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第13話「我が国の宝」
「――その汚れた手で、俺のものに触れるな」
地を揺るがすような低い声。それは、紛れもなくカイゼルのものだった。バルドゥスの伸ばされた手は、まるで氷漬けにでもされたかのように空中でぴたりと止まる。
見れば、カイゼルはゆっくりと玉座から立ち上がっていた。その黄金の瞳は、今まで俺が見たこともないほどの燃え盛る怒りの炎を宿していた。それは己の縄張りを荒らされた獅子の怒りそのものだった。
「き、貴様……何を……」
王の気迫に、バルドゥスはたじろぐ。
「聖女? 最高の待遇? 笑わせるな」
カイゼルは一段、また一段と階段を降りてくる。その一歩一歩が、バルドゥスとアルバ王国の使者たちの罪を断罪しているかのようだ。
「貴様らがゴミのように捨てた宝を、今更どの面を下げて返しに来た?」
カイゼルの言葉は静かでありながら、玉座の間にいるすべての者の鼓膜を震わせた。
「ミコトが魔力ゼロだと知った時、お前たちは何をした? 『役立たず』と罵り、物置に押し込め、ろくに食事も与えず、厄介払いとして我が国に押し付けた。違うか?」
図星を突かれたバルドゥスは、顔を真っ青にして言葉を失う。
カイゼルは震える俺の肩を抱き寄せ、自らの背後へと隠した。その大きな背中が、まるで世界の全てから俺を守ってくれる盾のように感じられた。
そして、カイゼルはバルドゥスをゴミでも見るような目で見下ろし、はっきりと宣言した。
「よく聞け、人間。ミコトは、お前たちが捨てた時点でもはや聖女ではない。彼は、その知識と知恵で我が国を救った『賢者』であり、俺が未来を誓った唯一無二の番だ」
番、という言葉に、バルドゥスだけでなくその場にいたライオネルの貴族たちも息を呑む。
「ミコトはもはや、我が国の至宝。貴様らごときに、指一本触れさせるものか」
王の威光。それは単なる地位や権力から来るものではない。カイゼルの言葉には、ミコトという一人の人間を心から慈しみ、守り抜こうとする絶対的な意志が込められていた。
その凄まじいまでの気迫に、バルドゥスは腰を抜かすほど震え上がった。
「ひぃっ……」
「――失せろ。二度とその面を見せるな」
最後の宣告に、バルドゥスと使者団は我先にと逃げ出し、すごすごと王城から退散していった。
嵐が去ったように静まり返った玉座の間に、俺は一人立ち尽くしていた。
カイゼルの大きな背中。俺を『宝』だと言ってくれた声。俺のために、本気で怒ってくれた姿。
そのすべてが、俺の胸を強く、強く打った。
かつて誰も認めてくれなかった俺の価値を、この人は見出してくれた。
誰も守ってくれなかった俺を、この人は全身全霊で守ってくれた。
俺は、ゆっくりとカイゼルの方を振り返った。彼はまだ怒りの色が残る瞳で、だがどこか心配そうに俺を見つめていた。
「……ミコト、大丈夫か」
「……はい」
俺は頷いた。大丈夫。もう、大丈夫だ。
この人の隣にいる限り、俺はもう何ものにも傷つけられることはない。
心の奥底から温かい何かが込み上げてくるのを感じながら、俺は初めて、自分の意志でカイゼルの衣服の裾をぎゅっと握りしめていた。
地を揺るがすような低い声。それは、紛れもなくカイゼルのものだった。バルドゥスの伸ばされた手は、まるで氷漬けにでもされたかのように空中でぴたりと止まる。
見れば、カイゼルはゆっくりと玉座から立ち上がっていた。その黄金の瞳は、今まで俺が見たこともないほどの燃え盛る怒りの炎を宿していた。それは己の縄張りを荒らされた獅子の怒りそのものだった。
「き、貴様……何を……」
王の気迫に、バルドゥスはたじろぐ。
「聖女? 最高の待遇? 笑わせるな」
カイゼルは一段、また一段と階段を降りてくる。その一歩一歩が、バルドゥスとアルバ王国の使者たちの罪を断罪しているかのようだ。
「貴様らがゴミのように捨てた宝を、今更どの面を下げて返しに来た?」
カイゼルの言葉は静かでありながら、玉座の間にいるすべての者の鼓膜を震わせた。
「ミコトが魔力ゼロだと知った時、お前たちは何をした? 『役立たず』と罵り、物置に押し込め、ろくに食事も与えず、厄介払いとして我が国に押し付けた。違うか?」
図星を突かれたバルドゥスは、顔を真っ青にして言葉を失う。
カイゼルは震える俺の肩を抱き寄せ、自らの背後へと隠した。その大きな背中が、まるで世界の全てから俺を守ってくれる盾のように感じられた。
そして、カイゼルはバルドゥスをゴミでも見るような目で見下ろし、はっきりと宣言した。
「よく聞け、人間。ミコトは、お前たちが捨てた時点でもはや聖女ではない。彼は、その知識と知恵で我が国を救った『賢者』であり、俺が未来を誓った唯一無二の番だ」
番、という言葉に、バルドゥスだけでなくその場にいたライオネルの貴族たちも息を呑む。
「ミコトはもはや、我が国の至宝。貴様らごときに、指一本触れさせるものか」
王の威光。それは単なる地位や権力から来るものではない。カイゼルの言葉には、ミコトという一人の人間を心から慈しみ、守り抜こうとする絶対的な意志が込められていた。
その凄まじいまでの気迫に、バルドゥスは腰を抜かすほど震え上がった。
「ひぃっ……」
「――失せろ。二度とその面を見せるな」
最後の宣告に、バルドゥスと使者団は我先にと逃げ出し、すごすごと王城から退散していった。
嵐が去ったように静まり返った玉座の間に、俺は一人立ち尽くしていた。
カイゼルの大きな背中。俺を『宝』だと言ってくれた声。俺のために、本気で怒ってくれた姿。
そのすべてが、俺の胸を強く、強く打った。
かつて誰も認めてくれなかった俺の価値を、この人は見出してくれた。
誰も守ってくれなかった俺を、この人は全身全霊で守ってくれた。
俺は、ゆっくりとカイゼルの方を振り返った。彼はまだ怒りの色が残る瞳で、だがどこか心配そうに俺を見つめていた。
「……ミコト、大丈夫か」
「……はい」
俺は頷いた。大丈夫。もう、大丈夫だ。
この人の隣にいる限り、俺はもう何ものにも傷つけられることはない。
心の奥底から温かい何かが込み上げてくるのを感じながら、俺は初めて、自分の意志でカイゼルの衣服の裾をぎゅっと握りしめていた。
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