辺境の村で虐げられていた「出来損ないΩ」の僕。帝国最強の冷徹騎士に「偽りの番」として買われたら、なぜか極上の愛と食事を与えられ溺愛される

水凪しおん

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番外編「総長閣下の観察日誌」

 ルカ・ミラーは、主君であるゼイド・フォン・ヴァルハイトに長年仕える、有能な側仕え(兼、副官)である。
 βである彼は、主君の超人的な仕事ぶりと、氷のように冷徹な性格を誰よりもよく知っていた。
 そんな彼の日課は、業務日誌とは別に、個人的な『総長閣下観察日誌』を綴ることだった。

【某月某日 天気:晴れ】
 総長閣下が、辺境の村から一人のΩの青年を連れて帰還された。
 リアム様、というらしい。ずいぶんとおどおどしていて、痩せっぽちの青年だ。
 閣下は「偽りの番だ」と仰っていたが、あの方が、ご自分のテリトリーに誰かを入れること自体が天変地異レベルの出来事である。
 しかも、リアム様を見つめる閣下の瞳の奥に、ほんの微かな光が宿ったのを、このルカは見逃さなかった。
 これは、面白くなるかもしれない。

【某月某日 天気:曇り】
 リアム様、初めての温かい食事に号泣。
 それを見ていた閣下、書斎で「……俺は今まで、あいつに何を食べさせてやればいいんだ」と真顔で私に尋ねてこられた。
 閣下、リアム様は美食家なのではなく、ただ今までろくなものを食べてこられなかっただけです。
 とりあえず、栄養バランスの取れた美味しいものを、と進言しておいた。
 閣下の不器用さが、早くも炸裂している。先が思いやられる……いや、楽しみだ。

【某月某日 天気:快晴】
 夜会にて、フォルスター子爵がリアム様に言い寄った瞬間、閣下の殺気が頂点に達した。
 子爵の寿命が五十年は縮んだことだろう。南無。
『俺の番に気安く触れるな』。偽りの番、という設定はどこへ行ったのだろうか。
 閣下の独占欲、ダダ漏れである。
 リアム様は、閣下の庇護に戸惑いつつも、頬を染めていらっしゃった。
 見ているこっちが、砂糖を吐きそうだ。

【某月某日 天気:雨のち晴れ】
 リアム様がヒートを迎えられ、閣下が理性のタガが外れた。
 まあ、時間の問題だとは思っていた。
 翌朝、寝室から出てきた閣下の顔は、百年の恋が成就したかのような、見たこともないほど穏やかな表情をされていた。
 リアム様も、頬を真っ赤に染めて、幸せそうだった。
 偽りの関係、これにて終了のお知らせである。良かった、本当に良かった。
 これで、閣下の執務室に飾られている氷の彫刻のような置物が、少しは溶けるかもしれない。

【某月某日 天気:嵐のち快晴】
 オルバンス公爵の件、無事に解決。
 本当に、肝が冷えた。閣下が一人で砦に向かわれると聞いた時は、本気で止めようと思ったが、あの時の閣下の瞳は、誰にも止められない覚悟の色をしていた。
 愛は人(α)を強くする、とは言うが、限度というものがあるだろう。
 まあ、結果的に、リアム様を無事に救出され、長年の因縁にも決着がついたのだから、良しとしよう。
 砦から戻られたお二人の、見ているこっちが恥ずかしくなるほどの甘い雰囲気は、日誌に書ききれないので割愛する。

【某月某日 天気:雲一つない青空】
 本日、閣下とリアム様が、正式に番の誓いを交わされた。
 誓いのキスを交わすお二人を見て、思わず涙ぐんでしまったのは、ここだけの秘密だ。
 あの氷のようだった総長閣下が、あんなにも優しい顔で笑うなんて。
 リアム様という陽だまりが、閣下の凍てついた心を、完全に溶かしてくれたのだ。
 観察日誌も、今日で終わりにしようかと思ったが、やめた。
 きっと、これから始まるお二人の甘々な新婚生活は、これまで以上に観察のしがいがあるに違いない。
 さて、明日はどんな面白いことが起こるだろうか。

 ルカはペンを置くと、満足げに微笑んだ。
 主君の幸せは、側近の幸せでもある。
 明日からも、彼の多忙だが、心温まる日々は続いていくのだ。

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