役立たずと追放された僕が、前世の知識を活かして砂漠の国を緑化していたら、いつの間にか聖人と呼ばれ氷の王子様から情熱的に求愛されています

水凪しおん

文字の大きさ
8 / 13

第7話「知らない感情の名前」

 恵みの雨を境に、アレンは国中の誰もが敬意を捧げる「緑の聖人様」となった。緑化事業は国を挙げた一大プロジェクトとして驚く速さで進み、サハランは着実に緑を取り戻していく。

 アレンはファリドと共に国中を視察して回った。二人で馬を並べて駆ける時間、計画の成功を共に喜び合う時間。その全てが、アレンにとってかけがえのない宝物になっていた。ファリドが見せる穏やかな笑顔や、ふとした瞬間に向けられる優しい眼差しに、アレンの心はいつも温かく満たされていた。この気持ちが恋だと、もう彼は自覚していた。

 そんな穏やかな日々が永遠に続くかのように思われたある日。隣国から、一人の王女がサハランを訪れた。ファリドとの縁談のためだという。絹のような金色の髪に、空の色を映した青い瞳。物語の中から抜け出してきたような、息をのむほど美しい女性だった。

 アレンは、庭園でファリドとその王女が楽しげに語らう姿を、柱の影から偶然見てしまった。絵のように美しい、お似合いの二人。その光景を見つめるアレンの胸に、今まで感じたことのない、チクリとした鋭い痛みが走った。心臓を、冷たい手でぎゅっと掴まれたような感覚。息が苦しくなり、その場にいるのがたまらなく辛くなる。

 ――なんだろう、この気持ちは。

 アレンは混乱しながら自室へ戻った。胸の痛みは消えず、二人の楽しげな姿がまぶたの裏に焼き付いて、ズキズキと心を蝕んでいく。
 ファリド様は、この国の王子なのだ。いずれは美しいお妃様を迎え、国を治めていくお方。それは当たり前のことで、喜ぶべきことのはずなのに。どうして、こんなに苦しいのだろう。

 その夜、侍女たちの「まあ、なんて美しい王女様でしょう。ファリド様とお似合いだわ」という何気ない会話が、アレンの心をさらに深く抉った。そうだ、あれが正しい国の形なのだ。王子様と王女様。男である自分、それも平民の自分が、彼の隣に立つことなど許されるはずがない。

 その瞬間、アレンは自分の胸を締め付ける、この見知らぬ感情の名前を悟った。
 ――嫉妬だ。
 僕は、ファリド様の隣で微笑むあの美しい王女様に、嫉妬しているんだ。

 その事実に気づいた時、アレンはファリドへの想いが、単なる友情や尊敬では片付けられない、一人の男性として彼を独占したいと願う、どうしようもなく身勝手で、叶うはずのない恋心であることを、はっきりと自覚してしまった。

あなたにおすすめの小説

「お前がいると息が詰まる」と追放された令嬢——翌週から公爵家の予定が全て狂った

歩人
ファンタジー
クラリッサは公爵家の日程管理を一手に担う令嬢。前世の社畜経験を活かし、行事計画、来客対応、予算管理まで完璧にこなしていた。 だが婚約者ヴィクトルは言った。「お前がいると息が詰まる。もっと華やかな女がいい」 追放されたクラリッサが去った翌週、公爵家の予定が全て狂い始める。 舞踏会の招待状は届かず、外交晩餐会の料理は手配されず、決算書類は行方不明。 一方クラリッサは、若き領主の元で「定時退社」という夢を叶えていた。 「もう、残業はしません」

「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった

歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。 だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」 追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。 一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。 誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。 「その言葉は、もう翻訳できません」

「君は悪役令嬢だ」と離婚されたけど、追放先で伝説の力をゲット!最強の女王になって国を建てたら、後悔した元夫が求婚してきました

黒崎隼人
ファンタジー
「君は悪役令嬢だ」――冷酷な皇太子だった夫から一方的に離婚を告げられ、すべての地位と財産を奪われたアリシア。悪役の汚名を着せられ、魔物がはびこる辺境の地へ追放された彼女が見つけたのは、古代文明の遺跡と自らが「失われた王家の末裔」であるという衝撃の真実だった。 古代魔法の力に覚醒し、心優しき領民たちと共に荒れ地を切り拓くアリシア。 一方、彼女を陥れた偽りの聖女の陰謀に気づき始めた元夫は、後悔と焦燥に駆られていく。 追放された令嬢が運命に抗い、最強の女王へと成り上がる。 愛と裏切り、そして再生の痛快逆転ファンタジー、ここに開幕!

追放された宮廷花師が辺境の荒野に花を咲かせたら、王都の庭園だけが枯れ続けているようです

歩人
ファンタジー
「花を飾るだけの令嬢は不要だ」——王城の庭園を十年守った伯爵令嬢フローラは追放された。 翌月、王城の庭園が一夜にして枯れ果てる。さらに隣国への外交花束を用意できず国際問題に—— フローラの花束に込められた花言葉が、実は外交メッセージそのものだったのだ。 一方、辺境の荒野に降り立ったフローラが地面に触れると花が芽吹き始める。 荒野を花畑に変えていくスローライフの中で、花の感情が色で見える加護が目覚めて——。

また恋人に振られたので酒に飲まれていたらゴツい騎士に求婚していた件

月衣
BL
また恋人に振られた魔導省のエリート官吏アルヴィス。失恋のショックで酒に溺れた彼は勢いのまま酒場に現れた屈強な王宮騎士ガラティスに求婚してしまう。 翌朝すべての記憶を保持したまま絶望するアルヴィスだったが当のガラティスはなぜか本気だった。 「安心しろ。俺は誠実な男だ。一度決めたことは覆さない」 逃げようとするエリート魔導師と絶対に逃がさない最強騎士 貢ぎ体質な男が捕まる強制恋愛コメディのつもりです!!

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

後悔なんて知ったことではありません!~ボクの正体は創造神です。うっかり自分の世界に転生しました。~

竜鳴躍
BL
転生する人を見送ってきた神様が、自分が創造した世界に誤って転生してしまった。大好きな人を残して。転生先の伯爵家では、醜く虐げる人たち。 いいよ、こんな人たち、ボクの世界には要らない!後悔しても知ーらない! 誰かに似ている従者1人を伴って、創造神スキルで自由に無双! …………残してきた大好きな人。似ている侍従。 あれ……?この気持ちは何だろう………。 ☆短編に変更しました。

追放先の辺境で前世の農業知識を思い出した悪役令嬢、奇跡の果実で大逆転。いつの間にか世界経済の中心になっていました。

緋村ルナ
ファンタジー
「お前のような女は王妃にふさわしくない!」――才色兼備でありながら“冷酷な野心家”のレッテルを貼られ、無能な王太子から婚約破棄されたアメリア。国外追放の末にたどり着いたのは、痩せた土地が広がる辺境の村だった。しかし、そこで彼女が見つけた一つの奇妙な種が、運命を、そして世界を根底から覆す。 前世である農業研究員の知識を武器に、新種の果物「ヴェリーナ」を誕生させたアメリア。それは甘美な味だけでなく、世界経済を揺るがすほどの価値を秘めていた。 これは、一人の追放された令嬢が、たった一つの果実で自らの運命を切り開き、かつて自分を捨てた者たちに痛快なリベンジを果たし、やがて世界の覇権を握るまでの物語。「食」と「経済」で世界を変える、壮大な逆転ファンタジー、開幕!