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第9話「辺境の経済革命」
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交易都市ベルン。
辺境とはいえ、交通の要衝にあるこの街は、多くの商人や冒険者で賑わっていた。
季節が巡り、肌寒かった風が柔らかな春の匂いを運び始める頃。
俺たちの辺境生活は、安定どころか、飛躍的な発展を遂げていた。
オルトの魔力供給による環境改善と、ワーカーたちの不眠不休の作業により、荒れ地だった場所は数ヶ月で見渡す限りの農園へと変貌していたのだ。
収穫量はもはや、俺とオルト二人で消費できるレベルを遥かに超えている。
石畳の道を、俺たちの奇妙な馬車が進む。
馬の代わりに動力を提供するのは、四脚型のゴーレム・ワーカーだ。その異様な姿に、道行く人々がぎょっとして道を空ける。
御者台には、フードを目深にかぶった俺と、それを守るように寄り添うオルト。
オルトの整いすぎた美貌と、全身から放たれる威圧感は、街の喧騒を一瞬で静めるほどのインパクトがあった。
「カイル、視線が集まっています。全員の眼球を破壊しますか?」
「やめろ。商売に来たんだから、愛想よくしろとは言わないが、殺気は消してくれ」
オルトをなだめつつ、俺たちは市場の空きスペースに馬車を停めた。
荷台のカバーを開ける。
そこには、朝露に濡れた新鮮な野菜が山積みになっていた。
通常の倍はある大きさ、そして宝石のような艶。
周囲の主婦や料理人たちが、吸い寄せられるように集まってくる。
「あら、見事なお野菜ね。どこの産地?」
「エルステッド領の新作物です。味見はいかがですか?」
俺が切り分けたトマトを差し出すと、恰幅の良い女性が恐る恐る口にした。
瞬間、彼女の目が大きく見開かれた。
「まあっ! なんて甘いの! それに瑞々しくて、果物みたい!」
その声を皮切りに、客が殺到した。
オルトが品種改良し、魔力豊かな土壌で育った野菜は、味も栄養価も桁違いだったのだ。
飛ぶように売れていく。
オルトは無表情で、しかし超高速で会計と袋詰めを処理していく。その計算速度は、熟練の商人たちが舌を巻くほどだった。
「計算が早すぎる……それに、釣り銭に間違いがひとつもないぞ」
「この兄ちゃん、ただの用心棒じゃないな」
人々はオルトの能力に驚嘆しつつも、その美しさと、俺に向ける甲斐甲斐しい態度に興味津々のようだった。
昼過ぎには、山積みだった野菜は完売した。
手元には、ずっしりと重い金貨の袋。
予想以上の成果だ。
「おい、そこの二人」
撤収しようとした時、声をかけられた。
振り返ると、身なりの良い中年男が立っていた。腹が出ているが、目の光は鋭い。
彼はベルン商業ギルドの支部長と名乗った。
「見事な商品だった。それに、あの自走式の荷車……君たちの発明か?」
「ええ、まあ。趣味で作ったものですが」
「趣味でこれが作れるなら、天才だ。どうだ、我々と専属契約を結ばないか? 君たちの作物は、王都でも高く売れるはずだ」
商機だ。
俺は眼鏡のブリッジを押し上げる仕草をした。
ただ売るだけでは能がない。どうせなら、もっと大きなシステムを構築したい。
「契約には興味がありますが、条件があります。我々は単なる生産者としてではなく、技術提携パートナーとして扱っていただきたい」
「ほう? 具体的には?」
「この自動運搬車、そして農作業用ゴーレムのレンタル事業です。作物はあくまで『成果物』の一つに過ぎません。我々が売りたいのは『効率』そのものです」
支部長の目が、金貨を見るような色に変わった。
彼は即座に俺の意図を理解したのだ。人手不足に悩む辺境において、労働力の自動化は革命的な価値を持つ。
商談はトントン拍子に進んだ。
俺たちは当面の資金だけでなく、安定した販路と、資材の調達ルートを確保することに成功した。
帰り道、馬車の中で俺は金貨の重みを確かめながら、笑みをこぼした。
これで、さらに設備投資ができる。
工房を拡張し、ワーカーを増やし、廃棄場を一大生産拠点へと変えるのだ。
「嬉しそうですね、カイル」
「ああ。自分の技術が認められるのは、やっぱり嬉しいよ」
「あなたの技術は世界一です。それを理解できない愚か者どもが多すぎるだけです」
オルトは俺の手を取り、指にキスをした。
「ですが、あまり有名になりすぎるのも考えものです。カイルを狙う虫が増えますから」
「心配しすぎだろ」
「いいえ。現に、先ほどの商会主、カイルを見る目が欲に塗れていました。次に不埒な視線を向けたら、社会的に抹殺します」
オルトの瞳は笑っていなかった。
彼は本気で、俺の周りの環境を「掃除」するつもりなのだ。
数日後、俺たちの元に一通の手紙が届いた。
差出人は、エルステッド公爵家。
俺を追放した父からの手紙だった。
内容は簡潔にして傲慢。
『辺境での活動が耳に入った。エルステッド家の名を騙り、商売をしているようだが、その利益は本家に帰属すべきものである。直ちに王都へ出頭し、弁明せよ』
予想通りの反応だ。
彼らは俺が成功したと聞くや否や、掌を返して搾取しに来たのだ。
手紙を読み終えた俺は、それを暖炉の火に放り込んだ。
「どうしますか、マスター。殲滅しますか?」
オルトが静かに尋ねる。その手には、既に戦闘用のアタッチメントが装着されていた。
「いや、暴力ですべてを解決するのは芸がない。向こうが招待してくれるというなら、行ってやろうじゃないか」
俺はニヤリと笑った。
逃げ隠れするのは終わりだ。
圧倒的な格差を見せつけ、論理と経済力で彼らを叩き潰す。
それが、俺なりの復讐であり、この世界での生存戦略だ。
「オルト、舞踏会の準備だ。最高に派手な衣装を用意してくれ」
「御意。カイルを世界で一番輝かせてみせます」
オルトは恭しく一礼し、獰猛な笑みを浮かべた。
王都への道は、凱旋パレードの始まりとなるだろう。
辺境とはいえ、交通の要衝にあるこの街は、多くの商人や冒険者で賑わっていた。
季節が巡り、肌寒かった風が柔らかな春の匂いを運び始める頃。
俺たちの辺境生活は、安定どころか、飛躍的な発展を遂げていた。
オルトの魔力供給による環境改善と、ワーカーたちの不眠不休の作業により、荒れ地だった場所は数ヶ月で見渡す限りの農園へと変貌していたのだ。
収穫量はもはや、俺とオルト二人で消費できるレベルを遥かに超えている。
石畳の道を、俺たちの奇妙な馬車が進む。
馬の代わりに動力を提供するのは、四脚型のゴーレム・ワーカーだ。その異様な姿に、道行く人々がぎょっとして道を空ける。
御者台には、フードを目深にかぶった俺と、それを守るように寄り添うオルト。
オルトの整いすぎた美貌と、全身から放たれる威圧感は、街の喧騒を一瞬で静めるほどのインパクトがあった。
「カイル、視線が集まっています。全員の眼球を破壊しますか?」
「やめろ。商売に来たんだから、愛想よくしろとは言わないが、殺気は消してくれ」
オルトをなだめつつ、俺たちは市場の空きスペースに馬車を停めた。
荷台のカバーを開ける。
そこには、朝露に濡れた新鮮な野菜が山積みになっていた。
通常の倍はある大きさ、そして宝石のような艶。
周囲の主婦や料理人たちが、吸い寄せられるように集まってくる。
「あら、見事なお野菜ね。どこの産地?」
「エルステッド領の新作物です。味見はいかがですか?」
俺が切り分けたトマトを差し出すと、恰幅の良い女性が恐る恐る口にした。
瞬間、彼女の目が大きく見開かれた。
「まあっ! なんて甘いの! それに瑞々しくて、果物みたい!」
その声を皮切りに、客が殺到した。
オルトが品種改良し、魔力豊かな土壌で育った野菜は、味も栄養価も桁違いだったのだ。
飛ぶように売れていく。
オルトは無表情で、しかし超高速で会計と袋詰めを処理していく。その計算速度は、熟練の商人たちが舌を巻くほどだった。
「計算が早すぎる……それに、釣り銭に間違いがひとつもないぞ」
「この兄ちゃん、ただの用心棒じゃないな」
人々はオルトの能力に驚嘆しつつも、その美しさと、俺に向ける甲斐甲斐しい態度に興味津々のようだった。
昼過ぎには、山積みだった野菜は完売した。
手元には、ずっしりと重い金貨の袋。
予想以上の成果だ。
「おい、そこの二人」
撤収しようとした時、声をかけられた。
振り返ると、身なりの良い中年男が立っていた。腹が出ているが、目の光は鋭い。
彼はベルン商業ギルドの支部長と名乗った。
「見事な商品だった。それに、あの自走式の荷車……君たちの発明か?」
「ええ、まあ。趣味で作ったものですが」
「趣味でこれが作れるなら、天才だ。どうだ、我々と専属契約を結ばないか? 君たちの作物は、王都でも高く売れるはずだ」
商機だ。
俺は眼鏡のブリッジを押し上げる仕草をした。
ただ売るだけでは能がない。どうせなら、もっと大きなシステムを構築したい。
「契約には興味がありますが、条件があります。我々は単なる生産者としてではなく、技術提携パートナーとして扱っていただきたい」
「ほう? 具体的には?」
「この自動運搬車、そして農作業用ゴーレムのレンタル事業です。作物はあくまで『成果物』の一つに過ぎません。我々が売りたいのは『効率』そのものです」
支部長の目が、金貨を見るような色に変わった。
彼は即座に俺の意図を理解したのだ。人手不足に悩む辺境において、労働力の自動化は革命的な価値を持つ。
商談はトントン拍子に進んだ。
俺たちは当面の資金だけでなく、安定した販路と、資材の調達ルートを確保することに成功した。
帰り道、馬車の中で俺は金貨の重みを確かめながら、笑みをこぼした。
これで、さらに設備投資ができる。
工房を拡張し、ワーカーを増やし、廃棄場を一大生産拠点へと変えるのだ。
「嬉しそうですね、カイル」
「ああ。自分の技術が認められるのは、やっぱり嬉しいよ」
「あなたの技術は世界一です。それを理解できない愚か者どもが多すぎるだけです」
オルトは俺の手を取り、指にキスをした。
「ですが、あまり有名になりすぎるのも考えものです。カイルを狙う虫が増えますから」
「心配しすぎだろ」
「いいえ。現に、先ほどの商会主、カイルを見る目が欲に塗れていました。次に不埒な視線を向けたら、社会的に抹殺します」
オルトの瞳は笑っていなかった。
彼は本気で、俺の周りの環境を「掃除」するつもりなのだ。
数日後、俺たちの元に一通の手紙が届いた。
差出人は、エルステッド公爵家。
俺を追放した父からの手紙だった。
内容は簡潔にして傲慢。
『辺境での活動が耳に入った。エルステッド家の名を騙り、商売をしているようだが、その利益は本家に帰属すべきものである。直ちに王都へ出頭し、弁明せよ』
予想通りの反応だ。
彼らは俺が成功したと聞くや否や、掌を返して搾取しに来たのだ。
手紙を読み終えた俺は、それを暖炉の火に放り込んだ。
「どうしますか、マスター。殲滅しますか?」
オルトが静かに尋ねる。その手には、既に戦闘用のアタッチメントが装着されていた。
「いや、暴力ですべてを解決するのは芸がない。向こうが招待してくれるというなら、行ってやろうじゃないか」
俺はニヤリと笑った。
逃げ隠れするのは終わりだ。
圧倒的な格差を見せつけ、論理と経済力で彼らを叩き潰す。
それが、俺なりの復讐であり、この世界での生存戦略だ。
「オルト、舞踏会の準備だ。最高に派手な衣装を用意してくれ」
「御意。カイルを世界で一番輝かせてみせます」
オルトは恭しく一礼し、獰猛な笑みを浮かべた。
王都への道は、凱旋パレードの始まりとなるだろう。
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