婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした

水凪しおん

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第15話「皇太子の求愛、明かされる素性」

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 王国からの使者がグライフェンを訪れる、少し前のこと。
 俺とカイの関係は、あの日以来、少しぎこちないものになっていた。

「運命の番」。
 その言葉が、常に俺たちの間に漂っている。
 カイは、以前よりもずっと分かりやすく、俺に好意を向けてくるようになった。
 さりげなく隣に座ってきたり、俺の髪に触れてきたり。
 その度に、俺の心臓はうるさいくらいに跳ねた。

 オメガの本能が、彼のアルファとしての魅力に抗えと悲鳴を上げている。
 だが同時に、レオンとしての理性が、素性の知れない彼を全面的に受け入れることを躊躇させていた。

 そんなある日、村に一台の、壮麗な紋章が刻まれた馬車がやってきた。
 こんな辺境には不釣り合いな、豪奢な馬車。
 護衛の騎士たちの鎧は磨き上げられ、その立ち居振る舞いは一分の隙もない。

 村人たちが何事かと遠巻きに見守る中、馬車から降りてきたのは、いかにも高位の貴族といった風情の、白髪の老人だった。
 老人は、まっすぐに俺の館へとやってくると、そこにいたカイの姿を認めるなり、深々と頭を下げた。

「――カイザー・フォン・エーデルシュタイン皇太子殿下。お迎えに上がりました」

 その言葉に、俺は耳を疑った。
 カイザー? 皇太子殿下?
 俺は、隣に立つカイの顔を見た。
 彼は、ばつが悪そうに頭を掻いている。

「……やれやれ。思ったより、見つかるのが早かったな」

 彼は、俺に向き直ると、観念したように肩をすくめた。

「紹介が遅れたな、レオン。俺の本当の名前は、カイザー・フォン・エーデルシュタイン。隣国、エーデルシュタイン帝国の皇太子だ」

 ……やはり、ただの傭兵ではなかったのだ。
 いや、予想を遥かに超えていた。
 一介の傭兵どころか、大陸でも一、二を争う強大な帝国の、次期皇帝。

 頭がくらくらする。
 俺は、そんなとんでもない人物と、一つ屋根の下で暮らしていたというのか。

「なぜ、黙っていた……!」

 思わず、詰問するような口調になってしまう。

「身分を明かせば、お前が壁を作ると思ったからだ。一人の男として、お前と向き合いたかった」

 カイ――いや、カイザー殿下は、真摯な瞳で俺を見つめる。

「それに、色々と訳ありでな。この辺りの情勢を、自分の目で見ておきたかったというのもある」

 老人は、宰相のゲルハルトと名乗った。
 彼は、カイザー殿下の無事を喜ぶと同時に、俺の存在に気づき、探るような視線を向けてくる。

「して、殿下。こちらの御仁は……?」

「ああ。紹介しよう、ゲルハルト。彼が、俺の運命の番、レオンだ」

 カイザー殿下は、こともなげにそう言った。
 そして、俺の肩をぐっと抱き寄せる。

「なっ……!?」

 突然のことに、俺は体を強張らせた。

 宰相ゲルハルトは、最初こそ驚きの色を隠せないでいたが、やがて何かを納得したように、深く頷いた。

「……そうでございましたか。殿下が、長年探し求めておられた、運命の番様……。なるほど、これほどの気品と美貌をお持ちの方であれば、殿下のお眼鏡にかなうのも当然ですな」

 彼は、俺に向かって、再び恭しく頭を下げた。

「レオン様。はじめまして。我が主が、大変お世話になりました。心より、御礼申し上げます」

 あまりの展開の速さに、俺はついていけない。

「殿下。して、今後のご予定は?」

「決まっているだろう。レオンを、俺の妃として帝国に連れて帰る」

 カイザー殿下は、俺の返事も聞かずに断言した。

「待ってくれ! 話が早すぎる!」

 俺は慌てて彼の腕の中から抜け出した。

「妃? 俺は男だぞ!? それに、追放された罪人だ! 帝国の皇太子妃になど、なれるはずがない!」

「なれる。俺がなると言っているんだから、なれるんだ」

 カイザー殿下の瞳には、有無を言わせぬ強い意志が宿っていた。

「帝国では、同性婚は珍しくない。オメガであれば、なおさらだ。お前の過去など、俺が全て吹き飛ばしてやる。誰にも、一言も文句は言わせん」

 その言葉は、あまりにも力強く、そして魅力的だった。
 俺の過去も、性別も、全てを受け入れて、俺を望んでくれる。
 嬉しくないはずがなかった。

 だが、俺にはこの村がある。
 ようやく、自分の居場所を見つけたと、そう思ったばかりなのに。

「……考えさせて、ほしい」

 俺は、そう答えるのが精一杯だった。
 俺の人生は、俺の知らないところで、とてつもなく大きな奔流に飲み込まれようとしていた。

 一人の傭兵との出会いは、辺境の悪役令息を、帝国の未来を左右する存在へと変えようとしていたのだ。
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