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番外編「もふもふと過ごす甘い休日」
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カイゼルと番になってから、初めての春が訪れた。
長い冬が終わり、辺境の地は生命の息吹に満ち溢れている。雪解け水のせせらぎ、芽吹き始めた若草の匂い、そして、空を渡る鳥たちの声。
そんな麗らかな休日の朝、僕はカイゼルに一つの提案をした。
「カイゼル、今日はピクニックに行きませんか?」
「ピクニック?」
僕の言葉に、執務机に向かっていたカイゼルが不思議そうな顔で振り返る。
「はい。お弁当を作りますから、フェンも一緒に、森へ行きましょう」
僕がそう言うと、部屋の隅で丸くなっていた銀狼のフェンが、ぴくりと耳を動かし、期待に満ちた目で僕たちを見上げた。
カイゼルは、少し考える素振りを見せた後、やれやれと肩をすくめた。
「……お前が言うなら」
その口調はぶっきらぼうだが、口元が嬉しそうに緩んでいるのを、僕は見逃さない。
「やった! それじゃあ、早速準備してきますね!」
僕はスキップでもしそうな勢いで、厨房へと向かった。
厨房で腕によりをかけて作ったのは、特製のサンドイッチと、温かいきのこのスープ、それから、甘いベリーのタルト。カイゼルの好物ばかりだ。
バスケットに料理と食器を詰め込み、僕たちは城を出た。
カイゼルはいつものように馬の姿ではなく、巨大な銀狼の姿のフェンの背に跨っている。そして、僕を自分の前に乗せてくれた。
フェンの背中は、ふかふかの絨毯のようで、とても温かい。カイゼルの胸に背中を預けると、これ以上ないほどの安心感に包まれた。
僕たちは、森の奥にある、美しい湖のほとりに場所を決めた。
きらきらと輝く湖面と、どこまでも広がる青い空。まるで、絵画のような景色だ。
シートを広げ、お弁当を並べると、フェンがくんくんと匂いを嗅ぎながら近寄ってきた。
「フェン、これはあなたの分よ」
僕は、フェンのために用意した大きめの干し肉を差し出す。フェンは嬉しそうに尻尾を振ると、大きな口でそれをぱくりと食べた。
「リヒト、お前の作るものは、何でも美味いな」
サンドイッチを頬張りながら、カイゼルが満足そうに言う。
「お口に合ってよかったです」
そう言って微笑むと、カイゼルは僕の頬についたパンくずを、自分の指でそっと拭ってくれた。
そんな何気ない仕草に、心臓がきゅんとなる。番になってから、彼は以前にも増して、甘い行動を隠さなくなった。
食事を終えた後、僕たちは湖畔の草の上に寝転んだ。
僕がカイゼルの腕を枕にしていると、フェンがその大きな体で僕たちに寄り添ってくる。
右にはカイゼル、左にはフェン。
最高のもふもふにサンドイッチにされているみたいで、僕はくすくすと笑った。
「どうした?」
「いえ、なんだか、すごく幸せだなって」
僕がそう言うと、カイゼルは僕の髪を優しく梳きながら、静かに言った。
「……俺もだ」
穏やかな時間が流れる。
風が木々の葉を揺らし、心地よい音を立てている。
僕は、ふと、この地に来たばかりの頃を思い出していた。
絶望と不安しかなかった、あの日々。
それが、今ではこんなにも幸せな時間につながっているなんて、誰が想像できただろう。
「カイゼル」
「ん?」
「私を、見つけてくれて、ありがとうございます」
僕の言葉に、カイゼルは少し驚いたように目を見開いた。そして、僕の体を強く抱きしめる。
「礼を言うのは、俺の方だ」
彼の声が、頭の上から降ってくる。
「お前が、俺の凍てついた世界に、色をくれた。温もりを、教えてくれた」
僕たちは、どちらからともなく、優しい口づけを交わした。
その様子を、フェンが黄金の瞳で、静かに見守っている。
ピクニックからの帰り道、フェンの背中に揺られながら、僕はカイゼルの背中にぎゅっとしがみついた。
「カイゼル、大好きです」
「……ああ。俺もだ」
少し照れたような、けれど、愛情に満ちた声が返ってくる。
こんな、何でもない、穏やかな休日。
でも、僕にとっては、何物にも代えがたい、宝物のような一日だった。
この幸せが、明日も、明後日も、ずっとずっと続いていきますように。
愛する番と、もふもふの相棒と共に、僕たちの穏やかな日々は、これからも続いていく。
長い冬が終わり、辺境の地は生命の息吹に満ち溢れている。雪解け水のせせらぎ、芽吹き始めた若草の匂い、そして、空を渡る鳥たちの声。
そんな麗らかな休日の朝、僕はカイゼルに一つの提案をした。
「カイゼル、今日はピクニックに行きませんか?」
「ピクニック?」
僕の言葉に、執務机に向かっていたカイゼルが不思議そうな顔で振り返る。
「はい。お弁当を作りますから、フェンも一緒に、森へ行きましょう」
僕がそう言うと、部屋の隅で丸くなっていた銀狼のフェンが、ぴくりと耳を動かし、期待に満ちた目で僕たちを見上げた。
カイゼルは、少し考える素振りを見せた後、やれやれと肩をすくめた。
「……お前が言うなら」
その口調はぶっきらぼうだが、口元が嬉しそうに緩んでいるのを、僕は見逃さない。
「やった! それじゃあ、早速準備してきますね!」
僕はスキップでもしそうな勢いで、厨房へと向かった。
厨房で腕によりをかけて作ったのは、特製のサンドイッチと、温かいきのこのスープ、それから、甘いベリーのタルト。カイゼルの好物ばかりだ。
バスケットに料理と食器を詰め込み、僕たちは城を出た。
カイゼルはいつものように馬の姿ではなく、巨大な銀狼の姿のフェンの背に跨っている。そして、僕を自分の前に乗せてくれた。
フェンの背中は、ふかふかの絨毯のようで、とても温かい。カイゼルの胸に背中を預けると、これ以上ないほどの安心感に包まれた。
僕たちは、森の奥にある、美しい湖のほとりに場所を決めた。
きらきらと輝く湖面と、どこまでも広がる青い空。まるで、絵画のような景色だ。
シートを広げ、お弁当を並べると、フェンがくんくんと匂いを嗅ぎながら近寄ってきた。
「フェン、これはあなたの分よ」
僕は、フェンのために用意した大きめの干し肉を差し出す。フェンは嬉しそうに尻尾を振ると、大きな口でそれをぱくりと食べた。
「リヒト、お前の作るものは、何でも美味いな」
サンドイッチを頬張りながら、カイゼルが満足そうに言う。
「お口に合ってよかったです」
そう言って微笑むと、カイゼルは僕の頬についたパンくずを、自分の指でそっと拭ってくれた。
そんな何気ない仕草に、心臓がきゅんとなる。番になってから、彼は以前にも増して、甘い行動を隠さなくなった。
食事を終えた後、僕たちは湖畔の草の上に寝転んだ。
僕がカイゼルの腕を枕にしていると、フェンがその大きな体で僕たちに寄り添ってくる。
右にはカイゼル、左にはフェン。
最高のもふもふにサンドイッチにされているみたいで、僕はくすくすと笑った。
「どうした?」
「いえ、なんだか、すごく幸せだなって」
僕がそう言うと、カイゼルは僕の髪を優しく梳きながら、静かに言った。
「……俺もだ」
穏やかな時間が流れる。
風が木々の葉を揺らし、心地よい音を立てている。
僕は、ふと、この地に来たばかりの頃を思い出していた。
絶望と不安しかなかった、あの日々。
それが、今ではこんなにも幸せな時間につながっているなんて、誰が想像できただろう。
「カイゼル」
「ん?」
「私を、見つけてくれて、ありがとうございます」
僕の言葉に、カイゼルは少し驚いたように目を見開いた。そして、僕の体を強く抱きしめる。
「礼を言うのは、俺の方だ」
彼の声が、頭の上から降ってくる。
「お前が、俺の凍てついた世界に、色をくれた。温もりを、教えてくれた」
僕たちは、どちらからともなく、優しい口づけを交わした。
その様子を、フェンが黄金の瞳で、静かに見守っている。
ピクニックからの帰り道、フェンの背中に揺られながら、僕はカイゼルの背中にぎゅっとしがみついた。
「カイゼル、大好きです」
「……ああ。俺もだ」
少し照れたような、けれど、愛情に満ちた声が返ってくる。
こんな、何でもない、穏やかな休日。
でも、僕にとっては、何物にも代えがたい、宝物のような一日だった。
この幸せが、明日も、明後日も、ずっとずっと続いていきますように。
愛する番と、もふもふの相棒と共に、僕たちの穏やかな日々は、これからも続いていく。
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