役立たずと追放された僕が、前世の知識を活かして砂漠の国を緑化していたら、いつの間にか聖人と呼ばれ氷の王子様から情熱的に求愛されています

水凪しおん

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第8話「すれ違う心、月の庭で」

 自分の恋心を罪のように感じたアレンは、ファリドへの想いに固く蓋をした。この気持ちが彼を困らせることだけは、絶対にあってはならない。

 その日から、アレンはファリドを避けるようになった。二人きりになる時間を意識的に作らず、廊下で彼の姿を見かければ、気づかれないようにそっと物陰に隠れた。

 アレンの突然の態度の変化に、最も戸惑い、傷ついたのはファリドだった。あれほど自分に懐き、輝くような笑顔を向けてくれていたアレンが、今は目を合わせようともしない。理由を尋ねようとしても、会うことすらできない。

 なぜだ? 私が何か、彼を怒らせるようなことをしただろうか。
 ファリドはいくら考えても、理由がわからなかった。アレンに避けられている。その事実だけが鉛のように重く心にのしかかり、彼の冷静さを少しずつ奪っていく。胸に、ぽっかりと大きな穴が開いてしまったかのようだった。

 ある月の綺麗な夜、ファリドは眠れずに王宮の庭園をさまよっていた。アレンが作り出した植物たちが月光を浴びて幻想的に輝いている。ふと、見慣れた後ろ姿が目に入った。庭園の奥、噴水の縁にアレンが一人で座り、寂しげに月を見上げている。その背中は、ひどく小さく、頼りなく見えた。

 今ここで声をかけなければ。強い衝動に駆られ、ファリドは足音を忍ばせてアレンに近づくと、その震える肩にそっと触れた。
「……アレン」

 びくり、とアレンの体が大きく跳ねた。振り返った彼の顔は、月明かりの下でも分かるほど青ざめている。
「ファリド……様……」

 アレンは慌てて立ち上がると、その場を去ろうとした。
「い、いえ、何も……。もう部屋に戻りますので」

 その手を、ファリドは力強く掴んだ。もう、逃がさない。
「待て。なぜ私を避けるのだ。理由を教えてくれ。私が、何か君を傷つけるようなことをしたのなら、謝る」

 ファリドの真剣な声には、今まで聞いたことのない悲痛な響きが混じっていた。あなたのせいじゃない。僕のせいなのだ。その事実に、アレンの胸は張り裂けそうになった。もう、嘘はつけなかった。

 アレンは掴まれた手から視線を外せないまま、涙をこらえ、絞り出すように告げた。
「……あなたには、隣国の王女様のような、素晴らしい方がいらっしゃいます。僕のような者が、いつまでも馴れ馴れしくお側にいては、ご迷惑に……なりますから……」

 あなたの隣にいる資格は、僕にはない。だから、これで終わりにさせてほしい。そう願う言葉は、夜の静かな空気に吸い込まれ、儚く消えていった。

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