隠れオメガの騎士は、極北の砦で秘密の野菜を作りたい~抑制剤が切れたら、冷徹王子に胃袋ごと溺愛されました~

水凪しおん

文字の大きさ
8 / 16

第7話「監禁生活と魔法のスープ」

しおりを挟む
 アレクセイに抱えられて宿舎……ではなく、総司令官用の天幕に連れ込まれたルカは、そのまま最奥の寝室エリアに軟禁されることになった。
 天幕といっても王族仕様のもので、内部は高級ホテルのように絨毯が敷かれ、大きな天蓋付きベッドまで備わっている。

「ここから一歩も出るな」

 アレクセイの命令は絶対だった。
 ルカが「畑の様子を見に行きたい」と訴えても、「俺が見てくる。お前は休め」の一点張り。
 首には新しいチョーカー……ではなく、アレクセイの紋章が刻まれた豪奢な首輪がつけられた。
 それは魔道具で、ルカの居場所を常にアレクセイに伝える機能と、他のアルファを寄せ付けない強力な結界機能を持っていた。

「完全にペット扱いだ……」

 ふかふかのベッドの上で、ルカはため息をついた。
 体は楽になったが、心が落ち着かない。
 土を触りたい。あの巨大化した野菜たちがどうなったか気になる。
 窓(換気用のメッシュ)から外を覗こうとするが、厳重な警備の騎士たちが立っており、何も見えない。

 だが、夕食の時間になって変化が訪れた。
 運ばれてきたのは、いつもの具なしスープではなく、とろりとした濃厚なポタージュだった。
 鮮やかな赤色。トマトの香り。

「これは……」

 一口飲むと、全身に活力がみなぎるのが分かった。
 あの巨大トマトだ。
 アレクセイが入室してくる。彼は満足げな表情をしていた。

「食べたか? 味はどうだ」

「……美味しいです。すごく」

「そうか。兵たちにも振る舞ったが、効果は劇的だぞ」

 アレクセイが報告書をテーブルに置く。
 それによれば、あのトマト入りスープを飲んだ兵士たちは、傷の治りが早くなり、魔力切れを起こしていた魔術師たちの魔力が全回復したという。
 まさに「魔法のスープ」だった。

「お前の力は偉大だ、ルカ。だが、危険すぎる」

 アレクセイの表情が曇る。
「こんな力を持っていると知られれば、国中の貴族や他国が、お前を奪いに来るだろう。『生きた聖遺物』としてな」

 ルカは息を呑んだ。
 単なる野菜好きの騎士だった自分が、いつの間にか国家レベルの重要人物になってしまっている。

「だから、お前は俺の目の届く範囲にいろ。絶対に守ってやる」

 アレクセイはルカを抱き寄せ、その髪にキスをした。
 その言葉に嘘はないと感じる。だが、その守り方はあまりにも過保護で、窒息しそうだった。

「殿下、私は……畑に行きたいんです。守られるだけじゃなくて、自分の手で育てたいんです」

 ルカは勇気を出して言った。
 アレクセイは眉をひそめたが、ルカの瞳にある強い意志を見て、ため息をついた。

「……わがままだな、俺の番は」

「お願いします。あの畑は、私の『巣』なんです」

「巣、か」

 その言葉に、アレクセイは微かに反応した。
 オメガにとっての巣の重要性は、アルファも本能で理解している。それを奪うことは、パートナーに過度なストレスを与えることになる。

「分かった。条件付きで許可する」

「本当ですか!?」

「ああ。ただし、必ず俺が同伴すること。そして、作業は一日一時間まで。重いものは持つな。俺がやる」

「……それ、ほとんど殿下が作業するんじゃ?」

「当然だ。妊娠初期の伴侶に重労働などさせるわけがないだろう」

「にんし……っ!?」

 ルカは硬直した。
 さらりと爆弾発言をされた気がする。
 アレクセイはルカのお腹に手を当て、慈しむように目を細めた。

「俺には分かる。ここに、新しい命の灯火があるのがな。……そして、お前の魔力が注がれた野菜を欲しているのもな」

 お腹の子供が魔力を欲しがり、そのためにルカが高魔力野菜を作ろうとする。
 すべては繋がっていたのだ。
 ルカは呆然としながら、自分のお腹を見つめた。
 ここに、アレクセイとの子供がいる。
 不思議と恐怖はなかった。ただ、愛おしさが込み上げてくる。

「ありがとう、ルカ」

 アレクセイはルカを抱きしめる力を強めた。
「お前と、この子のためなら、俺はこの世界すべてを敵に回しても構わない」

 その瞳は真剣そのもので、狂気すら孕んだ愛の重さに、ルカは絆されていくのを感じた。
 こうして、ルカの「監禁・溺愛・農業ライフ」が幕を開けたのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

『偽物の番』だと捨てられた不憫な第三王子、隣国の冷徹皇帝に拾われて真実の愛を教え込まれる

レイ
BL
「出来損ない」と捨てられた場所は、私の居場所ではありませんでした。 ラングリス王国の第三王子・フィオーレは、王族の証である『聖種の紋様』が現れなかったことで「偽物の番」と罵られ、雪降る国境へと追放される。 死を覚悟した彼の前に現れたのは、隣国アイゼン帝国の「冷徹皇帝」ヴォルフラムだった。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

記憶喪失のフリをしたあざといスパイですが、全部お見通しの皇帝陛下に「嘘の婚約者」として閉じ込められています

たら昆布
BL
処刑寸前のスパイが事故にあった後、記憶喪失のフリをして皇帝の婚約者だと偽る話

追放オメガ聖帝の幸せな結婚〜クールなスパダリ騎士に拾われて溺愛されるまで〜

あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
ノルディーナ王国の聖帝サーナは、教皇のありもしない嘘のせいで聖宮から追放されてしまう。 行く当てがないサーナが国境に向かうと、そこで隣国ルミルカ王国の騎士であるムーシュと出会う。ムーシュから諸事情により偽装結婚を提案されて、サーナは期限付きの偽装結婚ならばよいと承諾し、一時的に保護してもらうことに。 異国暮らしに慣れていく中で、やがてムーシュから溺愛されるようになり……?

余命半年の俺を、手酷く振ったはずの元カレ二人が手を組んで逃がしてくれません

ユッキー
BL
半年以内に俺は一人寂しく死ぬ。そんな未来を視た。きっと誰も悲しむ人は居ないだろう。そう思っていたから何も怖くなかった。なのにそんな俺の元に過去手酷く振り、今では世界的スターとなった元カレ二人がやってきた。彼らは全てを知っていた。俺がどうして彼らを振ったのか、そして俺の余命も。 全てを諦めた主人公と、主人公を諦めきれないイケメンサッカー選手とシンガーソングライターの再会が導く未来は?

処理中です...