17 / 23
第16話「決意のプロポーズと揺れる心」
しおりを挟む
カイザー殿下の正体が明らかになってから、村の空気は一変した。
いや、村人たちはまだ彼の本当の身分を知らない。
「カイは、実はどこかのお偉いさんだったらしい」という程度の認識だ。
それでも、あの壮麗な馬車と騎士たちの存在は、村に緊張感をもたらしていた。
カイザー殿下――まだ、そう呼ぶのには抵抗がある。
俺は、館に滞在し続ける彼と、どう接していいか分からずにいた。
彼は、以前と変わらず「カイ」として振る舞おうとしたが、その言葉の端々や仕草に、隠しきれない王族の気品がにじみ出ている。
俺たちの間には、見えない壁ができてしまったようだった。
「妃として、帝国に来てほしい」
彼のプロポーズが、ずっと頭の中で反響している。
嬉しい。
だが、怖い。
王宮という場所が、どれだけ息苦しく、欺瞞に満ちた場所か、俺は嫌というほど知っている。
もう二度と、あんな場所には戻りたくない。
このグライフェンの地で、土にまみれながら生きる、今の穏やかな生活が、俺にとってはかけがえのないものだった。
その夜、俺は一人、自分の育てたカブ畑の前に立っていた。
月明かりに照らされた畑は、静かで、美しい。
ここが、俺の再出発の場所。
俺の誇りだ。
「……ここにいたのか」
背後から、カイの声がした。
いつの間にか、彼は俺の隣に立っていた。
「レオン。まだ、迷っているのか」
「……当たり前だろう」
俺は、畑から目を離さずに答えた。
「俺は、この村が好きだ。ここの人たちが好きだ。ようやく見つけた、俺の居場所なんだ。それを、簡単に捨てられるわけがない」
「捨てろとは言っていない」
カイは、静かに言った。
「お前の功績は、俺が帝国に帰った後も、決して無駄にはしない。このグライフェンを、帝国の直轄領として、手厚く保護することを約束する。お前が望むなら、いつでもここに戻ってこられるようにしよう」
彼の提案は、あまりに魅力的だった。
俺個人の感傷だけでなく、村の未来までをも考えてくれている。
「……なぜ、そこまでしてくれるんだ」
「言っただろう。お前が、俺の運命の番だからだ」
カイは、俺の肩にそっと手を置いた。
「それだけじゃない。俺は、一人の男として、レオン、お前に惚れているんだ。お前がこの村を愛しているように、俺はお前という人間を愛している。だから、お前が大切にしているものも、俺は同じように大切にしたい」
彼の言葉は、飾りがなく、まっすぐで、俺の心の奥深くにまでじんわりと染み渡ってきた。
俺は、ゆっくりと彼の方へ向き直った。
月明かりの下、彼の金の瞳が、熱を帯びて俺を見つめている。
「俺のそばに来てはくれないか、レオン。お前がいない人生など、もう考えられない」
彼は、俺の前に片膝をつくと、俺の手を取った。
それは、騎士が主君に忠誠を誓う、最も敬意のこもった作法だった。
「俺の全てを懸けて、お前を幸せにすると誓う。だから、俺の妃になってほしい」
帝国の皇太子が、追放された罪人である俺に、跪いている。
その光景が、俺の最後の躊躇いを打ち砕いた。
身分も、過去も、性別も関係ない。
ただ、この男の隣にいたい。
この温かい手を、離したくない。
俺の目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
それは、悲しみの涙ではなかった。
「……俺で、いいのか」
震える声で尋ねる。
「お前がいい。お前じゃなきゃ、だめなんだ」
迷いのない、即答だった。
俺は、こぼれ落ちる涙をそのままに、精一杯の笑顔を作った。
そして、小さく、しかしはっきりと、頷いた。
「……はい」
その返事を聞いたカイは、子供のように顔を輝かせると、俺の手の甲に、優しく口づけを落とした。
「ありがとう、レオン。愛している」
抱きしめられた彼の腕の中は、温かくて、安心できる、俺だけの場所だった。
揺れていた心は、もう迷わない。
俺は、この人と共に生きていく。
そう、決めた。
運命を受け入れる覚悟を決めた、静かな夜だった。
いや、村人たちはまだ彼の本当の身分を知らない。
「カイは、実はどこかのお偉いさんだったらしい」という程度の認識だ。
それでも、あの壮麗な馬車と騎士たちの存在は、村に緊張感をもたらしていた。
カイザー殿下――まだ、そう呼ぶのには抵抗がある。
俺は、館に滞在し続ける彼と、どう接していいか分からずにいた。
彼は、以前と変わらず「カイ」として振る舞おうとしたが、その言葉の端々や仕草に、隠しきれない王族の気品がにじみ出ている。
俺たちの間には、見えない壁ができてしまったようだった。
「妃として、帝国に来てほしい」
彼のプロポーズが、ずっと頭の中で反響している。
嬉しい。
だが、怖い。
王宮という場所が、どれだけ息苦しく、欺瞞に満ちた場所か、俺は嫌というほど知っている。
もう二度と、あんな場所には戻りたくない。
このグライフェンの地で、土にまみれながら生きる、今の穏やかな生活が、俺にとってはかけがえのないものだった。
その夜、俺は一人、自分の育てたカブ畑の前に立っていた。
月明かりに照らされた畑は、静かで、美しい。
ここが、俺の再出発の場所。
俺の誇りだ。
「……ここにいたのか」
背後から、カイの声がした。
いつの間にか、彼は俺の隣に立っていた。
「レオン。まだ、迷っているのか」
「……当たり前だろう」
俺は、畑から目を離さずに答えた。
「俺は、この村が好きだ。ここの人たちが好きだ。ようやく見つけた、俺の居場所なんだ。それを、簡単に捨てられるわけがない」
「捨てろとは言っていない」
カイは、静かに言った。
「お前の功績は、俺が帝国に帰った後も、決して無駄にはしない。このグライフェンを、帝国の直轄領として、手厚く保護することを約束する。お前が望むなら、いつでもここに戻ってこられるようにしよう」
彼の提案は、あまりに魅力的だった。
俺個人の感傷だけでなく、村の未来までをも考えてくれている。
「……なぜ、そこまでしてくれるんだ」
「言っただろう。お前が、俺の運命の番だからだ」
カイは、俺の肩にそっと手を置いた。
「それだけじゃない。俺は、一人の男として、レオン、お前に惚れているんだ。お前がこの村を愛しているように、俺はお前という人間を愛している。だから、お前が大切にしているものも、俺は同じように大切にしたい」
彼の言葉は、飾りがなく、まっすぐで、俺の心の奥深くにまでじんわりと染み渡ってきた。
俺は、ゆっくりと彼の方へ向き直った。
月明かりの下、彼の金の瞳が、熱を帯びて俺を見つめている。
「俺のそばに来てはくれないか、レオン。お前がいない人生など、もう考えられない」
彼は、俺の前に片膝をつくと、俺の手を取った。
それは、騎士が主君に忠誠を誓う、最も敬意のこもった作法だった。
「俺の全てを懸けて、お前を幸せにすると誓う。だから、俺の妃になってほしい」
帝国の皇太子が、追放された罪人である俺に、跪いている。
その光景が、俺の最後の躊躇いを打ち砕いた。
身分も、過去も、性別も関係ない。
ただ、この男の隣にいたい。
この温かい手を、離したくない。
俺の目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
それは、悲しみの涙ではなかった。
「……俺で、いいのか」
震える声で尋ねる。
「お前がいい。お前じゃなきゃ、だめなんだ」
迷いのない、即答だった。
俺は、こぼれ落ちる涙をそのままに、精一杯の笑顔を作った。
そして、小さく、しかしはっきりと、頷いた。
「……はい」
その返事を聞いたカイは、子供のように顔を輝かせると、俺の手の甲に、優しく口づけを落とした。
「ありがとう、レオン。愛している」
抱きしめられた彼の腕の中は、温かくて、安心できる、俺だけの場所だった。
揺れていた心は、もう迷わない。
俺は、この人と共に生きていく。
そう、決めた。
運命を受け入れる覚悟を決めた、静かな夜だった。
338
あなたにおすすめの小説
悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!
水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。
それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。
家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。
そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。
ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。
誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。
「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。
これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。
虐げられΩは冷酷公爵に買われるが、実は最強の浄化能力者で運命の番でした
水凪しおん
BL
貧しい村で育った隠れオメガのリアム。彼の運命は、冷酷無比と噂される『銀薔薇の公爵』アシュレイと出会ったことで、激しく動き出す。
強大な魔力の呪いに苦しむ公爵にとって、リアムの持つ不思議な『浄化』の力は唯一の希望だった。道具として屋敷に囚われたリアムだったが、氷の仮面に隠された公爵の孤独と優しさに触れるうち、抗いがたい絆が芽生え始める。
「お前は、俺だけのものだ」
これは、身分も性も、運命さえも乗り越えていく、不器用で一途な二人の成り上がりロマンス。惹かれ合う魂が、やがて世界の理をも変える奇跡を紡ぎ出す――。
冷酷なアルファ(氷の将軍)に嫁いだオメガ、実はめちゃくちゃ愛されていた。
水凪しおん
BL
これは、愛を知らなかった二人が、本当の愛を見つけるまでの物語。
国のための「生贄」として、敵国の将軍に嫁いだオメガの王子、ユアン。
彼を待っていたのは、「氷の将軍」と恐れられるアルファ、クロヴィスとの心ない日々だった。
世継ぎを産むための「道具」として扱われ、絶望に暮れるユアン。
しかし、冷たい仮面の下に隠された、不器用な優しさと孤独な瞳。
孤独な夜にかけられた一枚の外套が、凍てついた心を少しずつ溶かし始める。
これは、政略結婚という偽りから始まった、運命の恋。
帝国に渦巻く陰謀に立ち向かう中で、二人は互いを守り、支え合う「共犯者」となる。
偽りの夫婦が、唯一無二の「番」になるまでの軌跡を、どうぞ見届けてください。
『偽物の番』だと捨てられた不憫な第三王子、隣国の冷徹皇帝に拾われて真実の愛を教え込まれる
レイ
BL
「出来損ない」と捨てられた場所は、私の居場所ではありませんでした。
ラングリス王国の第三王子・フィオーレは、王族の証である『聖種の紋様』が現れなかったことで「偽物の番」と罵られ、雪降る国境へと追放される。
死を覚悟した彼の前に現れたのは、隣国アイゼン帝国の「冷徹皇帝」ヴォルフラムだった。
冤罪で追放された悪役令息、北の辺境で幸せを掴む~恐ろしいと噂の銀狼将軍に嫁いだら、極上の溺愛とモフモフなスローライフが始まりました~
水凪しおん
BL
「君は、俺の宝だ」
無実の罪を着せられ、婚約破棄の末に極寒の辺境へ追放された公爵令息ジュリアン。
彼を待ち受けていたのは、「北の食人狼」と恐れられる将軍グリーグとの政略結婚だった。
死を覚悟したジュリアンだったが、出会った将軍は、噂とは真逆の不器用で心優しいアルファで……?
前世の記憶を持つジュリアンは、現代知識と魔法でボロボロの要塞を快適リフォーム!
手作りスープで将軍の胃袋を掴み、特産品開発で街を救い、気づけば冷徹将軍から規格外の溺愛を受けることに。
一方、ジュリアンを捨てた王都では、破滅の足音が近づいていて――。
冤罪追放から始まる、銀狼将軍との幸せいっぱいな溺愛スローライフ、ここに開幕!
【オメガバース/ハッピーエンド/ざまぁあり/子育て/スパダリ】
悪役令息(Ω)に転生した俺、破滅回避のためΩ隠してαを装ってたら、冷徹α第一王子に婚約者にされて溺愛されてます!?
水凪しおん
BL
前世の記憶を持つ俺、リオネルは、BL小説の悪役令息に転生していた。
断罪される運命を回避するため、本来希少なΩである性を隠し、出来損ないのαとして目立たず生きてきた。
しかし、突然、原作のヒーローである冷徹な第一王子アシュレイの婚約者にされてしまう。
これは破滅フラグに違いないと絶望する俺だが、アシュレイの態度は原作とどこか違っていて……?
悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。
原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。
「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」
破滅フラグを回避するため、俺は決意した。
主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。
しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。
「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」
いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!?
全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ!
小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!
エリートαとして追放されましたが、実は抑制剤で隠されたΩでした。辺境で出会った無骨な農夫は訳あり最強αで、私の運命の番らしいです。
水凪しおん
BL
エリートαとして完璧な人生を歩むはずだった公爵令息アレクシス。しかし、身に覚えのない罪で婚約者である王子から婚約破棄と国外追放を宣告される。すべてを奪われ、魔獣が跋扈する辺境の地に捨てられた彼を待っていたのは、絶望と死の淵だった。
雨に打たれ、泥にまみれたプライドも砕け散ったその時、彼を救ったのは一人の無骨な男、カイ。ぶっきらぼうだが温かいスープを差し出す彼との出会いが、アレクシスの運命を根底から覆していく。
畑を耕し、土に触れる日々の中で、アレクシスは自らの体に隠された大きな秘密と、抗いがたい魂の引力に気づき始める。
――これは、偽りのαとして生きてきた青年が、運命の番と出会い、本当の自分を取り戻す物語。追放から始まる、愛と再生の成り上がりファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる