徹なる獅子王」

 獣人国ライオネル王国の王都に到着した俺は、その光景に圧倒されていた。石造りの建物は無骨で、整備されているとは言えない道を屈強な体躯の獣人たちが行き交っている。狼の耳を持つ兵士、熊のように大きな腕をした商人、猫のようにしなやかな尾を揺らす女性。彼らの放つ野性的な活気と鋭い視線に、俺は思わず身を縮こませた。人間である俺は、明らかに異質な存在だった。

 案内されるがままに王城へと足を踏み入れると、そこはアルバ王国の壮麗な神殿とは対照的に、質実剛健という言葉がふさわしい場所だった。磨かれた石の床、壁に飾られた巨大な武器や魔物の剥製。すべてが、この国が力を尊ぶことを示しているようだった。

 やがて通されたのは、広大な謁見の間だった。高い天井を支える太い柱が並び、その奥に巨大な玉座が鎮座していた。そして、そこに座る人物の姿に俺は息を呑んだ。

 年の頃は二十代後半だろうか。陽に焼けた褐色の肌、逞しい体躯を黒い衣装に包み、玉座に深く腰掛けている。陽光を反射して輝く金色の髪は、まるで獅子の鬣のようだ。そして何より目を引くのは、こちらを射抜くように見つめる、溶かした黄金のような鋭い瞳だった。

 彼こそが、この国の王。獅子王カイゼル。

 彼の全身から放たれる圧倒的な威圧感に、足がすくむ。まるで猛獣の前に裸で放り出されたような気分だった。

 俺が頭を下げると、低くよく通る声が響いた。

「面を上げろ」

 恐る恐る顔を上げると、カイゼルの黄金の瞳が値踏みするように俺の頭のてっぺんから爪先までをゆっくりと観察した。その視線に、身体の芯が凍るような感覚を覚えた。

「……人間国が寄越した『贈り物』が貴様か。ひどく貧相だな」

 吐き捨てるような言葉に、ぐっと奥歯を噛む。『慰みものにでもなれ』、と言った神官長の顔が脳裏をよぎった。

「我が国に益をもたらさぬ者は不要だ」

 カイゼルは冷たく言い放つ。その言葉は、俺の存在価値そのものを問うていた。ここでしくじれば、待っているのは死か、あるいはそれ以下の何かだろう。

 生き残るために。俺は必死に頭を回転させた。今、俺が示せる価値とは何か。

「お、恐れながら、陛下。私には魔力はありません。しかし、私の持つ知識が必ずやこの国のお役に立つと信じております」

 震える声で、それでもはっきりと告げる。カイゼルは片眉をピクリと上げたが、その表情は変わらない。

「知識、だと? 机上の空論で、我が国の何が変えられる」

「変えてみせます。例えば――」

 俺は息を吸い込み、覚悟を決めて続けた。

「例えば、食、衛生、農業。人々の生活の根幹を、私の知識でより豊かにすることが可能です。それは必ずや、国の力となりましょう」

 俺の言葉に、玉座の間にいた獣人の大臣たちがざわめく。ある者は嘲笑し、ある者は訝しげな顔をしていた。

 カイゼルはしばらく黙って俺を見つめていたが、やがてその唇の端に冷ややかな笑みを浮かべた。

「面白い。そこまで言うのなら、試してやろう」

 彼は玉座から立ち上がった。その巨躯が動くだけで、空気が震えるようだ。

「よかろう。まずはお前の言う『食』とやらで、その価値を示してみせろ。もし俺を満足させられなければ――その時は、ただでは済まさん」

 最後の言葉には、紛れもない殺気がこもっていた。

 俺は全身に冷たい汗が流れるのを感じながらも、深く、深く頭を下げた。

「はっ。必ずやご期待に応えてみせます」

 こうして、俺の獣人国での生き残りをかけた挑戦が始まった。冷徹な獅子王が与えた最初の課題。それは、この国の文化に根付く食の問題だった。

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